深い深い意識の底。
暗いのか? それとも明るいのか?
それすらも良く解らないような不思議な場所。
そこには何も無いが、だが一人の男が居た。
蒼いウェーブ掛かった髪の毛、鍛えられた精悍な体つき。
だが未だ年若く、15~16程度の容姿をしている少年だ。
少年はこの、良く解らない不思議な場所を漂う様にして流されている。
何時からそうしているのか? それは恐らく、本人にも解らないことだろう。
つい先ほど……ほんの僅かな時間の様にも感じるし、それとは逆に数十年、数百年と言った長さにも感じる。
だが青年にとってコレは『日常』だった。
今までに何度も経験をしたことであり、取り立てて困惑することでもない。
この空間で暫くの時を過ごした後、意識が途切れる様にして夢を見る。
夢の内容は様々だが、それは一人の男の記憶のようである。
男の記憶は一種の物語だ。
目覚める所から始まり、日々を過ごしていく日常の記憶。
とは言え、それは一般的なほのぼのとしたモノからは、遠く逸脱したものであった。
一言で言えば、それは苦悩だろうか?
自身の取っている行動と、それによって起こる結果。
そして、それを望んでは居ない自分との葛藤。
そういったモノが感じとれる記憶だった。
何時からだろうか? いや、もしかしたら最初からかも知れない。
時を追うごとに見る量の増える記憶ではあるが、それが終わった後のこと。
少年は決まって一つの声を聞くのだ。
《目覚めろ》
と。
その日――というのは些か妙だが、今回もいつもと同じように、少年に対してそんな言葉が聞こえてきた。
だがそれも何時もとは違い、少しばかり焦ったような響きを持っている。
《何時迄そんな場所に居るつもりだ? 急げ、もう時間がない》
少年はその言葉の内容に首を傾げる。
それは、今までとは違う内容であったためだ。
今まで少年が聞いていた言葉はただ一つ、『目覚めろ』の一単語だけだった。
所が今回はそれだけではなく、違う言葉も聞こえてくる。
「『目覚めろ』の次は『急げ』か? お前は一体、何を言っているんだ?」
少年は聞こえてくる声に向かって問い掛けた。
だがそれに対して声の方から返事が返ってくることは無く、ただ無言だけが答えとなって返ってきた。
「俺は既に目覚めている! バルシェムのポッドから外に出て、それから――」
怒鳴るようにして言っていた少年の言葉が、徐々に尻すぼみのように小さくなっていく。
「――それから……俺は……」
ポッドから出たこと、そしてそれから後の出来事。
少年はそれらの事を思い出して自身の現在の状態に疑問を覚え始めたのだ。
だが、そんな少年の悩みなどまるで無視するかのように、周囲に響く声は変わらぬ抑揚で言葉を告げる。
《――目覚めろ。この世界には、『俺達』の力が必要だ》
「待てッ! どういう事だ! 俺達とはどういう事だ!!」
自身の状態もそうだが、それよりもやはり声の事が気になるのか。
少年は問い詰めるようにして声を荒らげた。
だが、その少年に問い掛けに対して答えを返してくることは無いのであった。
2
「――……っク、……ここは」
瞼の上から照らされる明るい光。
それに意識を引っ張られるようにして、ザインはゆっくりと眼を開けていった。
コックピットの中で身体を起こすと、更に意識をハッキリさせるために首を左右に振っていく。
どうやら光の正体はモニターから入り込む太陽の光だったらしい。
意識がハッキリするのを確認すると、ザインは現在の状況を確認することにした。
「……どうやら、上手く転移に成功したようだな」
ザインは周囲のモニターに映る景色を眺めると、そう言葉を漏らす。
周囲に映っている景色は……一言でいうと山の中だ。
周りを木に囲まれており、道らしい道など特に見えない。
文明の匂いなど感じ無いような、そんな場所だ。
少なくともザイン達が居た、『周囲が白い不思議空間』では無いことだけは確かだろう。
「オイ、起きろヴァブ」
「……う、うぅ」
先程までの戦闘空間とは違って比較的安全な場所だろうと判断したザインは、未だ気を失っているヴァブを揺り起こす。
何度かヴァブの身体を揺するようにしていると徐々に反応が返ってくるようになり、ヴァブはゆっくりと瞼を開けていった。
「ッ――此処は?」
一瞬、ザインは最初にヴァブが目覚めたときの様な、奇妙な事を言うのではないか? とも思ったのだが、どうやらそれは杞憂だったらしい。
「起きたか。俺も今目覚めたばかりで、詳しいことは何も解っていないが……。だが少なくとも、さっきまで居たような危険区域ではないことは確かだな」
「ということは、転移は成功したと言うことね」
「そうなる」
知らず知らずの内に、ザインとヴァブは小さく笑みを浮かべていた。
まぁ、あのままヘルモーズの中にいた場合、何もすること無く死んでいたのだ。
こうして、無事に逃げおおせたことを喜ぶのも当然だろう。
だが――
「だけど……ここは本当に何処なのかしら?」
「……そうだな」
不意のヴァブの一言で現実に戻された。
そうなのだ、二人は今現在の場所が今ひとつ把握出来ていないのだった。
「一応、転移先は地球と月の中間地点……宇宙空間を指定していたのだが」
「此処はどう見ても、宇宙空間ではないわよね」
「どこかの惑星か?」
モニターに映るのは、青々とした葉をつける木々が乱立した風景。
要は森の中である。
今の状況で解るのは、せいぜいが『何処かの惑星の、何処かの森の中』といった程度だろう。
「身体に感じる重力負荷考えると……地球だろうと思うけど」
「地球型惑星は全銀河を見れば、それこそ星の数ほどある。この星が地球であるなら、ある意味では転移に成功したことになるが……」
ヴァブとザインは、互いに会話をしながらもどうするかを考えている。
仮にこの場所が地球だと仮定した場合、先ずは自分達の乗っているアンティノラはかなりマズイ。先ず間違い無く、地球の軍には識別登録がされているであろう。
そのため、人目に付く場所へこの機体を持っていくわけには行かない。
それに自分達の容姿も問題だ。
地球で活動を行っていたアウレフ・バルシェム……イングラム・プリスケンが、異星人の手先だということはバレてしまっている。
そんな彼に酷似している自分達の容姿は、何かと問題を招く可能性がある。
現に龍虎王のパイロット、クスハ・ミズハやヒュッケバインEXに乗っていたイルムガルド・カザハラ等は、
普通にザインをイングラムと勘違いをしていた。
そして、仮に地球以外の惑星の場合、この星にどんな原生生物が居るのか予想も付かない。
もしくわバルマー帝国と敵対している星の一つである可能性もある。
兎も角、マイナス面での事を考えればキリがないほどに有るのだ。
理想としては『宇宙空間にに転移→ステルス機能を発揮しながら地球に降下→その後に姿を変えて地球人に成り代わる』
だった事を考えるに、今の状況は最初から頓挫したことになる。
まぁ良い方向で可能性を考えれば、現在の場所は未開拓な星でバルマーの手が入っていないかも知れないし、
地球だとしたら降下の危険性が減ったとも考えることが出来る。
「……しかし、どのみち先ずは情報が必要と言うことね」
「そうだな。現在地の情報とそして年月日、他には現在の世界情勢等々……それらを先ずは、クロスゲート・パラダイム・システムで調べる事にするか」
ザインはそう言うと、コックピット内のコンソール部分をポンっと軽く叩くのだった。
そして言うが早いが再びクロスゲート・パラダイム・システムの操作を始める。
もう既に何度も使っているためヤケに成っているのか? それとも情報収集程度の事ならば揺り返しも大した事が無いと思っているのか? 少なくともシステムを操作するザインの指の動きに淀みは感じられなかった。
「――これで良いだろう。放っておけば、程なくこの星の情報が集まってくるはずだ。後は……お前のことだな」
「私のこと?」
程なくして、システムの操作を終えたザインに突然に話を振られ、
ヴァブは何のことだか解らないといった表情をする。
「そうだ。お前はヘルモーズの中で、自分のことを『ミムラ』と呼んだな? 今は少しは落ち着いただろ? アレがどういう事なのか説明してもらいたい」
ザインの言葉に、ヴァブは「あぁ、そう言えば」と返事を返した。
ポッドから出てその後に目を覚ましたとき、その時の自分は確かにそう口にしていたと思い出したのだ。
ヴァブは自身の口元に手を持ってくると、少しだけ考えるような素振りを見せる。
上手く説明をするにはどうすれば良いのか、それを考えているのだ。
「そうね……どう言えば良いのか。 つまりは、私は自分自身をバルシェムシリーズの6番目だと認識してるのと同時に、別の人間――『三村 玲子』だとも認識している……といったところかしら」
まるで自分自身にも言い聞かせるように言うヴァブだが、恐らく自分がどういう状態なのか判断に困っているのだろう。
ザインはヴァブの言葉に「ふむ……」頷いてみせると、腕組をする。
「ミムラ・レイコ? ……それは、俺にイングラム・プリスケンの記憶が有るように、お前にはその人物の記憶がインプットされている――という事なのか?」
「どうかしらね? 貴方の持っているというイングラムの記憶がどの様な感覚なのか解らないけど……多分違うような気がするわ。記憶を『持っている』というよりは、自分は『そういった人間だと認識してる』と言う方がしっくり来るもの」
「……単純に考えれば『自身がそう思えるほどに記憶の統合が上手く言っている』とも考えられるが?」
「私の持っているバルシェムやクロスゲート・パラダイム・システム等の情報ソースは、そのミムラ・レイコとしての記憶が元になっているのよ」
「……一体何者なんだ? そのミムラ・レイコとは」
眉間に皺を寄せ、ザインは訝しむような表情を見せる。
少なくとも自身の持っている知識、そして記憶の双方を照らし合わせても『ミムラ・レイコ』という人物には心当たりがない。
にも関わらず、ヴァブの言う人物はバルマー帝国の機密に関わることも知っていると言うのだ。
コレを変だと思うな――という方が無理があるだろう。
ヴァブはザインの問いかけに「そうね」と口にすると、再び考える素振りを見せた。
「大まかに説明をすると、地球の日本で生まれて日本で育ち。戦争とは無縁な生活を送ってきた、極々平凡な人物」
「戦争とは無縁? ……よほど安全な地域に居た人物なのか? しかしそれは――」
『在り得ないのではないか?』 と、ザインは思う。
極東日本。
数多くの特機(スーパーロボット)を開発してきた国であり、また極東方面防衛の要。
また多種なエネルギーを扱う機関が数多く存在する国である。
少なくとも地球の日本で育ったというのなら、一度や二度は戦争の影響を受けてもおかしくはないはずだ。
「地域ではないわね。私の記憶では、国全体がそうだったから」
「では……大昔、もしくわ戦争が始まる前にバルマーに捕らえられた人間の記憶だと?」
新西暦179年にジオン公国と地球連邦の戦争が始まってから数年間、地球は――いや、地球圏は平穏とは言えないような状態になっていた筈だ。
ジオンと地球の戦争自体は突如飛来した巨大隕石『SDF-1マクロス』の影響で停戦となったが、
その後それほど時を置かずに宇宙怪獣や機械獣、恐竜帝国や妖魔帝国などの地球古来の勢力が台頭し、
それに併せてティターンズやアクシズを拠点とするネオ・ジオンまでもが動き出したのだ。
少なくとも自分達の居た時代、戦争とは無縁な生活と言うのは無理があると考えられる。
その為、他の可能性としてはそれ以前の人間の記憶……とも思えるのだが、それではバルマーの機密を知っている理由にはならない。
ヴァブはザインへと視線を向けると「結論を言うわ」と前置きをしてから口を開くのだった。
「私は……三村 玲子は、私や貴方の存在する宇宙とは違う世界の存在なのよ」
ザインはその答えを黙って聞いている。
だがそれは、別に馬鹿にしているとか、呆れているとか言うことではない。
その可能性が有ったか……とい事での沈黙である。
現にザインは一つ頷くようにすると
「平行宇宙……という事か?」
と、ヴァブに確認をしている。
「さっきの戦闘中にも、私は自分の事……それと世界のことについて考えていたわ。それで得た結論――『三村 玲子』の居た世界では、私たちの世界は一種の物語、娯楽ゲームのストーリーとして存在した物だということ」
「娯楽だと?」
「落ち着いて。少なくとも、『三村 玲子』の世界では……ということよ。私たちが経験したこと、憶えていること、記憶していること、それには偽りなど無いでしょ?」
「……そうだな、俺達は今こうして生きている。それを否定されるのは、些か楽しいものではない」
ピクッと眉を撥ね上げて言うザインに、ヴァブは訂正するようにして言った。
誰でも自分の存在を否定されるような事を言われれば、少なからず反応するだろう。
ザインは眼を瞑って思考を巡らせ始めた。
そして、暫くそうやって考えに集中して少しづつヴァブの状態を理解したのだった。
「つまり、お前はヘルモーズの中では『三村 玲子』の記憶に引っ張られたということか?」
「えぇ。今は緊急事態の影響か、ヴァブ・バルシェムとしての意識が強いようね。多分その内に、程良く混ざるでしょう。でも、何故そんな事に成っているのかまでは……」
「そういった事が出来そうなモノについては考えがつくが……そうなった理由は俺にも解からんな。それに、お前は直に混ざると感じているのだろう? ならば恐らく、お前と三村 玲子とは他世界での同一存在なのではないか?」
並行宇宙――という概念。
そして別世界のもう一人の自分という概念。
ヴァヴにとっての三村玲子とは、そういう存在ではないか? と、ザインは言っているのだ。
もっとも、喩えそうだとしても何がどうなるという訳ではない。
今現在の二人にとっては、然程関係の無い情報でもある。
そのためザインは「ふむ」と頷くようにすると
「まぁ、今の段階でお前の中に別の人間の記憶があるとしても、然程問題ではないだろう。あまり気にするな」
そう言って、ポンっとヴァヴの肩に手を置いた。
だがヴァヴは中々に微妙な表情でその言葉に返事を返す。
「……それは、もしかして励ましているつもりなのかしら?」
とても『頑張れ』とは言っているように聞こえないザインの言葉に、ヴァヴは尋ねるように聞いてくる。
だが当のザインは、キョトンとした表情を浮かべた。
まるで、『何言ってるんだ?』とも言いたげな顔である。
ザインは一拍ほど間を置いて、「ん」と言ってから口を開いた。
「ソレ以外に聞こえたのか?」
「――ふぅ……どうやら貴方は、もう少し情緒と言うものを学ぶべきね」
「それが生きるのに必要なら、その時はそうしよう」
溜息を吐くヴァヴに、人を喰ったような返事を返すザイン。
二人は互いに薄く笑みを浮かべ、『良くも悪くもバルシェムだな』と思うのだった。
そん中、突然にコックピット内に『ピピピ――』といった、アラーム音が響いた。
どうやら先程設定した、クロスゲート・パラダイム・システムの作業が一段落したらしい。
「いいタイミングだな。現在の場所は――地球、西暦……1992年?」
表示された情報を読み上げたザインは、思わず声が裏返ってしまう。
西暦と言う年号。
これは、自分たちが居た時代から200年近く昔の時代なのだ。
「ヴァヴ……コレは確認だが、俺達が居たのは新西暦だった筈だな?」
「確認するまでもなく、そうよ」
「なら、コレはなんだ? 過去にでも跳んでしまったというのか?」
あり得ない――とは言えない。
だが、可能性は低い。
『空間転移の際に、近しい世界の選別に失敗したのだろうか?』
ザインはそんな事を考えていた。
「――ちょっと待ってザイン! これは……この星の歴史?」
ザインの身体を押しのけて、ヴァヴはモニターに羅列されていく文字列を食い入るように眺めていく。
「おいヴァヴ?」と、名前を呼ぶザインの声も聞こえないのか、ヴァヴは取り乱したようにモニターに目を走らせた。
時間にして数分。
モニターを見ていたヴァヴは、呟くように「コレは……」と口にした。
横からモニターを見ていたザインも、ヴァヴの言葉の意味を粗方理解をした。
「酷いな……コレは」
続けるように言った、ザインの言葉が響く。
そこに記されていたのは、人類の戦争の歴史――いや、蹂躙の歴史だ。
1958年、今現在の1992年からおよそ40年ほど前。
その時からこの世界の地球人類は、謎の異星生命体の驚異に晒されてきたのである。
火星→月→地球と瞬く間に攻め込まれた人類は、絶望的な戦争へとその身を投じていくことになった。
40年前の火星で、初めての異星生命体の発見から現在まで、地球人類はただ敗北の歴史を繰り返している。
「コレがこの世界の地球……映像データを見てみろ。興味深い形態だ。STMCとも違う……」
「……これはBETAだ」
「なに?」
モニターの画面を切り替え、異星生命体のデータを調べていると、不意に呟くようにヴァヴが口を開いた。
「Beings of the
Extra
Terrestrial origin which is
Adversary of human race……これらの頭文字をとって、BETA」
「敵対的な地球外起源種? ……ハハ、言い得て妙な言葉だな。だが――」
言葉の意味を説明したヴァヴに、ザインは視線を向けた。
それは『何故知っている?』といった視線だ。
とは言え、ザイン自身も予想は付いている。それは恐らく
「三村玲子の記憶よ」
「やはりか……」
ザインは大きく息を吐き。
「何なんだコレは?」……と、呆れるように言うのだった。
この転移してやって来た世界について、ザインはヴァヴの意見を求めた。
と言っても、それは別に『どうしてこんな世界に来たのか?』ではなく、『お前の知っている、この世界の情報を――』という意味である。
結果、解ったことは『三村玲子』はこの世界の住人ではない。
別の世界で、この世界の事を知っていただけ――と言うことだった。
「つまり、事細かいことは解らない……そういう事だな?」
「えぇ。私が知っているのは、この世界がある時期を境にループする可能性があると言うことだけ」
ヴァヴの言葉に、ザインは思わず「むぅ」と唸ってしまう。
話を聞くと、この世界には何れ、思いだけで世界をやり直させてしまう存在が産まれる――もしくは作られるというのだ。
何を馬鹿な――と思う反面、凄いことだ――と、単純に受け止めてしまう。
何故ならそれは、自分たちのオリジナルであったイングラム・プリスケンが探し求めた……
「まぁ……その事は取り敢えずは良いだろう。問題は――俺達がこれからどうするのか? と、いうことだ」
ザインは考えを振り払うように、頭を左右に振ってからヴァヴに話しかけた。
内容はこれからのこと。
この世界での、自分たちの立ち位置を考える必要がある。
「まず第一に、この世界で生きるのは新西暦の時代よりも困難でしょうね。世界は地球人類の激減と領土の消失、それと圧倒的物量を持った敵の攻撃で明日ともしれない状態になっている。戦争中だったとは言え、αナンバーズの居た世界の方が、まだ未来は有ったでしょう」
「それはつまり、この世界には未来はない……と、そういう事か。まぁ、このザマではそうなるだろうな」
ザインは言って、モニターを指で弾くよう叩いた。
まともな勝ち戦は初戦のみ、その後は只管に敗北を重ねているだけの状態だ。
寿命が来るまでは平穏に過ごす――というのは、正直難しそうだとザインは感じていた。
「現在は西暦1992年。『私』の記憶によると、このままではあと10年足らずで地球は滅ぶ」
「10年……」
ヴァヴの言葉に半濁しながら、ザインはモニターを見続ける。
そこには未だ日本と言う国は存在するものの、アジアの殆どを敵方――BETAに奪われた勢力図が映っていた。
ザインはしばしその画面を見つめた後、
「……全く」
と、小さく呟く。
その表情は困ったような、呆れたような雰囲気だった。
ヴァヴはそんなザインの表情に「クスッ」と笑みを浮かべる。
「どうする、ザイン?」
ザインはその言葉にヴァヴへと視線を向けた。
まるで自分が何を言おうとしているのか、そのことをよく分かっているとでもいった顔をヴァヴはしている。
その顔に、ザインは思わず「フンっ」と鼻を鳴らした。
「決まっている。この惑星がそんな状態なら、俺達の手で梃入れをしてやる他はあるまい? 幸い、俺達にはその方法があるのだからな」
「そうね。……でも、幾ら何でもこのアンティノラ一機だけでは限界があるわ。高性能機とはいえ――」
「勘違いをするな」
梃入れをすること。
それ自体はヴァヴも賛成である。だが、喩えアンティノラの強力な戦闘能力を持っていても、それだけでは限界がある。
否定的な事を言うヴァヴだが、続けて言われたザインの言葉にそれもそうかと納得をする。
その言葉とは
「俺達がする梃入れとは、なにも戦いとは限らん。そんな事よりもずっと、コッチを使ったほうが役に立つ」
自身の頭を突っつきながら、ザインはヴァヴに言った。
それにヴァヴは「あっ」と声を出した。
「確かに……私たちには、この世界のそれを遥かに凌駕する技術知識がある。それを使えば――」
「この星からBETAを一掃することも、決して不可能ではないはずだ」
アンティノラに集められた情報。
敵であるBETAと、この世界で使われている兵器群。
それらを見比べて、ザインはそう判断したのだった。
「差し当たっては、その技術を活かすための場が必要だが……」
「それなら私に良い考えがあるわ」
口元に手を当てて考えるザインに、ヴァヴはニヤリっと笑っていうのだった。