ロリ提督から幼妻に転職する羽目になった   作:ハンヴィー

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タイトルを変えたらアクセス数が増えてびっくり。


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 帝國領内の定期航路ということもあり、『そうりゅう』の航海は順調そのものと言って良かった。

 特に何かしらのトラブルが発生することも無く、やがて、『そうりゅう』に搭載されている艦載航空隊の基地である惑星厚木の衛星軌道上に到達した。

 ここで艦載機を航空基地に降ろし、空荷になった状態で横須賀に向かうわけだ。

 俺は航空発令所で、航空隊の発艦の様子を見学しているところだった。

 

「惑星厚木の衛星軌道上に到達しました。これより、艦載航空隊の発艦作業を始めます」

 

 飛行長を兼任する南戸副長が、発艦シーケンスを説明してくれた。

 

「四本あるカタパルトのうち、今回使用するのは左舷(ひだりげん)側の一番カタパルト、右舷(みぎげん)側の二番カタパルトです。中央の三番、四番カタパルトの使用は、緊急時の全力(アルファ)出撃(ストライク)のみに限定されているので、今回は使用しません」

 

 俺はもっともらしくふんふんと頷きながら、説明を聞いていた。

 全力出撃の様子も見てみたい。一斉に出撃する艦載機とか、厨二病心を痛く刺激するよな。

 航空発令所の位置は、発艦用第二甲板後方に設置されており、発艦する艦載機を後方より確認できる位置にある。

 減圧が完了すると、艦前方の発艦用甲板を保護するためのシャッターが徐々に上がり始め、その向こう側に、宇宙空間と惑星厚木の姿が見えてくる。

 厚木の青い惑星光が第二甲板を照らす様子は、中々幻想的だった。

 

「一〇一飛行隊、発艦始め」

 

 飛行長でもある副長、南戸二佐の号令が降り、カタパルトデッキのエレベーターから主翼を折りたたんだ状態の『烈風』が二機並んだ状態でせり上がって来た。

 船外作業服に身を包んだ甲板作業員の誘導で発艦位置まで進むと、最初の機体が徐に主翼を展開していく。

 宇宙空間で行動する限り、本来であれば航空機の主翼に当たる部分は必要ないのだが、兵装搭載用のハードポイントとして利用したり、惑星上の航空基地に降りる際は、大気圏突入時の制動翼として機能する。

 主翼の展張が完了すると、いよいよ発艦だ。

 機体の背後から、甲板上のデッキクルーと機材を保護するためのブラストディフレクター立ち上がってきた。

 実際の空母の場合、甲板作業に従事するデッキクルーは、その役割ごとに色とりどりのカラフルなジャケットを身に着けている。

 このゲームでもその辺りを反映しての事なのか、甲板作業員の船外作業服は、黄色やら赤やら緑やらとかなり賑やかだ。

 やがて、黄色の船外作業服を身に着けた発艦誘導士官のハンドサインを合図に、電磁カタパルト上を一気に加速した『烈風』は、青白い推進剤の軌跡を描きながら、凄まじい速度で宇宙空間に飛び出していった。

 最初の一機が発艦すると、同じエレベーターで上昇してきた二番目の機体が間髪入れず発艦していった。

 最初の編隊の発艦が完了するころには、既に別のエレベーターから上昇してきた二機の烈風が、発艦位置まで誘導されていく。

 同じような手順で発艦準備を速やかに整え、後続機もすぐに発艦していった。

 洗練された無駄の無い流れ作業で発艦作業は続き、全ての艦載機は厚木航空基地へと向けて次々と発艦していく。

 やがて、『烈風』で編成された一〇一飛行隊の発艦が完了し、続いて『流星』で編成される一〇二飛行隊の発艦作業が始まる。

 『烈風』と『流星』は、共に敵航空機との格闘戦(ドッグ・ファイト)も敵艦や施設に対する攻撃の双方を行えるマルチロール機だが、どちらかというと『烈風』は制空戦闘機寄り、『流星』は攻撃機寄りの機体だ。

 現実に存在する軍用機で例えるなら、『烈風』がF-22Aラプター、『流星』がF-15Eストライクイーグルみたいな関係だろうか。

 そして、トリを飾るのは、早期警戒管制兼電子戦機である『彩雲』で編成される一〇三飛行隊だ。

 航空管制や電子偵察などを担う、艦隊や航空隊にとっての目となる最も重要な機体でもある。

『烈風』と『流星』が単座なのに対して、『彩雲』は操縦士とは別に航空管制を担当する士官と電子戦を担当する士官が乗り込むため、三座式となっており、他の二機種に比べて機体は大柄だ。

 機体上部の半埋め込み式ディスクレドームが目を引く。

 現実世界でもそうだが、電子戦機はその時代の最新テクノロジーと機密の塊だ。

 当然、お値段もそれなりにするので、飛行隊と言いつつも、配備されているのは10機にも満たない。

 

 先に発艦した二飛行隊同様、何の問題も無く作業は続き、最後の一機が発艦を完了した。

全飛行隊が発艦するまで時間にして、20分もかからなかったのではないだろうか。

 発艦用第二甲板の片隅に残っているのは、ハンドリング訓練用の用廃機のみだ。

 

「いかがでしたか、秋月一佐」

「いや、良い物を見せてもらった。ありがとう、副長」

 

 俺が礼を述べると、南戸副長は「どういたしまして」と微笑んだ。

 艦載機を下ろして空荷になった機動母艦『そうりゅう』は、母港であり、第一機動艦隊群の根拠地である横須賀鎮守府へ向かうべく、進路を変更した。

 

 

 

 発艦作業を見学した後は、特にすることも無いので、自室の舷窓から外の様子をぼんやりと眺めて過ごした。

 

『浦賀回廊に進入。見張りを厳と為せ』

 

 室内のスピーカーから、そんな声が聞こえてきた。

 帝國領内は航海の難所が数多く存在している。

 宙域によっては、天体の重力バランスの影響で小惑星が密集し、航路が制限される箇所が多々ある。

 それらは回廊と呼ばれ、惑星横須賀のある星系に通じる浦賀回廊は、特に航海の難所として知られている。

 回廊自体が狭い上に、行きかう民間船舶の数が非常に多いからだ。

 舷窓の向こうには、『そうりゅう』と同じぐらいの大きさの民間タンカーが反航しているのが見えた。

 時には、手を伸ばせば届きそうなぐらいに接近することもあり、なかなかタマヒュンものだった。

 航海艦橋では、艦長や副長、航海長らが、監視と操艦に多大な神経をすり減らしていることだろう。

 やがて、そんなスリリングな時間も過ぎ去り、『そうりゅう』は惑星横須賀の静止軌道上に浮かぶ横須賀鎮守府との会合軌道に乗った。

 

『秋月一佐。間もなく横須賀鎮守府に到着します。下船準備をお願いします』

「わかった」

 

 まあ、準備と言っても、手荷物程度で大したものは無い。

 俺は手早く荷物をまとめ、自室として使っていた士官用個室を出ると、その足で航海艦橋へ向かった。

 艦長に退艦前の挨拶をするためだ。

 航海艦橋では、副長である南戸二佐を伴い、晴山艦長が艦長席で指揮を執っていた。

 

「晴山艦長。短い間だったが世話になった」

 

 艦長に向かって、海軍式の敬礼をしてみせる。

 

「ふん。別に私は何もしていないがな」

 

 相変わらずの拗ねたような表情で、子供艦長は無愛想に答礼を返した。

 

「なに、唯の社交辞令さ。私も貴官に世話になった覚えは全く無い」

 

 しれっと言い返してやると、艦長は鼻白んだように言葉に詰まった。

 隣に立っている副長が僅かに肩を震わせている。

 

「もう、艦長ったら。そういうときは、スマートに軽口の一つでも返すのが礼儀ですわよ?」

「そうだぞ、艦長。宇宙(うみ)の男なら、減らず口の一つや二つ、すぐに叩き返すぐらいじゃないといけない。戦場では何が起きるか分からないのだ。突発時におたついているようでは、艦を沈めることになるぞ」

「うぐぐ……」

 

 俺だけではなく、副長にまで駄目出しされてしまった艦長は、不満げに口をへの字に折り曲げた。

 なんだか、子犬がむくれているようで微笑ましい。

 そっちの趣味がある人から見れば、結構クル表情だ。

 もしかしたら、こういうところが、この艦に女性将士が多い一因なんだろうか。

 副長の表情を見る限り、俺の想像は、あながち間違っていないかもしれない。

 そうこうしているうちに、『そうりゅう』は軍港への入港を滞りなく完了した。

 

「副長。世話になった」

「いえいえ。大してお構いも出来ませんで」

 

 副長と艦内を案内してくれた先任伍長が、昇降タラップまで態々見送りに来てくれた。

 二三言葉を交わした後、俺は二人の敬礼に見送られて、『そうりゅう』より退艦した。

 

「ひえー。やっぱり、横須賀はでかいなぁ……」

 

 軍港区画に降り立った俺は、そんな間抜けな歓声を上げてしまった。

 戦艦や空母といった大型艦を数多く配備している第一機動艦隊群の根拠地なだけあってか、佐世保鎮守府の軍港区画より圧倒的に広い。

 ざっと見渡してみると、戦艦や空母といった大型艦が数多く係留されている。

 『そうりゅう』が横付けされている反対側に係留されているのは、同型の機動母艦『ひりゅう』だ。

 その向こうには、『ひりゅう』に隠れて全景が確認できないが、戦艦クラスの大型艦艇が何隻も係留されている。

 この世界のミリオタが狂喜しそうな光景だ。

 とりあえず、ここで突っ立っていても仕方が無い。

 ここからは、帝都橿原までの足を捜さなくてはいけない。

 俺は手続きを済ませて横須賀鎮守府を後にすると、民間定期船の発着区画へと足を向けた。


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