続きません、ほぼ確実に。
思えばよくよく不思議なこともあるものだ、と桐生一馬は思った。
以前は真島の兄さんと一緒にいろんな世界の連中と、いろんな世界を旅したものだが、今回もそう言った類いの物かと思ってしまう。
確か自分は、最愛の人の愛娘、遥に見守られ意識を失ったまでは覚えている。朦朧とする意識の中で、雪が降りしきる冬の町並みを見上げ、今思えば上半身裸などと言う、我慢大会にも参加しているのかという格好で居たのも可笑しな話しだ。
自分をおじさんと慕ってくれた、アイドルへの路線に乗ったあの娘が必死に呼びかけてくれたものの、それからがハッキリせず、どうしてこんな所に居るのか?それすらも解らない。
なにせ
「……どこなんだ?ここは。」
見渡す限り森林という、都会の街中とはかけ離れた場所なのだから。
「俺は…たしか東城会本部から出てきて…それから……」
駄目だ、思い出せない。
脱いでいたはずだったいつもの服も、いつの間にやら着用しているし、抜け落ちた間の記憶が何なのか、どうやってここまで来たのかすら解らない。
「…とりあえず…歩くか。…何処であれ、まず人の住んでる場所を探さねぇとな。」
思い立ったら行動に限る。地面に手を着いて、起ち上がろうとする。その時、手にあたる硬いものが気にかかった。視線を移せば、桐生もよく知る物であった。
「刀か?…どうしてこんな所にあるんだ?」
黒く塗られた鞘、雅な形に整えられた鍔。しかしひときわ目を引くのは、柄の中腹に埋め込まれた紅い宝石だ。こんなもの見たことない。それに何やらスイッチみたいな物もある。
「何だか訳が分からねぇ刀だが…護身用に持っていくのもありだな。」
大抵の相手は拳で何とかなるが、いざという時に刀は有り難い戦力に変わりない。腰のベルトに差し込むと、どこへともなく歩き始めた。
その日、リーズシャルテ―通称リーシャ―は御機嫌だった。昼食が好きなメニューだったとか、制作中の機竜が上手く組み上がったとかよりももっと良いことだ。
「ふふっ…ルクスのヤツ、ワイバーンの整備を一緒にしたいなんてな。私と二人きりになりたい口実なのか?…ストレートに言われたい気もするが、それはそれで恥ずかしいしな…まぁ良い。」
何せ、恋い焦がれる少年からのお誘いなのだ。しかもリーシャには自分のラボがあるし、そこを場所にこちらから提案した。
つまり!
二人きり!
(うむうむ!最近は嫌に積極的に誘惑するクルルシファーや、天然巨乳誘惑系幼馴染みのフィルフィー、更には寂しがり屋系団長のセリスティアと…まぁ私ほどではないが、ルクスを慕う奴らも居る。…一応念のために妹のアイリにも気を付けて―だ。この機会に…えっと…好感度?と言うヤツを稼がねばな。)
トライアドの1人に教えられた謎の言葉が妙にしっくりくる。これから二人きりの時間なのだ。それを楽しみにせずに居られようか!いや、ない!
独りでにスキップでも踏みかねないほどのニコニコ笑顔で、準備のためにラボへと向かう。
しかし、
二人きりの予定は…辛くも崩れ去る。
「…なんだ?あれは。」
ラボの陰。そこに何かが俯せて居るのだ。
興味が少なからず湧いたリーシャは、軽い足取りのまま、それに接近していく。
「人…なのか?それも男?」
男。基本的にアカデミーは女生徒、女教諭でほぼ構成されているだけに男、それも成人男性が敷地内にいることにリーシャは訝しげな視線を倒れた男性に向ける。黒い髪に白いジャケット。それも所々薄汚れており、良い生地が台無しだ。
「…何だろうな。これは…介抱しろと言うことなのか?」
「どうかしたんですか?リーシャ様。」
如何したものか、と思案していたところ、待ち人たるルクスが背後より声を掛けた。
「あぁルクス。その…あれ、なんだが…。何だと思う?」
振り返って肩越しに、件の行き倒れを指さす。
「何だと…って、人が倒れてるじゃないですか。」
「そ、それはそうなんだが。ふむ、人手も2人なら何とかなるか。おいルクス。私のラボまで行き倒れを運ぶぞ。」
「え?あぁ、そうですね。」
確かに、鍛えているがリーシャ一人では大人1人運ぶには難しいだろう。多少小柄なれど、ルクスとて男。ただでさえ負担の大きい神装機竜たるバハムートを操っているだけに、その身体はかなり鍛えられている。
「よし、ルクスは左、私は右だ。頼むぞ。」
「はい。行きますよ。せーのっ!」
持ち上げた男の身体はかなりがっしりしており、筋肉質だった。それだけに体重もずっしりとのし掛かり、予想以上の重量に2人は苦悶の表情を浮かべる。
「お、思ってたより重いな…こいつ…。」
「り、リーシャ様。無理はしないで。」
「なんの!伊達にアカデミーに通ってはおらん!気張るぞルクス!」
背も高いからか、ずるずるとエナメルの靴の跡を残しながら、なんとかラボへと辿り着いた。
「…特に外傷はありませんね。…さっきからお腹の虫がなっているので、文字通り生き倒れでしょう。」
「後で食堂で何か貰ってくるか。…とりあえず暫く様子見だな。」
紅茶を2人分淹れながら、少々ブルーな気持ちを抑えつつ、リーシャはソファに寝かされた男の様子を見る。見たところ…40~50歳だろうか。彫りの深い顔は、渋い、と言う言葉がしっくりくる。
「…にしても、コイツの背中、凄い物が書いてあったな。…あぁ言うのをなんて言うんだっけ?」
「入れ墨…でしたか?見たこともない生き物でしたが。」
「見たところ、トカゲか蛇に見えたぞ?少々厳つく見えたがな。」
外傷の確認のために服を脱がせた時に目に入った、2人にとっては見慣れない絵が描かれた背中。
しかしルクスにその生物はどこかで見た覚えがあった。
(似たようなのが…どこか、どこかの文献で…)
思い出せそうで思い出せない。もどかしい思いが駆け巡る中、低い男の唸り声が耳に響いた。
「ん……どこだここは…?」
ゆっくりと、そして頭を押さえながら、件の男は寝かされていたソファから起き上がる。
「お?気付いたか?気分はどうだ?」
「ん、少し頭が痛ぇ位なもんだが。所でお前らが…俺を?」
「まぁ…運んだだけなんですが。あ、僕はルクス・アーカディアです。」
「私はリーズシャルテ・アティスマータ。リーシャとでも呼ぶが良い。」
控えめに自己紹介するルクスと、対照的に胸を張ってのリーシャ。対面するソファに隣り合って座る2人に、彼もソファに座って口を開く。
「俺は…桐生、桐生一馬だ。」
「キリューさん…ですか?」
「そっちは姓になるんだが…まぁそっちで構わねぇ。好きなように呼んでいいぜ。」
「じゃあキリュー。」
いきなり呼び捨て!?明らかに年上の桐生に惜しげもなく呼び捨てするリーシャに、焦るルクス。王女である彼女には、それが割と普通なのかも知れないが、それにしても初対面の相手にそれは…。
「聞きたいことがあるんだが…、なんでこのアカデミーに?見たところ生き倒れみたいだが。」
「森を歩いてたら建物が見えたんで入ったんだが…、そのアカデミーって言うのは、名前からするに学校か何かか?」
「そうですね。…有り体に言えばそうなるんでしょうか?ここは
「…なんだ?その…ドラグ…ナイト…って言うのは。」
「呆れた…
初めて聞く単語に、桐生は怪訝そうな顔をする。新しい極道の間で取引でもされているシャブか?だとしたら、それを育成する学校ってのは、途轍もなくヤバいところになる。目の前の年端もいかない2人がその育成に関わっているとなれば…。世も末だ。どれだけ非合法な学校か。
「えっと…なんか、勘違いしてませんか?」
「駄目だ駄目だ!ガキの内からクスリに手ェ出すと、碌な人生にならねぇ!今の間に足を洗え!」
「「え、えぇぇぇぇっ!?」」
やはり根本的なところからおかしい、変な男だと、ルクスとリーシャの心中は合意した。
かれこれ勘違いを解くのに時間を掛けてしまい、それは場を和ませるためにティーポットに淹れたお茶も空になる程だった。
「…つまりキリューさんは、神室町…って場所に居たはずが、いつの間にか裏手の山に居た、と?」
「簡潔に言えばそうなるな。」
「しかし神室町か…、そんな街、アティスマータ新王国はともかく、他の国でも聞いたことないぞ?」
「…なんだと?」
そう言えば桐生も彼女の言うアティスマータ新王国、と言う国も、地球において聞いたこともない。と、なれば、桐生の中に嫌な予感がよぎるのは、もはや至極当然か。
「じゃあ俺は、
「その『また』と言う部分にいたく興味をそそられますが、僕も同意見です。」
まだ確定したわけではないが、ルクスと同じ見解に至っただけに、少々気落ちしてしまう。
どうにか気持ちする為に、懐から煙草を一本取り出して咥える。
「…おいキリュー。ここは私のラボだ。可燃物も多々あるんだから、火気厳禁。吸うのなら外にしろ。」
「…そりゃ悪かったな。」
この歳でラボを持たせて貰えるだけに、それを大切にしているリーシャにとって、もし何らかの間違いでそれが失われたとあっては発狂物だ。ましてやここに数多鎮座する研究中の
「別世界、か…。」
ぷかぷかと口から吐き出される白い煙が青い空へと消えるのを見ながら、ポツリと呟く。真島吾郎と旅した数多の世界。そこでは悪魔もさることながら、吸血鬼に妖狐、レプリロイドに猫娘、霊媒師に弁護士、と巡り巡った数多の世界。最後の人種がなんかおかしいが、何だか真島の兄さんと知り合いだったみたいだし、『センセ』とあの真島スマイルで親しげに話していたのを覚えている。それだけに異世界自体は今さら感もある気がするものの、また知らない世界に飛ばされるのも、何か呪いでも受けているのかと思ってしまう。
「ま、来ることが出来たんだし、帰ることも出来ると思えば少しは楽になるかな。」
思いにふけていたら、大分短くなった煙草。懐から携帯灰皿を取り出すと、吸い殻を中に投棄する。士官学校といえども、学校には変わりない。しかも未成年ばかりなのだから、敷地内に煙草の吸い殻が落ちていよう物なら、全校集会物か荷物検査と言った学校全体を巻き込みかねない問題になってしまうだろう。
「学校か…。随分急ぎ足で卒業したからな…、どう過ごしたのかあんまり記憶がないぜ…。」
高卒と同時に風間のおやっさんの背中を追って、錦と一緒に極道へ踏み込んだあの時が懐かしい。
「…フッ、柄にもねぇな。…ん?」
目の前に桐生と同じくらいの、黒い、翼の生えた異形の生物がいた。
「…何だコイツは…。」
その翼はコウモリ。
四肢の爪は人を容易に引き裂けるであろう程に鋭利。
口許と思しき所には骨を難なく砕くだろう重厚且つ鋭い牙。
そして目は…赤く、しかし桐生をじっと見据えて離さない。
ルインと呼ばれる遺跡より現る敵対生物。
しかし桐生は、
しばし睨み合う両者。
静寂が破られたのは、奴が桐生へ爪による刺突を仕掛けてきたときだった。その翼から生み出される羽ばたき一つで、凄まじいまでの速力を生み出し、瞬時に桐生との距離を零にする。突き出された爪に突かれれば、生身の人間にはひとたまりもない。
しかし、爪は桐生の腹を貫くことはなかった。
サイドに一歩、素早く避ける。無意識に。
長年戦いに明け暮れた彼にとって、人生その物がトレーニング。それだけに敵意を向けた攻撃には無意識に回避行動が出る。
避けたはいいが、その殺人的な刺突は、煉瓦造りのリーシャのラボの壁を貫くに至ってしまった。
『ぬぁぁぁあああっ!?!?なんだ!?曲者かっ!?者共!!出会え!出会えぇい!!』
…壁を壊されて、昔の時代劇の悪代官のように狼狽えるリーシャの声が、穴の空いた壁越しに聞こえた。
「…しらねぇぞ、俺は。」
「グルル…。」
こっちも知らんと言わんばかりに唸るアビス。手を壁から引っこ抜くと、再び桐生を正面に捉える。…どうやらお望みは桐生のようだ。
「…チンピラ以外と暫く戦ってねぇんだがな…。」
ゴキゴキと、首や指の関節を解すと、構えた。
「…来ぉい!!!」
「ルクス…ラボが…私のラボがぁ……!」
「リーシャ様…その…お気を確かに。壁なら僕が直しておきますから!ね?」
「…傷付いた私の心も癒やしてくれぇ…。」
ラボに穴を開けられ、傷心したリーシャを慰めながら、ルクスは外の様子を伺いに急ぎ足で出て来た。先程見えたあの腕は、恐らくはアビス。侵入の知らせがなかったのが変な物だ。しかし、ルクスの学園編入を掛けたリーシャとの決闘の時も同じような状況だっただけに、このおかしな現象に違和感を抱かざるを得ない。
だが今は、アビスが現れていることに観点を置かなければならない。外には桐生が居る。それだけに無事を確認しないと…。
穴の空いた壁の面へと差し掛かったときだった。
「オ ラ ァ ッ!!」
ルクスは唖然とした。隣にいたリーシャも言わずもがな。目の前で繰り広げられる
「ルクス…。」
「な、何でしょうリーシャ様。」
「アイツは…キリューは超野菜人か?」
「知りません。というか知ってはいけない領域です。」
目の前で鈍い音と共に叩きのめされるアビス。それを行うのは、素手の桐生。人間サイズとは言え、生身の人間には太刀打ちできないはずのヤツを、拳で、そりゃもうぼっこぼこにしていたのだから。
ダメージが蓄積したアビスは地に倒れ伏した。
しかし桐生は容赦がない。
倒れ伏したのを良いことに、その側頭部から生えている角を引っ掴むと、無理やりに上半身を引き起こす。まるで背筋を鍛えているかのように、アビスの身体はシャチホコのような見事な反りを見せる。
「オラどうしたぁっ!?」
そのまま後頭部に渾身の蹴りが打ち込まれ、アビスは地面を擦りながら10メートルほど吹っ飛んだ。
「お前、容赦ないな。」
「やらなきゃやられていたしな。…所でアイツは何なんだ?新手のモンスターか?」
「知らないでやっつけたんですか!?」
ルクスの突っ込みもそこそこに、甲高い雄叫びが周囲に木霊した。
それはルクスにとっても、リーシャにとっても、そしてアカデミーに通う生徒にとっても畏怖のもの。
蒼天の空に広げられる漆黒の翼は悪魔のそれだ。それだけにつけられた名は…。
「「ディアボロス…!」」
かつて
「リーシャ様!」
「うむ!さしもの奴は、神装機竜を使わざるを得ないな!」
ルクスは白の、そしてリーシャは赤の
だが、目の前に居る男は、巨大なディアボロスを見てなお退こうとはしない。
「おいキリュー!下がれ!ディアボロス相手にはいくら野菜人のお前とて…!」
適うはずがない。
そう言葉を紡ぐつもりが、リーシャも、そしてルクスすらも言葉を無くす。
桐生がベルトに差していた日本刀。それを抜刀した。その刀身に打たれた見事なまでの紋が太陽に煌めき、神々しさを放つ。
「何でだろうな。…コイツが自分を抜け。そう言ってるんだよ。」
「キリューさん。なんで
「ソース焼きそばだか何だかわからねぇ。けどこいつならやれる…!そう確信してるんだ!」
桐生は、まるで扱い方を知っているかのように刀を天に構える。
否、桐生は知っているのではない。頭に『流れ込んでくる』のだ。そしてそれはおそらく…この刀から。
「来い!天地を駈け、嵐雨を呼び、天馬を生みし四龍の長!俺の刀の元に顕現しろ!応龍!!!」
軽く反った銀の刀身が、黒く、しかし禍々しさはない光を帯びる。
一瞬、耳鳴りのような金属音が響いたと思えば、桐生の眼前に、ルクスのバハムートとは違う、漆黒の神装機竜が顕現していた。
「へぇ…これが神装機竜か。…中々ご機嫌じゃねぇか。」
「キキキキキリュー!そ、その神装機竜は何なんだ!?」
さしものリーシャも驚きを隠し得ない。異世界から来たはずの男が、なぜが機巧殻剣を持っていて、果てには神装機竜まで…。
「何なんだ、って言われてもな。…こいつの名前は応龍って言うらしい。」
「い、いや、そう言う意味ではなくてな。」
「っ!キリューさん!」
ディアボロスが桐生の背後より、その鋭利な爪を振りかざしていた。ルクスの咄嗟の叫びにより、左腕部で難なく受け止める。
「…結構頑丈そうだな。」
余り衝撃もない。それに気をよくしたのか、そのまま右ストレートをお見舞いする。
ボキャア!という、なんかエグい音共にディアボロスは吹き飛ばされ、結果として距離を取る。
「え、えっと…。」
「かなり装甲が厚いみたいだ。今の動きからも腕部の稼働も滑らかだし…。フィルフィーの
「んなめちゃくちゃな。」
桐生の格闘戦においてはディアボロスも一方的にやられるばかりだ。その甲殻はヘコむわ、口からは人間で言う血だろうか?なんとも名状しがたい色の液体が飛び散るわ、阿鼻叫喚その物だった。
しかし、小都市を一匹で滅ぼすと言われるディアボロスとて、何もしないわけではない。
その翼を一つはためかせ、距離を取る。
恐らくは桐生に近接格闘以外の戦い方が出来ないと考えたのだろう。そして一旦体勢を立て直そうというのか。
「や、やはり私もティアマトを…!」
「いえ…リーシャ様。その必要はなさそうです。」
「え?」
焦燥し、パスコードを詠唱しようとしたリーシャを止めたルクス。彼女もキョトンとした表情でルクスと、そして応龍を纏う桐生を見やる。ルクスの言う援護の必要がない。それは彼の機の右手に集まる粒子だった。
光が模った物。それは
「また、お前を持つ日が来るとはな。」
蒼い炎の如くオーラを纏った狙撃銃。アンチマテリアルライフルを極限まで改造し、常人では到底扱いきれないであろう狂銃『応龍銃』。神装機竜に合わせてリサイズされているのか、巨大な腕部にしっかりとグリップを握り、トリガーに指を掛けてある。
本来、その巨大な反動とブレを無くすために、伏せ撃ちを基本とする物だ。しかし桐生はとある騒動の際には移動しながらのぶっ放しを披露するなど、人外染みた扱いをしていた。それだけに、神装機竜に合わせた対物狙撃銃ともなれば、その威力は…
「そこだぁっ!!」
耳を劈かんばかりの轟音が鳴り響いた。神装機竜越しにスコープをリンクさせていたので狙いは容易。
空気を裂き、その鋭利な弾丸は、ものの見事、そしていとも容易く、ディアボロスの翼を撃ち抜いた。しかも、その弾丸の弾痕のみならず、その纏った衝撃によって、右翼の翼膜が大砲を喰らったかのように大穴が空く。
「ん……?なんだ?△…?」
視界に投影された緑色の△。そしてその右隣に『極』の文字。
なぜだか…桐生にとって見慣れたもので、さも当然のように発動許可する。
「な、なんか、あの銃といい、神装機竜といい…蒼いオーラを放ってないか?」
「そ、そうですね…。もしかして…神装…でしょうか?」
応龍に備えられた神装。それは『
桐生の闘志が、神装機竜を通して大気に伝達し、ビリビリと空気を震わせる。
「ぬぅぅぅっ!!」
溜めに溜める。その彼の変貌にディアボロスは本能で危険を察知したのか。
このままではまずい、と。
それだけに先手を打つ。
潰れた翼を酷使し、落ちた速度ながらも桐生へ肉薄する。
しかし、桐生は待っていたのだ。
相手が間合いに入る瞬間。
そこに撃ち込むべき一撃を。
「オ ラ ァッ!!」
右足に篭められた闘志。それは余りに暴力的で。
放たれた闘志を、神装機竜の装甲を通して注ぎ込んだ渾身の上段回し蹴り。
そしてそれは、
強固なディアボロスの甲殻を、
肉を、
骨を容易く砕き。
否、
頭部その物を消し去った。
その際限ない一撃は、見るも粉々に頭部を消滅と思わせるほどに砕いたのだ。
圧倒的なまでの破壊力。唖然とするルクスとリーシャ。ディアボロスを、タイマンで、完膚なきまでに叩き伏せた。
「ルクス…。」
ノドから何とか言葉を絞り出したリーシャ。
「な、何でしょうか?」
同じく、言葉を失っていたルクスも、何とか声を捻り出す。
「何なんだろうな、あれ。」
「きっと神室町って街で鍛え上げられたんですよ。…闘争の絶えない街なのでしょうね…。」
あたらずも遠からず。目の前にいる伝説の極道。その力に震撼を隠し得ない2人。
対し桐生は、どこか晴れやかで、清々しいまでの笑顔を浮かべていた。
後に『