僕が僕でなくなっても僕は『過負荷(ソレ)』でありたい 作:nirvana
「この世界に敗者は要らない」
『そうだね』『皆が敗者(マイナス)になれば確かに敗者なんていないし、いらないよね』『だって、皆同類(マイナス)なんだから!』『皆仲良し!』『だね!!』
最初に目覚めて感じたのは、暖かい雰囲気とだいぶ昔に感じたことのあると思われるドロドロとしているようでなんとも言えない感触の気持ち悪いモノだった。
きっと、隣で安心院さんのような人が寝ているなんて事は別にない。いや、無いんだ。ないと思いたい。
「・・・・・やあ、目が覚めたかい球磨川君。」
やっぱり安心院さんだったのか……。
『・・・・・・』
「ああ、無理に喋る必要は無いよ。というか、その状態では喋れないだろうからね。だから今回は僕の方から一方的に喋らせて貰うよ」
『・・・・・・』
「オーケー。なら、簡単に説明するね。君は後一時間もしたら、完全に新しい生を受け入れてこの世界に誕生する事になる。そうなれば、多分君は前世の記憶を思い出す事が少し難しくなるだろうね。でも、安心してくれ。それが起こるのははあくまで思い出とかの類のみだ。[異常(アブノーマル)]や[過負荷(マイナス)]とかについては普通に覚えてるはずだよ。まぁ、君からしたらどっちでもいい事なんだろうけどさ。ん、そろそろ時間も不味いかな。僕も暇って訳では無いしね。それじゃあ、最後に言っておくかな」
「この世界を楽しんでくれよ?」
そういって安心院さんは僕に一度『キス』をしてから去って行った。これは、安心院さんのお気に入りのスキルのやつだね。という事は安心院さんは僕にスキルを置いて行ったのか。わーい。とても嬉しいや。しかし、なるほど。話は変わるけど、僕は後一時間程度で新たな僕として生まれるのか。そう考えるとなんか感慨深いモノがあるね。
後一時間か。
どうしようか?このまま眠ってしまおうか。でも、眠っても一時間経ったら起こされるって考えるとなー。なんだかなーとも思うし。まあ、逆に言うなら一時間する事が無いって言うのもね。とりあえず、裸エプロンのと手ぶらジーンズの可愛い女の子達の姿でも想像しておこうか。それくらいしか、暇を潰せるような事も無さそうだしね。
と、まあ、気がついたら十分経つ頃くらいには眠ってしまっていたわけで、次に目を覚ましたのは尻を叩かれて無理矢理泣かされた時っていうね。
『オギャアー!!』『オギャアー!!!』
「おめでとうございます!元気な男の子ですよ!」
いやはや、何故か始まりから凄いマイナスに成りそうな予感しかしないぜ。
ま、そこは何時もの事だからしょうがないとは思うけどね。過負荷(マイナス)は過負荷らしく、適当にダラダラ無意味にヘラヘラ嗤って生きてくだけさ。
次に起きたのは、病室の様な所だった。そこには僕を抱きかかえている女の人と、見た目は人の良さそうな好青年っぽい男の人がいた。多分僕の両親だろう。
「ねえ、貴方。この子の名前決めた?」
どうやら、僕の名前について話しているらしい。僕の名前まだ決まって無かったのか……。まあ、僕も自分の名前を知りたいし。大人しく聞く事にしよう。
「一応、候補の名前はあるんだよ。女の子なら、魅月で、男の子なら未萩って感じで考えてたんだけどどうかな?」
「聞くけどさ、名前の由来は?」
それは、僕も気になっていた。さすがに適当な理由で付けたとか言われたらね。まあ、多分割とそんな名付けする人も少なくはないんだろうけど。
「まず、魅月なら、月のように人を魅了出来るような可愛い女の子になってくれって願いを込めて。未萩は、この宮城県の花、宮城野萩を略して未萩。まあ、末って字を入れる事で著しく成長して欲しいなんて願いも込めてるけどね。」
「これ、ホントに貴方が考えたの?」
「その反応は酷くないかい!?」
「いえ、貴方にしてはかなりまとも名前にまともな由来を言ってくるものだからつい」
「泣いてもいいと思うよ僕」
「ごめんごめん。そうね、なら名前は未萩にしましょうか。宮城野萩っておっきくて綺麗だもの」
「そうかい。僕もそれがいいと思うよ。ほーら、今日からお前は僕達の息子[多摩川 未萩](タマガワ ミハギ)だからね。これから長い付き合いになるけど宜しくね」
眩しかった。
綺麗すぎて。
僕には勿体ない位にいい人達過ぎて。
申し訳なくて。
きっと、彼等は僕の過負荷の性質に当てられてしまう。もし、僕が此処に転生して来なければそんな事無かったのに。
前の親達のように、どうしようもないような人達ならどんなに良かった事か。
こう考えると、[多摩川未萩]というこの名前は僕に重くのしかかって来た。二人というあそこまでににいい人達の期待をその中に宿している。そんな綺麗な重みは僕にはとても辛かった。
だから、今の内に謝っておこうと思う。きっと聞こえないし、届かないとは思うけど。それでも。
ごめんなさい。僕は多分貴方達の期待に応えてはあげられない。だって僕は過負荷なのだから。常に決められているのかのような敗者なのだから。
ごめんなさい。貴方達の本当の息子、若しくは娘の代わりに生まれてきてしまいごめんなさい。もしかしたら、その子はその名前に応えてあげられたかもしれないのに。
こんな風に謝っても事実は覆らないし、無駄だというのは過負荷の僕だからよく分かっている。でも、それでもやっぱり謝らずにはいれなかった。だって、その人達は
とても[普通(ノーマル)]な人達だったのだから。
さて、あの出来事から、つまり僕の生まれた年から四年がたってたりする。あっという間に五年が過ぎた気がするけど、やはりこれも気にしたらダメなんだろう。さて、この四年の話をしようか。実際彼女達、つまり僕の両親の人達はホントに[普通]で、ホントにいい人達だった。だって、二歳になる頃くらいには僕の過負荷(マイナス)的な性質が見えてきているって言うのに、それでも気持ち悪がったりしないで僕を受け入れてくれたんだぜ。この時には、前世と足したら相当な年齢を言ってるだろう僕も不覚にも両親に抱き着き泣いてしまった。前世の両親には一回すらそんな事した事ないけどね。
まあ、両親の話は一旦置いておこうか。それよりもまず、僕がこの世界に来て気付いた事を話そうと思う。
一つ目としては、この世界の年号。生まれてすぐにカレンダーをちらりとみると、2030年1月つまり、僕が亡くなる40年前の年だった。つまり、僕は前の僕よりも未来に生まれてしまった訳だ。ついでに僕は享年78歳だよ。で、二つ目、僕は今現在スキルの発動はすることができない。これは、多分前に安心院さんが言っていた、スキルの遺伝、前世からの引き継ぎはできないって事が証明されたという事だろう。安心院さん曰く、(スキルというのは、魂の成長過程でそいつの魂に刻まれた情報なんだよ。それは、その時点でそいつの物であって、そのスキルが遺伝、前世への引き継ぎ、つまり、他人になる人間に無条件で譲渡される事は無いんだよ。無条件ではね。)っとか言ってたから。『大嘘憑き』や、『却本作り』は他人である僕には使えない訳だ。
3つ目、これは、僕が『球磨川禊』ではなく、『多摩川未萩』であると気づいたこと。理由は二つ目のスキルが使えないって事。使えないって事は僕は『球磨川禊』じゃないという事の証明になった。これは、ある意味僕にとっては嬉しい事だった。もしかしたら、過去の僕よりは過負荷が抑えられてるのではないかと思ったから。それなら、両親には極力影響せずに済むかも知れないと考えたから。まあ、今から思えば、それはミルクオレにシュガーたっぷりのシスコーンを入れたぐらいには甘い考えだった訳だけどね。
『お父さん』『お母さん』
僕は喋れるようになった時から、こんな感じに括弧付けた喋り方をしていた。でも、それでも彼女達は気持ち悪がったりすること無く。
「僕達の息子にしては個性的で恰好いいじゃないか」
「人には個性があるの。例え、貴方がどんなに普通と違ったとしても、私は拒絶したりしない。だって、私達は貴方の、未萩の親だもの」
そう言って頭を優しく撫でてくれた。
「かわいそうに、トラックの衝突事故だってね」
「二人とも即死だったそうよ?それなのにねぇ」
遠くから親戚達のやり取りが聞こえる。
「何故かあの気持ち悪いガキだけが無傷で生き残ったんだろ。姉貴と義兄さんとほぼ同じ場所にいたはずなのによ。」
「ホント気味の悪い子ね。喋り方も気持ち悪いし。」
「お母さーん、あの子気持ち悪い!!」
「ホント、見るからに吐き気を催しそうなガキだよなぁ、全くよ」
「あんな子供私達は預からないわよ!」
「別に遺産があるわけじゃねぇしな。あんな気持ち悪い穀潰し預かる奴なんていないだろうよ」
「大体、あの人達もあの人達よ。こんな気持ち悪い子生んで、育てて。何を考えてたのかしら?」
この時、僕の心の中で、それが目を覚ましていた。僕の過負荷(マイナス)が。[球磨川禊]のではなくて、[多摩川未萩]の過負荷(マイナス)が。
「やっぱり僕は、何処まで行っても過負荷(マイナス)なんだね。あはははは!!」「ごめんなさい。お父さんお母さん」『約束したけど、やっぱり破っちゃうね』『ほら、僕ってば過負荷だからさ。』「さすがにお父さんお母さんの事まで言われたら黙っていられないや」
「んだ?このガキ。イキナリへんな笑い声上げやがってよ。きもちわりぃんだよキチガイがっ!!!」
『っ!!!』『いったいなー』
イキナリ蹴ってくるとは酷いな。せめて申告位はしようぜ。大人なんだし。
「う、な、なんで蹴られて笑ってんだよ。お前気持ち悪過ぎだろ!!」
「怖いよお母さーん」
「やっぱり気が狂ってたんだよあのガキ」
「あんな奴生んだらそりゃあ死ぬよなw」
『黙れよ』
「あっ、なんかいっ!!!!」
この日、葬式は異例の事態により中止となった。
以下はその日の翌日の新聞の切り抜きである。
《葬式中の凄惨な事故》
2035年8月8日午後2時46分頃
宮城県H市の葬式場にて、天井の崩落事故が起こった。事故の原因は過去にこの葬式場の改築工事を承った会社のずさんな手抜き工事が原因と見られており、この事故で、幸い死傷者は出ていないモノも、重傷者が13名。軽傷者が23名と規模の大きい事故となっている。しかし、この事故においては、おかしな点も存在する。重傷者13名ともが、精神に異常を来しており、社会復帰できるかどうか危うい状態となっていたのだ。
彼等はしきりに『爆弾が、爆弾が』と呻いているが、現場の状況を調べた結果では爆弾などが使われた形跡は一切なく、それらしい物も見つかっていない。この事故により、問題となったのは実はこれだけではなく、事故の起きた葬式場にて行われていたのは先週トラックの衝突事故により事故死した多摩川夫婦の葬式だったのだが、その時に親族各位で、多摩川夫婦の一人息子、[多摩川未萩(タマガワミハギ)]君五歳の親権についての話し合いも行われる予定だったのだが、事故により、中止と。更に親族全員が精神に異常を来しているために、預かり何処がなく。現在里親を募集している。
宛先は以下に記載する。
最後の解説はまた、次回にて。
では、次回も宜しくです!
※一部訂正済み