ロリ提督から幼妻に転職する羽目になった   作:ハンヴィー

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 新型の『特Ⅳ型ミサイル駆逐艦』を受領して慣熟訓練を完了した後、俺の第二宙雷戦隊は、そつなく通常任務をこなしていた。

 近頃は、宙賊の活動も不活性で、粋がった隣国がヤンチャをしてくるようなことも無い。

 平和といえば平和なんだが、少し退屈だった。

 何も起こらず退屈ではあるが、人手が足りないせいで暇ではないという、何とも精神的にささくれ立つような日々が続いていた。

 退屈だ、つまんないだなんてぼやいていたところを、うっかりアデルに聞きとがめられ、こんこんと説教されたりもした。

 頭にきたので、嫌がる彼女を強引に着せ替え人形にして楽しんだりもした。

 猫耳美幼女はやはり素晴らしい。何を着せても様になる。

 更にアデルは、日本人的美幼女の摩耶と異なり、中東系の顔立ちのエキゾチックな美幼女だ。

 和服とのギャップが何ともいえない魅力を醸し出していた。

 とりあえず、定番の巫女服を着せて艦内でお披露目したところ、クルーには大好評だったので、またやろうと思う。

 本人は羞恥で顔を真っ赤にしていたが、それがまた堪らなくそそる。

 これからも、たびたび着せ替え人形にして楽しむことにしよう。

 

『ロリ。良いか?』

 

 任務を終えて鎮守府に帰還し、自室で耽っていると、東郷さんから通信が入った。

 

「なーにー? 今忙しいんだけど!」

 

 英国風メイド姿の摩耶に、様々なポーズを取らせながらスクリーンショットを撮影していた俺は、上の空で応じた。

 うむ。ブリムを装着してみると、某マンガの英国メイドみたいで中々良い感じだ。少し背は低いけど。

 

『軍令部よりお前にテレビ出演の命令が下った』

「……はぁ? なんだって? テレビ?」

『そうだ』

 

 モニターの向こうの東郷さんは、厳かに頷いた。

 『インペリアルセンチュリー』の世界には、現実と同じようなマスコミが存在する。

 偏向報道ぶりも現実のマスコミと同じぐらい酷く、バラエティー番組も、便所のネズミの空想以下のくだらないものが多い。

 それに出演しろとはどういうことなんだろうか。しかも、軍令部の命令と来たもんだ。

 その時点で、理由の如何は別にして俺に拒否権は無い。

 

「理由ぐらい教えてくれるよね?」

『ああ』

 

 東郷さんによると、俺が出演する番組は『男性社会に果敢に挑む女性たち』とかいう頭の悪そうなタイトルの情報番組モドキらしい。

 各分野で活躍する女性(笑)をスタジオに呼んで、理不尽な男性中心社会(と、彼らは信仰している)で、男性からの差別や嫌がらせに耐えながらも、健気に仕事に打ち込む女性を紹介するという内容……らしい。

 

「元々、軍令部は乗り気ではなかったのだが、宙軍省からの指令で、仕方なく適当な女性士官を出演させることになったんだ」

 

 なんでも、男性中心で閉鎖的(と思われている)宇宙軍で、男性に負けずに、こんな素晴らしい女性が活躍しているんですよ~みたいなアピールをして、そのイメージを払拭するのが目的らしい。あほらしい。

 

「話は分った。でも、なんで俺なんだよ。俺より相応しい奴は他にもいるだろう」

 

 綺麗どころの女性将兵(ウェーブ)なんて、探せばいくらでもいるはずだ。

 それこそ、軍令部の参謀士官の中にだっているだろう。

 いや、うちの艦隊にだって、うってつけの奴がいるじゃないか。白菊とか。

 あいつなら、テレビが求めているような模範解答だってお手の物だろう。

 

『なんでって、そりゃお前……その方が面白いからに決まってるだろう』

「なんだそりゃ」

『さっきも言ったが、元々軍令部は、このクソくだらない企画に乗り気ではない』

 

 ああ、東郷さんもくだらないと思ってるんだ。そりゃあそうだよな。

 でもね、中身が女性なんだからさ、クソなんて言葉遣いは、ちょっといただけないと思うよ。

 

『だから、せいぜい派手にぶち壊してやろうと考えたわけだ』

「それで、俺……?」

『うむ。お前、そういうの得意だろ?』

 

 失敬な言われようだ。

 俺だって、軍隊っていう組織の人間だ。

 公衆の面前で、やんちゃをしたりはしないぞ。たぶん。

 

『そういうわけで、軍令部総長が名指しでお前をご指名したんだ。喜べ』

「軍令部総長って、塚田さんが?」

 

 軍令部総長・塚田(つかだ) 二三男(ふみお)。八紘帝國宇宙軍の制服組のトップに立つ最高位の軍人だ。階級は、他国の大将に相当する軍令部総長たる宙将。つまり、軍部で一番偉い人だ。

 ちなみに外見は、筋骨隆々のマッチョなスキンヘッドの50代ぐらいのおっさんだたりする。

 そして、東郷さんと同じく、有名な廃プレーヤーの一人だ。なんでも、クローズドβの頃からこのゲームをプレイしていたらしい。

 もっとも、俺は顔と名前を知っているだけで、直接の面識は無い。

 面識は無いんだけど、向こうは俺のことを知っているのがちょっと意外だった。

 最近になって知ったことだが、ゲーム世界のネットの中では、俺はロリ提督と呼ばれて、軍事版には専用のスレまで立っているらしかった。

 もしかしたら、塚田さんはそういうところから俺の存在を知ったのかもしれない。

 ちなみに、婚約者である東郷さんのスレも立っており、こちらはロリコン提督と呼ばれている。

 

『軍令部は今の宙軍省と仲が悪いからな。いい嫌がらせになると考えたんだろう』

 

 宙軍省は現在、リベラルを標榜する左翼が政権与党に居座っている関係で、脳内お花畑のおっさんが宙軍大臣として居座っている。

 軍事に疎いだけでなく、国務大臣としての自覚にも欠けるどうしようもない能無しだ。

 何しろ、国会で質疑を受けている最中、コーヒーが飲みたいとかいう理由で、離席して大問題になったこともあったくらいだ。

 そのくせ、自称リベラルの常として、プライドだけは人一倍高く、根拠も無しに周囲の人間を見下そうとするから始末に終えない。

 もちろん、俺達制服組からの評判は最悪だ。

 俺が日頃から提案している辺境宙域の軍備増強案も、宙軍省が承認しないせいで、予算が下りないのだ。

 宙軍省は日本で言う防衛省にあたり、軍令部は統合幕僚監部にあたる。

 背広組と制服組の仲が険悪という、非常に憂慮すべき状況になっているのだ。

 

「まあ、話は分ったよ。上からの命令じゃ、逆らうわけに行かないもんな」

『すまんな』

 

 ちなみに、その番組は帝都で放映される全国ネットの生放送らしい。

 生放送と言っても、宇宙空間にも配信されるわけだから、時差は当然あるのだが。

 

「それで俺は、帝都までどうやって行けばいいんだ?」

 

 俺が今乗っている駆逐艦『あまつかぜ』は、軍艦なので、当然ながら官給品扱いだ。

 個人所有の船ではないので、訓練や有事以外で艦を動かすことは出来ない。

 艦を動かすのだって無料(タダ)では無いし、俺一人の都合で乗員を付き合わせるわけには行かない。

 ゲームを始めた頃に乗っていた自前の船は、軍隊に入ってからは処分してしまっているから、帝都方面に向かう定期便の輸送艦を捕まえて便乗するか、民間航路を利用するかしかない。

 民間航路を利用するのは、乗り継ぎが面倒なので出来れば勘弁して欲しいところだ。

 

『訓練航海で第一機動艦隊群の艦が一隻、佐世保に来ているのは知っているな。横須賀に帰還するそれに便乗してもらう』

「第一機動艦隊群の艦って……もしかして『そうりゅう』の事か?」

 

 第一機動艦隊群――通称・一群は、帝都橿原を指呼の間に望む惑星横須賀を根拠地とする機動打撃艦隊だ。

 帝都防衛の任を担っていることから、一般には近衛艦隊の名で知られている。

 一群の連中も、それを誇りにしているのか、プライドが高いところがある。

 メディアや民間人への露出が高いことから、帝國宇宙軍の広告塔としての役割も担っている。

 そして、俺達第二機動艦隊群(二群)とは、伝統的に仲が悪い。

 片や、メディアや国民の注目を多く集める、露出の高い小奇麗な艦隊。片やこちらは、辺境の最前線で領宙監視や宙賊退治に神経をすり減らしている即応艦隊。

 そんな関係から、俺達二群は連中を見掛け倒しの「張子の一群」と呼び、連中は連中で俺達を「脳筋の二群」と呼んでいる。

 もちろん、本気でいがみ合って足の引っ張り合いをしているわけではないが、互いにライバル心を剥き出しにしている事に違いは無い。

 俺は個人的に一群に思うところは無いけど、そういうこともあって、出来ればあまり関わりあいにはなりたくなかった。

 ちなみに、いま佐世保鎮守府に入港している『そうりゅう』は、帝國宇宙軍の第一機動艦隊群第一航空戦隊の旗艦を務める機動母艦――いわゆる、宇宙空母だ。

 そうりゅう型機動母艦の一番艦(ネームシップ)でもある本艦は、補用機を含めて200機もの艦載機を運用する大型空母だ。

 そうりゅう型は、帝國宇宙軍空母機動部隊の象徴とも言える艦で、一般公開や体験航海でも大人気だ。

 そいつをタクシー代わりに使えということらしい。

 

『乗艦申請はこちらで出しておく。お前は、自分の隊への引継ぎを済ませておけ』

「へいへい」

 

 東郷さんとの通信が終わると、俺は引継ぎのためにガンさんとアデルを呼び出した。

 

「どうだ。似合うだろう?」

 

 モニターに現れた二人に向かって、俺は英国風メイド服の裾を掴んで、貴族に対してやるような畏まったポーズをとって見せた。

 

『ふむ……悪くはありやせんが、大和撫子である提督には、やっぱり和服のほうが似合いやすぜ』

『……提督。まさか、新しい衣装を見せびらかすためだけに、私達を呼び出したのですか』

 

 ガンさんは顎に手を当てて品定めするように、アデルは眉間を揉み解しながら言った。

 対照的な二人の反応に思わず笑みがこぼれてしまう。

 俺は手短に、東郷さんからの話を二人に伝えた。

 

「……というわけで、なんかテレビに出なきゃならんことになった」

『はぁ。提督がテレビ出演……ですかい』

『まったく。いったい、宙軍省や軍令部は何を考えているんでしょうか』

 

 無理も無いことだけど、二人共、呆れている様子だった。

 

「まあ、好き勝手にやって良いって話だったから、せいぜい引っ掻き回してくるつもりだけどねー」

 

 何しろ、軍令部総長閣下のお墨付きなんだからな。

 

『そいつは、楽しみですな』

『変なことを考えずに、お行儀良くしてください!』

 

 ガンさんは愉快そうに口の端を吊り上げ、アデルは哀願するように言った。

 そんな二人に、俺は不在時の指揮系統を伝えた。

 

「俺が不在時の命令系統を伝える。ガンさんは司令官代理として戦隊の指揮を執ってくれ。ガンさんの乗艦『ときつかぜ』を臨時戦隊旗艦とする」

『了解しやした』

「アデルは、俺の乗艦『あまつかぜ』の艦長として、その間ガンさんの指揮下に入れ」

『了解しました!』

「じゃあ、そういうことで、よろしく頼む」

 

 必要事項を伝達し、通信を終える。

 そして俺は、再び自慰行為に耽るのだった。


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