仮面ライダー龍騎 ~EPISODE Kanon~ 作:龍騎鯖威武
「影の辿り着く場所」
龍崎竜也。
仮面ライダー龍騎と仮面ライダーリュウガの2人の戦いに決着がついた。
その戦いを見届けた1人の少女、月宮あゆ。
彼女は自分の存在の真実を知り、それでも最後の願いを竜也に託し、再び夢の世界に囚われた。
そして…。
「…」
駅前のベンチでずっと座り続けるあゆ。彼女は確信している。
自分はもう生きてはいない。
7年前のあの日、大木から転落し、そのまま命を失った。
それでも、竜也に逢いたかった。
その想いが魂をこの世に留め、仮面ライダーオーディンが血眼になって探していた「最後のサバイブ」と融合し、虚ろの実体を手に入れたのだ。
そしてそれも失われた。
それでも彼女は待ち続けている。何を待っているのか…。それは竜也なのだろうが、彼がここに現れることはないのだろう。おそらくこの世界は「あの世」もしくはそれに近しい世界である筈。
そんな彼女の前に現れたのは…。
「あぁ…」
「迎えに来た」
龍崎竜也だ。
来ないはずだった少年が来たのだ。
「竜也くんっ…!」
あゆは嬉しくなって立ち上がり、彼に近づく。
だが…違和感を感じた。
「うぐ…!」
その瞬間、あゆの手を乱暴に掴み、持ち上げる竜也。瞳がみるみる血のように赤くなっていく。
違和感は確信に変わった。
あゆが愛している竜也は、こんな冷たい表情をしたことはない。
「キミは…リュウガ…!」
この竜也は、龍騎である竜也に敗れて消滅した、竜也の記憶と感情が具現化した存在。
仮面ライダーリュウガだった者だ。
「どうした。オマエは誰も居ないこの世界で、オレが来るのを待っていたんだろう?」
冷たい表情に少しずつ邪悪な笑みを含みだした竜也。
ここではリュウガと呼ぼう。
愛している人と同じ顔をしているのに、あゆは恐怖を感じる。
「ボクが待っているのは…キミじゃないっ…!」
掴まれている手を振り払おうとするが、その力は強い。ビクともしなかった。
「いいや、オレだ。何故ならオレは『おれ』だからだ。オマエが愛している龍崎竜也の欠片。その事実は変わらない」
「いやっ…離して…!」
無駄な抵抗なのだろう。それでもあゆは抵抗をやめなかった。
きっと彼に連れて行かれたならば、その先にあるのは無限の闇。
確証はないが、確信はあった。
「オマエは死んでいる。そしてオレも同じだ。ヤツに拒絶され、行き場を失って消えた、哀れな記憶の影だ。安心しろ、オレはオマエを忘れない」
そう言ったリュウガの表情は…
邪悪な笑みの中に寂しさを感じた。
あゆは抵抗を止める。
「ねぇ…キミは、何を願っているの?」
その言葉を聞いた途端、リュウガの表情から笑みは消え、あゆの手を離した。
「以前、伝えた筈だ」
かつて、あゆが竜也の重荷を代わりに背負いたいと願い、一時的に仮面ライダー龍騎になったことがある。
そんな時だった。リュウガと邂逅したのは。
その日、彼は自分の目的を語った。
本当の自分自身になり、月宮あゆを手に入れる。
あれは本心だったのだろうか。
「本当の自分自身になりたいって…どういうことだったの?」
「オレは欠片。竜崎達也が、オマエを失った悲しみ、何もできなかった自分への憎しみや怒りの感情が記憶とともに分離した欠片だ」
その言葉であゆは、目の前にいるリュウガの心がわかった。
「…戻りたかったんだね」
リュウガは竜也と一体になることで、本当の自分になりたかったのだ。
拒絶された記憶と感情。そのまま7年もの間、彷徨い続けた影。
拒絶されたモノは還ろうとしていたのだ。在るべき所に。
「ごめんね…キミはちゃんと竜也くんだったんだ。それにキミが竜也くんから追い出されたのは…ボクのせいだったんだね」
「そうだ。オレは龍崎竜也。オマエの所為で…オレは7年もの間、ヤツが捨て去ったモノしか持てず、苛まれ続けた…!」
リュウガの表情は、憎しみに歪んだ。
彼が苦しんだ発端は、あゆにある。彼女が大木から落ちたりしなければ、竜也から追い出されることはなかった。
それを再確認した瞬間、リュウガの心は怒りと憎しみに支配された。
「なら…どうしてボクを手に入れたかったの?」
「何…?」
憎かったはずの自分を手に入れることに固執している理由が分からない。
あの時の言葉は嘘なのかもしれない。だがそうだとしたら、リュウガは何故ここに現れたのだろうか。
「オレは自分自身になり、オマエを手に入れる。それだけだ」
彼はそれ以外の総てを、必要としていない。
自分自身とあゆ。
リュウガが願うのはそれだけなのだ。
憎い筈の自分とあゆしか、願うことができなかったのだ。
「キミは…それ以外の願いを…持つことが出来なかったんだね」
気が付けば、あゆの頬には涙が伝っていた。
「何故だ…」
「え…?」
「何故、オマエはオレではなく、ヤツを選んだ?ヤツは、オマエを7年もの間、忘れていた。だがオレは産み落とされて7年、オマエを忘れたことは片時もなかった。なのに、何故…!?」
リュウガの表情は悲しみに包まれていた。
彼は孤独だった。
生まれた瞬間から、自分自身へ還り、あゆと共に在りたかった。
なのに、唐突に再開したもう1人の自分が、それを瞬く間に奪っていった。
例え憎くても、その存在に対して相対的にあった感情。
それはリュウガが自覚していなかった、唯一の温かい感情。
「そっか…」
「キミもボクの事…好きでいてくれたんだね」
リュウガはあゆを憎みながら愛していた。
追い出した竜也が愛していたのだから、当然だ。
「憎しみながら好きでいるなんて…辛かったよね…」
「オレは…オレは…!」
決壊した心のダム。
それを表現するかのように、リュウガは涙を流していた。
「でも…それでも、ボクが好きなのは…あの竜也くんなの」
あゆはそれでもリュウガを選ぶことは出来ない。
例えもう二度と逢えなくても、竜也を愛することを決めたのだから。
例えリュウガも竜也なのだとしても、あゆの愛する竜也ではないのだから。
「ボクの好きな竜也くんは…ボク達2人だけのこと以外も考えているの。仮面ライダーとしての使命、真司さんの願い、それにみんなの事。たくさんの事を考えて、みんなを好きでいられる竜也くんが…ボクは好きなんだ」
優しく微笑みながら、あゆはリュウガに告げた。
それはリュウガにとって終焉を意味した。
「オレはその総てを持つことが出来なかった…」
「でも…!」
諦めたように呟くリュウガの言葉を、あゆは遮った。
「竜也くんは失った記憶と感情も受け入れた。だから、キミのことも受け入れてくれるよ」
「オレを受け入れる…?」
「ボクはもう、ここにしか居られない。でも、竜也くんは生きてる。だからキミも生きて。そして竜也くんを受け入れて。きっと…前に進めるから。そうしたら、キミは他のことも持てるよ。きっと…」
あゆはいつしか、リュウガを抱きしめていた。
「出来るのかな…この『おれ』に…」
「出来るよ。竜也くんもキミ…『竜也くん』も強くて優しいから」
不安そうに尋ねるリュウガ。あゆはその不安を拭うために、優しく声を紡いだ。
暫くの時間があって、あゆとリュウガは離れた。
2人の別れの時だ。
「また逢えるなら…ここに来ても良いか?」
「うん。キミが竜也くんを受け入れてたら、きっと」
初めて優しい微笑みを浮かべた。
嘗ての彼の中にあるのは、怒り、憎しみ、悲しみだけだった。
愛情を知ったリュウガ。いつか竜也と一緒に居られるはず。
そうすれば、竜也は本当の意味で過去を受け入れ、自分自身に至るのだ。
「またな…あゆ」
「ばいばい、竜也くん」
リュウガの体は霧散していった。
それから…。
「あゆ」
「ん?」
歩行器を利用してリハビリに励んでいたあゆ。そんな彼女に声をかけたのは、竜也だ。
オーディンとの戦いを終え、あゆは勉強をしながら、社会復帰を目指している。
「何か考え事してたの?」
「眠ってた時の夢のこと、考えてた」
生きていた。
そんな有り得ないと思っていた奇跡が起き、竜也とあゆはこうして2人で生きている。
同居していたミツルと真琴は、戦いが終わったことを機会に近くのアパートへと引越し、もうこの家にはいない。
「え…夢って、どんな?」
「う~ん…秘密っ」
イタズラっぽい笑みを浮かべて、あゆは慣れないウインクをしながら舌を出して見せた。
「えぇ…教えてくれてもいいじゃないかぁ」
「絶対に教えてあげないよ~」
そう言いながら歩行器に力を加え、あゆはさらに訓練に励もうとする。
そんなイタズラ心に天罰が下ったのか…
「うぐっ…うわぁっ!」
バランスを崩して転倒しそうになる。
「あゆっ!」
それを受け止めるのは、竜也だった。
「ご、ごめんね、竜也くん…」
「ううん、怪我がなくて安心したよ。ちょっと休憩する?」
「そうだね」
訓練に一段落ついたあゆを座らせた竜也は、あらかじめ買っておいたたい焼きとお茶を用意した。
「もうすぐ夏だけど…売ってくれて嬉しいなぁ」
「あのおじさんに感謝しないとね」
ふたりはたい焼きをほおばり、お茶を啜る。
「あゆ」
「なに?」
「おれは…受け入れたからな。コイツも…他の総てもな…」
「あっ…」
「ん、どうかした?」
何時もの竜也との違いがなさすぎて、一瞬聞き逃してしまいそうだった。
だが、間違いない。
「…ううん、なんでもない。たいやき、やっぱり美味しいね!」
嬉しそうに笑って、再びたい焼きをほおばった。
仮面ライダーリュウガ。
それは龍崎竜也の記憶と感情。
7年もの間、怒りと憎しみと悲しみに苛まれた彼は…。
憎くも愛しい人によって…。
前に進むことが出来た。
キャスト
月宮あゆ
龍崎竜也=仮面ライダー龍騎
龍崎竜也の記憶と感情=仮面ライダーリュウガ