仮面ライダー龍騎 ~EPISODE Kanon~   作:龍騎鯖威武

55 / 63
第48話 「夢の果ての追複曲」

2011年3月。

「あの日」から2ヶ月近くが経った。

何度もそうしてきた。

竜也は目を覚まし、台所に行く。

「さて、朝飯は…」

ぶつぶつ呟きながら、朝食の用意をする。

「あうぅ…ふあぁ~…」

準備をしていると、真琴が目をこすり欠伸をしながら入ってくる。

「おはよう、真琴ちゃん」

「おふぁよぉ…」

返事も呂律が回っていない真琴に対して、後ろからやってきたミツルがふっと笑う。

「…どこまでも、だらけた奴だな」

「あうーっ!だらけてないわよぅ!」「起きてるじゃないか」

早速、2人は口喧嘩を始める。

「ほらほら2人とも、朝飯出来たから、一緒に食べようよ」

「は~い!」「いつも悪いな、竜也」

いつものように、他愛無い話や最近の出来事を話しながら食事をする。

「そうそう、今日は舞さん達の卒業式だから、準備をしないとね!」

「川澄達も、いよいよ卒業か…」「なんだかワクワクする!」

そう、今日は舞達3年生が卒業するのだ。式を見た後、みんなで卒業祝いとして2次会をする予定もある。

朝食をとった後、3人は着替えて、外に出かけた。

 

卒業式の後…。

一度解散し、百花屋で集合という事になった。

「ふぅ…スピーチは緊張したよ」「シュウイチさん、お疲れ様でした」

久瀬は生徒会長なので、高校に対する3年間の想いを込めたスピーチをした後。

苦笑いをしている彼に、労をねぎらう佐祐理。

「よぉ、お2人さん」

そこに現れたのは、祐一達だ。

「卒業おめでとう!」「おめでとうございます!」

そう言って、潤と香里から花束が渡された。

「あはは~。ありがとうございます」「ありがとう…。ちょっと…感慨深いね…」

久瀬は目頭に指を置いて、上を向く。

「おいおい、生徒会長、泣いてるのかよ!」「空気を読みなさい!」

ゴスッ!

「がはっ!?」

相変わらずの、良い肘撃ちだ。潤は撃沈。

彼らの後ろ…得に祐一をジト目で見ている何者かが気になった栞は、おずおずと話し始めようとした。

「ところで…」

ペシッ!

「あいたっ!」

その前に何者かが、祐一にチョップを決める。

「なんだ舞、いたのか?」「…意地悪」

祐一は分かって無視をしていた。他の全員は、いつ彼女に触れればいいのかが分からなかった。

気分を落とした舞は、寂しそうにそっぽを向く。

「冗談だよ、ほら」「ぁ…!」

そう言って、祐一は花束を渡した。頬を染めて、静かに微笑む舞。

「川澄先輩、笑うようになったね」「祐一君のおかげだよ、きっと」

嬉しそうにいう名雪。慣れない正装を着て、名雪と一緒に笑っているサトル。

舞達は全員、この街の隣にある志望大学に合格し、4月からそこに通う事になっている。

「みんな、ごめん!」

その声とともに、竜也、真琴、美汐、ミツルが走ってきた。

「なぜ、トイレくらい済ませなかった!」「あうぅ…だってぇ…」

どうやら、真琴が原因らしい。

「舞さん、卒業おめでとうございます!」「おめでとう、倉田」「おめでと!」

竜也が明るい笑顔で、花束を舞に渡す。更にミツルは佐祐理に、真琴は久瀬に渡した。

「ありがとう…」「可愛らしい花束ですね~」「うれしいよ、みんな」

祐一達のような、大きなものではなかったが、どこか愛らしさを感じる花束。

「美汐ちゃんが選んでくれたんだ!」「みなさんに、喜んでもらえるよう、精一杯選びました」

美汐はちょっとだけ笑って、首を横に傾ける。

その様子を見ていた2人の男が近づいてきた。

 

「良いねぇ…俺にも高校時代あったなぁ…」

 

「あなたは…!」

久瀬には、彼に見覚えがあった。以前出会った、スーパー弁護士を名乗る男。

隣には同じく、ゴロちゃんと呼ばれた男もいる。

「お宅、自分の欲をちゃんと叶えたんだね。どう?楽しいでしょ?」

どこか嬉しそうにしていた。

「弁護士さんですか~?」

「そう、このスーパー弁護士の本名知りたいでしょ?倉田家のお嬢さん」

指をぱちんと鳴らして、佐祐理を指差す。

 

「俺の名は北岡秀一」

 

「そして、こっちは…」「由良…吾郎っす…」

以前の舞に負けないくらいの無愛想な表情でお辞儀をする由良吾郎。

「北岡秀一さん…」「久瀬先輩と名前が同じだね!」

久瀬が呟き、名雪は共感する事があるようにうれしそうに言う。

「困った事があったら、ぜひウチの事務所に相談しなよ。もちろん、ギャラは頂くけどね」

企み笑い…だが、嫌な感じはない、憎めない笑みを浮かべた後、歩き去っていった。

「あ、令子さ~ん!」

北岡秀一は窓の外にいる女性を見つけて、歩きは走りに変わる。由良吾郎もついていく。

「あれって…OREジャーナルの…!」「知り合いか…?」

竜也はその女性に見覚えがあった。

「北岡さん…あなたもしつこい人ね」「そう言わずに。今日辺り、一緒にお食事でも如何ですか?」

桃井令子だ。は北岡秀一の誘いが面倒で、呆れ口調で言う。

「懲りないわね。これで私を誘うの、38回目じゃない」「42回目ですよ」

かなりの回数を誘っていたようだ。

「令子さん、お久しぶりです!」「あら…たしか、龍崎竜也君…だったわね。元気そうで良かった」

久しぶりの再会が嬉しくて、竜也は声をかけた。

「あの久瀬君の友達と知り合いなんですか?なら俺も知り合いですので行きましょう」

「訳が分からないわよ」

相変わらず、北岡の言葉には耳を貸さない。

「令子さん、せっかくだから行ってみたらどうですか?北岡さんも、きっと楽しい人ですよ」

竜也は令子にそう問いかけてみた。

「あなたまで…」「じゃあ、待ってますよ。6時に「ル・クロック」で…」

北岡秀一は、最後にそう言って、歩き去った。彼女から承諾も得ていないのに、何故、急に去るのかは分からない。

「…そうね。ま、気が向いたらね」

令子はちょっとだけ微笑んで、別の取材の仕事に向かう。

「竜也君、なんかありがとうね。またいつか」「はい!」

 

「へぇ~…結構盛り上がってるんだ?」

 

竜也が戻ってくると、意外な人物がいた。

「貴様…ガイ!?」「よ、正義の仮面ライダーと愉快な仲間達さん」

不適に笑う少年、芝浦シュンだった。所々、服の袖から包帯が見え隠れしている。

彼は以前、仮面ライダーガイとして、竜也達の前に立ちはだかった強敵。

しかし…。

「あなた、王蛇のファイナルベントで…!?」「勝手に殺さないでよ」

舞は確かに、王蛇のベノクラッシュでトドメを刺されたところを見た。

だが、彼は間違いなくこの場にいる。

「龍騎に助けられたんだよね。面倒だけど、礼を言おうと思って」

「…おれ?」

竜也はあの場にいたが、助けた覚えは無い。

自分じゃない龍騎…。

「…もしかして…!」

心当たりがあった。

城戸真司かもしれない。彼は見えないところで戦っていたが、それは近い場所だったのかもしれない。

「ん?お宅じゃないんだ?なら良いや」

そう言って、手を振って帰ろうとする。

彼が礼を言おうとしていた。知らないうちに彼にも変化があったのだろうか…。

「待ってください!」

引き止めたのは香里。

「何?」「あなたも卒業ですよね?」

そう、芝浦も3年生。怪我のため、出席は出来なかったが、卒業する事はできた。

「だから?」

「あの…おめでとうございます!」「ゲームばかり、すんなよ!」

「元気で…」「もう、悪いことしないでね!」

竜也達も笑顔で祝いのことばを芝浦の背中に贈った。

「あのときさ…ゲームみたいに戦ってたけど、死にかけて、リハビリして初めて分かった。ゲームみたいにリセットできない人生は、ゲームよりも面倒だけど、ずっと楽しいってさ」

振り向いた芝浦の表情は、笑顔だった。

「ありがとう。また会えたときは、お宅ら、もっと面白い人になってよ?」

そういい残して、歩き去っていった。

 

帰り道。

潤、香里、栞は談笑しながら帰路についていた。

そこに…。

 

「俺の占いは…外れたらしいな」

 

「あ…占い師さん!」

以前、栞の前に現れた若い占い師だ。香里と潤のデートの日に栞の不安を取り除いた、オレンジのジャケットが印象的な青年。

「北川潤。俺は以前、お前を占わせてもらった」「おれを…?」

コインを見つめている占い師。

「その占いは…「苦痛しか待っていない」と出ていた。だが、お前は幸せを手に入れているらしい」

「なんなんだよ?そもそも、あんたは誰だ?」

潤は訝しげに占い師に問う。

 

「俺は、しがない占い師、手塚海之だ」

 

占いはよく当たるがな、と付け加えて微笑む手塚海之。

「だが運命は変えられる。それをお前は教えてくれた」

そう言った後、占い道具を片付け始める。

「今日は店仕舞いだ。決まりきった運命など…ない。それが今日一番の収入だ」

「あの…!」

栞が手塚海之に呼びかける。

「なんだ?占いは今なら受け付けても良いが…」

「いえ…竜也さんのことを占って欲しいんです…」

手塚海之は彼と面識がある。占いは何とかできないものだろうか…。

「…彼の幸せは、この街にまだ残っている。これ以上は言えない」

「当たりますか?」

問うが、彼の返答は栞には想像できた。

「俺の占いは…当たる」

 

一方、こちらは竜也、真琴、ミツル。

「あう~!やっぱり肉まんは最高!」「二次会で、あれだけ喰っておいて…何故太らないんだ?」

帰り道に肉まんを買って、食べながら帰路についていると…。

 

「お久しぶりだね!いやぁ~微笑ましいなぁ!」

 

相変わらずの笑顔で歩み寄ってきたのは…。

「あ、ピロをくれた警備員さん!」

以前、捨て猫のピロを竜也達に押し付けた自称イケメン警備員。

「相変わらずのウザさだな」「そっちも相変わらずの毒舌だね~!」

そうそうと言いながら、名詞を取り出す。

「この前、渡せなかったから」

名詞には、以前は何かを記していたような不自然な空白があり、その下には…

 

「佐野満」と記されていた。

 

「わぁ、ミツルと同じ名前!」

真琴は同じ名前に驚いていたが、ミツルは別のことに驚いていた。

「真琴、漢字が読めるのか?」「あうーっ、読めるわよぅ!」「ほらほら、ケンカしないで…」

相変わらずの2人の言い争いを、竜也が止める。

「やっぱいいね~!でも」

朗らかだった佐野満の表情が急に真剣になる。

「願いをかなえてる今、それを失わないように、気をつけてね」

名詞を3人の手に渡し、手を振りながら歩き去った。

 

秋子は編集室である人物と会っていた。

「いやぁ、そちらの記者は本当にいい記事書きますね!うちのバカ新人に見習わせたい…」

秋子の前にいる男性は…大久保大介だ。後ろには浅野めぐみと島田奈々子もいる。

「あたし、バカ新人じゃありません!」「パソコン壊したりするくせに…」

どうやら、この2人は仲が悪いようだ。

「ふふ、皆さん一生懸命ですね。そちらの記事も拝見してますが、本当に興味深い事が多くて…」

「それで…今日ここに来た件ですが…入ってください」

大久保に言われて入ってきたのは…。

「お久しぶりです、水瀬編集長」

 

鎌田マサトだ。

 

「あら…鎌田さん」

彼は仮面ライダーアビスとしてタイガに敗北し、逮捕されたのだが、未遂だった事もあり、反省の様子が窺えたため、執行猶予で出所することができたのだ。

そのことも、秋子は把握している。

「経験が長いにも拘らず、貴方の下にいることが我慢できずに、あんなマネをしました。しかし貴方のジャーナリストとしての実力は素晴らしい事を、大久保編集長から教えられました。私は実力で貴方を超えて見せましょう。OREジャーナルの一編集員として、もう一度やり直します」

鎌田は頭を下げ、そう言った。秋子にとっては、少し残念な事であったが…。

「そうですか…。実は貴方が戻ってきたときのために、副編集長の席は空けておいたのですが…」

「未来有望な編集者たちにでも、任せたらどうですか?」

大久保がニカっと笑って、秋子に提案した。

「そうですね。ここを任せられる…誰かに…」

 

その日の夜。

竜也は、家にあった手紙を頼りに、近くの百花屋ではない喫茶店までやってきた。

「あの…お久しぶりです」「あら、見ないうちに、ちょっと男前になったじゃないの!」

「ユイさん、沙奈子さん!」

店内には、以前あったことのある神埼ユイと神崎沙奈子が、手を振って彼を呼んでいた。

大怪我をしていたはずだが、今は嘘のように完治している。

「実は、今日来てもらったのは、あなたに謝りたくて…」「謝る…?」

ユイは頭を下げる。沙奈子は説明をする。

「聞いたよ。噂の赤い騎士だったんだってね。なんとなく、そんな気がしてたのよ。んで、ユイはアンタのことを悪く言ってしまった事を謝りたいんだとさ」

「ユイさん…」

頭を上げたユイは泣いていた。

「わたし、あなたのことを「バケモノ」って言ったときのこと、未だに忘れられないんです…。せめて…わたしの言葉をあなたに伝えたくて…。ごめんなさい」

「新聞、見ました。おれの事で、泣いてくれる人は沢山いたんだって。だから…ありがとうございます」

竜也はユイの手をとり、微笑んだ。

「今度、また花鶏に来ます。そのときは、また友達として、いてくれますか?」

「はい!」

 

次の日。

舞、サトル、名雪は、舞の母親の墓参りをしていた。

「お母さん。わたしは今、まわりに沢山の人がいる」

手を合わせ、目を閉じながら、舞は母親に向かって伝える。

「おねえちゃん…」「先生、英雄にならなくても良い方法…見つかりません」

ふと横を見ると、隣の墓に花を供える女性と、別の墓に花を供える青年がいた。

その墓にはそれぞれ「霧島家之墓」「香川家之墓」と記されている。

「あの人…」

サトルは、その青年に見覚えがある。かつて、自分に英雄とは何かと問いかけた青年。

2人も、彼らに気付いたようだ。

「あなたは…カフカの「変身」を呼んでた…」「サトちゃん、知ってるの?」

「やぁ…虎水サトル君。名前を教えてなかったっけ」

会話をしている青年には、以前のサトルと何か似た雰囲気があると、名雪には思えた。

女性は、舞に向かって悲しそうな表情を向ける。

「あなた達も…誰かを悼んでるの?」「わたしは、悼んでなんかいない。安心して良いって、伝えただけ」

舞はきっぱりと言い放つ。すこし微笑んで、女性は立ち上がる。

「面白い子ね」

 

「あたしは霧島美穂」「僕は東條悟」

 

「また逢える日にはお姉ちゃんのこと、吹っ切らなくちゃね」

そう言って、霧島美穂は歩き去った。

「僕も、英雄にならなくても良い方法、見つけないといけないのかな…」

「きっと見つかるよ。僕にだって見つけられたから」

サトルの言葉に、東條悟はどこか満足げな表情で去った。

 

そのころ、祐一はある病院にいた。

警察の管轄内の病棟。重傷を負った囚人などが収容されている。

 

そこには、包帯を巻いた浅倉タカシの痛々しい姿があった。

 

「オマエ…」

祐一を見た途端、驚いたような表情になる。

「浅倉。具合は…?」「ほう…オレを案じるとは、珍しいバカがいたな」

嘲笑する浅倉に、祐一は一歩近づいてこう言った。

「おまえは以前、おれ達との間にあるのは、戦う悦びだけしかないって言ってたけど、それは違う。こうやって、どちらかが手を差し出せば、分かり合える日だって、いつかは来る」

「そんなことを言うために、姿を見せたわけか」

一生懸命、気持ちを伝えたが、浅倉には何も響かないようだ。

「そんなことでも…これが、おれ達にとって、おまえとの間にあるものだ」

「もういい、消えろ。イライラさせるな」

しかし、彼にとって「イライラさせるな」という言葉を言うことは、かなりの進歩なのだ。

イライラしていないのだから。

浅倉の変化を感じ取った祐一は、少しだけ頬を緩ませて病室を後にした。

病室から出ると、またしても意外な人物に出くわした。

「須藤…!」「君は…相沢祐一君ですね」

 

須藤マサキ。仮面ライダーシザースだった者だ。

 

彼も、刑務所内で模範囚として、出所を目指している。

「未だに戦っているのですか?」「まぁな。なかなか終わらないが…」

祐一の言葉を聞いた須藤は、少し顔を伏せる。

「私は自分の自己保身や、力だけに固執しすぎていました。それが自分の身を滅ぼしてしまった事も、今なら分かります」

 

「悔しいが、オレもな」

 

仮面ライダーベルデであった高見沢イツキも現れた。

 

最近テレビで、企業の規模縮小を発表して以来、姿を見なかった。

しかし、今の姿を見る限り、大丈夫のようだ。

「オレもな、身を滅ぼさない程度の欲望を持つ事にした。欲を満たす前に身を滅ぼされたら、満たす事が出来るはずの欲も満たされないからな」

不適に笑う高見沢。

「みんな…変われるんだな」

去っていく2人や浅倉のことを思い出し、例え悪だった仮面ライダーも、何かのきっかけで、変わることが出来ると信じられた。

 

その日の夕暮れ。

竜也は百花屋に入り、栞と待ち合わせをしていた。

「ごめんなさい、遅くなりました」「大丈夫、そんなに待ってないよ」

栞は竜也のいるテーブルに向かい合うように座った。

「竜也さん。7年前の事は全部、思い出したんですか?」「あのリュウガと戦ったときに全部ね」

少し遠くを見ながら、呟く竜也。

「7年前、女の子が木から落ちた。おれはその事実を受け入れたくなくて、自分から記憶と感情を捨てた。それがリュウガになったんだ」

テーブルの下の足の上に置いていた手を強く握る。

「女の子の名前は、月宮あゆ。…あゆはもう…この世には…」

 

「竜也さん。あゆさんは…」

 

その言葉は、竜也にとって衝撃的だった。

対照的に、栞は涙を溜めている。

「竜也さん…こんなときは…泣いてもいいですか?」

「悲しいときは泣いて。おれのように、ならないように…」

ゆっくりと頷く竜也。

「竜也さんっ!」

栞は竜也の胸に飛び込み、嗚咽を漏らしながら泣く。

「悔しいです…!本当は…あゆさんに竜也さんを渡したくないですっ…」

「辛いよね…ごめん。でも…ありがとう」

竜也は、せめて彼女の心を、自分の出来る限り癒そうと、栞の頭を優しく撫でる。

「はい…はいっ…!」

竜也の胸の中で、何度も栞は頷いていた。

 

彼女の言葉を頼りに、病院の廊下を走る。

ある病室に入ると…。

ベッドに横たわり静かに寝息を立てている、一人の女の子を見つけた。

髪が長く、少し痩せこけていた。7年間、眠り続けていたからだろう。

でも、見間違う事は無い。

 

月宮あゆだった。

 

その手には「天使の人形」が握られている。

「あ…ゆ…」

失ったと思っていた大切な人は、生きていた。

 

 

 

夢…。

 

夢を見ている…。

 

大好きな人が傍にいる夢…。

 

その人はボクに話しかける…。

 

いろんなことを、話してくれる…。

 

ちょっと意地悪だけど、本当はすごく優しい男の子。

夜の学校で、お化けと戦う女の子。

黙って見ていることだけは、絶対にしたくない男の子。

好きな人に対して、素直になれない女の子。

自分の気持ちを、どんな状況でも正直に伝える女の子。

決められた事ではなくて、自分の決断で動く男の子。

少しずつ変わろうとしている女の子。

お寝坊さんだけど、いつも笑顔の女の子。

記憶や言葉を、大好きな人のために取り戻した女の子。

その女の子を、ずっと支え続けた女の子。

大好きな人のために、英雄を捨てた男の子。

憎しみを振り払って、友達を信じた男の子。

ほほえみをたたえて、みんなを見守っている人。

 

今はいないけど、何処かで、ずっと戦い続けている人。

 

そして…。

 

夕暮れの街で再会した、7年前の幼馴染。

 

夢…。

 

夢を見ている…。

 

大好きな人が傍にいる夢…。

 

繰り返される、当たり前の毎日…。

 

そんな「夢の欠片」が、何度も何度も訪れて…

 

心を少しずつ、満たしてゆく…。

 

空から降る雪の欠片が…

 

街を白く染め変えてゆくように…。

 

 

 

「例えば、竜也さん、自分が誰かの夢の中にいるって考えた事あります?」

ふと、あゆの身の回りの世話をしていたとき、手伝っていた栞が竜也に問う。

「夢の中…?」

「夢を見ている誰かは…夢の中で、一つだけ願いを叶えられるんです。夢の中で暮らし始めた頃は、ただ泣いている事しかできなかった。でも、ずっとずっと、夢の中で待つことをやめなかった…。そして、小さなきっかけがあった」

彼女の胸中には、何があったのだろうか…。

「願い事は…長い長い時間を待ち続けた娘に与えられた、プレゼントみたいなものなんです」

 

「だから、どんな願い事もかなえることが出来たんだと思います」

 

竜也は、あゆが最後に願った言葉を思い出す。

「あゆの願いは…」

自分が振り返らなくてすむように…悲しい思いをしなくてすむように…。

その願いが絶対に叶うとするならば…。

 

 

 

2012年3月。

眠り続けているあゆを見つけて、1年が過ぎた。

目を覚まさない彼女に、竜也はずっと語りかけている。

「祐一は、舞さん達の大学になんとか合格してる。香里さんは志望校に合格して、4月からは近くの医学大学に通うって。潤もがんばって、香里さんに着いて来たみたい。名雪さんと真琴ちゃんは、WATASHIジャーナルの新人編集員として就職が決まって、美汐ちゃんと栞ちゃんが、絵画のコンクールで賞を取ったよ」

あゆのベッドに近づいて、顔を伏せる。

「前に進んでないのは…おれ達だけだね…」

 

「竜也君」

 

「あなたは…!?」「榊原耕一だよ」

そこにいたのは以前、モンスターと生身で戦っていた勇敢な青年。

「きっと、この娘は、今でも待ち続けている」

榊原耕一は淡々と続ける…。

「迎えに行ってやれ…。君にしかできない」

 

「約束を守れるのは、約束をした人だけだ」

 

そう言い終わったとき、竜也はあゆを見て、もう一度、彼のいた方向をみる。

だが、誰もいなかった。

「約束を…」

竜也は病室を飛び出し、あの場所に向かった。

 

 

 

流れる風景が好きだった。

 

冬…雪の舞う街…。

 

新しい足跡を残しながら、商店街を駆け抜けることが好きだった…。

 

春…雪解けの街…。

 

木々の幹に残る小さな雪のかたまりを、手ですくいとることが好きだった…。

 

夏…雪の冷たさを忘れた街…。

 

かたむけた傘の隙間から、霞む街並みを眺めることが好きだった…。

 

秋…雪の到来を告げる街…。

 

見上げた雲から舞い降りる小さな白い結晶を、手で受け止めることが好きだった…。

 

そして、季節は冬…雪の季節…。

 

街が白一色に染まる季節…。

 

流れる風景が好きだった…。

 

だけど、雪に凍りつく水たまりのように…ボクの時間は止まっていた…。

 

四角い部屋の中で…季節の無い時間の中で…

 

ボクは…ずっと一人ぼっちだった…。

 

繰り返し、繰り返し…

 

夢の中で…同じ風景を眺めながら…。

 

明けない夜に…身を委ねながら…。

 

だけど…

 

ゆっくりと…夜がしらみ始めていた…。

 

 

 

辿り着いた先は「約束の場所」。7年前、悲しい出来事が起こり、自分の闇が生まれた場所。

それでも…ここは優しい思い出の場所。

雪は溶けていた。

まるで、呪いがとかれたかのように…

ふと、古びた包みを見つける。7年前、あゆに渡そうとした誕生日プレゼントだ。

手に取り、包みを開ける。

「うぅ…っ!」

慟哭した。

 

包みの中には、再会したあゆが着けていたはずのカチューシャがあった。

 

「渡してなかった…」

そう、1年前のあゆは確かに、眠っているあゆの意識が、奇跡のサバイブによって実体化したもの。だが同時に、竜也の創り出した幻でもあった。

竜也は現実よりも幻を選んだ。自分の心が崩壊しないように、辛い記憶と感情を捨てて、安らいでいる事の出来る「幻」を受け入れた。

思い出を…傷つけず、美しいままにするために…。

もう、許されないかもしれない。憎まれるかもしれない。

それでも…。

「迎えに…いか…ないと…」

そう言って、山を降りた…。

 

次に向かったのは竜也とあゆが、初めて出会った場所。

ベンチの前。

 

「遅いよ、竜也くん」

 

そこには、7年前のあゆがいた。

時が止まっても、7年間待ち続けた少女。

「ごめん…本当に遅くなったね…」

「ううん、許してあげる。約束したもん」

そう言って、ベンチから立ち上がり、竜也に近づいてくる。

「あゆ…誕生日おめでとう」

竜也は、包みを渡す。

「あ…開けても良い?」「うん」

うれしそうに、あゆが包みを開ける。

「わぁ…赤いカチューシャだぁ…!」

「あゆ」

喜んでいるあゆに竜也が声をかけ、手を差し伸べる。

 

「さぁ…行こう」

 

「うん!」

 

季節が流れていた…。

 

雪解けの水のように、

 

ゆっくりと、

 

ゆっくりと…。

 

凍った思い出が、溶けるように…。

 

新しい季節が、動き出すように…。

 

 

 

「おはよう…あゆ」

 

 

 

2012年4月。

「ふぅ…遅いなぁ…」

「あゆぅ!」

待っていた少女の前に、1人の少年が現れた。

「遅いよぉ…!」「ごめん、退院祝いを買っててさ…」

そう言って、竜也が差し出したものは、たい焼き。

「これで機嫌、直してくれる?」「うん!許してあげる!」

今、あゆは車椅子での生活。8年間のブランクは厳しく、体力低下が著しいのだ。

それでも…。

「さ、行こう。みんなが主役を待ってるよ!」

「それじゃ、急がなきゃね!」

 

止まっていた思い出が、ゆっくりと動き出した…。

 

たった一つの…

 

小さな奇跡の欠片を抱きしめながら…。

 

「竜也くん。ボク、また元気に走れるようになるかな?」

「走れるよ。土の上も、草の上も…雪の上だって、また走れるよ!」

「うん…そうだね」

 

どれだけ時間が掛かるかは分からない…。

 

でも…。

 

今は、時間が沢山あるのだから!

 

 

 

これは小さな奇跡の物語。

 

そして…

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

 

次回!

 

                     遂に見つけたぞ…!

 

これが…最後の戦いになる…

 

                     最後のサバイブを弾き出す方法…!

 

何故だ…!?

 

                     おれ…いままで…

 

 

 

 

第49話「風の辿り着く場所」

 

 

 

 





キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

須藤マサキ
芝浦シュン
高見沢イツキ
鎌田マサト

浅倉タカシ

神崎ユイ
神崎沙奈子

桃井令子
島田奈々子
浅野めぐみ

水瀬秋子
大久保大介

霧島美穂
手塚海之

北岡秀一
由良吾郎

東條悟
佐野満

榊原耕一

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。