閃の軌跡3してて思い浮かんだネタ
彼女が『記憶している』中で、最初に視界に入ったもの。
それはガラスの容器に満たされた液体越しに映る機械と、それに映し出される計器の数値に目を光らせる白衣の男達だった。
目を開けたと共に、ある者はまるでサッカーのシュートを決めた選手のように薄暗い部屋で天を仰ぐかのごとく歓喜し、ある者はほかの男とがっちり握手する。
…まるで、彼女の目覚めを祝っているのかと思わざるものだろうがしかし、彼らの眼を見れば、その言葉は違っていることは明白であった。
皆、狂気に満ちていた。
まるで何かに取り付かれたかのように、血走り、恍惚に満ちた眼で彼女を見る。ガラスに張り付き、嘗め回すかのように見詰めてくる。
端から見れば、気色のよいものではないのは確かなものだが、生憎と目覚めたばかりの彼女にはそれに何らかの感情を芽生えさせることはなく、満たされた液体の中で、まるで胎児のように身を丸めて再びまぶたを閉じ、意識を水疱のごとく霧散させていった。
次に目を覚ましたときには、目の前は真っ赤に染まっていた。
相も変わらず、ガラスの容器…ポッドに満たされた液体の中に浮かんでいる身体には変わりない。
だが、目の前で起きた……
いや、
現在進行形で起きていること。
それが彼女にとっては理解しがたい事だった。
屈強ではないにせよ、大の男達をたった一人の女性が、文字通りに次々と血祭りに上げているのだから…。
ジョインジョインタバネェ
デデデデザタイムオブレトビューション バトーワンデッサイダデステニー
ナギッペシペシナギッペシペシハァーンナギッハァーンテンショーヒャクレツナギッカクゴォ ゲキリュウデハカテヌナギッナギッゲキリュウニゲキリュウニミヲマカセドウカナギッカクゴーハァーンテンショウヒャクレツケンナギッハアアアアキィーンホクトウジョウダンジンケン K.O. イノチハナゲステルモノ
バトートゥーデッサイダデステニー
セッカッコーハアアアアキィーン テーレッテーホクトウジョーハガンケンハァーンFATAL K.O. セメテイタミヲシラズニヤスラカニシヌガヨイ
ウィーンタバネェ(パーフェクト)
な、何が起こっているのかわからねーと思うが、彼女も何が起こっているのかわからなかった。
頭がどうにかなりそうだった。
世紀末バスケだとか、チートだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ!
もっと恐ろしい何かの片鱗を垣間見たかのようだった。
『さ…と………こ……さん…………て……早……』
何かしゃべっているようだが、分厚いガラスのポッド越しには聞こえづらいのか、断片的にしか耳に入ってこない。だが、ここの研究者達に相対するものであることには変わりないようだった。
『おろ?』
そして幸か不幸か、彼女のポッドに女性が気付き、眼を丸めながらも口元をつり上げて、まるでステップを踏むように寄ってくる。
(彼女は…たしか……)
記憶がないはずなのに、目の前の女性のことは『解る』。
それはきっと、ポッドで意識を沈めているうちに、研究者達によって記憶を刷り込まれたからなのだろう。
そしてその記憶が教えてくれる。
(彼女が…天災。)
篠ノ乃束。
今や世界で一番有名な人物といっても過言ではない。世界のパワーバランスを書き換えた女性が目の前にいた。
そんな束が、彼女のポッドの周りを360°、全方位から、まるで品定めするか、もしくは予想外の宝に喜んで小躍りしているかのようにくるくると回る。
たっぷり1分ほどそうした後に、ポッドに備え付けられた機器を、迷いなくカタカタと操作したかと思えば、ポッドの中に満たされていた液体がゴポゴポと音を立てて排水されていく。それと共に身体を纏っていた水中特有の浮遊感は抜け去り、丁度膝下あたりまで排水されたと同時に、密封されていた開閉口が減圧音とともに解放され、彼女は初めて外の世界へと転がり出た。
「やあやあ、初めましてだねぇ。」
自信を見下ろす彼女は、どこまでもにこやかで、そしてどこか慈愛に満ちている。狂気に満ちていた研究者達のそれとは違い、まるで何か愛おしさすら感じるまでに…。
「知っていると思うけど、あえて言わせてもらうよ。篠ノ乃束であると!」
…やはり類は友を呼ぶのか。幼少の頃よりの友人と同じような言い回しをしていることに、当人たちは気付くよしもなかった。
「IS学園、ですか。」
「そそ!そこにアーちゃんはとある人物の護衛として潜入入学して欲しいんだ~。あ、戸籍とかは束さんがちょちょいのちょいででっち上げておいたから、問題ないんだよ~。」
「はあ……。」
篠ノ乃束秘密研究基地のリビングにあたるスペースで、机越しに対面してソファに座る二人。そこでさらりととんでもないことを言い放つ束に、アーちゃんと呼ばれた銀髪の少女は呆れ半分に応じる。
ポッドから解放されたあの時からアーちゃん(仮)は束に保護され、束の秘密研究基地で生活を送っている。世間の一般常識を最低限インプットされているとはいえ、見た目も年端もいかず、かと言って戸籍もないアーちゃん(仮)にとってはほかに選択肢もない。まぁ意識も定まり切らぬうちにあれよあれよと連れて行かれたのではあるが。
「命令ならば…私は従います。」
「いやいや、命令じゃないよ?お願いだよ、お・ね・が・い☆」
「お願い、ですか…命令とどう違うのでしょうか?」
あくまでも淡々と事務的に応じる彼女に、さしもの束も苦笑いを浮かべる。…そう言えばクロエことクーちゃんも、最初こそはこんな感じだったなぁ…と、少し懐かしんでみた。
「ん~…命令って言うのは、ほぼほぼ拒否権ないんだけど、お願いって言うのは、嫌なら嫌と答えてくれて良いんだよ?無理強いしないからさ。」
「はあ………。」
「それにね、アーちゃんには青春を謳歌して欲しいんだ。束さんはIS一直線でさ、学校生活もろくろく味わってないし。だから、アーちゃんにはそんな寂しい思いをして欲しくないなって思うんだよ。」
にへら、と笑いながらも、どこか哀愁を帯びた束のそれはどこか儚げであった。
「私も束様の思いに賛成です。」
そんな言葉とともに、コトリと机に二つのマグカップが置かれる。
一つは白ウサギ、一つは黒ウサギが描かれたそれに、ミルクたっぷりのカフェオレが注がれていた。
「クーちゃんさん?」
見上げれば、目を閉じた銀髪の少女が盆を抱えて立っていた。
「私はこの目があるのでいけません。なので、貴女にお願いしたいのが、私と束様の思いなのです。」
「まぁ、ちーちゃんには束さんから言っておくからさ。良い返事を聞かせて欲しいなーって。…まぁ急ぎはしないからさ。少し考えてみて欲しいな。」
「…解りました。熟考し、その解を導けるよう努めてみます。」
そう言ってアーちゃん(仮)は、クーちゃんことクロエが自分好みの甘さに入れてくれたカフェオレに口に含む。ほんのりとした苦みの中に、優しい甘みが口いっぱいに広がっていく。
IS学園
インプットされた記憶にもその言葉はあった。
ISの学び舎。
学校生活、というものに特段興味というものはない。が、束に救われて、恐らくはあの研究施設で暮らしていたら味わえなかったであろう刺激は少なくなく、感情希薄なアーちゃん(仮)にとっては得がたいものだった。それだけに、今の環境を与えてくれた束には感謝しているし、恩も返したいと少なからず思っている彼女にとって、損得勘定抜きにしても束の思いに答えたいものだった。
(………護衛の任。私に務まりきるのでしょうか…)
「あ、そだ。学校生活のお願いとは話は変わるんだけど、アーちゃんの専用機なんだけど…」
「はあ………。」
だが、務まるか否か。それは関係なく、束の思いに答えたい。それだけで、彼女の答えはもう決まっているようなものだった。
が、
(……護衛対象…
不安というものは拭いきれない物だと、内心ため息をつかざるを得なかったのも確かだった。
「突然だが、転校生を紹介する。」
『へ?』
間の抜けた声が、IS学園1ー1のクラスに異口同音で響いた。
それも在籍する生徒全員が同じタイミングで。
また転校生等という謎の展開に、クラスが小さなざわめきに包まれていく。
「うるさい、騒ぐな、静かにしろ。紹介できんだろうが。」
鶴の一声、とはよく言ったものだ。
このクラスの師である織斑千冬の低い声と鋭い眼光で、ピタリとざわめきが収まったのはさすがと言うべきなのだろうか。
「…やれやれ。こう言った所は入学当初から変わらんな。…まるで成長していない。」
呆れ半分に一つため息を落とし、冷静さを保てない生徒に頭を抱える。
が、ここで千冬も苦悩の渦に飲まれればそれこそ進行しないので、ため息と共にその憂鬱な気分を吐き出した気分にしておくとして…
「よし、では入ってこい。」
「…失礼します。」
プシュウ、という自動ドアの減圧音と共に、生徒の目は一瞬で教室入り口に釘付けになる。
どんな生徒なのか、誰しもが興味津々で仕方がないようだった。
そして
そこにいたのは
小柄な銀髪の少女だった。
背丈は目測140センチと少しで、体付きはスレンダー。腰まで伸びる流れるように整った銀髪に、少し気怠げな目のオリーブ色の瞳。頭には黒いベレー帽にも似た帽子。服は特に改造していないスタンダードなIS学園の制服に、黒いタイツと白いブーツがとても映えていた。
「自己紹介しろ。」
「解りました。」
ペコリと軽くお辞儀した彼女は、自己紹介特有の恥ずかしげな雰囲気も、ましてや愛想などみじんも感じさせることなく、平静そのものの顔で口を開いた。
「アルティナ・オライオンです。」
…
……
………
「…他にはないのか?」
「…?以上ですが?」
言葉もなかった。
同じような自己紹介をした人物は二人いたが、よもや三人目が現れようなどとは誰も予測していなかったようで、生徒の誰しもがガクリと机に伏した。
そんな中で特に気に留めるでもなく、アーちゃん改めアルティナは、キョロキョロと教室を見渡す。何かを探すように視線を泳がしていた彼女は、なんと目の前に目標がいることに気付き、ツカツカとブーツを慣らして近付く。
「貴方が、織斑一夏さんですか?」
「お、おう。」
「本日より貴方の護衛をさせて頂きます。よろしくお願いします。」
「は?」
「む?」
「はい?」
「え?」
「なん…だと…」
一夏と、彼に思いを寄せる少女四人が声を上げた。
当然の反応かもしれない。
何せ、いきなり現れた転校生が、自信が思いを寄せる少年を護衛するなどと宣ったのだから。
「おい。一夏。どういう事か説明しろ。」
赤いオーラを纏い、ゆっくりと立ち上がる篠ノ乃箒。その風格は修羅を彷彿させるものだ。両手には雨月と空裂が握られる。
「そうですわね。それこそ…ゆっくりと聞かせていただきたいですわね。…一夏さんだけに、
寒い親父ギャグを飛ばしながらも立ち上がるセシリアの手には、スナイパーライフルであるスターライトが展開して握られている。
「ふふ……ふふふふ……あは…あははぁ…!」
シャルロットは壊れた人形のような笑みを浮かべ…だが決して目は笑わない状態でブレット・スライサーを展開し、ゆらりゆらりと歩きながら接近してくる。
「くぁwせdrftgyふじこlp」
ラウラに至っては、言葉にならない雄叫びを上げながら、両手にプラズマ手刀を展開して飛びかかってくる。
「いや、ちょっ!!まっ…!」
もはや見慣れた展開ではあるが、ギャグ補正でもなければ到底生き残れないシチュエーションだ。ましてや、生身の人間にIS武装を使おうものなら、見るのもはばかられるミンチとなってしまう。そうなってしまえば、ぴぴるぴるぴるぴぴるぴーな呪文でもない限り、無事では済まない。
咄嗟にであるが、なんの効果もないと解っていても、一夏は身を守るための条件反射で両手で頭部をガードする。
だが…
そんな彼を彼女は見捨てなかった。
「クラウ・ソラス。」
ISの展開音と共に、黒い巨体が一夏を包み込むように覆い被さり、迫る鬼の凶刃と凶弾をことごとく弾く。
「え…?」
「護衛対象の防御成功。」
まるで陶器のような黒く、そして胴と腕だけの巨体がそこにいた。
腕であろう部位で一夏を包み、何らかの障壁で迫る彼女らの凶行を防いだのだ。
「…防御機能、問題なし。…護衛には十分な硬力ですね。」
「こ、これ。お前のISなのか?」
「えぇ。クラウ・ソラスです。」
『@*∇∋∑』
表現しがたい音声を発する、クラウ・ソラスと呼ばれた機械。
アルティナが手を掲げると、クラウ・ソラスはまるでそこにいなかったかのように消えた。
「ありがとう、助かったよ。」
「いえ、当然の義務を果たしたまでです。」
「それでもありがとうな。命拾いしたよ。」
そう言って一夏は、アルティナの頭をポンポンと撫でる。そんな彼の何気ない動作に、アルティナは半開きの目を少し鋭くし、下から睨む。
「…不埒な行為はよろしくないかと思います。」
「ふら…っ!?」
ともあれ、こうして謎の少女であるアルティナが一夏の護衛として入手することとなった。
四六時中護衛するアルティナに、一夏ラバーズの嫉妬が更に強くなったのは言うまでもない。