ちょっぴりホラー短編集   作:綿道スゥ

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一番簡潔な仇返し

 

「アナタの望みを叶えましょうか?」

 

俺の名前は高首 静太という。会社が休みの水曜日、木造二階建てのアパートの一室ゴロゴロしていた俺のところにやってきたのは、胡散臭い雰囲気をしたスーツの男だった。

 

新聞の勧誘等々はお断りなのでチャイムがなっても無視が基本スタンスの俺が何故話しているのか。

 

簡単に言うとソイツがしつこかったから。

 

詳しく言うと、パトカーのサイレンのように連打されるチャイムが鳴り止み、いなくなったか確認しようと玄関から出たところを捕まったのだ。

 

話しかけられたのに無視するのは少し気まずい。たとえその話し相手が意味のわからないことを言っていてもだ。

 

「すいません…どちらさまでしょうか…」

 

「ああ、申し遅れました。ワタクシ、シカミ、と申します」

 

シカミ――鹿見か?

 

「いや、あなたみたいな人は知りません、お引き取り願います」

 

やや強引ながら話を切り上げて玄関のドアを締めようとした。が。

 

「まま、そんなことおっしゃらずに」

 

できなかった。尋常じゃない力で開けさせられた。そうして彼は言ったのだ。

 

「静太さん、恨んでる人、いるでしょう?復讐しませんか?」

 

その言葉に少しきょとんとした隙に鹿見は家の中に無理やり入ってきた。ドアチェーンをかけておけばよかった。

 

「…出ていってください。そうすれば警察への電話だけはやめます」

 

「いやいや、警察に電話したって無駄ですとも」

 

意味がわからない。無駄とはどういうことか。不法侵入の現行犯だろうに。

 

「だってワタクシ、生きてませんから」

 

…正直、ますます意味がわからない。自分は幽霊です、とか。そのまま無言で手元にあった携帯の110を押す。

 

「こっち見てください、こっち」

 

内心、はぁ?と思いつつそっちを見ると、男の手がテレビに突き刺さっている。

 

「ほら、この通り」

 

テレビから手を引き抜くが、穴が空いた様子はない。

 

「……!?………!?」

 

人間、本当に驚くと声さえ出なくなる。

 

「これで、信用いただけましたかな?」

 

…なんなんだこいつは。

 

話を聞かないと帰らないようなので、聞くだけ聞いてみることにした。

 

「改めて、ですが。静太さんの恨んでる人、いるでしょう?その人に復讐したくないですか?」

 

「……」

 

「名前を三革 紺。灯京都在住の31歳。アナタの職場の先輩で、性格は傲慢そのもの。その人にアナタが以前付き合っていた彼女は無理やり犯され、それが原因で結婚直前までいっていた付き合いは破局した…と。わたくしが言うのもなんですが、なかなかいないですよ、こんな人」

 

「うるせぇ!!…ちょっと黙っててくれ……」

 

そうだ、アイツのせいで俺は何もかも失った。

 

「オマエのせいでこのプロジェクトは失敗したんだ。何発か殴らねぇと気がすまねぇ!!」

 

婚約者も…

 

「ああワリ、オマエの女、とって食っちまったからよぉ?泣き顔は最高だったなぁ…よければオマエも見るか?動画にしてとってあるからな!ぎゃはははは!」

 

友達も…

 

「なぁ、今日帰りに1杯飲んでかないか?」

 

「…今日は無理だ」

 

「え、なんでだ?

 

「……お前がアイツに目ぇつけられてるみたいだから…巻き添えになるのはゴメンだ…」

 

金までもアイツにむしり取られた。

 

「ぎゃはははは!オマエ、俺がオマエのミスを帳消しにしなければ今頃どうなってただろうなぁ…?」

 

「結構結構。また足りなくなったら貰いにくるからなぁ?」

 

後に、仕事のミスは俺の責任ではないことを証明する書類を俺は個人的に発見した。が、アイツは上に媚びるのが上手い。そんな奴に楯突いたところでもみ消されるのがオチだ。

 

こんな状況だ、仕事を辞めたくもなる。だが、この職は親戚の勧めで就いたもので、辞めたくても『面子が…』『体裁が…』などと言う両親によって辞めさせてもらえない。

 

生きながらにして地獄。どうすることもできなかった。

 

「アナタ、これを使いませんか?」

 

「…?」

 

そこに置かれていたのは1台のスマートフォン。見たことのないタイプだった。

 

「これの中に入っているアプリで、適当な人のSNSに『flag』と書き込むと、その人を呪うことができます」

 

…呪い。あのクソ野郎は少しくらい呪われたって当然だろう。幽霊が渡してきたモノだ、偽物とは思わなかった。それに俺がアイツに対してどれだけの苦痛を味わってきたことか。この苦痛のごく一部でも返してやりたい。ただ、1つ気になることがある。

 

「…代償は?」

 

「と、言いますと?」

 

「この手のアイテムに付き物だろう。使った人が死ぬとか」

 

「そんなことは一切ございませんよ。これに関して、ワタクシは静太さんに一切何もしませんから」

 

意外だ。現実は小説より奇なりってやつか。

 

「ああちなみに、書き込みを消せば効力もなくなります」

 

…消せば効力はなくなる。だったら1週間くらい苦しんでもらって、その後消せばいい。

 

「私からの説明は以上です。使い方はアナタの持つスマートフォンと変わりありませんので大丈夫でしょう。では、さようならー」

 

唐突に男が消える。今更ながら、本物の幽霊だったんだなと実感する。

 

そこからの俺の行動は早かった。『呪いのスマートフォン』を手に取ると、三革だけじゃない、自分の嫌いなヤツに片っ端から『flag』と書き込んだ。消せるならそんなに深刻に考えなくても大丈夫だろう。1日痛い目に合わせて、そのあと消せばいい。

そう思ったからだ。

 

現代の情報化社会では個人の特定など簡単だ。ましてや、嫌いなヤツとはいえ、一応知り合いだ。仕事や立場の関係上、SNSのIDは知っている。

 

その後は少し晴れ晴れした気分だった。

 

しかし、昼メシを食う時になって、唐突に自らの行った行為に罪悪感を感じた。

 

書き込んだものの中にはそこまで恨んでない人もいた。俺は書き込みを削除し始めた。ただ、三革への書き込みだけはどうしても消せなかった。

 

その夜、夢を見た。内容はよく覚えていなかったが、酷い悪夢だったということだけは深く印象に残った。もう秋の初めだというのに、寝起きの布団は汗でびっしょりだった。

 

翌日、三革は職場に来なかった。呪いの効果が出た、つまりそういうことだろう。俺は内心ガッツポーズした。

 

その夜、俺は自分の部屋で何気なくテレビのニュースを見ていた。なんてことはない、夕飯を食べている間に垂れ流しているだけだ。そこでは昨日起きたという殺人事件について報道されていた。

 

…被害者、三革紺。包丁でめった刺しにされていたそうだ。

 

その瞬間、俺は昨日見た夢を思い出していた。

 

俺は、三革を殺した。その時俺はヤツの住むマンションの前に立っていた。

そこでヤツの部屋に行き包丁で刺した。

何度も、何度も。恨みをこめて。何故か最後までヤツは俺だとは気づいていなかったが、そんなことはどうでもよかった。

 

チャイムのなる音が聞こえた。

俺が殺した。俺が。殺した。人を。殺してしまった。

 

「こんばんは、静太さん。いかがでしたか?」

 

「な、な、何…を……」

 

「三革が死んだのはアナタの呪いの効力ですよ。恨んでる人が死んだんだからもっと喜んではどうです?」

 

いつの間にかしかみが俺の隣に立っていた。ニタニタと笑いを浮かべながら。

 

「お、おれは…ころすつもりなんてなかった!」

 

「呪いの効果は2つ」

 

鹿見が指を1本立てる。

 

「1つ目、自分が寝ている間に相手の住む場所に移動できる」

 

鹿見が2本目の指を立てる。

 

「2つ目、寝ている間の行動をその人の恨みの大きさによって自動的に決定する」

 

「な…な……」

 

「どんなことをするか自分で決めなくていいんです。便利でしょ?」

 

「ふっ…ふざけるなっ!とりけせ!いますぐとりけせぇぇぇぇぇ!!」

 

「それはできませんねぇ…1度起こった事象は覆せませんので」

 

「ま、こっちにもこっちの事情があるのですよ。最初に言ったでしょう?ワタクシはこれに関して静太さんに一切何もしません、と」

 

「あ……あぁ………」

 

「今後永久に人を殺したという罪を背負って生きなさい。ね?」

 

「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

その後、三革殺害の容疑者の男――高首の首吊り自殺によってこの事件は不起訴処分となる。三革の遺族からの損害賠償請求もなく、それどころかむしろ内情を知った遺族は高首の家族に謝りたいとの申し入れがあった。

 

結果、何の変哲もない怨恨による殺人として書類送検されるはずだった。しかし、この事件には不可解な点が1つあり、高首の犯行と断定することが簡単でありながら難しかった。

 

その理由は目撃証言がゼロであったから。それも、監視カメラの映像に人の目の前を通る様子が映っていながらに、だ。

 

だが、高首直筆の『三革を殺したので自殺します』と一言だけの遺書、監視カメラの映像、及び凶器である包丁が彼の自宅から出てきたことから、ほぼほぼ犯人であろうことが推測されるため、目撃者の記憶に偶然残らなかったとして書類送検され、この事件はひっそりと終結した。

 

 

 

 

幾日か経ったある夜、ある街のビルの屋上。シカミ――死神は飛び降り防止用のフェンスに腰掛けながら、冷たい光を放つ街を見下ろす。その手元には食べかけの高首と三革の魂があった。

 

「1度に人間の魂が2個。こんなオイシイ話はないな…さて、今度はどこのどいつに話を持ちかけてみようかね…」

 

そう呟いて彼はビルの屋上から飛び降り、消えた。




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