ロリ提督から幼妻に転職する羽目になった   作:ハンヴィー

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 靖國星系は、横須賀がある相模星系や帝都がある橿原星系とは、ほぼ同じ距離にある星系だ。

 五つの惑星を持つ星系で、その第四惑星が、この星系唯一の居住可能惑星の霊星靖國だ。神社もそこに建立されている。

 首都圏ということもあり、また、神社が建設されている地域は、季節を問わず桜の名所になっていることもあって、普段から観光目的で訪れる人は多い。

 俺が乗った民間船に意外と乗客が多かったのそのためだろう。中には、俺と同じような軍人の姿もちらほらあった。

 やがて、定期船は定刻通りに横須賀を出発した。途中でカボチャマスクのテロリストが乗り込んでくるなんてハプニングもなく、無事に靖國の軌道ステーションに到着した。

 俺自身は靖國に訪れるのは、これが初めてだ。

今まで機会が無かったからということもあるが、あんなことが無ければ、訪れることもなかっただろう。

士官大学校出の士官は、授業の一環として靖國神社を詣でるらしいので、三笠さんは学生時代に来たことがあるかもしれないな。

 まあ、どこの国の士官学校でも、自国の成り立ちや歴史についての見識を深めるうえで、こういった施設を見学するのは至極自然なことだ。

 宇宙港を出ると、すぐ正面に神社の大鳥居が見えた。そのまままっすぐ進むだけで、神社に到着できるのはありがたい。道に迷わなくて済む。

 

「おお……」

 

 早速満開の桜が目に入り、思わずため息が漏れてしまう。

 何でも、品種改良で生み出された桜で、一見するとソメイヨシノだが、惑星の季節にかかわらず、通年咲き誇っているらしい。

 夏の暑い日も真冬の寒い日も桜が咲き誇っているのは、前世の感覚からすると、ちょっと微妙な感じがしないでもない。

 桜に限らず、花っていうのは、見られる期間が決まっているからこそ、価値があると思うんだけどな。

 

「うげ」

 

 神社に向かって一歩踏み出した時、俺は思わず顔を顰めた。

 神社に続く歩道の一角に、平和活動家の皆様方がたむろしていたからだ。

 人数はたったの五人。全員が、枯れ枝のような爺さん婆さんだ。

 全員で抱えている横断幕には、これまた気色の悪いゲバ文字で、皇室解体とか、帝國軍解体とか、戦争反対とか、世界平和とか、そんな痛々しい文言がしたためられている。

 ビラを配るわけでもなく、拡声器でがなり立てるわけでもなく、唯々無言で横断幕を抱えて佇む姿がなんとも不気味だった。

 サイレントマジョリティ(笑)とか、無言の訴求力(笑)とか気取っているんだろうか。だとしたら、完全に逆効果だと思う。

想像してほしい。妙な爺さん婆さんが、妙な横断幕とのぼりを掲げて突っ立っている様を。気味が悪いの一言に尽きる。

 まあ、静かに立ちんぼしているだけなら別に良い。騒ぎ立てると、カウンターの右翼が湧いたりして収集がつかなくなるからな。

 行きかう通行人の殆どは、そいつらを見て一瞬ぎょっとするが、目を逸らして足早に通り過ぎていく。一部、興味深そうに観察した後、苦笑とも失笑ともつかない笑みを浮かべ去っていく人もいた。

 もちろん俺も関わり合いになりたくないので、目を合わせずにそそくさと通り過ぎることにした。身バレすると面倒なので、軍帽を深く被り直すことも忘れない。

 他の通行人に紛れて、連中の前を通り過ぎようとしたとき、ジジババ共が、横断幕を広げたまま、俺の前に立ちふさがってきた。

 横断幕を俺の眼前に突きつけるようにして、通せんぼしてくる。

 

「何か?」

「……」

 

 俺の問いには誰も答えず、無言で俺を囲むようにして進路を妨害してくる。

 もしかして、軍人の俺にセンソーハンタイでも訴えているつもりなんだろうか。

 口を利いてくれないことには確認のしようがない。

 それにしても、どうしようか。

 大勢の通行人が足を止めて、物珍しそうにこちらに注目しているのがわかる。

 少し考えた結果、国家権力に頼ることにした。

 

「……もしもし。警察ですか。変な人達に絡まれているんですが」

 

 携帯で手短に要件を伝えると、すぐに駆け付けるとの回答があった。

 ちなみに、携帯は俺個人の所有物ではなく、軍から支給されている専用のものだ。

 つまり、軍からの要請ということになるので、警察としてもすぐに動かざるを得ないわけだ。

 

「け、警察に連絡しても無駄だ! 俺達は道路使用許可を得てるんだからな!」

 

 おっ。ようやく口を利いてくれたな。

 躊躇なく警察を呼んだことに動揺したのか、爺さんの声は若干震えている。

 道路使用許可を取ってるなんて、パヨクのくせにちゃんと道交法守って偉いじゃないか。

 だけど、往来の邪魔をして良い理由にはならないぞ。

 

「通行の邪魔していい理由にはならないだろ……」

 

 通行人の一人から、まさに俺が思った通りの、至極真っ当な突っ込みが入った。

 全くもって、その通りです。グッジョブ。

 

「ところで、私にだけこんな事をするのは何故ですか?」

 

 それまで、大人しく立ちんぼをしていたジジババ共が、俺が通り過ぎようとしたときだけ、通行を邪魔してきた。

 俺が軍人だから嫌がらせをしてきたのは明白だ。

 そしてあわよくば、俺が強引に突破しようとした時に、大袈裟によろめいたり倒れたりして、軍人に暴力を振るわれたとかなんとか言って、嬉々として大騒ぎするつもりだったんだろう。

 加害者のくせに被害者ぶるのは、この手の輩の専売特許だからな。

 

「それは、あなたが軍人だからよ!」

「軍人に対する職業差別ということですか?」

 

 山姥みたいな婆さんが、金切り声で叫んだので、即座に突っ込みを入れてやった。そしたら婆さんは、返答に窮したように押し黙った。

 

「差別なんですか? 平和活動家の皆様方は、差別主義者なんですか?」

 

 ちょっと面白くなってきたので、底意地の悪い俺は、彼らが大好きな「差別」という言葉を強調しつつ、婆さんに詰め寄った。

 哀れな年寄りを虐めるのは本意じゃないが、ここまでされたら、さすがに一言二言言ってやりたくなる。

 

「どうなんですか。さっさと答えてください」

「う、うう、うるさい! 強者に対する差別は差別じゃないのよ! 軍隊は国家権力だから良いのよ! 口答えするな!」

 

 想像の斜め上の論理が飛び出してきた。

差別に良いとか悪いとかあるのか。これは新しい知見だ。

 そういえば、前世でも似たような事を言ってる活動家が居たような気がした。

 なんちゃらしごき隊? とか、そういう名称だったような。うろ覚えだけど。

 

 そんな噛み合わないやりとりを繰り広げているうちに、お巡りさんがおっとり刀で駆け付けてくれた。

 すぐさま、俺と老人達の間に割って入って引き離してくれた。

 日本の警察と違って、きちんと仕事してくれるのが大変助かる。

 俺がか弱い女の子ということもあってか、婦警さんが俺の対応をしてくれた。

 当たり前のことだが、特に反抗するようなことはせず、淡々と起きた出来事を説明した。

 一方の老人会の連中は、何のかんのと言い訳をした挙句、興奮した爺の一人がのぼりで警官を叩いてしまい、公務執行妨害でドナドナされて行った。

平和活動家のくせに、暴力に訴えるなんて本末転倒だよな。

 さっきの発言に照らし合わせるなら、国家権力相手に行使する暴力は、良い暴力ってことなんだろうか。

 そういうとこだぞ。お前らが国民からの支持を得られないところは。まともな神経の人間は、ダブルスタンダードが嫌いなんだからな。

 そもそも、なんでこんなところで立ちんぼなんぞしていたんだろう。

 どうせ抗議活動をやるんなら、議事堂の前でやればいいのに。

 何にせよ、俺にはもう関係の無いことだ。

 心の中でそいつらに対して中指をおっ立てた後、俺はそそくさと神社へ向かった。

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