私の[ダンナ様/先輩]   作:おかぴ1129

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カーテンコール.みんな、おかえりなさい 〜秦野〜

「というわけで、最近店長さんの元気がないんですよ姉さん」

 

 スラッとした長身のスレンダー体系で、もはや私よりも背が高くなった朝潮が、今日のバイトを終え帰宅してくるなりそうボヤいた。

 

 ファストフード店“ハニービーンズ”でアルバイトを始めた朝潮の話によると……先日、朝潮の仕事ぶりにいちゃもんをつけてきた店長ともみ合いになったそうだ。その最中に店長の髪をひっぱってしまったところ……実はそれはカツラで、すっぽり綺麗に取れてしまったとのことだ。

 

 あの店の店長は、昔にちょっとした騒動があり(犯人が比叡さんだったということを知ったのは後日だった……)、周囲にカツラだということがバレてしまっている。それでもプライドなのか意地なのか、今でもカツラをつけて接客をしているようだった。私はもうあまり行くことがないけれど。

 

「ふーん……あの店長さんがねぇ……」

「でも、店長のあの接客態度で確実にお客さんの5割は失ってると思うんです」

 

 反射的には私と朝潮は、あの店長の挨拶を思い出し……

 

――いらっしゃいませッ!!! ぬんッ?!!(バッキバキ!! ボタンぷつーん!!)

 

「確かにそうだね……」

「ですよね姉さん……」

 

 と、これから懐かしい顔ぶれと再会するというのに、ひどくげんなりした気持ちになった。

 

 あの騒動からもう5年ほど経つ。あの後一度、先輩は比叡さんと共にこちらの世界にやってきた。その時の先輩は、私の最後の記憶のガリガリの弱り切った姿とは違い、とても端正で力強い顔つきと体つきになっていた。着ている服は純白のスーツと、同じく純白の軍帽。なんでも向こうの鎮守府では、それが先輩にとっての礼服にあたるそうだ。

 

 比叡さんの方は、いつぞや着ていた巫女装束をカスタマイズしたような服を着ていた。初めて見た時はふざけたコスプレ衣装だと思っていたが、朝潮に聞いたところ、あれはコスプレではなく戦闘用の装備らしい。先輩の礼服に合わせてそれを着ているということは、ひょっとすると礼服でもあるのかもしれない。

先輩は比叡さんの隣で、ご両親や私たちを前にハッキリとこう言った。

 

――僕は姉ちゃんと生きていく。誰に止められようと、姉ちゃんの世界で生きる。

 

 ご両親はシュウくんの言葉を聞いて一言二言何か言葉をかわした後、お父様が実にあっけらかんと

 

「はいどうぞ。時々顔見せてくれるならいいよ」

 

 といい、すんなり了承していた。逆に先輩と比叡さんの方が目を丸くして驚いてたほどだ。

実は私は、お父様からこんな事を聞かされていた。

 

――どうせアイツらのことだから、反対されると思ってかしこまってやがるはず。

  だったら逆にすんなりOKして、シュウと比叡ちゃんに泡を吹かせてやろう

 

 この計画をきいた時はさすがに『こんな重要なことをそんな軽いノリで決めていいのか』と躊躇したのだが……よくよく考えると、お母様は以前の惨状を間近で見て、二人がどれだけ想い合っているかを知っているので反対するつもりはなし。お父様は、どうせ二人はくっつくだろうと思っていたらしいので賛成……と、反対する人が誰もいないので、だったらちょっと悪ふざけしてみようかという話になったのだ。

 

「え……ごめん。父さんなんか変なこと言ったか?」

「いや……つーか、もっと反対してくるもんなんじゃないの?! 親として!!」

「ほーん……反対って言ってもなぁ……ほーん……なんか反対した方がいい?」

「あ、いやあの……お父様……」

 

 お父様がとぼけた演技をしながら、私にこっそりサムズアップをしているのが見えた。さすがですお父様……その演技と余裕、素晴らしいです。

 

 方やお母様は真面目な顔を作ってはいるが、先輩と比叡さんの慌てふためく様子がよほど面白いのか、鼻の穴を広げて呼吸が少し荒くなっている。ダメですお母様。それでは私たちの計画がバレてしまいます。

 

 一方の朝潮もさすがだ。眉一つ動かさず、至極真面目な顔で先輩たちを……と思ったら、朝潮は自身の足の裏を必死につねり、身体をプルプルと震わせていた。朝潮……そんなに必死にならなくてもいいと私は思うんだけど……

 

「姉さんだって……ブフッ……鼻の穴が広がってますよ……」

「え……ブフッ……だって……」

 

 私たちの世界一どうでもいい耐久レースをよそに、先輩たちとご両親の、激しくもしょぼい攻防はまだまだ続く。

 

「いやでもだって、相手比叡ちゃんなんだろ?」

「うん」

「結婚しちゃったんだろ? 俺達に相談もなく」

「う……うん」

「父さんたちが何言っても聞く気無いだろ? 何も言うつもりないけど」

「う」

「比叡ちゃんなら安心だし、こっちとしちゃ時々二人の顔を見られれば別に問題ないよ。つーか今更だ今更。比叡ちゃんが居候してた時から、なんかお前たち怪しかったもん」

「「バカなッ?!」」

 

 この時の先輩と比叡さんの顔はケッサクだった。二人とも白目を剥いて金魚のように口をパクパクとさせていた。まさに似た者夫婦という感じで、二人の表情やポーズ、すべてが一緒だった。

 

 正直にいうと、私は最初この計画には少し後ろめたい気持ちがあったのだが……いざ二人のこのケッサクな反応を見ていて、そんなものは吹き飛んだ。私の物にならなかった先輩と、私から先輩を奪った比叡さんへの、せめてもの仕返しだ。ざまーみろ。

 

「つーか親として何か子供に言うことはないのか父さんッ?!」

「幸せになれよー比叡ちゃん大切にしろよーとしか……ぁあそういや親子だなーって」

「ん? 親子?」

 

 先輩と比叡さんはまだ気づいてないが、以前に私は、お父様とお母様は姉さん女房だと聞いたことがある。先輩本人は年下が好きだと言っていたのに……血の強さは侮れない。

 

「ひええ……ハッ?! そ、そうだお母様! お母様は何かないんですか?!」

「いや、もう二人を無理やり引き離したあの時のシュウを見てるから、二人を別れさせるなんてとてもとても……ブフッ……私もお父さんと一緒で、時々顔が見られればそれでいいわよ……ブホッ……さめざめ。ブフッ」

「ひぇぇぇええ……」

 

 先輩たちは話し合いの前に、綿密な計画を立ててきたはずだ。だがご両親の予想外の反応を前に、その計画はもろくも崩れ去ってしまったようだ。二人はそれ以降、会話のペースを握ることが出来なかった。

 

「比叡ちゃん……いや、比叡さん」

「ひぇぇえ……は、はい!」

 

 ひとしきり先輩たちの反応を楽しんだ後、お父様は急にかしこまって比叡さんの名を呼び、比叡さんもそれに応えた。

 

「うちのシュウを……どうかうちのシュウを、よろしくお願いします」

 

 最後にお父さまは至極まじめに、お母様と共に深々と頭を下げた。比叡さんも、

 

「お任せ下さい! この比叡、気合! 入れて!! 幸せにします!!!」

 

 と空手の押忍! のポーズを取っていた。私の気のせいなのかも知れないが、その時比叡さんの背後に砲撃する戦艦と万国旗の幻が見えたのは秘密だ。ちなみにその時私の隣にいた朝潮も目をこすりながら

 

「あれ……戦艦と万国旗が……?」

 

 と言っていたので、おそらく私と同じ幻が見えているのだと悟った。さすが姉妹。似ているのは顔だけではなかったということか。

 

 それが5年ほど前。最初の2年ほどは先輩と比叡さんは時々こちらに来ていたが、最近は顔を見せない。だけどお母様曰く、時々岸田先輩がこちらに戻ってくる際に先輩と比叡さんから手紙を預かっているようで、無事が分かっているので別にいいということだった。なんでも比叡さんが鎮守府を動けない状況が続いているそうなのだけど……

 

「姉さん、どうかしました?」

「ん? どうして?」

「いや、楽しそうなのはいいんですが、心持ちぼけーとしてるような気が……」

「そうだねー……あの時のことを思い出してね」

「あー、お二人が結婚のご挨拶に来た時のことですか」

「うん。あれからもう5年も経つんだねー……」

「ですね。そら私の背も伸びます」

「そうだねー」

 

 この5年の間に朝潮の背も伸びた。今では私よりも背が高く、顔つきも私とは違ってきていて、スラッとした長身の美女に成長していた。

 

 彼女は引き続き私の家で居候している。最近はハニービーンズでアルバイトをしており、そのキリッとした顔立ちで男女問わずたくさんの客を虜にしていると人づてに聞いた。店長の筋肉による圧迫的な接客が遠因で、今一人気がなかったハニービーンズが最近盛況なのは、そんなところにも理由があるようだ。

 

「たまに私に“罵って下さい”てオーダーをする男の人がいるんです」

「朝潮、気が強そうに見えるからね。罵ってあげたら?」

「それが姉さんからの任務であれば……!」

「やるんだ……」

「私にとっては、今も変わらず司令官は姉さんですから……!」

 

 背が高くなっても、そんなところは変わらないんだね朝潮は……

 

 そんなとりとめのない雑談をしながら、私と朝潮は先輩の家に向かう。なんでも今日、久しぶりに先輩と比叡さんが顔を見せるらしい。今まで鎮守府を動けない状況が続いていた比叡さんもやっと落ち着いたようだ。私たちは先輩の家に到着すると、挨拶も程々に部屋に上がらせてもらい、居間でお茶を飲ませていただいた。

 

 あの頃に比べると、お二人も少し歳を取ったようだ。だがお母様は変わらず素敵で可愛らしく、お父様は少し白髪が混じった髪に渋さが際立つ。とても素敵な年のとり方をされているご夫婦に感じる。

 

「ところで先輩たちは何時頃来る予定ですか?」

「手紙にはお昼すぎって書いてあったから、そろそろ着くと思うんだけどねぇ……」

 

 そんな話をしながら、先輩と比叡さんが到着するまで時間を潰す。お母様から聞いた話だが、岸田先輩も生活基盤を向こうの世界に移したそうだ。一度こちらに帰ってきた時に、岸田先輩のお母様は必死に岸田先輩を説得したものの、

 

――叢雲たんの折檻がおれを待っている! キリッ!!

 

 とえらくイケメンな顔で叫んだ後、そのまま元の世界に戻っていってしまったとのことだ。輝きながら消えていく岸田先輩を見て、彼のお母様はさぞ驚いたことだろう。それにしても叢雲さんって誰だろう? その人も艦娘なのかな?

 

「叢雲さんと岸田先輩、仲良かったですからね」

「そうなの? シュウ先輩と比叡さんみたいに?」

「比叡さんとシュウ先輩は似た者同士のおしどり夫婦という感じですけど……叢雲さんと岸田さんは……ニーズが合ってるって感じでしょうか……」

「?」

 

 岸田先輩はその後もこちらにちょくちょく顔を見せてはいるそうだけど……向こうの世界に行った男性陣は皆、あっちの世界に恋人を作ってくるものなのだろうか……

 

 そんなこんなである程度時間が過ぎた頃、『ぴんぽーん』というチャイムが鳴った。しばらくして『ガチャリ』というドアが開く音が鳴り、誰かが部屋に入ってくる足音が聞こえた。先輩と比叡さん、どちらの足音だろうか……それにしてはトテトテという感じで妙に音が軽いような……?

 

「こんにちわおじいさま〜。お元気ですかおばあさま〜」

 

 私たちの予想に反して、ドアから廊下を走りぬけ居間に来たのは、まだ私の腰ほどの背丈もない女の子だった。

 

「え……」

「……どなた?」

 

 お父様とお母様が困惑されている様が見て取れる。恐らくこれは、お二人からしても予想外の出来事だったのだろう。もちろん私と朝潮も絶賛困惑中だ。

 

 続けざまにドアが開く音が聞こえ、また走ってくる足音が聞こえる。今度も先輩か比叡さんの足音にしてはトテトテと軽い……今度は誰だ?

 

「ねえちゃん! さきいっちゃらめ!! ぼくをおいてかないで!」

 

 今度はさっきの女の子よりも更に背丈の低い男の子が走ってきた。この子のセリフから察するに、どうやら二人は姉弟らしい。

 

「えー。だって早くおじいさまとおばあさまにあいたかったんだもん!」

「ぼくのてちゃんとにぎってて! いっしょじゃなきゃイヤッ」

「もー……あまえんぼうさんだなー」

「うう……ひぇぇぇ……」

 

 なんだかどこかのふたり組を彷彿とさせるようなやりとりを繰り広げている二人をよく見てみる。女の子の方はどこかで見たことある巫女装束、そして男の子の方は純白のスーツを子供用に仕立てたような服を来ている。ちょうど結婚の挨拶に来た時の先輩と比叡さんが着ていた服と同じだ。

 

 そして二人をよく見ると……

 

「ほら。あたまなでてあげる! ぼうしとって!」

「ひぇぇ……ありがとう姉ちゃん……ひぐっ」

「ほら。いいこいいこ〜」

 

 なんとなくだが、女の子の方は先輩、男の子の方は比叡さんに顔つきが似ている気が……まさかこの二人は……

 

 なんとなくこの二人の正体がつかめた時、三度ドアが開く音が聞こえた。

 

『あれ? 二人は?』

『先に行かせたよ』

『ダメだよ! ちゃんと伝えてないんだし、みんなびっくりしちゃうよ?!』

『大丈夫だよ。いるのは父さん母さんと秦野と朝潮ちゃんでしょ?』

『そうだけど……二人ともそそっかしいし甘えん坊だし……』

『『お母(父)さんそっくりだ……』』

『ひぇぇえええッ?! 私はそそっかしくないよッ?!』

『ひぇぇえええッ?! 僕は甘えん坊じゃないよッ?!』

 

 ドアが開くと同時に、とても懐かしく、心が暖かくなる会話が聞こえた。そっか。やっぱりこの子たちは二人の……ここ数年、顔を見せなかったのはそういうことか……

 

「「ひぇええ〜おとうさま〜! おかあさま〜!!」」

 

 両親にそっくりな二人が、両親から受け継いだ口癖を口にしながら、再度玄関に走っていく。私は笑顔で朝潮と顔を見合わせた。

 

「姉さん!」

「うん! 行こう!」

 

 私と朝潮も立ち上がり、玄関に向かった。そこにいたのは、二人の懐かしい顔ぶれと、小さくとも元気で新しい二人の、幸せな光景だった。

 

「先輩! 比叡さん! おかえりなさい!!」

 

終わり。

 

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