ちょっぴりホラー短編集   作:綿道スゥ

1 / 2
短編オリジナルホラー作品詰め合わせの第1弾。ホラーといっても、『リング』などのように怖いわけではありません。あくまでもちょっぴりホラーってことで。


ある『もの』の話

カチッ、と、おれの意識が覚醒する。

 

――おはよう、およそ1日ぶりの目覚めだね。調子はどうだい?

 

目を開いたおれの目に飛び込んできたのは白衣を着た2人の男だった。

 

「体の機能に異常は認められません」

 

おれはベッドから体を起こしながら平坦な声で返す。その方が相手にとっては1番聞き取りやすいと考えているからだ。

 

「下半身を除いて、ですが」

 

おれの下半身はぴくりとも動かない。もっとも、それももう慣れてしまったが。

 

――そうか。

 

2人の男のうち、背の低い方が申し訳なさそうに答える。

 

――君、1週間前の記憶はあるかい?

 

背の高い方が尋ねてきた。

 

「はい。山田さん、谷口さん、西川さん、吉野さんと共にテニスを行いました」

 

その時におれの体は壊れてしまった。うちにはあまりお金は無いため、なおすことは叶わなかった。

しかし、おれに後悔はない。その時のおれは空を羽ばたく鳥であった。海を泳ぐ魚であった。大地を駆ける獣であった。この世界は素晴らしいと考えることができた。

 

今思い起こすと、おれはあの時テニスがたのしいと感じていたのではなかろうか。おれは、何かをたのしいと感じたのはその時が初めてだった。残念ながら、どんなにたのしいと感じてもおれは表情を変えることができない。生まれつきそうなのだ。

 

だが、相手の表情を読み取るくらいはできる。今、目の前にいる男2人は顔を見合わせ、悲痛な面持ちを浮かべている。そして、なにやらぼそぼそとしゃべっている。

 

――……だな。……つは………にならない。

――ああ、こいつは処分……しかない。

 

…処分?今あいつらは処分と言ったか?何を?まさかおれを?いやそんなバカな。だがあいつらは明らかにこっちを指さしている。

 

――やり直しだ。もう一回……から………だ。

――廃棄はするな、使い道はたくさんある。

 

やめろ、やめてくれ。おれは生きている。嫌だ、死にたくない。死ぬだなんて恐ろしいこと。怖い怖い怖い怖い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だおれは死にたくないんだ…。圧倒的な感情の波に飲まれ声も出ない。

 

殺すな、やめろ、死にたくない、怖い、やめて、まだ生きてる、怖い、殺すな、怖い怖いやめrrrrrrrrr……

 

プツン。

 

 

白い部屋の中央に置かれたベッド。その上にはたった今電源を落とされたばかりのロボット。その傍らに白衣を着た背の高い男と背の低い男。

 

「感情のあるロボット…今回も駄目でしたね」

 

「ああ…設計は間違っていないはずなのだが、感情なんてもんは現れてきやしない」

 

「案外表面に出ていないだけだったりして」

 

「いやそれはないな。いくらロボットだからといって、感情があれば表に出さないはずがないだろう?」

 

「それもそうですね。それじゃあとりあえず、次の782体目では成功することを祈って飲みに行きましょうか」

 

「ああ、次の飲み会では祝杯をあげてやる!」

 

「その意気です、先輩!!」

 

ハハハという笑い声を残して2人は白い部屋から出て行った。部屋の中央には生命を宿していたモノが1つ、それから、沈黙だけが…残る。

 




この研究者たちは、無自覚とはいえ782体、命を奪っていたことになります。以上、ロボットっぽい人間のようなロボットの話でした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。