スーパーロボット大戦マブラブα   作:ニラ

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03話

 

 

 

 

 アンティノラがヘルモーズより脱出すると、そこは正に戦場だった。

 宙を多数の機動兵器が駆け抜け、それを遥かに超える数の銃弾が飛び交っている。

 

 基本的な機体性能では、明らかに地球のそれを超えているはずなのだ。

 だが、だというのに地球人達は帝国製の機体を次々と撃ち落としていく。

 

 ……まぁ、中には

 

《ふぅ、死ぬかと思っうわぁぁぁぁぁっ!! 》

 

 等の言葉を残して撃墜されるVF-1ヴァルキリーがいたり、

 

《…サラ…また、君にあえるんだね…》

 

 等と言い残して墜落するG-ディフェンサー(MS用支援戦闘機)が有ったのだが、ザインはそれをあえて無視することにした。

 一応ヴァヴ等は気に止めているようだったが、それも『……やっぱりね』等の言葉だったので、

 内心ザインよりもひどいことを考えていたのかも知れない。

 

「どうやら、バルマーの敗けのようだな」

「そうね……。可能性としては、ズフィルードによる攻撃で盛り返すという事も考えられるけど」

 

 二人は飛び交う銃弾を躱しながら、視界の端で沈んでいくヘルモーズを見つめている。

 確かに、ヴァヴとザインの二人は己の知識の中で、ズフィルードクリスタルを核とした兵器の事を理解して知ってはいるのだが、

 それでもこの状況下に置いてゼ・バルマリィ帝国側が勝利するとは想像することは出来なかった。

 

 それ程迄に、地球側の戦闘能力は異常とも言えるものだったのだ。

 

「パーソナルトルーパー、モビルスーツ、バルキリー、エヴァンゲリオン、特機、そして――超機人か……」

 

 地球側で開発された各種兵器の数々。

 それらを眼にしながら、二人はその力の凄まじさを感じていた。

 

 先程も説明したことではあるが、少なくともPT(パーソナルトルーパー)MS(モビルスーツ)VF(バルキリー)等のような機体を例にみれば、

 『極一部』の機体を除きバルマー側の機動兵器が負けることなど考えられない。端から性能が違うのだ。

 誰だって、F1マシンが直線で軽自動車に負けるとは思わないだろう? それと同じだ。

 

 本来ならそれ程の性能差がある筈なのだ。

 喩えこの場に集まっている機体が『極一部』ばかりだったとしても、それでも物量で押し切れば問題など無いはずなのだ。

 

 にも関わらず、結果はゼ・バルマリィ帝国の敗北と言うことに成っている。

 

 コレは勿論他の機体、EVAや特機……それに超機人のような兵器が強力すぎるというのも有るのだろうが、

 それ以上にそれを操る側に差が有るのだろう。

 

 バルマー側の兵器は優秀とは言え、それらの殆どが無人兵器。

 要はAIによって制御されている『お人形』である。

 それは情報を収集し、データを解析し、そして尤も適した行動を取るように造られてはいる。

 造られてはいるが、相手が常識を超えたようなスーパーエース級ばかりではそれも上手くは行かないのだろう。

 

 ……一部例外も居るようだが。

 

 ザインはアンティノラを使い、戦闘宙域を移動しながら一つ疑問に思ったことを口にする。

 それは――

 

「何処だ、此処は?」

 

 だった。

 別に『方向音痴で道に迷った』とか、『宇宙空間に居るため黒くてよく解らない』と言ったことではない。

 本当によく解らないのだ。

 

 周辺の風景は白い……というか灰色というか黒いというか……兎に角奇妙な色合いを見せた場所であり、

 常識的に考えるのなら普通の場所とは思えないのだ。

 

「ここは恐らく……何らかの閉鎖空間じゃないかしら?」

「ヴァヴ?」

 

 頭を悩ませ、首を傾げていたザインの隣でヴァヴが推測を口にした。

 ザインはその言葉に耳を傾けながらも操縦桿を操作し、

 視界の端から『ジャンジャジャ~ン!』と声を出しながら突撃してきたスクラップロボットを鷲掴んで放り捨てた。

 もっとも、それは無意識の行動だったらしくヴァヴは勿論、その操作を行ったザインさえ気がついてはいなかったが……。

 

「何か知っているのか?」

 

 ザインはヴァヴに問うように言葉を掛ける。

 だが、その表情は言葉ほど落ち着いてはいないようだ。

 それもそうだろう。

 匠に機体を操作して戦闘行動を取らないようにしてはいるものの、周囲に存在するバルマー側の兵器達は尽く落とされているのだ。

 同じバルマー側の機体であるアンティノラが、何時までも放って置かれるとは思えない。

 

 もっとも、そういった危惧はヴァヴも理解しているようで、その表情には余裕など有りはしない。

 

「コレを見てちょうだい」

 

 ヴァヴは身を乗り出してコンソールを操作すると、モニターに各種データが浮かび上がった。

 空間座標軸は不安定に数値をランダムに変え、次元交錯線は激しい乱れを示している。

 

「恐らくは通常空間外……亜空間か、若しくはフォールド空間に類する場所」

「成程……それならば現在地が不明なのも理解ができる」

 

 周囲の見た目が妙なことも、見たことのない場所である理由も、それならば納得が行く。

 だがそれは、単純に飛んでいけば戦闘宙域を離脱できるわけではない――と言うことでもあった。

 

「とは言え、こんな状況で『連中』に救助を求めるのは癪だな」

「ならどうするの? いっその事、クロスゲート・パラダイム・システムを使って空間転移してしまうとか?」

 

 クロスゲート・パラダイム・システムの副次的な使用方法として、空間転移というものがある。

 空間と空間を繋ぐ穴を作る――という訳ではなく、

 『目標と成る物体を、初めからそこには無かった』と言う状態にする事で移動するのだ。

 空間転移というと、地球側の機動兵器である型式番号RAM-006――グランゾンという機動兵器も出来るのだが、

 こちらは前述の穴を作るタイプなのでそれとは随分と方法が異なっている。

 

「クロスゲート・パラダイム・システムでの空間転移か……正直、あまり使いたくはなかったがな」

「でも、そうも言ってはいられないでしょう?」

 

 渋るような言い方をしたザインに、ヴァヴは後押しをするような言い方をした。

 

 とは言え、ザインがシステムの使用を控えたいと思ったのは理由がある。

 それは世界からの揺り返しだ。

 世界の意志は、『本来ならあり得ない出来事』に酷く敏感なのだ。

 クロスゲート・パラダイム・システムは、そんな『あり得ない出来事』を因果律を弄ることで可能にしてしまう。

 その為小さな出来事ならばそれ程ではないが、大きな事になるとそうも行かないのだ。

 

 機動兵器一体が空間転移をする程度、全宇宙のことからすれば非常に小さな問題かも知れないが、

 それでも世界は過敏に反応をしてくるかもしれない。

 因果律を操作するシステムを遣わせないために、世界がどんな事を起こすのか解らないのだ。

 だが――

 

「とは言え、このままでは総攻撃の憂き目にあうか……。仕方がない、空間転移を行うぞ。

 俺はクロスゲート・パラダイム・システムの操作を優先する。お前はその間、機体を念動フィールドで保護をしろ」

「了解」

 

 本来ならば一人で全てを賄うべきなのだろうが、前述したとおりに何が起こるか解らないのだ。

 少しでも可能性を高めるためには、こうして作業を分担するのは良い方法と言えるだろう。

 

 もっとも――

 

「――ッ!? 後方4時、攻撃が来る!!」

 

 邪魔が入らなければだが。

 

 ザインが声を発するとほぼ同時に、アンティノラが衝撃で揺らされる。

 幸い機体を覆うように展開されている念動フィールドによって防ぐことが出来たようだが、その攻撃の威力は並のPTやMSの火力を超えていた。

 

 ザインは小さく舌打ちをすると、軽くヴァヴに向かって目配せをする。

 するとそれで理解をしたのか、ヴァヴはシステムの操作に掛かり切りに成っているザインに代わり、

 アンティノラへ攻撃をしてきた機体の識別を行いはじめた。

 そしてモニターを切り替え、相手の姿映しだす。

 だがその機体を確認した瞬間、ザインとヴァヴの二人は揃って言葉を失ってしまうのだった。

 

 アンティノラに攻撃を仕掛けて来た機体。それは――

 

「……龍虎王」

「チッ……よりによってか」

 

 蒼い外部装甲、そして胸中央部にある虎の意匠、背部に広がる大きな翼。

 地球という惑星から、外敵を排除する護人。

 

 『超機人・龍虎王』である。

 

 ヴァヴはアンティノラをグルッと旋回させて背後に機体を向けると、

 相対した龍虎王はまるで様子を伺って睨んでいるように見える。

 

「龍虎王と言うことは、アレに乗っているのはクスハ・ミズハか?」

「クスハ・ミズハ? ……だったら、話をすれば少しは――」

 

 ヴァヴが言葉を言いかけた直後、周囲に咆哮が響き渡る。龍虎王が先に動きを見せたのだ。

 背中の翼を大きく開き、一直線にアンティノラへと迫る。

 その手にはいつの間に出したのか、龍虎王の近接兵装である竜王破山剣が握られていた。

 

「クッ、そんな暇はないようだな――ヴァヴ、操作を任せるぞ!」

「解ったわ。――下がりなさい!」

 

 席に座っているザインの上に乗るような形でヴァヴは席に着くと、直ぐ様操縦桿を握って機体の操縦を始めた。

 アンティノラをその場から移動させ、龍虎王に向かって背部に搭載せれているタキス・ミサイルを発射する。

 

 雨霰のように大量に発射されたミサイルの礫、だが龍虎王はそのミサイル群を恐ろしいまでの速度で持って回避していく。

 その動きは大きく、とても繊細とは言えない動きではあったが、

 アンティノラの放ったミサイル群は悉く狙いを外してあさっての方向へと逸れていった。

 

「は、速い!? あの巨体で何だってあんな!」

 

 あまりの光景に、ヴァヴは驚きの声を上げた。

 

 超機人のパイロットは、念動力という力を持っている。

 ザインとヴァヴの二人もその力を多少なりとも持ってはいるが、

 それも龍虎王のパイロットであるクスハ・ミズハと比べてみれば小さなモノ。

 

 クスハは龍虎王に搭載されているT-link systemを使ってミサイルを感じ、それを元に回避を行ったのだろう。

 もっとも、避け方からも解るとおり龍虎王の馬鹿げた機動性が有ってこそのことだったが。

 

 後方に下がるようにして移動しているアンティノラに、龍虎王は尚も執拗に攻め立ててくる。

 

「チッ……しつこい」

 

 ヴァヴはアンティノラの左右の腕を振るうと、右4つ、左4つの合計8基のガンウェポンが展開された。

 アンティノラの設計者であるユーゼス・ゴッツォが、

 地球側の兵器であるファンネルやサイバスターのハイ・ファミリア等の誘導兵器を元に造ったものである。

 

「行きなさい! アサシン・バグス」

 

 8基のバグスは其々散るように展開していくと、1基、また1基とその姿を消していく。

 別にそれは、撃墜されたと言うわけではなく、それがこの誘導兵器の特徴なのである。

 短距離での空間移動を可能にし、敵の不意をつくことが可能な射撃兵器。

 

 バグスは目標である龍虎王の側に転移をすると、射撃と転移を激しく繰り返して攻撃を加えていく。

 流石に8基の射撃兵器に、ランダム転移で移動をしながら攻撃を加えられては回避が間に合わないのか?

 龍虎王は少しづつではあるが、確実にダメージを受け始めていった。

 

 もっとも、それも殆どが龍虎王の念動フィールドに防がれているため大した被害にはなっていなかったが。

 とは言え、足止めにはそれだけで十分。

 ヴァヴはその隙に一気に機体を龍虎王へと加速させると、アンティノラの前腕部に付いている武装

 

「フォトン・ソード! デッドエンドスラッシュ!!」

 

 近接用エネルギーブレードを振り下ろした。

 だが、相手の龍虎王も大したもので、その動きにはしっかりと対応をしてくる。

 周囲のバグスからの砲撃を無視し、振り下ろされたフォトン・ソードを破山剣で受け止めたのだ。

 

「クッ……!?」

 

 刃と刃が交錯し、『ギャリィ』といった耳障りな音が周囲に響く。

 当てるつもりで振り下ろした攻撃が失敗に終わり、ヴァヴは悔しそうに表情を歪めた。

 今の一撃が決まれば致命傷――とまでは行かないまでも、それなりのダメージを与えて撤退に持ち込る筈だったからだ。

 だがその攻撃はものの見事に防がれてしまい、龍虎王は鍔迫り合っていた剣を弾くと後方へと僅かに下がっていく。

 

「クスハ・ミズハ……予想以上に手強い」

 

 ヴァヴは目の前の敵……龍虎王のパイロットである相手の名前を、恨めしそうに口にした。

 もっとも、ヴァヴの言い分は実は若干おかしい所がある。

 クスハ・ミズハという少女は、ザインやヴァヴのオリジナルであるイングラム・プリスケンが、その才能を買っていた人物。

 所謂『サイコドライバー』にもっとも近い存在なのだ。

 元々は唯の一般人であったのかも知れない彼女だが、今では幾多の戦闘を乗り越え、

 そしてサイコドライバーとしての力に目覚めつつある存在である。

 

 そんな彼女が駆る龍虎王に、今しがた目覚めたばかりのヴァヴが迫っている。

 

 この事実の方が明らかにおかしいのである。

 

 アンティノラと龍虎王の2体が其々を油断なく、観察するように間合いを取っていると、

 龍虎王側のパイロット――クスハ・ミズハはアンティノラを睨むように見つめた。

 

「――あの機体、他の無人機とは違う」

 

 それは相手に対する感想だった。

 アンティノラと言う機体――地球側ではモノ・レッグと呼ばれている兵器だが、

 コレは確かに強力な戦闘能力を有した兵器ではある。

 だが、クスハは此処に到るまでアンティノラと何度も戦っていて、その上で勝利を収めているのだ。

 

 その経験上、目の前に居るアンティノラの戦闘機動は、明らかに今までのモノとは違うと判断したのだ。

 

 一瞬でも気を気を抜けない。

 

 クスハは身に付けている空色のパイロットスーツが胸元を圧迫しているような、

 そんな窮屈な感覚を覚えてゆっくりと息を吐いた。

 

《大丈夫かクスハ? 何なら俺が変わるぞ?》

 

 不意に、龍虎王のコックピット内のモニターに男の顔が浮かんで声が響く。

 クスハと同じような空色のパイロットスーツを着た、金色の髪の少年である。

 少年の名前は『ブルックリン・ラックフィールド』

 念の才能を『見出されてしまい』、記憶を操作されて過去を失った男である。

 イルムガルド・カザハラに救われた後、色々有ってクスハ達と敵対していたのだが、

 今では虎王機(龍虎王の胴体部分。龍王機と虎王機が合体して龍虎王になる)のパイロット兼、

 クスハのパートナーとして共に戦う仲間となったのだ。

 

 クスハは、モニターの向こうで自身を心配そうに見つめているブリット(ブルックリンの愛称)に笑みを向けると、

 

「ブリット君……ううん、大丈夫。まだ戦えるから」

 

 と言って、力強く返事を返すのだった。

 ブリットはそのクスハの反応に「解った、だが無理だけはするなよ」と言うと、クスハを信じて通信を切るのだった。

 

 クスハはブリットに「ありがとう」と小さく言うと、再び意識をアンティノラへと向けた。

 しかしモニターに映るアンティノラは、何故か龍虎王に自身から近づこうとはせずに一定の距離を保つようにしている。

 

「様子を見てるの? ……どうして?」

 

 クスハはつかず離れずをしているアンティノラに対し、そう疑問を口にした。

 まぁ、クスハは知らないことだが、アンティノラを操縦しているヴァヴからすればこの状態に成るのは仕方がない。

 なにせ、元々戦う意志が有るわけではないのだから。

 

 積極的に攻撃を仕掛けているように見えていたのも、要は『受けに回っては危険』と判断したに過ぎない。

 

 ヴァヴ達は時間さえ稼げればそれでいいのだ。

 それをわざわざ攻勢に出て、危険値を上げることもないだろう。

 

 とは言え、クスハにしてみれば今まで攻撃のことしか考えていないような連中ばかりが相手だったのだ。

 現在のアンティノラの行動はただ不思議でしかない。

 

 そのため積極的に行動することが出来ず、牽制程度の攻撃をして様子を伺うことにした。

 

「――? 前に出ることを止めた?」

 

 龍虎王が一気に突き進むような動きを止め、バルカンなどの牽制攻撃をしながら間合いを取るように成ったことで、

 ヴァヴは不思議そうに眉間に皺を寄せる。

 

「どうやら、冷静に対処をする気に成ったようね……厄介だわ」

 

 龍虎王からの攻撃は、先程までの一気呵成の突撃とは打って変わって大人しいものに成っている。

 頭部に付いているスケイル・バルカン砲、前腕部を射出するドラゴン・ナックル、後は眼の部分から発射されるラスタバンビーム程度だ。

 実際は其のどの武装も、『並の機動兵器』には牽制どころか必殺の威力がある武装ではあるのだが、

 現在も油断なく握られている龍王破山剣等の上位の武装と比べれば、間違いなく牽制武器である。

 

 それにだ、『並の機動兵器』には必殺であってもアンティノラは並ではない。

 龍虎王の攻撃は事実牽制程度の効果しか無く、気を付けるべきなのは――

 

「――龍王破山剣」

 

 と、それに以外の上位武装であった。

 

 とは言え、元々時間稼ぎが目的のヴァヴ達からすれば、この展開は望むべくもないことではあったが。

 

「ねぇ、時間は?」

 

 何度目かのラスタバンビームを回避すると、ヴァヴはザインに尋ねるように問い掛ける。

 その間も、二人は互いに顔を合わせるような事はなく、己の仕事から眼を逸らそうとはしない。

 

「――もう少しだ。後はここを……よしッ!」

「出来たのね!?」

「あぁ! この空間から跳ぶぞ!!」

 

 ザインの言葉に、ヴァヴは笑顔を向けた。

 それは、『やっとこんな面倒なことから抜け出せる』といった事からだ。

 まぁ、それが油断を生んだと言えなくもないが……。

 

 ヴァヴはその視線を龍虎王へと向けた。

 

「じゃあね、クスハ・ミズハ。運がよければ、また会いま――」

 

 言葉の途中、コックピット内に《ビーッ!》と響く警報音。

 何者かにLOCK ONされた時に成る音だった。

 

 瞬間、被弾を告げる音と共にアンティノラに衝撃が走り、その機体全体を激しく揺らしていく。

 

「クッ……背部のブースターが一基やられた。コイツは――」

 

 機体の状況を素早く確認したザインは、直ぐ様攻撃を行って来た機体をモニターに映しだした。

 そこには、全身を赤く塗装した細身のパーソナルトルーパーが映し出されている。

 

「――ヒュッケバインEX……イルムガルド・カザハラ!!」

《そうそう好きには、やらせないってよ!》

 

 自身達を攻撃してきた機体の――いや、パイロットの名前を、ヴァヴが口にすると同時に、スピーカーから相手の声が聞こえてくる。

 だがしかし……だ、先程のヴァヴの一瞬の気の緩み、アレは油断であった。

 そして、今現在こうしてヒュッケバインに気を取られている状態も、それと同じように油断だと言えるだろう。

 

「正面だヴァヴ!! 龍虎王から目を逸らすな!!」

 

 怒鳴るような声を出して言うザインの声に、ヴァヴは一瞬ハッとして視線を戻した。

 正面のモニター、そこには急速に迫りつつある龍虎王が映し出されている。

 

《龍王・破山剣ーーッ!!》

 

 周囲には声が響き、龍虎王の破山剣がアンティノラへと振り下ろされた。

 回避は間に合わない、ヴァヴは呻きながらも咄嗟にフォトンソードを下から振りあげて防御に回す――が、

 

 バギリーーッ!!

 

 其々の刃が接触をした瞬間、フォトンソードは破山剣の威力に負けて弾かれてしまった。

 そのままの勢いで振り下ろされる破山剣は、アンティノラの機体へと吸い込まれて――

 

 ガギリィッ!!

 

 不意に、破山剣の動きが止まる。

 見ると破山剣を持っていた龍虎王の腕を、アンティノラが残った腕で捕まえて押さえ込んでいるのだ。

 

《なっ!?》

《ク……まさかこのタイミングで?》

《なんて奴だ……!?》

 

 決まったと思った攻撃が防がれたことに、龍虎王に乗っているクスハとブリットは勿論、

 ヒュッケバインに乗っているイルムも驚きの声を上げた。

 

 そして同じように、ヴァヴも驚きの表情を作っている。

 

 機体の操作を行ったのはザインだった。

 手を伸ばしてヴァヴの手の上から、覆うようにして操縦桿を握っている。

 

 ザインは「フゥ……」と安堵の溜息を吐くと、

 

「――集中して念動フィールドを持たせろッ!! 無理矢理跳ぶぞ!!」

 

 そう言って、アンティノラに搭載されているシステム。

 クロスゲート・パラダイム・システムを起動させるのだった。

 

 途端に周囲の空間が歪みを見せ、アンティノラを中心とした半径100m程が捻れを起こす。

 

「――ッ念動フィールド全開!」

 

 空間移動、そしてその際に起こるであろう衝撃に備えて、ヴァヴはアンティノラに念動フィールドを展開させる。

 だがこのような状況にあるにも関わらず、龍虎王はその剣を引こうとはしない。

 破山剣を突き立てようとしている腕を抑えているため、龍虎王は歪みを見せる空間に嫌でも留まることになっていた。

 

《なんだコレは? 何だかマズイ気がする……クスハ!!》

《解ってる……でも、龍虎王が――》

 

 周囲の変化に危機感を感じているブリットとクスハ。

 だが、パイロットの二人の思いとは逆に、機体である龍虎王は其の動きを止めようとはしない。

 

《何やってんだ二人共! 早くそこから離れろ!!》

《イルム中尉! ……でも機体が!!》

 

 イルムが焦ったような声を挙げるが、パイロットであるクスハやブリットが考えてこのような行動に出ているのでは無い。

 返ってくる返事はやはり焦ったようなものだった。

 

 そして、焦っているのは彼等だけではない。

 

 跳ぼうとしているアンティノラのパイロットである、ザインとヴァヴの二人も同様だった。

 外から見る分には、怪しい行動をしたアンティノラが、龍虎王を捉えて離さない様に見えなくもないだろうが、

 現実は襲いかかろうとしている龍虎王を、アンティノラが必死に押さえ込んでいるに過ぎない。

 

「――ックソ! 何を考えているんだ奴らは!!」

「ヴァヴ、回線を開け!  向こうに離れているように伝えるぞ」

「回線を? だが――」

「時間がないんだ!!」

 

 『回線を開いて直接言う』

 手っ取り早い方法ではあるが、そのぶんだけ嫌な可能性がある。

 それは、相手に顔を見られると言うことだ。

 

 バルシェムシリーズであるザインとヴァヴは、その容姿がオリジナルであるアウレフ――『イングラム・プリスケン』に酷似している。

 このタイミングでそれを相手に見られる事で、逆に不信感を与えてしまうのではないか?

 ヴァヴはそう考えたのだ。

 ゆっくりと話し合いが出来る状態であるのならば多少は違うのだろうが、

 とは言え、今はそうしている余裕など何処にもないのだから。

 

 もっとも、そんな事はザインも理解している。

 だがそれよりも、『アンティノラ』が跳ぶために準備した転移空間に、

 『アンティノラとそれ以外』が居るほうが遥かに厄介だと判断しての事だった。

 

 ザインは手早く通信の準備を整えると、目の前の龍虎王に向かってウィンドウを開く。

 

「聞こえるか、龍虎王のパイロット。このままでは空間転移に巻き込まれる、直ぐに下がれ!!」

 

 モニターの向こう側、そこには何と表現したらいいのだろうか?

 俗に言う『鳩が豆鉄砲を食らったよう』な、とでも言うのだろうか?

 

 ザインからの通信に……いや、正確に言えば通信を送ってきたザインの容姿にだが。

 

《――通信? え? ……あ、貴方は、イ、イングラム少佐!?》

《ッ!?》

《イングラムだと!?》

 

 驚いたクスハの声に、ブリット、そしてヒュッケバインに乗っているイルムも声を挙げる

 

《イングラムッ! 貴様……一体どう云うつもりだ!!》

 

 イルムの乗るヒュッケバインは其の間合いを詰め、ザインとヴァヴの乗るアンティノラへと迫ってくる。

 だが、アンティノラは迫るヒュッケバインに空いた側の腕を向けると、袖口の様になっている部分から光撃を放って牽制をした。

 

 イルムは舌打ちを一つすると、その光撃を寸でで躱してヒュッケバインをアンティノラから遠ざける。

 

 再びある程度の距離が取れたのをザインは確認すると、チラッと視線をヒュッケバインへと向けた。

 

「イルムガルド・カザハラ……今はお前に構っている暇はない。

 面倒に巻き込まれたくなければ下がっていろ」

 

 と、鋭い視線で言うのだった。

 

《イングラム少佐……貴方は、一体何を――》

「クスハ・ミズハ。この状況で、お前に一から十まで説明をしている余裕はない。 お前たちが『イングラム・プリスケン』と言う人物に敵対心を持っていることは理解している。 ――だが、今は兎に角さがれ!!」

《で、でも機体がッ!?》

 

 ザインの言葉に、クスハは慌てて返事を返した。

 そして丁度それにタイミングを合わせるように、龍虎王の瞳が光ると破山剣を持つ腕に力が込められる。

 それによってアンティノラの腕が『ミシミシ』と悲鳴を挙げた。

 

 だが、ザインとヴァヴはクスハの様子と龍虎王の動きで理解をしたらしく、

 

「チィッ!? ヴァヴ!」

「了解!!」

 

 と、短いやりとりをすると次の行動へと移った。

 機体の操作はヴァヴが、システムの操作をザインが行う。

 瞬間、アンティノラの下半身がグルリと回転をすると、そのまま脚で龍虎王を蹴り上げた。

 

 バゴォーン!!

 

 と、音を響かせて、

 龍虎王の装甲を歪ませる程の衝撃を与えると、一気に機体(アンティノラ)を下がらせる。

 すかさずザインはカルケリア・パルス・増幅装置に念を送ると、機体全体を包む念動フィールドを造り上げた。

 

「よし……良いタイミングだヴァヴ。――さようならだ、クスハ、イルム、ブリット。可能ならばもう二度と会いたくはないがな」

 

 そう言うと、ザインはクロスゲート・パラダイム・システムを作動させた。

 途端にアンティノラがその姿を霞ませていき、存在感を薄くさせていく。

 

《待てッ!  逃げるつもりかイングラム!!》

 

 そう声を上げながら、イルムはヒュッケバインのフォトンライフルを数発アンティノラへと放つが、それらは先程の不意を付いた攻撃とは違ってアンティノラの念動フィールドで弾かれてしまう。

 

「イルム、構っている暇は無いと言ったはずだぞ。それにだ……俺はイングラム・プリスケンでは――」

 

 ガゴォォンッ!!

 

 言いかけた直後、アンティノラが激しい振動に見舞われた。

 ヒュッケバインのライフルさえあっさりと弾く念動フィールド、そのフィールドを通して尚これだけの衝撃を与える兵器。

 

「……ッ! またお前か、龍虎王!!」

 

 モニターに映る機体、攻撃をしてきた龍虎王を睨みながらヴァヴはそう声を上げた。

 だが先程までとは違い、今のアンティノラには何かをする事など出来ない。

 既にその存在が希薄に鳴り始め、空間転移を仕掛けている最中だからだ。

 

 だが――

 

《いけないッ! また龍虎王が!?》

 

 驚いたようなクスハの声が周囲へと響く。

 ザイン達の状況などお構いなしに、龍虎王が再び動き出したのだ。

 龍虎王はその巨体を走らせると、一直線にアンティノラへと突き進んでいく。

 

「マズイッ! 此のままでは!?」

「急げアンティノラ! 早く跳べッ!!」

 

 焦るように言うザインとヴァヴ、そしてそれを無視するかのように破山剣を握り締めて飛翔する龍虎王。

 アンティノラと龍虎王の距離は一瞬で縮まり、

 

《待って、龍虎王ーーーッ!!》

 

 クスハの叫びも届かず、その手に握られた破山剣が一直線に振り下ろされるのだった。

 

 

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