仮面ライダー龍騎 ~EPISODE Kanon~   作:龍騎鯖威武

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これで、本編の時間軸は最後です。
私がこれ以上先の話を描くことはないと思います。


後編 「風が吹き続けるなら」

 

 

龍騎Sに連れられて、オーロラを越えた龍騎とあゆ。

そこはAあゆが生きている『龍騎とKanonの異世界』だ。

流石にアナザー龍騎も単独で世界を越える力は持っていないらしく、追ってくることはなかった。

「教えてください真司さん!一体、何が起こってるんですか!?」

変身を解除した竜也は、龍騎Sに問いかける。

目の前に別世界のあゆが現れ、アナザー龍騎を名乗る怪人に変異し、自分達の友を攫い、そして襲いかかっているのだ。

既に自分自身…捨てた記憶と感情が具現化したもう1人の自分、仮面ライダーリュウガと対峙したり、門矢士などの別の世界のライダーと邂逅した経験のある竜也達は、その経験故になんとか理解が追いついているが、その真相は未だ謎のまま。

だが目の前にいる龍騎Sこと城戸真司は、様々な世界の事象や行く末などを見てきた、オリジナルの仮面ライダー。竜也とあゆの危機に駆けつけたのも、この一連の事件の真相を知ったからに違いない。

竜也の問いに答えるため、龍騎Sは変身を解除する。その姿は最後に会った7年前と全く変化が見られなかった。スカイブルーのダウンジャケットに赤いニット服、青いジーンズ、それに長い茶髪。

まるでAあゆと同じように7年前のままのようだった。

「彼女は…総てを龍騎の物語の中で奪われたんだ」

「奪われたって…どういうこと?」

次はあゆが尋ねる。

答えようとする城戸真司の表情は悲痛なモノであり、語ることを拒んでいるようにさえも見えた。

それでも彼は答える。

「本来の仮面ライダー龍騎の物語は、2人の居るようなライダー同士でも手の取り合える世界じゃなかった。最後の1人になるまで仮面ライダーが殺し合い…勝ち残った最後の一人が願いを叶える」

この事実は、かつて祐一達がオーディンによって知らされており、最終決戦の後に竜也とあゆも知ることになった。自分の知る城戸真司は、凄まじい戦いの中で多くの悲しみを経験した仮面ライダーだったのだ。それは最後の最後まで本人の口から聞くことは無かった。

それについて触れようとした竜也だが、それよりも先に城戸真司が真実を述べる。

 

「アナザー龍騎に変身する月宮あゆは、自分の世界のライダー同士の戦いの中で、大切な人々の死や変貌を経験しているんだ」

 

「そんな…!?」

驚愕する2人。別世界とはいえ、自分達の大切な人々が死んでいる事実は、心を動揺させるに十分であった。

「じゃあ、仮面ライダー以外の人…栞ちゃんや真琴ちゃん、秋子さんを攫ったのも…」

「あぁ、その世界で死んでいるからだ。美坂栞は2人の世界では完治していた病で息を引き取り、沢渡真琴はミツルを生き返らせるためにインペラーを受け継いだために戦いの中で脱落し、水瀬秋子は俺の仲間がやった物語の矯正の時と同じ交通事故に遭い、そのまま…」

次々と非情なAあゆの末路を知らされる。

きっと、名雪、香里、佐祐理、美汐が攫われなかったのも、Aあゆのいる世界では生きているからだ。そうだとすれば全ての行動に辻褄が合う。

「そしてあの世界の竜也…お前が生き残った。戦いを止めようと奔走していたが、最後には月宮あゆに未来を与えることを望み、オーディンに打ち勝った。だが…それゆえに…」

それ以上の言葉を紡ぐことが辛くなったのか、城戸真司はオーロラを呼び出しその中にある映像を2人に見せた。

 

 

 

戦いが決した時。

オーディンのファイナルベントを受け、それでも立ち上がった龍崎竜也…仮面ライダー龍騎サバイブ。

この世界での竜也は烈火のサバイブのカードを影の男から受け取り、龍騎Sに到達していた。その力で殺し合うライダー達を止め続けていたが、それでも総てを止められるわけではなかった。彼が戦っている最中や知らない所で別のライダー達が戦い決着をつけていった。いつでも竜也は、その後悔に苛まれていた。

もっと早く気づけたなら…。彼らの戦いの決着までに間に合っていたなら…。

そうやって苦しんでいた時、いつでもその心を救ってくれていたのはあゆだった。

そんな彼女は7年前に大木から落ちたが故に、時を止められていた。

だからこそなのかもしれない。

 

否定し続けた戦いを受け入れ、彼女に未来を与えたいと願ったのは。

 

「ミラーワールドにおける全ての命は…全てのライダーの力は…私に帰結する。無駄な抗いだ」

もはやその言葉に返事をすることもできない。

それでも…

「ぅああああああああああぁっ!!!!!」

渾身の力を込め、ドラグブレードを振りかざし戦うことを止めない。

どれだけ長い間、戦っていただろうか…。

 

 

 

気が付けば、オーディンは消えていた。

 

 

 

なぜ消えたのか、それは分からない。

無意識のうちに勝利したのか、オーディンが脱落を選択したのか。

それでも目の前には何も残っていなかった。

ふと。

 

目の前に眩い輝きを放つ光があった。

 

先ほどのオーディンの言葉。

全ての命と力は帰結する。その言葉の意味がわかった。

モンスターは鏡の中から人を喰らう。そしてその力を契約によって手に入れた仮面ライダー達は命を奪い合う。そして奪った命は再びモンスターに喰らわれる。そして最後にオーディンに蓄えられていく。それは凄まじく膨大なエネルギー。

それが願いを叶える力…。

 

 

 

「新しい命」なのだ。

 

 

 

それを手に取る龍騎。

彼は傷ついた体に鞭を打ち、鏡を通過する形で眠り続けていたあゆの前にやってきた。

「あ…ゆ…ぃ…き…て…」

もはや声すらも掠れるようなものでしか出せない。それでも必死に言葉を紡いだ。

 

きっと彼女が目覚める瞬間を、見守ることはできないのだから。

 

どんなに正当化しようと、止めようとした戦いを肯定したことは事実。きっと自分は、目覚めた少女に寄り添う資格を持ってはいない。

誰もいない真夜中、ミラーワールドを通ることで人目を避け、傷ついた体を誰にも晒さずに済んだ竜也は、幼かった日にあゆと何度も待ち合わせをしたベンチに座り込む。

静かに降り積もる雪。その冷たさが、徐々に彼の意識を奪っていく。

ゆっくりとした動作で、竜也はベンチで横になった。

すべての感覚が失われ、目の前が暗くなっていく。

もうすぐ自分は死ぬ。いや…仮面ライダーは体の自己治癒力が高まっているから、それは避けられるかもしれない。

だが、それでもあゆに触れることも言葉を交わすことも許されないだろう。

出来ることなら…。こんな戦いがあったことを…。自分自身のことを…。

 

 

 

月宮あゆが忘れる事を願って…。

 

 

 

そこで映像は途絶えた。

「戦いの果てに脳死した龍崎竜也の願いによって、月宮あゆは目を覚ました。だが自分の周りにいるすべての人が変わり果て、居なくなった事実に絶望した。彼女は死を選ぶことも許されない。死後の世界が仮にあったとして、その世界には龍崎竜也はいない。それに受け取った命を捨てることは…彼女自身が許せないだろう。その心の闇に漬け込んだ男…タイムジャッカーのティードによって、アナザー龍騎の力を手に入れた。その力で2人の世界の人々を攫い、ティードの持つ洗脳の力で、この世界の記憶を植えつけられている」

先程まで自分が対峙したAあゆは、自分たちとは比べ物にならない悲しみと絶望を味わっていた。

タイムジャッカー、ティードという聞きなれない言葉があったが、今の2人にはそれを気にする余裕はない。

「別の世界のボクは…失った総てを取り戻したかったから、あの力を手に入れたんだね…」

呟くあゆの瞳からは涙が浮かんでいた。

かつて戦いの中で、竜也は一度死んだ。その現実を突きつけられたとき、あゆは悲しさで心が埋め尽くされたと思っていた。城戸真司によって新しい命を与えられ、竜也は息を吹き返した為、その悲しみには終止符が打たれた。

だがAあゆはそうではない。今でも悲しみの中にいる。

自分達の世界のように、城戸真司が救ってくれるわけでも、奇跡が起こるわけでもない。

残された現実を突きつけられ続けているのだ。

「あの世界が生まれて、俺は時折、彼らに少し干渉してしまった。最悪の道に進まないように…。だが言葉だけでは、最悪の道を回避することはできなかった…」

城戸真司が後悔するように説明している理由はそれだった。

彼は2つ以上の世界が関わるような出来事でないと、過ぎた干渉は許されない。今回、竜也とあゆの前に現れることができたのは、Aあゆが別世界の人間ゆえに、彼女の行動が2つの世界に干渉する出来事であったからだ。

アナザー龍騎が恨みを込めた発言をしたのも、自分達を救ってくれなかったのに、別の世界の自分たちを救おうとする彼の行動が許せなかったからだろう。

「俺は…立場上、アナザー龍騎である月宮あゆを食い止めなければならない。アナザーライダーは対象となったライダーの攻撃によって倒せる。同じ龍騎である以上、俺ならば止めることは可能だ。俺が彼女を食い止めたなら…辛いかもしれないが、彼女の世界の人々から2人の世界の人々を取り戻してくれ。2人のどちらかが攫われた人々に触れられたら…彼らは記憶を取り戻す筈だ」

城戸真司は頭を軽く下げ、竜也とあゆに協力を願う。

その言葉には素直に頷けなかった。

「じゃあ、アナザー龍騎を倒したら…あの世界のあゆは、また一人ぼっちに戻るんですか…!?」

彼女の行動原理は、孤独になった自分や取り残された人々を救いたい一心。その想いだけでアナザー龍騎となった。彼女の実力ならば、城戸真司の変身する龍騎Sの実力には及ばない。先程彼の言ったアナザーライダーの特性を考えれば、城戸真司の勝利は確実だ。

だがそれは彼女の切実なる願いが潰え、総てが過ぎ去った悲しい現実の世界で生き続けることになる。敵対していると言え、そんな末路をAあゆに辿らせるのは迷いを生じさせた。

「だが彼女を倒さなければ、2人の世界の人々は…」

城戸真司の否定の言葉に、竜也とあゆは顔を伏せる。

相沢祐一、川澄舞、北川潤、美坂栞、久瀬シュウイチ、沢渡真琴、斉藤ミツル、虎水サトル、水瀬秋子。

連れ去られた人々は、2人にとっても大事な人々。そのままという選択肢はあり得なかった。

「おれは…どうすれば…!?」

竜也は頭を抱えて苦悩した。出来ることならAあゆを救いたい。このまま無理矢理に決着をつけても、彼女の心は救われないまま文字通り生き地獄を味わうことになる。

 

 

 

「彼女の邪魔はしないでもらおうか?貴重な戦力だからな」

 

 

 

不意に聞こえた乾いた声。

振り返ると、そこにはレザー生地の服に身を包んだ男が立っている。その目は闇を映し出しているかのように澱んでいた。

「ティード…!」

「あの人が…別の世界のボクにアナザー龍騎の力を渡した人なんだね…!」

竜也もあゆもその闇を感じ取った。今回の事件の発端はこの男。Aあゆを利用して、何か企んでいるのだろう。

「止むを得ない。竜也、月宮あゆ、ここは俺が引き受ける。2人はアナザー龍騎から逃げつつ、相沢祐一達を取り戻すんだ」

迷ってはいたが、このままでも埓が開かない。2人は彼らから背を向け、走り去った。

2人の姿が見えなくなると、ティードはねっとりとした口調で喋り始めた。

「城戸真司ィ…お前も虚構の分際で、出しゃばるなよォ…」

その言葉はティードにとって、城戸真司の心を動揺させるためのもの。それと同時に、紛れもない事実であった。

 

 

 

仮面ライダーとは、とある漫画家が描いた物語。

それらが様々な形で発展し、クウガから始まる「平成ライダー」の物語が生まれたのだ。

ティードも城戸真司も…その物語の登場人物でしかない。

 

 

 

今までの人生…いやそれ以外の全てさえも否定するその言葉を耳にしても、城戸真司は動揺の顔ひとつ見せなかった。

「それはお前も同じだろう…。既に知っているさ、仮面ライダーの物語は全てテレビの中の絵空事。だが…それでもそこには間違いなく意思がある」

「だから、それさえも虚構なんだよ」

嘲笑するティード。この言葉すら、誰かが紡いだ言葉なのだろう。

全ては絵空事なのだから。

「あの世界の龍崎竜也と月宮あゆにも、この事実を知ってもらうか?きっと奇跡を起こす気を無くすかもな」

「やれるものなら、やってみろ。竜也と月宮あゆは…いや、2人の友さえも強い。その程度の事実を突きつけたところで、思い描く願いと未来は変わらない」

そう言いながら、城戸真司は赤いカードデッキを構える。

「無駄なことを。オマエは龍騎で、俺はクウガだ。例えオリジナルだろうと対象のライダーでなければ、アナザーライダーは撃破不可能だぞ」

「だが足止めはできる。2人が奇跡を起こすまでの間くらいはな」

白銀のベルトが城戸真司の腰に装着される。右手を左斜めにつき出し、叫んだ。

「変身!」

<<SURVIVE>>

赤い虚像が彼を包み込み、龍騎Sへと変身を遂げさせた。ドラグバイザーツバイを構え、ティードの対応に備える。

普通の相手では、その佇む姿だけで戦意を喪失させていたであろう。だが、ティードはその普通の相手には収まらない。

彼は思い通りにならない目の前の存在である龍騎Sに怒りすら抱いていた。

「…何故そこまで歯向かう?オマエたち仮面ライダーは、虚構の存在なのにィッ!!!!」

<KUUGA>

低い電子音声の後、ティードの姿は醜悪な巨蟲へと変異した。

平成ライダーの始まりである仮面ライダークウガのアナザーライダー…「アナザークウガ」だ。

 

 

 

竜也とあゆは改めて雪の街を駆ける。

だが、それを許さない者がいる。

「キミ達の方からこの世界に来てくれるなんて、好都合だよ」

Aあゆだ。単独で世界を渡る術は持っていないが、おそらくあの後ティードと合流し、こちらの世界に帰還したのだろう。

「…どうしても、戦わなければいけないのか?おれ達の世界から祐一たちを奪う以外に、なにか方法はないのか?」

「あるなら教えてよ。きっとその方法なら、みんなが幸せになれるんだよね?」

彼女の言葉に対する答えを、竜也は出すことができなかった。

可能であれば、話し合いで和解したかった。彼女の想いを知っている故に、それを無理矢理に止めることは気が進まなかった。

 

 

「戦わなければ生き残れない」

 

 

Aあゆがポツリと呟く。

「ボクの世界の仮面ライダー達、何人かの口癖だった。仮面ライダーは争う運命だって。竜也くんや潤くんは、止めようとしていたけど…。結局、戦う道を選んだよ」

彼女の脳裏には、意識体として彷徨っていた頃の記憶が蘇る。Aあゆの世界の仮面ライダーは全員、戦う運命を最終的には受け入れてしまった。

「正義も悪もない…。そこにあるのは、純粋な願いだけ。だからボクも願いの為に戦う。それが仮面ライダーの運命なら…!」

そんな運命、竜也は受け入れたくなかった。確かに争うことでしか決着をつけられなかった仮面ライダーもいる。だが、それ以外の道を見出せた仮面ライダーだっていたのだ。

「違う…おれ達の世界の仮面ライダーは…手を取り合うことができた。いろんな世界の人々とも…。だから君とも…!」

「それはキミの世界の話でしょう!?そんな奇跡…ボクの世界では起こらなかったんだよ」

悲痛な叫びでAあゆが訴える。幸せを手に入れた竜也の説得は、悲惨な末路を辿ったAあゆにとって火に油を注ぐ行為でしかない。

「どうせ城戸真司さんって人から、ボクの事を聞いたんでしょ?それでボクを説得したら…「うん分かった。竜也くん達のことは諦めて、この世界で寂しく生きるよ」と言ってくれると思ったの?…そんなのボクは絶対に認めたくない。バカにしないでっ!!!」

黙って聞いていたあゆだが、竜也の葛藤を無視したAあゆの発言に怒りがこみ上げた。

「竜也くんはそんなこと思ってないよっ!キミの事、救いたいって本気で思ってる!」

「じゃあ、竜也くんの命をボクに頂戴。その命で今も眠っているボクの世界の…ボクの大好きな竜也くんを目覚めさせるから」

「それでも…ボク達の世界の人たちをキミに渡すわけには行かないんだよ…!」

最早、説得は通じないのだろう。

和解の道を模索したとて、どちらかが悲しい末路を辿らねばならないのは明白だ。

ならばせめて…。

「あのあゆは、おれが止める。あゆ、祐一達を連れ戻して。オーディンを救えた君になら…きっと出来る筈から」

「でも…!」

「おれにできるのは…今は一つしか思い浮かばない」

記憶と感情を取り戻して以来、竜也は涙を流すことが時折あった。

新しく勤めた仕事で上手くいかないとき、極稀にあるあゆとの喧嘩、祐一があゆをからかった時も本気で怒ったが、そのあとも友と争ってしまった後悔の念から人知れず涙を流していた。

そして、今この時。

Aあゆとの対峙が避けられないと確信したこの瞬間、竜也は一筋の涙を流していた。

「…わかった。行ってくるね」

あゆは竜也の想いを信じ、踵を返して駆けた。

残された竜也とAあゆ。

2人の龍騎。

「…どうするの?」

「おれに思いつく最善の方法。それは君と戦うことだ。君の想いを受け止めるには…今はそれしか思いつかない」

Aあゆは純粋な願いを込めて戦っている。そこには悪意など無い。もっとも、罪悪感におし潰されそうになってはいるが。

そんな彼女の願いに応えるには、戦うしかないのだろう。

自分の世界の人々と彼女の願いを賭けた戦い。

「そっか。…別の世界でも竜也くんは竜也くんなんだね。見つからない答えを探して…人の想いに応えるために、自分の身を犠牲にして…」

「君のことを救いたかった。でも、それがおれ達の世界の不幸でしかないのなら…。君の世界の死んでいった人達の事を忘れることなら…。戦わなきゃいけない」

お互いに愛している人だった。そんな人と戦わねばならない。

どちらも一筋の涙を流し、竜也はカードデッキを構えVバックルを装着し、Aあゆはそのタイミングに合わせ、右手を左斜めに突き出す。

「…変身っ!」「変身」

<RYUKI>

片や様々な人々と心を通わせ、世界を救った赤い騎士。

片や何も救うことができず、力を手にした赤い騎士。

なんの皮肉か、互いに同じ龍騎の名を冠していた。

 

 

 

あゆは、自分たちの住む世界と同じ場所を尋ねる。

きっとその場所に自分たちの世界の人々がいるはずだ。

まずは水瀬家だ。

遠慮がちにチャイムを鳴らす。そこから7年前の名雪が現れた。

「あゆちゃん、いらっしゃい!」

心から幸せそうな表情をしている。いや、それだけではなかった。

「まぁ、あゆちゃん、いらっしゃい。よかったら、ここで晩御飯食べていかないかしら?」

「あゆちゃん!あれ…ちょっと大人っぽくなったね」

サトルと秋子。2人はあゆの世界の人なのだ。

「名雪さん…ボクね、この世界の人間じゃないの。サトル君と秋子さんを…ボク達の

世界に連れ戻しに来たの」

「え…あゆちゃん?」

そう言って、あゆは秋子とサトルの手に触れた。

すると、二人は立ち眩みを起こしたかのようにふらつき、壁に手を置いて倒れないようにした。

「ここは…」

「僕達は確か、あの龍騎みたいな怪人に…」

「秋子さん!サトルくん!」

あゆは2人の手をさらに強く握った。

「あゆちゃん…どうして…?」

名雪は再び取り戻せた幸せを奪われると感じ、絶望に顔を歪ませた。その表情は、あゆが見た名雪のどんな表情よりも悲痛なものだった。

「2人はボクの世界の人たち。名雪さんの世界のボクが…名雪さんを幸せにしたくて攫ってきたの」

「…そうなんだ」

先ほどの太陽のような明るい表情の名雪は、もうすでにいなかった。

秋子はそんな彼女に近づき、力いっぱい抱きしめた。

「やめてよ…離してよ…!結局、あなたはわたしのお母さんじゃなかった!仮初の幸せなんて…!」

「貴方が悲しむ理由…きっと、貴方がこの世界のわたし達を愛していたからね」

その言葉で、名雪は捩っていた体を落ち着かせた。

「きっと…この世界の私もサトル君も、幸せだった筈よ。たった一人の愛する人に…愛されてたから」

「なゆちゃん…なゆちゃんは僕達じゃなくて、なゆちゃんの世界の僕達を…そしてなゆちゃん自身を愛して。たとえ死んでいたとしても…この世界の僕達はこんな形で忘れて欲しくないはずだから…」

そう言いながら、2人は名雪からゆっくりと離れていく。それは今度こそ永久の別れになる。先程まで拒絶していても、それは受け入れたくない事実であった。

「いや…まって…!」

「名雪…未来を見つめて。そして自分を愛して」

「さよなら…なゆちゃん…」

仮初のぬくもりに包まれていた水瀬家。だが再び、そこはぬくもりを失った家へと戻ってしまった。

「おかあさん…サトちゃん…」

 

 

 

荒野では、アナザークウガと龍騎Sが戦いを続けていた。

人の姿ではなくなった巨蟲の腕が、龍騎Sを砕こうと振り落とされる。

「…くっ!」

地面を抉り、岩を砕くことのできるその腕は龍騎Sのドラグブレードによって防がれた。

防御ならばなんとかなる。だが、攻撃に転じてもアナザークウガには有効な一撃を与えられないのだ。

いずれは消耗しきった龍騎Sは、アナザークウガに屠られるだろう。

だが…。

 

<KAMEN RIDE KUUGA>

 

「…また奇跡か。くどいッ!!」

アナザークウガは飛び跳ねるように、その攻撃を避けた。

「苦戦しているようだな、城戸真司」

体勢を整えた龍騎Sの目には、仮面ライダークウガがいた。

だが、ベルトは本来のクウガの変身に使用しているアークルではない。マゼンタカラーのバックル「ネオディケイドライバー」を装備し、左腰にはライドブッカーを携えている。

その声の主は…。

 

「門矢士…!」

 

そう、仮面ライダーディケイドである門矢士だ。

彼は様々な仮面ライダーに変身する力を有している。今目の前にいるクウガは、ディケイドの固有能力「カメンライド」によって変身したDクウガなのだ。

「クウガの力、必要なんだろ?なぜ五代雄介が居ないか知らんが、手を貸す」

ライドブッカーを構え、Dクウガはアナザークウガを見据えた。

ディケイドは全ての仮面ライダーに変身することが可能。アナザーライダー達の誰に対しても有効な戦法を持つ、いわばアナザーライダーの天敵といえよう。

そんな彼が協力してくれるとなると、とても心強い。

だが…。

「すまない。俺達は嘗て、お前を破壊者に仕立て上げようとしていたというのに…」

龍騎Sには士に対する罪悪感もあった。

2009年に勃発したライダー大戦。世界の融合による消滅を防ぐために、オリジナルライダー達はディケイドを依り代にして世界の消滅を防いだ。

それゆえに彼は、物語を持たない仮面ライダーとなったのだ。

「いちいち10年も前の事を掘り返すな。それに旅そのものが俺の物語だ。結構、楽しませて貰ってるしな」

「下らない無駄話をするなァ!!」

2人の会話を遮断するかのように、アナザークウガが襲いかかってきた。だが、2人ともそれを予期して回避することは容易だった。

「さて、10年来の和解も済ませたところで…このデカブツを退治するか!」

「…あぁ!」

 

 

 

次にあゆが向かったのは、美汐のところだ。

ものみの丘はミツルと真琴の思い出の場所。きっとそこに3人はいる。

想像通り、美汐達はそこで並んで座っていた。

「あゆさん…?」

足音に気づいたミツルが振り返り、さらにそれに気づいて振り返った美汐が、あゆに声をかける。

「美汐ちゃん…ごめんね…。ミツルさんと真琴ちゃんは、美汐ちゃんの世界の人じゃないの…」

「…やはりそうでしたか」

2人は美汐の記憶よりも成長した姿をしている。きっと死んでしまった本人ではないと感づいてはいた。

それでも大切な人達の思い出にもう一度、浸れるのなら…。現実から目を背け、仮初の幸福に身を委ねていたかった。

だが、それももう終わりらしい。

あゆはミツルと真琴の手を握る。彼女の体に触れることで、2人は自分の世界の記憶を取り戻すのだ。

「あゆ…?」

「あうぅ…あゆ、目を覚ましてくれたの?」

「あのアナザー龍騎…龍騎みたいな怪人は別の世界のボク。ボクはミツルさんと真琴ちゃんの世界のあゆだよ」

「目を覚ましたのはおれ達という訳か…。だが…」

2人は自分の世界の記憶を取り戻した。それは美汐にとっては仮初の幸福の終焉を意味していた。

そしてミツルと真琴には、美汐と過ごした数日感の記憶も残っている。

「いいんです、行ってください」

「天野…」

少しだけ涙を目に溜めていたが、美汐は精一杯の笑顔を見せた。

「この世界のミツルさんと真琴はもういないんです。それに、あなた達は幸せに生きている。そんな世界があったって知ることが出来ただけでも…充分です」

「美汐も…一緒にいけないの?」

「そうすれば、真琴の世界のわたしが困ってしまいます」

美汐はミツルと真琴の背中を力いっぱい押した。

「さよなら…少しの間だけでしたけど、幸せでした」

これ以上、彼女は笑顔を見せられないのだろう。振り返ってものみの丘を後にした。

「…真琴、あゆ、行くぞ」

ミツルは苦しそうな表情ではあったが、美汐とは逆の方向に歩いて行った。

「ミツルさん…」

「おまえは、おれ達を連れ戻しに来てくれたんだろう?それに此処は、おれ達の生きるべき世界じゃない」

振り返ることなく、ミツルは歩きながら言い放った。

そして…

「この世界の天野!!死んでもなお、おまえに想われていたこの世界のおれ達は…きっと幸せ者だったはずだ!!」

上を向いて、大きく叫んだ。

意図を理解した真琴は、美汐が歩き去った方向を見つめ…。

「美汐っ!きっと、わたし達は幸せになるから!だから、美汐も前を向いて、幸せになってねぇっ!」

それだけ言うと踵を返し、ミツルの後を追いかけた。

 

 

 

雪が未だに積もる商店街は廃れていた。

鏡の中から現れるモンスターに恐れた人々は、すっかり不必要な外出は避けるようになってしまった。

故に夕闇に染まりかけた商店街には、二つの影以外は誰一人としていなかった。

その二つの影こそ、龍騎とアナザー龍騎だ。

ドラグセイバーと青竜刀が火花を散らし、ぶつかり合う。

「はあぁっ!!」

「ヤアァッ!!」

お互いの攻撃力は同等。だがやはり、経験値が物を言う。龍騎はアナザー龍騎のとっさの隙を決して見逃さず、防御の手が緩んだ場所を的確に狙った。

「だあぁっ!」

「うぐぅっ!!」

弾かれた青竜刀に気を削がれたアナザー龍騎は、ドラグセイバーの一閃を真正面から受ける。そこで態勢が崩れた機会を見逃さず、龍騎はさらに攻撃を叩き込んだ。

「でぇっ!!たぁっ!!」

「きゃぁっ!うわあぁっ!!」

戦うことに気が進まないのは今も同じだ。だがそれ以上に、彼女の想いに応えるには全力で戦うことが必要だった。

地面を転がるアナザー龍騎。痛みに耐えながら立ち上がり、体に付着した雪や汚れを払う。

「いたた…やっぱり痛いなぁ…」

「譲れない…この戦いの勝ちだけは」

彼女の世界の不幸に抗うことよりも、自分達の世界の幸せを優先する。なんと自分勝手な願いだろう。龍騎は内心、自己嫌悪に陥っていた。

それでも…どんなに自分勝手だと言われようと、勝利を譲るわけにはいかない。

「かかってこい!!君はおれ達の世界の幸せが欲しいんだろう!?」

「うぐ…!そうだよ…ボクはみんなと幸せになりたいの…!キミ達だけが幸せになれるなんて…認めたくないっ!!!」

 

 

 

あゆは次に香里達の前に現れていた。

彼女は大学の下校途中。栞と荷物を持たされている潤もその横にいた。

「香里さん…!」

「あら…あゆちゃん」

「あゆさん!」

不思議そうに振り返る香里。以前のような嫌悪感のある表情はない。だが、その表情をこのあゆは知らないだけだ。

「ごめんなさい、香里さん…。潤くん、栞ちゃん…ボク達の世界に帰ろ…?」

彼女の幸せを奪う罪悪感に苛まれながらも、あゆは潤と栞の手を取る。

潤はその瞬間、手に持っていた香里の荷物を全て地面に落とし、栞も頭を抱えてしゃがみこんだ。

「あゆちゃんじゃねぇか!あの力、もう捨ててくれよ!」

「えっと…あの怪人はボクとは別人なの」

「やっぱり、7年前のままでしたものね…。でも、わたし達は…?」

「怪人…アナザー龍騎とティードって人に操られて、この別世界で生きていくように仕向けられてたの…他の人たちも…だから連れ戻しに来たんだよ」

潤と栞は記憶を取り戻す。

香里は何も言葉を発さず、ただその情景を見守っていた。

「おねえちゃん…」「香里…」

「…あなた達が生き返った。そんな都合の良い奇跡が起こるわけないって、何処かでは分かってた。それが…真実なのね」

表情を崩さぬよう、涙を必死に堪えながら、香里はつぶやく。

「わたし達の世界のあゆちゃんが、名雪や天野さん、倉田さんの悲しみを癒そうとして…」

「…うん。でも、ボク達の世界の人達を放っておけなかったの。だって…ボク達もみんなが大好きだから…」

ただ、あゆの純粋な…そしてただ真っ直ぐな想いを伝えた。本当は香里達も救われない結末は望んでいない。だが、それでも奪われた人々は取り戻したいと願う大切な人々であった。

「分かったわ。きっとこのままでも、この世界の北川君や栞は忘れ去られてしまう。そんなの…きっと間違ってるものね」

「ごめん…ごめんね…」

あゆは潤と栞を連れて、その場から離れようとする。

その前に2人は、もう一度だけ振り返る。

「香里っ!!やっぱ別世界でも、本当に良い女だったぜ!!」

「おねえちゃん。きっとこの世界のわたしも…おねえちゃんの妹で幸せだったと信じてる!!」

潤と栞はそれだけ言って、香里の前から姿を消した。

最後に取り残された香里は、その後ろ姿を見送ったあと…。

「う…ぅ…」

声を押し殺し、たった1人で泣き崩れていた。

 

 

 

龍騎SとDクウガ対アナザークウガの戦いは、苛烈を極めた。

戦っている場所が荒野でなかったなら、その場所はまたたく間に廃墟と化していたであろう。

龍騎Sのドラグバイザーツバイから放たれる光線、アナザークウガが口から放つ火炎や雷、Dクウガのライドブッカーから放たれる光弾。

たった3人だけで、嘗てのライダー大戦を再現するような戦場を生み出していた。

「…死ねェッ!!」

アナザークウガは手薄となったDクウガを屠るため、雷を纏った巨腕を振り下ろす。

「くっ…!」

「門矢士っ!!」

その一撃を龍騎Sが防ぐ。それによって、反撃の準備のチャンスが生まれたのだ。

<KUUGA AGITO RYUKI FAIZ BLADE HIBIKI KABUTODEN-O KIVA>

<FINAL KAMEN RIDE DECADE>

Dクウガの姿は、新たにディケイドCFへと変化を遂げた。

この姿になれば、中核の仮面ライダーたちの最も強い力を行使することができる。それによるクウガの一撃ならば、アナザークウガにとって必ずや有効な一撃となるだろう。

<KUUGA><KAMEN RIDE ULTIMATE>

胸のにある、中核の仮面ライダーの顔を写したヒストリーオーナメントが、クウガへと変化する。

それと同時にディケイドCFの隣には、嘗て五代雄介が変身していたものと同じクウガUFが出現した。

このクウガUFには変身者が存在しない。海東大樹=仮面ライダーディエンドが召喚していた仮面ライダーと似たものだ。違いは、こちらはディケイドCFの動きをある程度、トレースしたものになる。自分の意思を持たないことは弱点にも思えるが、逆を返せば完全に息の合う一撃を放てるのだ。

<FINAL ATTACK RIDE KUKUKU KUUGA>

「はああああぁっ…!でぇああああぁっ!!」

ディケイドCFとクウガUFの右腕が赤く燃え上がり、最高潮に達したそれを前に翳す。

すると、アナザークウガの身体は独りでに炎に包まれた。

「ヌゥッ…!」

アナザーライダーには対象となるライダーの力が有効。クウガの力を宿した一撃は、アナザークウガにとって確実なダメージを負わせることになった。

オリジナルライダーである龍騎S、そして総て中核を担う仮面ライダーの力を行使できるディケイドCF。

さすがのアナザークウガでも不利な状況である。

「チッ、アナザー龍騎を棄てるのは惜しいが…引かねば、計画が丸潰れか…!」

撤退を余儀なくしたアナザークウガは、異空間から巨大なマシン「アナザーデンライナー」を呼び出し、自らの巨体をアナザーデンライナーにしがみつかせ、異空間へと去っていった。

残った龍騎SとディケイドCF。

「城戸真司、後始末は俺に任せろ。お前は竜也とあゆを助けに行け」

「…いいのか?」

「毎度、確認しなきゃ分からないのか。あいつらは俺にとっても旅の中で出会った仲間だ。あいつらが必要としてる助けは…俺ではなくお前の筈だ」

 

「それに俺の計画も…進めなきゃならんしな」

 

手を振り、変身を解除した士はオーロラの中へと消えていった。

その姿を見送った城戸真司。彼にはまだ残された使命がある。

<<ADVENT>>

ドラグランザーを呼び出してバイクモードへと変形させ、アナザー龍騎の下へと急いだ。

 

 

 

雪の街にある大学。

そこで佐祐理、祐一、舞、久瀬は弁当を食べていた。そこにあゆは現れた。

「佐祐理さん…!」

「まぁ、あゆさん、こんにちは!今日はお昼が別々での講義でしたから、夕御飯をみなさんで食べようと思ってたんです。よろしければ、ご一緒にどうですか?」

「お、あゆ。…どうした、急に成長したなぁ…」

「あゆも一緒に…」

「月宮君、ここに座ると良い。丁度、余っている割り箸もある」

屈託のない笑顔で言う佐祐理達。今から佐祐理の幸せを奪わなければならないと考えると、あゆの心はズキンと痛んだ。

「ごめんなさい…ごめんなさい、佐祐理さん…!」

座るフリをして、あゆは佐祐理以外の3人の手に触れた。

「…あ、あゆ!?」

「あなたは…わたし達の世界のあゆね」

「やはり別世界の存在だったのか…」

3人は記憶を取り戻す。舞は自身が持っていた力によって、あゆがAあゆとは別の存在だと気付いた。

「…舞…祐一さん…久瀬さん…」

佐祐理にとって、3人は自分が強く生きることが出来たきっかけ。失ったことに絶望し、それでもこの世で生き抜こうと気丈に振舞っていたが、半端に取り戻した故に、さらなる悲しみが彼女を襲った。

「佐祐理…。あなたは、この世界のわたしと強く生きると約束してくれた」

「舞…無理だよ、佐祐理には…もう、この世界を素晴らしいとは思えないんだよ…」

舞にはこの世界の舞の記憶が未だにある。今際の際の自分は、佐祐理に生きていくことを望んでいた。

しかし、佐祐理にとってそれは舞たちが生きていたから。それを失った今、その言葉通りに生きることができるとは思えない。

「佐祐理さん。僕は、貴方の心の強さを知っている。誰かの為に自分の心を隠してしまうことは、弱さではない。でも…そんな強さは悲しい」

「久瀬さんっ…。佐祐理は…佐祐理は強くありません…!」

久瀬は自分の世界とこの世界の佐祐理を重ねた。どちらも同じように強さを持っていた。

自分の心の傷を誰に言うこともなく隠し、そして沢山の人に笑顔を振りまくことができる。彼女には、それをやってのける強さを持っていた。

だが久瀬の言うとおり、その強さはこの世界で最も悲しい強さなのだ。

「弱くても…おれ達は前に進めたんだ。多分、佐祐理さんの世界と同じような結末になっていても、おれ達は前に進めた。…記憶があるから。奇跡がおれ達の中にあるから」

「ゆう…いちさん…っ!」

最早、言葉を紡ぐことはできなくなっていた。佐祐理の心は悲しみに埋もれ、その重みが言葉を押しつぶしていたのだ。

「佐祐理さん。あなたにも奇跡を起こせる力はあるんだ。万能じゃないかもしれないけど…それでも、ここで佐祐理さんが生き続けるなら」

そう言って、祐一達は佐祐理に背を向けて、歩き去っていった。

「置いていかないで…独りにしないで…!」

「佐祐理。あなたの知らない、この世界の新しい素晴らしさを探して」

舞は去りゆく際、最後に一言残して、それ以降は、この世界の佐祐理と言葉を交わさなくなった。

 

 

 

もうすぐ夜が来る。

龍騎とアナザー龍騎の戦いは、未だに龍騎の優勢が続いている。

「あゆ、もうやめてくれ…これ以上は戦っても…」

「負けられない…!負けたくないよぉ…!」

嗚咽を漏らしながらも、アナザー龍騎は何度も立ち上がる。

彼女を完全に倒しきる切り札。それを龍騎は使えないでいた。

ファイナルベント。

その名の通り、仮面ライダーの最後の切り札。

龍騎がそのカードを使ったのは、モンスターを除けばリュウガとオーディン相手のみ。

全てに決着のつくカードなのだ。

だがそれを使えば、完全に彼女の未来の希望を絶つことになる。

果たしてそれは、正解なのか。

その答えを、やはり出せないでいた。

そこへ…。

「竜也っ!」

ドラグランザーに乗って、龍騎Sが現れた。

「真司さん…」

「お前に、これ以上の重荷は背負わせたくない。ここは俺に任せてくれ」

そう言いながらドラグランザーから降り、ドラグブレードを構えた。

きっと彼には勝てない。

アナザー龍騎もそれが分かっていた。それは彼女にとって理不尽極まりない運命であった。

「なんで…なんでボク達は、幸せになろうとしちゃいけないの…!?」

「その幸せが、他の世界の幸せを奪う行為だからだ」

龍騎Sはあくまでも冷静に…それであって冷酷に事実を突きつける。

「あなたがボクと同じ運命なら…きっと同じことをしたくせにっ!!」

「そんな運命…。とっくの昔に味わっているさ」

その言葉に、アナザー龍騎は仮面の奥で目を見開く。龍騎はその事実を知っていた。

城戸真司は、自分の世界で仮面ライダー同士の熾烈な戦いに巻き込まれていた。戦いを止めるために奔走していたのに、その戦いの原因は自分であり、そして最終的には世界の破滅を防ぐことは出来なかった。既に城戸真司の故郷と呼べる世界は、どこにも存在してはいないのだ。

「それでも俺は前に進んだ。…進む以外の選択肢はなかったがな。月宮あゆ、君も運命を受け入れて…前に進んでくれ!!」

「うぐぅっ!!」

龍騎Sの心の篭った…それでいて残酷な一撃がアナザー龍騎を襲う。

再び、地面を転がる。もはや立ち上がる力も残されていない。

アドベントカードを一枚手にし、ドラグバイザーツバイにベントインしようとする。

シュートベント、ドラグバレットのカードだ。この一撃は並みの仮面ライダーのファイナルベントとほぼ同等。受ければ確実にアナザー龍騎の負けは決まるだろう。

「いや…いやぁっ…」

後ろを向き、もがくように身を捩って逃げようとするアナザー龍騎。

龍騎Sの手が少し止まった。

彼女の悲しみを強く理解できる龍騎Sは、どんなに決意しようとも迷いが生じた。

それでも…オリジナルの仮面ライダーの使命は、異世界同士の干渉を防ぐこと。

使命のためにアナザー龍騎を…この世界の月宮あゆを倒さねばならない。

 

 

 

「…待ってください!!!」

 

 

 

「っ!?」

不意に龍騎がそのアドベントカードをひったくる。

「竜也、何を…!?お前の世界の人々を…お前自身を犠牲にしたくはない!」

「分かっています…。でも…これじゃあ、あんまりです…」

2人の目線の先には、震えながら、もがきながら後退するアナザー龍騎…Aあゆがいた。

「お前の優しさは理解している。だが、それでもあの子は…倒さなければならないんだ」

「…それなら、おれにやらせて下さい」

龍騎は龍騎Sに頭を下げる。

「あの子の悲しみを受け止めてあげられるのは…きっとおれだけですから」

「これ以上、お前が重荷を背負うことは…」

「おれにしか出来ないことなんです!!真司さんが背負う重荷じゃない…!」

半ば掴みかかるように、龍騎は訴えた。

彼は自分の世界のあゆを、心から愛した。Aあゆも自分の世界の竜也を、心から愛した。

それが発端となった戦いの結末を決めるのは…2人だけなのかもしれない。

「…分かった」

それ以上の反論をせず、龍騎Sは下がった。

龍騎はアナザー龍騎に声をかけた。

「あゆ…行くよ」

<FINAL VENT>

意を決してベントインした、龍騎最後の一枚。

「いやだ…もう悲しい思いはしたくないよぉ…!!」

「…うああああああああああああああああああああああああぁっ!!!!」

嘗て、リュウガと対峙した時のように魂を吐き出す叫び。

その叫びに呼応するかのように、ドラグレッダーが飛来した。

「ガアアアアアアアアアアアァッ!!!」

「はああああああああああああああああああああああああぁっ!!!!」

構えを取り、地面を蹴る。空中で体を捻り、右足を前に突き出す。

その瞬間、龍騎の身体はドラグレッダーの火炎であるドラグブレスに包まれた。

「だああああああああああああああああああぁっ!!!!!」

ドラゴンライダーキック。

その一撃は、迷うことなくアナザー龍騎の体を貫いた。

 

 

 

Aあゆが目を開けると、自分の体の中にあった黒い時計が砕けた残骸、心配そうな表情で見つめる城戸真司と別世界の自分が視界に映る。

その視線を空に向けると…。

「竜也くん…」

涙を流す竜也の顔が、視界一杯に広がった。

「あゆ…」

彼女は竜也に抱き上げられていた。

「えへへ…やっぱり強いね、竜也くん。全然、勝てなかったよ…」

気丈に笑ってみせるAあゆ。

「ボクね…この世界の竜也くんの未来のお嫁さんになることが、夢だったんだ。ボクにとって…竜也くんとその家族…お父さんとお母さんが一緒にいる家が…総てだったの」

何も言わず、彼女の言葉を聞く竜也。その涙がAあゆの頬に落ちた。

「…あったかい。久しぶりに竜也くんに抱いてもらったなぁ…」

頭を竜也の胸に預け、ゆっくりと目を閉じるあゆ。

「キミの世界のボクは…いつでもこうしてもらえるんだね。…やっぱり羨ましいなぁ…幸せに…なりたかったなぁ…」

自分の悲しみを抑えられない。Aあゆは涙をボロボロと零しはじめた。

「自分の感情を…隠さないでくれ。そうなった悲しみを…おれは知ってるつもりだから」

そう言って、竜也はAあゆを強く抱きしめた。

「うぅ…!!!うああああああああああああああああああああああああああああああああぁ!!!!」

Aあゆは竜也にしがみつき、声を枯らすまで泣き叫んだ。

 

 

 

それから、どれくらい時間が経っただろう。

「あゆ、行こう」

「えっ…」

竜也は泣き止んだAあゆの手を引き、歩いていく。

城戸真司はその姿を見送ったあと…。

「月宮あゆ。竜也の役目が終わったら、俺が君の世界に連れて帰る。だから…」

「うん。竜也くんと真司さん…信じてるから。元の世界で待ってるね」

あゆは深くは聞かず、城戸真司の言葉に従って彼の作り出したオーロラの向こうにある、自分たちの世界『龍騎とKanonの世界』へと帰還していった。

 

 

 

商店街の中で、竜也はたい焼き屋の屋台を探していた。

竜也達の世界の商店街は未だに活気に満ちている。一度は、オーディンの襲撃で瓦礫と化したが、それでも2年ほどで復興し、かつての賑わいと変わらないものとなった。

「おれ達の世界では、いつもここでやってるんだけどな…」

自分の世界では、7年経った今でも冬には商売を続けている。仕事が終わった帰りなどに、あゆにお土産として買ってあげるのが、竜也の日課だった。

だがこの世界には、その屋台はなかった。

「もしかして、たいやき屋さん探してるの?」

「…うん」

「無理だよ。この世界は、ボクが眠ってる間にモンスターが溢れかえって以来、この商店街は廃れてるの…。たいやき屋さんどころか、開いてるお店も殆どないよ」

彼女の言うとおり、Aあゆの世界では1年前まで毎日と言えるほどモンスターがこの商店街に現れ、人々を襲っていた。この場所を手放し、別の場所で店の経営を始めたものは少なくない。

百花屋などはかろうじてまだあるが、それでも嘗ての賑わいは全くなかった、

「それなら…」

竜也は開いている数少ない店から、小さな和菓子屋を見つけ、そこから2つのたい焼きを購入してきた。

「はい。食べなよ」

「…ありがと」

初めて逢った時のように、そして戦いながら日常を感じていたとき、そんな時の再現だ。

竜也はAあゆにたい焼きを渡し、2人でそれを頬張った。

「…やっぱり、ちょっとしょっぱいかな」

「涙の味だね」

2人は自分の涙がたい焼きに落ちたため、たい焼きにしょっぱさを感じた。

出会って間もない頃、あゆは泣いてばかりだった。そんな思い出の味。

「…竜也くんとキミの世界のボクは、何をやってるの?」

有り得たかもしれない未来。自分の世界の竜也がライダー同士の戦いを止め、幸せを築いていたかもしれない未来。

そんな未来を、別世界の竜也に訪ねた。

「7年前に戦いが終わって…おれは孤児院の職員をしながら、Nomenって言う政府組織で仮面ライダーやモンスターのメカニズムを解明する研究を手伝ってる。ドラグレッダー達の食事問題も、それでなんとか解決した。おれの世界のあゆは定時制の学校に入学した。あの子、たい焼きが大好きだから…それを作れる仕事をしたいって夢があったから」

「そうなんだ…お仕事2つもやるなんて、大変だね…」

「そうじゃないと、生活しながらあゆの学費を賄えなかったからね。高卒認定を取得して、あゆは小さな和菓子屋で弟子として働いてる」

社会で必死に生きている2人。とても大変だろうが、それすらもAあゆにとっては羨ましかった。

「ボクにも…できるかな…」

「できるよ。君もおれの世界のあゆも、必死になって頑張れるんだから。そんな強さを持った君なら…絶対にできる。おれが保証するよ」

その目は慈しみに満ちている。そんな目を、Aあゆは信じてみたくなった。

 

 

 

廃れかけた商店街の一角にあるゲームセンター。

そこにある小さなクレーンゲーム。

「あった」

「何してるの…?」

不思議そうにAあゆは尋ねる。

「欲しいものを言って。なんでも取ってみせるから」

「あ…!」

あの頃の再現だ。竜也にとっては14年前、Aあゆにとっては8年前の再現になる。

どちらの世界でも、ここで竜也は天使の人形を手に入れたのだ。

その人形はAあゆに3つの願いを叶える権利を与え、彼女は願った。

 

1つ目は、竜也が自分をずっと忘れないこと。

2つ目は、2人だけの学校に通いたいこと。

そして…最後の願いは竜也に託していた。

 

もはや目を覚ますことはない自分の世界の竜也が何を願ったのか、それは分からない。

 

あの頃からこの世界では8年も経過している。流石に同じ天使の人形はなかった。

代わりに…

「じゃあ…これ」

赤い龍のマスコット人形があった。どことなくドラグレッダーに似ている。

「わかった」

竜也はそこに100円玉を入れる。

そして…。

「す、すごいね…一回で取るなんて」

「ただのまぐれだよ…でも、失敗しなくてよかった」

嘗ての竜也は何度も失敗していた。だが、今回はたった一度でAあゆが選んだ龍の人形を取ることに成功した。

「はい」

「ありがとう」

それをAあゆに渡した。

竜也は優しく微笑み、Aあゆに伝えた。

「この人形には…たった一つだけ、願いを叶えられる力があるんだ」

「…キミに出来る限りの力?」

「お見通しか…。そうなるね」

この言葉も当時と同じものだ。結果的に答えが分かっていたAあゆに、竜也は苦笑する。

「分かった…」

「っと、その前に…!」

再び竜也は、Aあゆの手を引いて歩いていく。

 

 

 

その先は、約束の場所。

煤けた切り株のある雑木林の中だった。

「辿ってきた道は…本当にそっくりな道だったんだね」

「おれの世界では、ここであゆを失ったと思い込んで…大切な友達を傷つける闇「リュウガ」を生みだしてしまった」

仮面ライダーリュウガ。

嘗て竜也があゆを失ったと思い込み、悲しみに耐えられずに記憶と感情を捨てた。

それが具現化したモノだ。

彼は純粋にあゆを目覚めさせることを望んでいた。逆を返せば、それ以外は何も望んではおらず、総てを滅ぼしたとしても構わない。そんな悲しい野望しか持てなかった。

Aあゆの世界における仮面ライダーリュウガは、龍崎竜也の記憶と感情ではなかった。

彼の正体は、眠り続けるAあゆの世界の竜也のみが知る。

最早、その正体を知ることは誰にも出来ないのだろう。

「それでも…おれと、おれの世界のあゆにとっても、ここは大切な…優しい思い出の場所。この世界でもそうなら…ここで願いを叶えさせて」

自分達の世界でのあゆとの別れを思い出す。

彼女は竜也が悲しまないように、自分の存在を忘れることを願った。

だが、それを竜也は拒絶した。

忘れることの残酷さと悲しさを…それまでの人生と戦いの中で痛感していたから。

そして何より…愛する人を忘れたくなかった。

代わりにあゆは、竜也が悲しまないように…振り返らないで済むようにと願った。

その願いが叶ったから…きっとあゆは目覚めたのだろう。

きっとそんな風に願いが叶うなら…Aあゆにとって少しでも救いになるはずだから。

「…分かりました。キミへの最初で最後の、ボクのお願いです…」

彼の精一杯の優しさを感じ、あゆはとめどなく涙を流しながら微笑み、言葉を紡ぐ。

「竜也くん」

酷く楽しそうに…

「世界を…」

でも、悲しい笑顔だった。

 

 

 

「キミ達とボク達の世界を…愛してください」

 

 

 

全てを失った。

仮面ライダーという、Aあゆにとっては忌むべき存在でしかないモノ。

だが、それらがなければAあゆは竜也に会うことも…いや、世界が生み出されることもなかっただろう。

総てが過ぎ去った今…縋る力を失った今…

Aあゆに出来るのは、残された総てを愛すること。

生き残った人々を…死んでいった人々を…忌むべき存在と過去を…

そして眠り続ける最愛の人を。

「キミ達が…ボク達が生まれた世界を…ずっとずっと…愛してください」

だが、それは彼女一人では決して成し得ることのできない事だ。

だからせめて、一緒に愛してくれる人が欲しかった。

例え、別の世界であっても。

「うぐ…ずっと…」

もう言葉を紡ぐことはできない。

竜也はAあゆに近づき…ゆっくりと抱き締めた。

「…約束するよ。おれは自分の世界を…この世界を…永久に愛し続ける」

「うっ…ぐす…約束…だよ…」

そして…。

 

「もう…良いな?」

 

2人に城戸真司がゆっくりと近づいてきた。

「…時間をくれて、ありがとうございます」

「いや…礼を言うのは俺だ。お前じゃなければ…彼女の心は完全に崩壊していた。ありがとう」

城戸真司は使命故に、Aあゆにとって愛せる存在ではない故に…。

倒してしまうことしかできなかった。

だが、竜也はそれ以上の…彼女の心を救うことをやれた。

「…行くぞ」

それだけ言って、オーロラを呼び出す。

竜也と城戸真司はそれに飲み込まれ、揺らいでいった。

「さよなら…あゆ」

約束の場所に残されたのは、Aあゆだけ。

果たして彼女に…与えられた未来に、希望はあるのか…。

「さよなら…竜也くん」

 

 

 

平行世界での事件が終結して1ヶ月後。

2019年2月3日。

今日は、竜也とあゆの結婚式だ。

ウエディングドレスに身を包んだあゆ。

「本当に…良いのかな…」

姿見に映る自分を見つめながら、あゆは自問した。

平行世界では、悲しい末路をたどった自分もいる。

そんな人を蔑ろにして、自分達だけ幸せを手に入れることは…正しいのかと…。

ふと、ノックの音が聞こえる。

「どうぞ」

そこにやってきたのは…。

 

城戸真司だ。

 

彼はこの世界に留まることはできない。だが2人の門出だけは見届けたいと、この世界にやってきたのだ。

「真司さん、来てくれたんだね」

「なんとかな。…俺が言うのも何だが、とても綺麗だ」

彼女の姿を、城戸真司は柔らかく褒めた。

あゆの姿はさながら、絵本から出てきたお姫様のようだった。

「えへへ…小学生の男の子みたいってからかわれた事もあるけど…そう言ってもらえて嬉しいな。ありがとう」

少し照れながら、あゆは微笑んだ。だがその後、少しだけ表情は暗くなる。

城戸真司は彼女の心の陰りを感じ取った。

「…胸を張れ。俺の最高の弟分の生涯の伴侶は…君にしか務まらない。あいつもそう信じているさ」

「でも…ボク達の世界だけで幸せになっていいのかな…」

これから先の幸せを、あゆは確信している。

それゆえに罪悪感を感じていたのだ。

「ならば、平行世界の君達が不幸なら、総ての平行世界の人々が不幸にならなければならないのか?」

「う、うぐぅ…そんなこと…」

総ての世界の不幸など、これっぽっちも願っていない。総ての世界の幸せを願っているのは間違いないが。

困った表情になったあゆに、城戸真司は優しく笑う。

「俺達の仕事は、可能性を残すことだ。世界が壊れたら、その世界の総ての可能性が奪われる。そうならないように、俺達オリジナルライダーが存在するんだ。その可能性は幸せと不幸、どちらにも成り得る。君の世界は幸せの可能性を掴み取れた。だからそれを謳歌しろ。不幸になった世界に流されるな」

今、少しだけ。

城戸真司の自分の使命に対する、大きな誇りを感じ取れた。

「…うん。ありがとう、真司さん。ちょっとだけ、胸の閊えが取れたよ」

「良かった。この世界は、俺の第二の故郷のようなものだ。そこで生きていく君達の幸せを…何処かの世界で願っている」

それだけ言って、城戸真司は部屋を出ようとした。

だが、あゆはそれを引き止めた。

「そうだ真司さん、お願いなんだけど…」

 

 

 

ここは逆に新郎の控え室。

竜也は鏡を見つめ、様々なことを考えていた。

今までの人生、これからの人生、抱えてきた悲しみや苦しみ、それらを乗り越えられた強さ。

きっともうすぐ目の前に現れる新婦としてのあゆは、自分が知る誰よりも美しく思えるだろう。

それでも…ひとつ心残りがあった。

Aあゆとの約束。

「総てを愛する…か」

自分の世界とAあゆの世界、その総てを愛すること。

果たして自分にそれを成し遂げられるのか…。

そこにノックをしてやってきたのは…。

「よう」

相沢祐一。

仮面ライダーナイトとして共に戦った仲間であり、かけがえのない友だ。

「おれ達の中で一番乗りは…なんとなくおまえとあゆだと思ってた」

「婚約は、ミツルと真琴ちゃんが一番乗りだったけどね」

「そういえばそうだったな。全く斉藤も20代で副編集長って結構な出世頭なのに、8年も真琴を待たせるとは、何考えてるんだか…」

「でもミツルは、きっと約束を果たすよ。あいつはそういう人間だから」

「確かにやつは、鋼鉄並の義理堅さと、底なしの執念深さだからな」

「はは、間違いないね」

冗談を交えながら笑う2人。

「…なんか思いつめてること、あるのか?」

冗談を言い合う間にも、竜也の表情は何処か暗いものを感じた。

祐一の目は誤魔化せなかったのだ。

「8年来の友達には隠せないね…。実は、アナザー龍騎に変身してたあゆと決着をつけた時に約束したんだ。この世界と彼女の世界…その全てを愛するって」

「2つの世界を全て愛するって…大した約束だな」

「あの子は…もうそれ以外に愛せるものが無いから。それ以外の全てを失ったから…」

事件以来、あの世界には行っていない。

あの世界で生きるAあゆ、名雪、香里、美汐、佐祐理の5人がどう生きているのか、それも分からない。

「でも7年前のおれは、あゆの為に自分の命を一度は犠牲にした。それは、世界の総てより、あゆを愛していたから。…そんな風に天秤にかけたおれに、世界を愛することが出来るのか…不安でね」

「悩みのスケールが、一般社会人のレベルじゃないぞ」

「そうだなぁ…。普通の人が聞いたら、ドン引きだね。だから、あの戦いを知ってる人以外には、一生言えないよ」

鋭く突っ込みを入れる祐一。これも冗談だったのだが、今の竜也にはウケが悪いらしい。

「…天秤にかけるのは、悪いことなのかよ?」

「え?」

近くのソファーにふんぞり返って、祐一はこぼした。

「どっちが大切なのか悩めるから、天秤にかけたんだろ?やったことは後悔したって変わらない。それはおまえが一番、良く分かってるんじゃないのか」

「それは…そうだけど…」

14年前の悲劇。戦いが終わって、あゆと一緒に生きていた日々の中でも、何度か後悔することはあった。あのとき、どれかが違っていたら、あゆは8年もの眠りにつくことはなかったかもしれない。祐一達は仮面ライダーやモンスターの戦いに巻き込まれることはなかったかもしれない。

祐一、舞、潤、久瀬がカードデッキを渡した時も、信じてはいたが力を手に入れることを強く拒絶しなかった。それは竜也の心底に、共に苦しみを共有してくれる仲間が欲しいと想う、竜也自身の考えでは身勝手な願いがあったからなのだ。

そういう意味では、あゆの3つ目の願いは未だに果たせていない。

だが今更、後悔したところでそれは変えようのない事実。

「悩んだり、苦しんだりするのって…弱いイメージだけど、おれはそれも悪くないって思う。今まで悩み抜いて苦しみ抜いたおまえ見てたら、余計にな」

「祐一…」

「強い人間って、そういうのも引っ括められるやつなんだと思うぞ。だから、これから先も…悩み続けろよ。世界で一番大好きなお姫様と…世界そのもの。そんな風に天秤にかけてもらえるあゆは、絶対に幸せ者だ」

竜也の整えられたタキシードの肩に手を置いて、祐一は笑う。

 

 

 

『龍騎とKanonの異世界』。

あゆがアナザー龍騎の力を失って、1ヶ月が過ぎた。

あれから彼女は、前に進むことを始めた。

アルバイトをしながら、大学入学資格認定の勉強を始めている。長時間の労働と勉強。

とても辛く苦しいが、あの世界の竜也の言葉と慈しみの目を信じていたかった。

「こんにちは、竜也くん」

少ない時間の合間を縫って、彼女は眠り続ける自分の世界の竜也の見舞いに訪れた。

あゆは医者の道を志した。いつかの未来、竜也を目覚めさせる医療技術が確立されるかもしれない。そんな日が来たら、自分の手で竜也を目覚めさせたい。

こんな未来を思い描くのなら、きっとこの竜也も受け入れてくれる。

「今日の試験、満点だったよ。お勉強って大変だけど、それでも自分の頑張りが結果になるって、嬉しいね。そうだ、アルバイトも順調だよ。最初はお掃除しかできなかったけど、今は調理もやらせてもらってる。これ、そのお土産」

そう言って、少しだけ冷めたたい焼きを取り出す。

湯気が微かに出ており、それを竜也の鼻に近づけた。

竜也の反応はない。

「いい匂いでしょ?竜也くんと一緒に食べてたときのこと、思い出すね…」

ひとしきり竜也に鼻に近づけたあと、たい焼きを頬張る。

竜也の反応はない。

「あはは…ちょっと焦げてるかも。でも、中は甘くて美味しいよ」

味の感想を、困ったように笑いながら伝える。

竜也の反応は…ない。

「竜也くん…ボクの声…聞こえる…?」

その瞳に涙を浮かべながら問う。

やはり、竜也の反応はなかった。

「う…ぅっ…」

見舞いに訪れては、ずっと声をかけ続けているが…それでも…。

 

「あゆちゃん」

 

その声に振り返る。

そこには、名雪、香里、美汐、佐祐理の4人が立っていた。

「みんな…」

「ずっと行けなかった…。目を背けてた。でも…やっと来ることができたよ」

名雪はあゆの隣に立つ。

眠り続けている竜也の手を握る。

「あゆちゃん、わたし達やあなたの為に、仮面ライダー龍騎になったんだよ。今はその力はないけど…立ち止まることをしなかった。誰よりも強い子」

次に香里が近づいてきた。

「やり方は間違えてたのかもね。でも…過ちに気づけた。大切な思い出を…もう一度だけ輝かせてくれた」

次に美汐。あゆの手を取り、跪いた。

「あゆさん…ごめんなさい。あなたのことを拒絶しようとしてました。でも…偽りの幸せだったとしても、あなたがわたしにくれた記憶と想いは…嬉しかったです」

佐祐理は涙を流しながら…。

「佐祐理達は待ってます。いつでも竜也さんが帰ってきてくれる日を。いろいろ失くした佐祐理達ですけれど…だからこそ、残されたものを愛していきたいです」

5人の少女達は、仮面ライダーの戦いの中での犠牲者だ。

友を、家族を、恋人を、他にも沢山のモノを奪われた。

「竜也くん。奇跡が起こらなきゃ、きっとキミは目覚めない。でも…奇跡が起こらないなんて…そんなの信じたくない」

起こらないから奇跡と呼ぶ。

だが、起こるからこそ奇跡という言葉は存在するのだ。

「ボク達が信じたいのは…起こるかもしれない奇跡。その時の為に…諦めない」

諦めなければ、きっと奇跡は起こる。

その為に、今を…現実を…戦い抜く。

 

嘗て、龍の影を纏う紅き血潮を宿し、終わりのない戦いを決して恐れなかった少年のように…。

 

 

 

それから竜也は目を覚ました。

 

 

 

それが、翌日なのか、1週間後なのか、1ヶ月後なのか、1年後なのか、それとも気の遠くなるような未来なのか…。

 

 

 

それは重要なことではない。

 

 

 

大切なのは、奇跡が起こらない世界で奇跡を信じ…

 

 

 

奇跡を起こした者達がいたと言う事。

 

 

 

 

 

「おはよう、竜也くん」

 

 

 

 

 

 

『龍騎とKanonの世界』

ハラハラと雪が舞う昼下がり。

バージンロードの先の祭壇には竜也が立っている。

その道を挟んで、川澄舞、北川潤、美坂香里、美坂栞、久瀬シュウイチ、倉田佐祐理、水瀬名雪、虎水サトル、沢渡真琴、天野美汐、水瀬秋子が座っていた。

他にも竜也とあゆの仕事の同僚や上司、Nomenの香川や仲村なども座っている。

「あれ…祐一、あゆちゃんとバージンロード歩くんじゃ…?」

「気にするな」

名雪の質問に祐一は企み笑いをして答えず、祭壇を見つめ続けていた。

「ふふ…こんな事には無縁と思っていましたがね」

「心から、彼等を祝福致しましょう」

香川と仲村も、優しく微笑み、祭壇を見つめた。

「たっちゃん、スミに置けねぇよな…」

「付き合い悪いと思ってたけど、あんなに可愛いお嫁さん居たんじゃ、そりゃあね」

竜也の職場である孤児院の上司や同僚。

彼らは、よく竜也を飲み会や旅行に誘っていたが竜也はそれをことごとく断っていた。竜也の人当たりの良さから、それによって人間関係が悪化したことはないが、その理由をこの結婚式に招待されるまで知らなかったのだ。

「アンタ、あゆちゃんの結婚式、ちゃんと来たんですね」

「まぁな。ウチの昔からのお客さんであり愛弟子の晴れ姿くらい、老い先短い老人の目に焼き付けておかないと」

あゆが働く和菓子屋の店主とその妻。

店主は、実はあゆが7年前からよく通っていたたい焼き屋の屋台の店主でもあるのだ。

屋台と本店の経営で忙しかったが、なんとかこの日の都合を合わせていた。

 

 

 

司会を務めるミツル。

彼は優しい微笑みを浮かべ、今日一番の大仕事をした。

「…新郎と新婦には両親がいません。本日、新婦と共にバージンロードを歩くのは、ふたりの長年の友…でしたが、別の方にお願いしております。それでは…新婦とその方に入場して頂きましょう。盛大なる拍手でお迎えください」

その言葉と共に、バージンロードをはさみ、祭壇の対極の位置にある扉が開かれる。

そこに居たのは…

「ぁ…!」

 

月宮あゆと城戸真司だ。

 

2人は一歩一歩、確実に竜也に向かって歩みを進めている。

とても長く、とても短く感じられた。距離も時間も。

そして2人は祭壇にたどり着いた。

城戸真司は去り際、竜也に告げた。

「おめでとう。2人は揺るぎないモノを沢山手に入れた。幸せにしろ。…この子も、自分自身もな」

そう告げた後、彼は秋子の隣に座った。

 

 

 

「新郎、月宮竜也。汝、健やかなる時も病める時も、永久に月宮あゆを愛し、支え合うことを誓いますか?」

「誓います」

 

「新婦、月宮あゆ。汝、健やかなる時も病める時も、永久に月宮竜也を愛し、支え合うことを誓いますか?」

「誓います」

 

 

 

「竜也くん。ボクのこと、好きでいてくれてありがとう」

 

「あぁ。あゆこそ、おれを好きでいてくれて。やっと…3つ目の願いを果たせそうだ」

 

「3つ目のお願い?」

 

「振り返らなくて済むように…悲しい思いをしなくて済むように…」

 

「そっか…ボク達、ずっと振り返ってたもんね」

 

「これから先は…未来を見つめていける。今日はその一歩なんだ」

 

「…そうだね」

 

「あゆ」

 

「なぁに?」

 

「さぁ、行こう」

 

「…うん!」

 

 

 

長きに渡る、仮面ライダー龍騎とそれを取り巻く者達の物語。

 

 

 

彼らの物語は、ここまで。

 

 

 

その先に待つものが何か、それは分からない。

 

 

 

言葉だけでは描き切ることのできない…

 

 

 

沢山の物語と未来が待っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

FIN

 

 

 

 

 

 

『何処かの世界』。

「…あの世界の物語は紡がれなくなったんだね」

そう言うひとりの少女。その姿は月宮あゆそのものであった。だが、そこに実際に存在するわけではない。そして月宮あゆではない。

「…いつまで客観的に話しているの?」

…彼女は、言うなれば…

「ボクはキミに話しかけてるんだよ」

…どうして私に接した?

「ボクが話せる相手は…今はキミだけだから」

そうか。

「もう良いの?キミが紡いでいた物語…」

そうだね。私が描ける物語は此処まで。これから先の未来は私ではなく、彼らに託したい。

「寂しくなるなぁ…」

私も一抹の寂しさは感じている。この物語には思い入れがあったからね。

「そっか…でも、また夢は見られるよ。何度だって」

いつか醒める夢だけどね。

「あまりイジワル言わないでよ。…ふふ」

…あの物語を描かせてくれて、ありがとう。

でも、この物語の先じゃなくてもこれまでのことなら、まだ描ける気はするよ。

「嬉しいよ。でもそれまではサヨナラ…だね」

あぁ。

「…またね」

あぁ…

 

 

 

またいつか、会える日まで。

 

 

 

 

 

 

 

 






キャスト

月宮竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

月宮あゆ=アナザー龍騎

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

香川ヒロユキ=オルタナティブ・ゼロ
仲村ソウイチ=オルタナティブ

水瀬秋子

水瀬名雪
倉田佐祐理
美坂香里
天野美汐

神父
竜也の職場の上司や同僚
あゆが働く和菓子屋の店主と妻

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎
影の男の傀儡=仮面ライダーオーディン

門矢士=仮面ライダーディケイド

ティード=アナザークウガ

城戸真司=仮面ライダー龍騎サバイブ

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