メリクリあけおめ(投げやり)
目を覚ます。
今は何時ごろだろうか。朝じゃない事だけは分かる。
記憶があやふやだがおそらくチェイスの為のベッドを作っていてそのまま眠気にやられたのだろう。
にとり「ふあぁあ〜・・・」
伸びをして目をこする。辺りを見回すが物音がしない事からチェイスは既に出かけたと予想する。
にとり「眠い・・・最近は割と暇だったからこんなに夜更かししたの久しぶりだよ・・」
上半身だけ起こすも、再び眠気に襲われる。再度寝てしまいそうになる頭をなんとか起こすと自分自身に喝を入れた。
にとり「さーて今日も一仕事するかな・・・・」
ベッドから起き上がったところであることに気がつく。
にとり「そういえばチェイスって私がベッド作り終わるまで待ってたよね・・・」
にとり「・・・・」
にとり「・・・あいつ起きるの早すぎじゃないか?」
チェイス「次はどこへ行くんだ?」
文「人里です。人間が一番多く集まる幻想郷の中心地的な場所ですね。」
チェイスと文は香霖堂を出て、人里へ向かっていた。
文は無理をしているように見えるチェイスが不安で仕方なかったが、本人の意志の強さに負けて案内を続けている。
文「(んー・・大丈夫なんでしょうか。)」
改めて記憶喪失について考える文。
文「(やはり記憶を取り戻すということは嫌な記憶や都合の悪い記憶も取り戻すということ。)」
文「(思っていたよりも深刻ですね。)」
チェイス「文。ここか?」
文「あ、あぁはい。ここが人里の入り口ですね。」
考え事をしていると既に二人は人里の入り口まで来ていた。入り口といっても簡素な門に見張りの男性が一人立っているだけだ。
文「お疲れ様でーす。」
見張り「あぁ、ちょっと止まってください。」
文「はい?」
見張りに簡単な挨拶をして通り過ぎようとするも呼び止められた。このような役職の者に呼び止められるのはあまりいい気分ではないが、二人が思っているような内容ではなかった。
見張り「この辺で妙な妖怪を見ませんでしたか?」
文「妙な妖怪ですか?」
見張り「えぇ。見慣れない妖怪です。まだ人里に被害は出てませんが人里以外で襲われたという情報が入ってまして。」
文は記者という事もあり、妖怪との関わりはかなり広い。見慣れない妖怪がいたらすぐに気付くはずだが最近見た記憶は無かった。
文「いや無いですね・・・すいません。」
見張り「いえ、ならいいんですが。それではお気を付けて。」
文「はい。ありがとうございます。」
軽く会釈すると、チェイスは今まで通り文について行く形で人里に入って行く。
チェイス「・・・人里は安全な場所ではないのか?」
チェイスは見張りが最後に言った言葉が気にかかっていた。
「人間の里」というぐらいだから安心し切れる場所だと思っていた。
文「安全ですよ。人里には人間と妖怪が住んでいますが気性の荒い妖怪はいませんからね。」
チェイス「では何に気を付けるんだ?」
文「たまに外から来た妖怪が暴れたりするんですよ。その妙な妖怪が人里に来る可能性はゼロではありませんしね。」
文「まぁもっとも・・・」
話しながら少し間を空ける。
文「勝手な事をする妖怪が居ようものなら「博麗の巫女」に退治されちゃいますけどね!」
そう言った文の顔はどことなく自慢気である。
「博麗の巫女」。これも少しにとりから聞いていた。人間を守り、妖怪との関係を保つ存在。この幻想郷に無くてはならない人物らしい。
チェイス「博麗の巫女とは具体的にどういうものなんだ?」
チェイスは人間を守っている博麗の巫女の存在がどこか気になっていた。
文「博麗の名は幻想郷に何代も受け継がれているもので、「博麗 霊夢」さんという方が現在の博麗の巫女にあたります。」
チェイス「博麗・・・霊夢。」
文「霊夢さんの仕事は幻想郷と外の世界を隔てる結界の管理や妖怪退治ですね。人柄とかについては・・・」
話しかけて少し上を向く。そして再びチェイスの方に顔を向けた。
文「直接会った方がいいかもしれませんね。分かりやす〜い人ですから。」
チェイス「そうか。ならいずれ会う必要があるな。」
文「まぁどっちにしても博麗神社には行く予定でしたし・・・あっ。」
文は立ち止まり、片腕を上げ前方に伸ばす。さながら名所を紹介するバスガイドの様である。
文「この辺りが人里の中心部です!端の方は民家が多かったのに対してこの辺りはお店などが沢山並んでいます!」
目の前にはどこまでも続く大通り。店に囲まれている為、人の数は人里の入り口付近と比べて段違いだ。
大通りの隣には大きな川が流れており、向こう岸とを繋いでいる木製の橋が多くの人を行き来させている。
外来人なら「まるで江戸時代にでも来たかの様だ」とでも言うだろうがチェイスは昔についてさほど詳しくもなかったし、ましてや時代劇なども観たことがなかったのでこの光景を見た時の衝撃はかなり大きかった。この様な街並みは直接でも間接的でも見たことがなかったのだ。
チェイス「・・すごいな。」
「あれ文じゃない」
「ん?」
二人が同時に振り向くと見知らぬ人物が立っていた。
短く切り揃えられた白髪に黒のリボン。それに緑のベストを着ている少女。だがそれだけではなく、少女の周りには半透明の白い靄(もや)の様なものが漂っている。
文「あややや、妖夢さんではありませんか。」
「そっちの人は・・・あっすみません。私、魂魄 妖夢と申します。」
動作や言動から礼儀正しい人物だという事がすぐに分かった。それにどうやら文の知り合いらしい。
チェイス「チェイスだ。」
文「チェイスさんは外来人なんですよ。妖夢さんは買い出しの帰りとかですか?」
妖夢「外来人のチェイスさんですか。えぇ、幽々子様に頼まれててね。」
チェイス「幽々子?」
思い出したように反応するチェイス。にとりから聞いていた「西行寺 幽々子」という人物には用があった。
妖夢「あれ?知ってるんですか?」
チェイス「あぁ、白玉楼という所で魂の管理を行っている者だろう?」
文「おや知っていましたか。妖夢さんは幽々子さんの従者で半人半霊の庭師なんですよ!」
チェイス「半人半霊?」
妖夢「半分人間、半分幽霊、言葉の通りです。私は人間と霊のハーフなんですよ。」
チェイス「そうなのか。・・・なら」
「半分幽霊」というというこの少女は自分にとって重要な人物だと思った。
妖夢「?」
聞かなければならない事がある。
チェイス「俺は生きているのか死んでいるのか。分かるか?」
文「!」
妖夢「それは・・・どういう事ですか?」
文の表情はいつになく暗い。
文「チェイスさんは記憶が無いんです。それでもしかしたら外の世界で亡くなって幻想郷に迷い込んだのかと・・」
妖夢「なるほど・・・分かりますよ。私も半霊ですからね。」
チェイス「なら頼む。」
妖夢「分かりました。では・・」
そういうと妖夢はチェイスの胸のあたりをじっと見つめ始める。
すこし時間が経つと、一瞬だけ眉間に皺を寄せた。だがすぐにもとの真剣な表情に戻り、チェイスの方へ向き直した。
妖夢「はっきり言います。」
チェイスの真顔に対して文は今にも生唾を飲み込む音が聞こえてきそうな表情をしている。
妖夢「あなたの肉体は既に死んでいます。」
沈黙。誰も顔を合わせようとしないが、その沈黙を破ったのはチェイスだった。
チェイス「・・・やはりそうか。」
妖夢「落ち着いてますね。」
文「そ、そうですよ!!チェイスさんは何とも思わないんですか!?」
妖夢に便乗して文も声を荒らげる。死が恐ろしくない者などいない。ましてやこの男は既に死んでいたのだ。いくらなんでもここで取り乱さないのはおかしい。
チェイス「いや、何となくだがそんな気はしていた。それに・・・」
チェイス「俺はここにいる。この幻想郷に。それだけで充分だ。」
文「・・・」
文は黙っているが、妖夢はどこか嬉しそうな顔をしている。
妖夢「そうですか・・・なら私はこれで。幽々子様が待っていますからね。」
チェイス「すまないな。」
妖夢は若干幼さの残る笑みを浮かべると軽く一礼した。
妖夢「いえ、それでは。用があればいつでも白玉楼にいらして下さい。歓迎しますよ。」
そう言うと妖夢は裏を向き、元の進行方向へと歩いていった。
少し経つと文がようやく口を開いた。
文「・・いいんですか?」
チェイス「何がだ?」
チェイスは本当に分かっていない様子だ。
文「あなたの事ですよ!既に亡くなっていた事が分かった今、チェイスさんが外から来た人間だという事も分かりました。幻想郷で死んだ者がまた幻想郷に来る事は無いし、その服装からしてもここの住人では無いと思います。」
文「霊体であるあなたは外の世界へ出る事が出来ません。なら記憶を取り戻しても・・・辛い思いをするだけではないのですか?」
チェイス「・・・」
文「記憶を取り戻せばきっと・・外の世界へ帰りたくなります。それでもあなたは・・!」
チェイス「文。」
文「あっ・・すいません・・・」
自分だけ熱くなりすぎている事に気が付いた文は少し俯き、冷静になる。
チェイス「・・・人間を守れ。」
文「えっ?」
不意にチェイスが口にしたあの言葉。
困惑する文をよそにチェイスは喋り続ける。その瞳はどこか遠くを見ているようだ。
チェイス「お前は俺に「正義のヒーローかもしれない」と言った。・・・俺に人間を守る力があるなら」
チェイス「俺はこの幻想郷を守る。その為には記憶を取り戻す必要がある。」
さも当り前の様に答えるチェイス。
文「ここはチェイスさんと関係の無い世界ですよ?それに幻想郷は妖怪ばかりです。この私も・・」
チェイス「人間も妖怪も関係ない。にとりには助けてもらった。お前にも・・感謝している。」
チェイス「だから俺はお前たち妖怪も人間も守る。俺に出来る事があるなら。」
その時文は思った。
この男には何を言っても無駄だと。
文「・・・降参ですよ。好きにして下さい。」
頭を抱えて下を向く文。
文「(こんな人間がいるなんて・・・外の世界は荒んでいるとよく耳にしますが捨てたものではありませんね。)」
チェイス「そうさせてもらう。」
文「そうと決まれば!!」
チェイスがそう言うと文はバッと顔を上げて元気を取り戻す。
文「ぐずぐずしてないで早く行きましょう!!もっと紹介したい所がたくさんあるんですから!」
ニコニコ顔で言う文に戸惑いを見せるチェイス。
チェイス「どうしたんだ?」
文「何でもありません!私はチェイスさんが記憶を取り戻すまでお手伝いさせてもらいますからね!」
チェイス「そこまでお前の手を借りる訳には・・・」
謙遜するチェイス。それもそうだ。文には「代金の代わりに今日一日案内してもらっている」だけで、そこまでしてもらう必要は無い。
文「いえご遠慮なさらずに!私が決めた事ですから!」
文「(俄然興味が湧いてきました!記者としてこの不思議な男性を調べ尽くすまで引き下がれません!)」
チェイス「・・・ならもう少し付き合ってもらうとしよう。」
文「はい!!喜んで!」
そういうと二人は止めていた足を動かし再び歩き始める。だがその歩みはここに来た時よりも力強いものであった。
文「さぁチェイスさん行きますよ!まずはここのお店に・・」
チェイス「お、おい引っ張るんじゃない文・・・」
不幸とは人を傷付けるものだ。どんな形の不幸でもそれを好む者はまずいないだろう。では何故怯えたりせず平然と日常を過ごしていられるのか。それは「いつ起こるかが分からない」からだ。起こるかどうかも分からない不幸に怯えていては生きていけない。人里に住む人間達もそう考えている。だが今の人里にはその「不幸」をばら撒く存在がいた。
「・・・・・クククッ」
人里に現れた黒い布に身を包んだ者。布に隠れた顔は不敵な笑みを浮かべている。
だがその事に道行く人間は気付かない。
これから起こる事を予測出来る人間はいなかった。
こらそこ!にとりの出番が少ないとか言わない!
これからもっと増えるから!
多分!