スーパーロボット大戦マブラブα   作:ニラ

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06話

 

 

「いやー、凄いな君たちは!」

 

 興奮したように声を荒らげて言ったのは河崎重工の会長、河崎源治である。

 その声をザインとヴァヴの二人――いや、今ではイングラム・プリスケンとヴィレッタ・バディムとなった二人は、多少げんなりした素振りで聞いている。

 

 とはいえ、それを表に出すようなことはなく、興奮している源治も気づきはしなかったが。

 

 ここは河崎重工本社敷地内にある研究室。

 15番格納庫にほど近い立地にあり、河崎重工に入り込んでからの数ヶ月を、二人はこの場所で過ごしていた。

 

 さて、何故にこうも大きな声を出して興奮しているのか?

 

 それは、二人が開発した(ことに成っている)新型のジェネレーターが理由である。

 現行品の出力を1.2倍に、そして今までよりもなお小型に作り上げることに成功したのだ。

 

 とはいえ、何も新しいモノを開発したというわけではない。

 従来の製品に若干の手を加えただけの代物だ。

 2人にとってこれは対して難しい技術ではなく、現在の地球の科学力でも十分に可能なヴァージョンアップである。

 もっとも、それを出来る人間が今まで居なかったのだから、源治の興奮も理解できると言うものだ。

 現在はその新型ジェネレーターを売りに出し、河崎重工には世界中からの買い注文が殺到している状態だった。

 

 従来品よりも小型(重量が軽い)なうえに、出力が高い。

 それは単純に、機体の反応や追従性にも関わってくるということだ。

 当然だが、新しく新型の戦術機を開発しようなんて連中はその性能を試したい、知りたいと思うはずだ。

 従来品との換装も視野に入れて。

 

 もっとも、事はそう簡単ではなく……

 

「幾ら性能の良い新型のジェネレーターとは言え、現行品への換装となると新しく改修プランを立てる必要があります」

「機体というのは、その性能が出せるように細部に渡りバランスを取っていますから。パイロットの安全を考えないで行うのならまだしも、実際はそれを無視して良いようなモノでもないでしょう?」

 

 イングラムの言葉に、ヴィレッタが被せるようにして言ってきた。

 つまりだ、現行の兵器は現在の状態がある意味ではベストだというのである。

 各部パーツの損耗度合い、推進剤の消費量。

 そういったことを考えると、単純に性能の良いジェネレーターを組めば良いとは言えないのだ。

 

 だから

 

「それを踏まえた上で、激震の改修プランを纏めてみました」

 

 すでに先んじて、それ様の資料を纏め終えていたイングラムは、「どうぞ」と言いながら源治に手渡した。

 源治は思わず破顔してしまいそうになるが、それをなんとか堪えると「うむ」と言って資料を受け取る。

 

 そしてその資料をパラパラとめくって行くと

 

「激震の改修……各部パーツの強化と推進剤の増加プラン。これに関しては他の連中との話し合いをしようと思うが――」

 

 ある程度頁を捲った源治はそう言うと、途端に顔を顰め始めた。

 それは資料の最後の頁、そこに書かれている一文が理由である。

 

「この、『独自に戦術機開発行うための下準備となる』とは、一体どういう事なのかね?」

 

 困惑したような表情を浮かべ、源治はイングラムとヴィレッタにそう聞いてきた。

 だがイングラムは、そんな彼の疑問など気にする風でもない。

 

「言葉通りの意味ですよ。いずれ純国産の戦術機を作るには、それ相応の慣れが必要になる」

「純国産? 確かに……国内ではそういった話の流れが起きてはいるが……」

 

 源治の言っているのは、現在第一世代戦術機・斑鳩(いかるが)を元に開発をしようとされている、純国産戦術機・不知火(しらぬい)のことである。

 富嶽、光菱などが開発に名乗りを上げており、河崎重工もそれに乗るかどうか……といった流れになっている。

 

「現在、国産戦術機の不知火の開発をするために、富嶽と光菱が名乗りを上げた。我社も君たちが手を加えたジェネレーターを持って、それに参加しようと思っていたのだが……」

「私たちとしては、それは他の二社に任せたほうが良いと思います。逆にそれで良い機体が出来たとしても、それは河崎だけの益にはならない。もしジェネレーターが必要だと言うのなら、そんな物はくれてやれば良いでしょう」

 

 『当然、その時は条件をつけて』と言って、イングラムは笑みを浮かべる。

 だが、それで源治の気分が晴れるわけではない。

 尚も「しかしな……」と口渋る彼に、イングラムは息を吐くと「わかりました」と告げた。

 

「ヴィレッタ、アレも見せてやれ」

「そうね。そのほうが私たちの言っていることも理解できるでしょうし」

 

 ヴィレッタは言うと、今度は研究室内にあるパソコンを立ち上げてキー操作をしていった。

 

「――これです。見てもらえますか?」

 

 程なくしてモニターに映し出されたデーターを、ヴィレッタは源治に見るようにいった。

 源治は唸るようにして「む、解った」と言うと、モニターに視線を走らせ始める。

 

 モニターには何が映っているのか?

 そこには大きな文字でこう書かれていた。

 

 河崎重工製第参世代戦術機・『幻影』開発計画、と。

 

 従来の戦術機開発のノウハウを元に……は全くしておらず、その全てをイングラムやヴィレッタの監修の元に開発される新型戦術機。

 型式番号PTX-001『幻影』

 要は、イングラムたちの居た世界に於けるパーソナルトルーパー、『ゲシュペンスト』の事である。

 

 装甲材質は勿論、つい先日開発したばかりのジェネレータも使わずに、外見も中身も新技術で埋め尽くすと言うのだ。

 そして何より目を引いた内容は搭載予定のジェネレーター

 

「プラズマジェネレーター?」

 

 である。

 聞きなれない単語に、源治は思わず口にして言った。

 イングラムはすかさず、紙資料を源治の目の前にさし出す。

 

「――簡単にいえば、小型の核融合炉の事ですよ。動力炉内のプラズマ閉じ込めに、磁場ではなく重力制御を利用することでより高い発電効率を得る物です」

「核……だと? それに重力制御?」

 

 源治は目を見開くようにして言うと、手渡された資料に視線を落とす。

 そこにはプラズマジェネレーターの概要と製造コスト、そしてその設計に関しての記述があった。

 

「問題はありませんよ、この程度の技術。なんなら不知火とロールアウトの時期を合わせて、幻影を帝国軍への競合に出しても良い」

「とはいえ、100%ゲシュペンスト――この幻影が勝つでしょうがね」

 

 自信満々に言ってのけるイングラム達の言葉に、源治は「むぅ」と唸った。

 自社の商品がシェアを独占する。

 それは、何と素晴らしい響きであることか。

 だがリスクは当然あるだろう。

 イングラム達の言うとおり、この計画書にある『幻影』がそれだけの能力を秘めていたとしても、今迄とは違う技術、違う規格を目指して造ると成っている。

 

 と言うことはだ、技術者もそれに合わせて教育をする必要性が出てくる訳だ。

 さらには製造コストの問題もある。

 全てのパーツを自社で賄うことにすれば、それは当然技術の漏洩を防ぐという意味でも、また利益という面でもプラスに働くだろう。

 だが、それが量産に向くか? と言われれば、答えは『いいえ』と言わざるをえない。

 そもそも開発することになっている不知火も、いくつかの社がそれぞれを分業することでコストと生産性を向上させているのである。

 それを考えると、どうしても源治は尻込みをしてしまうのであった。

 

「我が社単独での開発か……」

「そう、難しく考えることはありませんよ」

 

 ふと、源治の沈黙を破るようにしてイングラムが口を開いてきた。

 源治はその言語の意味を理解しようとして、イングラムへと視線を向ける。

 

「まずはデータ取り用に、2~3体ほどのゲシュペンストを製造します。まぁ、会長も心配でしょうから、まずはそれで機体の優秀性を確認すればいいでしょう? それが満足のいく出来であれば、先ほど申し上げたように不知火との競合に出す。 私達は確実に勝てると思っていますが、それで勝った場合は『製造コストの問題がある』と言って、帝国軍に買い渋りをさせましょう」

「買い渋り? 何故だね?」

「製造コストを下げるために、新たに工場を作りたい――と言うんですよ。 そのための土地や、建設費を出してもらうためにね」

 

 ニヤッと笑ってイングラムは言うが、なんとも無茶苦茶な話である。

 安く物を卸せるようにするから、そのための作業場を用意しろと言うのだから。

 普通であれば、そんな馬鹿げた話は聴くに値しないことだろう。

 だが、

 

「その際の条件として、幻影は社の利益を殆ど削った状態で帝国軍に販売することにします」

「ちょっと待て! 利益を削るだと!?」

「そうですが……何か?」

「駄目だ! そんなことは認められん」

 

 商売人だからだろうか?

 利益にならないようなことは御免被ると言いたげに、源治は反論をしてきた。

 とはいえ、イングラムからすればゲシュペンストの利益程度はくれてやれ――と思っている。

 なぜなら

 

「大丈夫ですよ会長。我々が帝国にソレをするのは、初期型の幻影のみにですから」

「初期型? どういうことだ?」

 

 ヴィレッタが補足するようにして口を挟んできた。

 何が面白いのか、ヴィレッタは何やら口元を緩めた表情をしている。

 

「工場の稼働が出来るようになったら、すぐさまに生産性と性能を高めた幻影の2号機を開発します。 最初の約束を幻影に関してのみの約束事にしていただければ、その2号機の量産で間違いなくこの会社は潤うはず」

 

 ある種、イングラムが言っていることはペテンでありただの騙しでしかない。

 だがそれでも、嘘をつく訳でもない。

 実際問題、一度開発をした戦闘兵器がすぐに役たたずになることなどそうそう有りはしない。

 現にこの世界では、数十年前に開発された激震タイプの戦術機が未だに現役で可動をしているのだから。

 

「……出来るのかね? その2号機は」

 

 口元に手を当てて考える素振りをしていた源治は、暫くそうしていると徐に問いかけてきた。

 イングラムはそれに対して小さな笑みを浮かべる。

 

「ご安心ください。我々にとっては、その2号機でさえ後々のための下準備に過ぎませんから」

 

 そうなのだ。

 イングラムとヴィレッタは、ゲシュペンストを造ったくらいでこの世界の状況をどうにか出来るなどとは考えては居ない。

 そのためには、もっと強力な兵器が必要になってくるのだ。

 ゲシュペンストではない、もっともっと強力な兵器が。

 だがその為には、今の河崎重工では駄目なのだ。資金力も、国の政治に介入するパワーも無い。

 それではいくらイングラム達に知識が有ったとしても、それを有効に使うことはできない。

 

 だからこそ、まずは下準備が必要なのだ。

 

 イングラムの言葉に若干の笑みを浮かべている源治。

 その彼に、ヴィレッタは一歩踏み出して口を開く。

 

「会長。私たちの計画……進めてはいただけませんか?」

 

 笑って言うヴィレッタの表情に、源治は一瞬『なんて笑い方をする娘だ』と思った。

 だがそれも束の間、彼の頭の中では先程の話を進めることで一杯になり、

 

「解った。直ぐ様コイツを造れるように、各傘下企業や工場に打診しておこう」

「材料の買い付けなどはそちらにお任せしますが、技術的なことを質問されたら築一報告をお願いします。 一度、それについての話し合いも必要でしょうからね」

 

 イングラムが言うと、源治は「あぁ、解った」と頷き、その場から駈け出していく。

 その姿を見つめながらイングラムとヴィレッタは、

 

「順調……だと言えるのだが、とはいえ時間はないな」

「えぇ、そうね」

 

 と頷き合っていた。

 そしてドカッと椅子に座ると「はー……」と息を吐く。

 

「タイムリミットは2001年末。私たちがこの世界に来て数ヶ月……1992年も、あと2~3ヶ月で終わる」

「残り7~8年の間に準備を整えなければならない……か」

 

 イングラムは天井を仰ぎみて言った。

 ゲシュペンストを造り、それを元手にゲシュペンストMrk-Ⅱの生産ラインを確保する。

 その後はMrk-Ⅱも売りに出し、資金力を増大させてさらに進んだ兵器を開発。

 堅実では有るのだろうが、何とも機の遠い話だ。

 

「BETAを一掃するために、SRXでも造れれば良いんだがな」

「SRXを? ……確かに、そうかも知れないわね」

 

 呟くように言った言葉だが、ヴィレッタはそれに同意を示してくる。

 かつてイングラムは――とは言っても、この場にいる彼(ザイン)の事ではなく、オリジナルのイングラムだが、彼が設計開発を行った機動兵器、それがSRX(Super Robot X-type)である。

 

 念という特殊な才能が必要な機体であるが、その能力は凄まじく、僅か一機でも戦局を覆せるだけの力がある。

 当然、この場にいるイングラムにも、それを作るだけの知識はある。

 なにせオリジナルであるイングラムの記憶を殆どコピーしてあるのだ、当然そういった知識についても問題はない。

 だが――

 

「しかし、この世界にはトロニウムがない。仮にSRXをつくる場合、他の動力炉を考える必要があるだろう」

「トロニウムエンジンに変わる物……か」

 

 二人は困ったように溜息を吐いた。

 要は、材料が手に入らないのだ。

 SRXの動力に使われているのは、トロニウムと呼ばれる鉱石である。

 これに一定の振動数を与えることで、トロニウムは莫大なエネルギーを放出する。

 トロニウムエンジンとは、その際に放出されるエネルギーを利用する機関なのである。

 だがイングラム達が居た世界でもトロニウムは貴重品で、銀河中を見てもとある一つの惑星でしか採取できない物だった。

 惑星間航行技術の進んでいないこの世界の地球では、トロニウムを得ることは先ず不可能であろう。

 

「まぁ、どのみちSRXを開発したとしてもパイロットの問題もでて来る。この世界に、リュウセイやアヤほどの念能力者が居るかどうかも判らないからな」

 

 機体の材料不足、そしてパイロットの確保の困難さ。

 SRXは、とてもではないが造ることの出来無い兵器である。

 

 だがふと、ヴィレッタは思い出したように顔を上げ、イングラムに顔を向けた。

 

「……ゴメンなさい、忘れていたわ。そう言えばアナタには、オルタネイティヴ計画のことを話していなかったわね?」

「オルタネイティヴ計画? ……BETAとのコミュニケーション方法を模索するための計画だったか?」

「そうか、アンティノラで集めたデータを読んだのね? でもそれなら話は早いわ。既に知ってるでしょうけど、この計画の第一段階はBETAの言語や思考を解析しようといったものだった。Ⅱに移行してからは敵を知るための生態調査、ⅢはESP能力者によるBETAからの情報入手……」

「そのⅢの能力者たちを使った部隊は、インドの作戦で全滅したと聞いたが?」

「えぇ、その部隊はね」

 

 持って回った言い方をするヴィレッタに、イングラムは「ム?」と口にして眉間に皺を作った。

 だがそれで却ってヴィレッタは気を良くしたのか、饒舌に言葉を続けていく。

 

「この第三計画は1973年から続けられていた。今回のことで部隊が全滅したと言っても、成果自体が消えたわけじゃないわ。今から約2年後、一人の天才がその計画を受け継いで第四計画が動き出すことになる」

「天才……だと?」

「現在、帝国大学・応用量子物理研究室に居る17歳の女性。……香月夕呼(こうづきゆうこ)

「17歳? 随分と若いな?」

「今の私たちに言えることではないけどね」

 

 ヴィレッタがクスっと笑って言うのは当然だろう、なにせそれを言うイングラムの年齢はさらに若いのだから。

 イングラムはヴィレッタの笑みの意味を理解したのか、「む」と言いながら眉根を顰めた。

 もっとも、イングラムからすれば自分のことを『天才』などと表現するのは適切ではないと考えている。なにせ自身の持つ知識や考え方などは、自分自身で身に付けたものではないからだ。

 全ては、外から勝手に入ってきたモノに過ぎない。

 そんなモノ誇って、さも『自分は天才です』などと、幾ら何でも言えるわけがない。

 

「まぁ、私たちが自身でどう思おうと、世間の反応は止めようがないわ。――で、話を戻すけど、香月夕呼が主導になって進める計画……オルタナティブⅣ。この計画が頓挫しかける時期に、一人の人間が因果を超えてこの世界にやって来ることになるのよ」

「因果を超えて? ……ちょっと待て、まさかその人間が世界を破壊するなどと言うつもりじゃないだろうな? 幾ら何でもそんな――」

「馬鹿げた事が、あるわけ無いでしょ」

 

 顔を顰めて口を挟んだイングラムだが、それ以上に顔を顰めたヴィレッタに斬って落とされた。

 イングラムはヴィレッタの言葉に「ば、馬鹿げた……」と呟いて消沈するが、ヴィレッタはそんなイングラムに構わずに、「横から口を挟まないで、最後まで聞きなさい」と言って言葉を続ける。

 

「――オルタネイティヴⅣは、Ⅲの計画を受け継ぐ形で進められるモノよ。つまり、生体ESP能力者にBETAの情報が読み取れないのなら、機械のESP能力者をつくってしまおう……といった計画」

「機械の?」

「えぇ。第三計画は全くの無意味だった訳じゃないわ、一応の成果は挙げているの。もっともそれは、BETAは人間を生命体として認識していない――と言うだけの事だけど」

「生命体として認識していない?」

「えぇ。……BETA自身が炭素系生命体で有るにも関わらず、ね」

 

 ヴィレッタの告げる言葉に、イングラムは口元へと手をやって「ふむ」と考える素振りを見せた。

 

「成るほど。つまりBETAとは生命体ではあるが、むしろ作られた――俺達にとっては自動作業機械のような物だということか」

「流石ね。説明の手間が省けるわ」

 

 要は、炭素系生命体以外のモノに作られた存在。それがBETAで有るということだ。

 

「炭素生命体ではなく、奴らの製作者と同じであろう珪素生物であるならば、恐らくはこちらの思考に答えることもするのでは? と、そういうことか」

「そう、……乱暴な理論ではあるけどね」

 

 本当に乱暴な話である。

 恐らくは、連中の交信方法がESPの類であると調べが付いているのだろう。

 それでもだからと言って、機械の身体にすれば成功するだろうというのは無茶な話である。

 しかしその話を聞いたイングラムは

 

「乱暴な話ではあるが、試す価値はあるな」

 

 肯定的な意見を口にした。

 もっとも、それにはヴィレッタも同意見なようで

 

「えぇ、可能性があるのなら試すのは悪くはないわね」

 

 と頷いて言う。

 科学とは、仮説を立証して形にすることで本物となる。

 理論的に問題がない、実現可能だと言えるのならば、それをすることに躊躇などいらない。

 二人はそう考えているのだった。

 

「しかし、この世界の技術力では不可能だろう?」

 

 イングラムの指摘にヴィレッタ「えぇ」と短く答えた。

 自身の知っている地球の歴史、それよりも遥かに進歩した技術を有することは認めている。

 だがそれでも、その程度の技術力では件の計画は成功することはないだろう。

 

 自分達の居た世界ならば、それも可能であっただろうが……。

 

「彼女もそこにブツかるわ、現在の科学技術の限界にね。で、ここでさっきの人間が出てくるわけ」

「因果を超えた人間?」

「とは言っても、正確には『超えさせられた』――と表現したほうが良いでしょうけどね」

「意図せずにこの世界に来るか……俺達みたいだな」

「まぁ、その人物は生身だけどね。それにまず間違い無く、念動力は持っていないわ。ただ彼は別の世界の住人で、その世界での経験がオルタネイティヴⅣの完成に貢献する……かもしれない」

「かも?」

 

 散々盛り上げたあとに落とすような事を言うヴィレッタに、イングラム口を挟んだ。

 だが当のヴィレッタは少しだけ困ったような表情をつくると、「仕方が無いのよ」と言ってくる。

 

「実際問題、私が言っているのはその通りに成るかもしれない……といった話なだけ。この先の私たちの行動如何によっては、当然変わってくることもあり得るでしょ?」

 

 それもそうであろう。

 今現在、こうして二人が河崎重工に居ること自体が既に違う話を作ってしまっているのだ。

 これから先、二人が何もしなければ問題はないのかもしれないが、だが何もしなければ最悪の結果になることは見えている。

 だからこそ行動することは決定事項であり、変えることは出来ない事なのだ。

 だが

 

「それによってオルタネイティヴ計画に支障が出るのか? いやそもそも、その方法でなければオルタネイティヴ計画は完成しないのか?」

 

 その方法とは、因果を超えて現れる人物のことだろう。

 イングラムは思うのだ、そんな方法以外でも例えば

 

「――例えば、T-LINK SYSTEMを使えばどうだ?」

「それは、私も考えているわ」

 

 頷くようにして言うヴィレッタは、どこか困ったようにも見える。

 さて、T-LINK SYSTEMとはなにか?

 前述した事もあるカルケリアパルス増幅装置と同じものなのだが、これは使用者の念の力を増大させて、機械と使用者の双方向のやり取りを円滑にするシステムである。

 だがそれも、使い方一つでかなり趣きが変わってくる。

 詰まりはT-LINK SYSTEMの精度を上げて対象をBETAに固定すれば、

 人間が相手の思考を読み取ることも、またその逆も可能なのではないだろうか?

 

 二人はそう言っているのである。

 

「それが出来れば、無駄に完成するかどうかも解らないオルタネイティヴⅣを待つ必要もない」

「むしろ、より可能性は高いといえるわね」

 

 イングラムは口元に手を持って行くと、少しだけ考えるように俯いた。

 

(オルタネイティヴⅣ、敵の情報を手にするという意味では有用なモノになるだろう。中止させる必要などない、確実に完成させるべき計画だ。T-LINK・SYSTEMがどの程度の効果を表すかはともかく、少なくともⅢと同じ結果になることだけはない。問題はそのための人材だが――)

 

 そこまで思考を展開させたところで、イングラムは息を吐いて首を左右に振った。

 

「今の段階で、あれこれと悩んでも出来ることは限られるか」

 

 そう口にして言うと、イングラムは表情を正してヴィレッタの方へと顔を向けた。

 

「一先ずはゲシュペンストの量産と、研究所や工場の増設を優先しよう。その際に、特脳研(特殊脳医学研究所)も一緒に開設する。T-LINK SYSTEMの完成には不可欠だからな。後は――」

「ん? なにかしら?」

「お前がこの世界について知っていることを、可能なかぎり纏めておいてくれ。正直、今の話だけでは今後の方針を決めるには情報が少ない」

 

 今更になってこんな事を言うイングラムもどうかと思うが、実際にこれから下地を作ることに頭が一杯で、そこまで気が回っていなかったようだ。

 イングラムの言葉にヴィレッタは

 

「解ったわ。私としても、実際しっかりと理解している人間が居た方が相談もしやすいもの」

 

 と言うと、自身のデスクに向かって早速その作業に取り掛かり始める。

 イングラムはそれを確認した後で「頼む」と言うと、自身もデスクに向かって資料のまとめを始めた。

 カタカタとキーボードを叩く音が部屋に響き、イングラムが作業をするモニターには『AGX-01 メギロード量産計画』と書かれていた。

 

 

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