東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中)   作:タツマゲドン

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54 死体

「はあっ!」

 

 早苗が手を向けた先に居る男へ掛け声と共に衝撃波がぶつかるが衝撃波を正面から突破される。

 

「あと10秒、あと10秒だ......。」

 

「秘術「一子相伝の弾幕」!」

 

 カイルの独り言を聞いた早苗は焦って強力な弾幕を繰り出す。

 

 それでも男は焦らずに弾幕を回避し、着実に距離を縮める。

 

「僕達も離れよう。」

 

 カイルがそう言うと2人共後退しながらカイルは銃にエネリオンを溜め、早苗は少しでも時間を稼ぐべく弾幕を放つ。

 

 それでも音速の2倍で森を駆け抜ける男との距離を突き離す事は出来ない。

 

 突如男が後方を振り向き、地面から足を離し、体を捻る。

 

 男の体表すれすれをエネリオン弾が通り抜け、エネリオン弾はそのまま軌道上の木にぶつかると爆発を起こした。

 

(リョウの攻撃か。だが弾速が足りない......。)

 

 すると、男が今度は跳び上がり、空中で回転し始める。

 

「「深弾幕結界 -夢幻泡影-」!」

 

 突如スキマが開かれ、そこから出現した紫がスペルカードを唱える。

 

 突然の出来事にも驚かず体を回転させて避け、着地すると紫へと銃を乱射する。

 

 慌てて避け、幾らか喰らったものの大したダメージにはならなかったがこれ以上男を食い止める事は出来なかった。

 

 カイル達と男の距離は残り1000mを切っていた。

 

(あと6秒。)

 

 このペースでは残り4秒で追いつかれる。

 

 後方へ逃げるカイル達に向かってエネリオンの銃弾がばら撒かれ始めた。

 

「これじゃあ追い付かれますよ!どうすれば......。」

 

 早苗が落ち着きの無い声で言う。

 

 するとカイルは少し(1秒にも満たない時間)考え込んだ。

 

「......いや、僕が合図する。」

 

「え?」

 

 男との距離残り200m。

 

(あと3秒。)

 

 カイルは後退するのを止め、前進した。

 

 男がパンチを繰り出すのに対し、カイルは見事に体を捻って避け、2人はすれ違う。

 

 足でブレーキし、カイルを追い掛ける男と再び逃げるカイル。

 

『今だ!』

 

 カイルの心の声が聞こえた。

 

 同時に視界に光点が現れる。

 

 男の背中ど真ん中。

 

 思考よりも先に衝撃波が放たれる。

 

 男は背中に衝撃波が吹き付け、一瞬だが身動きが取れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リョウが右手を伸ばしエネリオン塊を放った。

 

「......やっぱこの距離じゃあ駄目か......。」

 

 リョウの目には自分の放ったエネリオン塊を男が躱した光景が映っていた。

 

「なら私も。」

 

 紫がスキマを開いたかと思うとその中へと姿を消した。

 

 アダム達が見たのは紫が男の元に現れ、弾幕を放つが躱され、反撃を喰らっている光景だった。

 

「これじゃあカイルの奴危ねえな......。」

 

「......リョウ......。」

 

 トレバーが何かを訴えようと弱々しい声で言う。

 

「お前は静かにしてろよ。傷口が開いちまうぜ。」

 

 が、あっさりと断られた。

 

 一方、霊夢はアダムが向けていた視線を辿った。

 

(そうだ、これならば......。)

 

「それって......」

 

 アダムが有無を言わずに持ち上げたのは魔理沙の箒だった。

 

 右手に持ち、走り始める。

 

 右手に力を込め、エネリオンを送る。

 

 手を離し、アダムの全力疾走の速度とアダムが腕を振りかぶった速度、そしてアダムがエネリオンを送った分の箒の速度が加算された箒が男目掛けて一直線で飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早苗の放った衝撃波によって身動きが取れなくなった小数点以下の刹那の時間、何処からか箒が音速を超えたスピードで男の体の中心に衝突した。

 

 怯んだ男は地面に倒れ、胸を何かに貫かれる衝撃が襲い、意識が遠のいていくのを感じ、その内身動きをしなくなった。

 

 カイルは男の心臓に自分の放った銃弾が貫いたのを確認すると銃をしまい、座り込んで一息ついた。

 

「......終わったんですか?」

 

「ああ、終わったよ。」

 

 早苗も安心し、一息つく。

 

「......でも、こんな争わずに解決出来なかったんでしょうか......もっと平和な方法があれば良いのに......。」

 

「それが出来たら僕だって今ここにこうして銃を持ってないさ。戦争というのは互いの正義を掛け合うものだ。だけど、感情という利点でもあり欠点でもあるものを制圧しようというのは間違っている。人類は感情を持つ事で発展して来たんだ。だからと言って感情に任せるのも駄目だ。共存するんだ。あらゆる物や事においてそうさ。ジャパンに昔あった日本という国家も自らの文化を損なわず多文化を柔軟に受け入れる事で自他の文化を共存させる事で始まりから1600年以上も国家解体戦争の最期まで存在し続けた。」

 

 カイルは立ち上がるとゆっくりとリョウ達の居る方向へと歩き始めた。

 

「急ごう。仲間が一人瀕死の重傷みたいだ。」

 

「それは大変じゃないですか!早く行きましょう!」

 

 疲れ切った体を残った力を総動員させ、走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トレバー、しっかりしろ!今永琳の奴が薬を調合している。それまで耐えるんだ!」

 

 焦るリョウに対して何かを悟ったような表情のトレバー。

 

「......いや、俺はもう駄目だ......。」

 

「んな事言うなよ。永琳の薬は味はともかく効き目だけは確かだ。もっと前向きに考えろ。」

 

「......お前こそ、前向きに考えるだけでは上手くいかんぞ......せめて伝えたいことがある......。」

 

 トレバーの顔が強張った。

 

「......奴、俺が戦っていたあの黒い男......奴は......」

 

「あの黒い男が何だって?」

 

「......エ......エネリ......。」

 

これ以上トレバーの口から言葉が発せられる事は無かった。

 

「......クソッ!」

 

「......間に合わなかったわね......材料がそろっていればもっと早く作れたのに......ごめんなさいね。」

 

「アンタは謝る必要はねえさ。それにしても、アイツが自分から何かを伝えようとするなんてよっぽど大事な事なのか......何かエネリオンに関係しているのかも知れん。」

 

 一方で生存を喜んでいる者も居た。

 

「アダムは無事だったのね。」

 

 霊夢は嬉しそうな顔をしながら嬉しそうな声で言った。

 

「ああ、アリス、妖夢、鈴仙は気絶、魔理沙は気絶に加え骨折、だが命に別状は無いらしいな。だがトレバー1人が犠牲者か。」

 

 アダムは相変わらず無表情で感情の籠っていない声だ。

 

 すると霊夢は何かを考え、少しして口を開いた。

 

「......あの、アダム、私あのトレバーという人と一緒に戦っている時、彼があの男に追い詰められて危なかった時、貴方があのマルクという少年に殺されかけている光景が思い浮かんだの。」

 

「何故だ?」

 

「分からない......けど私にはその時アダムが危ないんじゃないかって思って......それに私にもっと実力があればトレバーを守れた気がするの。」

 

「僕は少なくとも大丈夫だったさ。トレバーの事はもう過ぎた事だ。これから実力を付ければ良い。」

 

 そして、アダムはトレバーの死体を見るとある物に目を付けた。

 

「これは......。」

 

 直径が2cmの球体。

 

 半透明で深い青に光り、首に巻く為の鎖以外の装飾は無い。

 

「ん?そいつか?トレバーの奴いつもこれを身に付けていたんだ。貸してくれと頼んでも誰にも絶対に触らせなかった。あいつは変に頑固だった所があった。あいつ曰くこれは先代から伝わるお守りだとよ。トレバーの事だ、何か意味があるのかも知れんな。」

 

 球体を見詰めるアダムにリョウが説明した。

 

 アダムはずっと球体を凝視していた。

 

 アダムには球体が、俺を持て、と言っている様に見えた。

 

 手を伸ばし、掴み取る。

 

 手を引き戻し、首に巻く。

 

 何も起こらなかった。

 

「ほう、中々似合ってんな。そういやお前トレバーと何か雰囲気が似てるよな。」

 

「そうか?」

 

 するとアダムを呼ぶ声がした。

 

「ねえ、貴方アダムでしょ?久しぶり~。」

 

「そうだな。」

 

 フランは久しぶりの再会に嬉しそうだったがアダムの表情は変わることは無かった。

 

 紫達もやっと終わったという様な顔つきだった。

 

 だが紫にはちょっとした疑問があった。

 

「それにしても妙なのよね。幽々子、私達が最初の方に戦っていたあの黒いローブの男は覚えているわよね?」

 

「え?ええ。途中で黒い男に変身して、それからあのトレバーって人がやっつけたんでしょ?」

 

「そのローブの男と黒い男のエネルギーを比べてみたけどまるで別人、同一人物とは思えないわ。それにエネルギーの量や質は大して差が無かった。だったら変身しなくてもそう変わらないのに何故変身したのか......疑問に思わない?それとあの黒い男が西行妖に興味がある様な行動をしたのも不可解だわ。」

 

「そう?でももう終わった事だからいいじゃない。」

 

「相変わらず呑気ね......。」

 

 そしてアダム達へと向かう足音に最初に気付いたのはリョウだった。

 

「ようカイル。ここに来て早速知り合った娘とデートか?」

 

 リョウがそんなジョークを言ったのはカイルの隣に知らない少女が付き添う様に歩いていたからだ。

 

「冗談が言えるって事はリョウも相変わらずだね。彼女は東風谷早苗。今日幻想入りしたそうだ。」

 

「あ、初めまして。」

 

 カイルは友人からの冗談を笑って返し、早苗は一礼した。

 

「だがトレバーはやられちまったんだ......。」

 

「そうか......。」

 

 そんな中紫はカイルの言った言葉が気に掛かり、考え込んでいた。

 

「こんな時に限って幻想入りってもしや......」

 

「後でまとめて話すよ。」

 

 紫は独り言のつもりだったがカイルはその疑問に応答した。

 

「そうね、怪我人もまだ居るし、永遠亭ならちゃんとした治療が出来るからそちらに移動しましょう。」

 

 永琳の提案で場所を移す事にした。

 

 突然アダムが言った。

 

「トレバーの死体は何処だ?」

 

「あっ。」

 

 そこに倒れていた筈のトレバーの死体は影も形も無かった。

 

「ねえ、あの男の死体は?」

 

 次に言ったのは霊夢だった。

 

 カイルは目を凝らし、男の死体があるであろう地点を見た。

 

「......無い。」

 

「そういやあのトレバーという男が戦っていた黒い奴も倒したには死体がある筈よ。アダムが戦っていたあの男も。」

 

 紫のその台詞で全員が辺りを見回したがそれらしい物は何一つ発見されなかった。

 

「紫、人間の死体を利用する様な妖怪とか居るのか?」

 

「人間を食料にする妖怪は数え切れない程居るからどんな妖怪が持ち去ったのかは......。」

 

 リョウの質問は十分な解を得られなかった。

 

「これじゃあ葬式も出来ないわね......。」

 

「......まあアイツは、俺は死ぬ時は誰も知らない所で死にたい、とか言ってたし、そっちの方がトレバーも成仏するかもな......。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 火焔猫燐、地底に住む化け猫、は嬉しそうな表情だった。

 

 何せ人間の死体を6体も手に入れたのだから。

 

「いや~あたいながら良い仕事したなあ~。」

 

 燐が押す猫車にはこれまでアダム達が殺した”トランセンデンド・マン”、つまりアガレス、ガミジン、サム、レックス、トレバー、そして”2人”の名前が分からなかった”男”の内の”1人”(ヴァサゴ、マルバス、レオは爆散した為死体が無い。)の”6人”の死体があった。

 

「それにしても皆なんか雰囲気が怖いんだけど、まあ灼熱地獄の燃料が手に入ったし、良いか。」

 

 燐は呑気な考えで猫車を押すペースを進めた。

 

 その様子をローブの男が見ているとも知らず。

 

 ローブの男は片手に直径10cmの球体を持っている。

 

 それは先程トレバーが刃で突き刺した”物”だった。

 

 ローブの男は静かに燐の後を追っている。

 

 男は燐が底が見えない巨大な穴に入って行く光景を見た。

 

 男はその穴を見下ろすが穴には入らず、反対側へと去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第一段階は失敗したな。”生存信号”も”死亡信号”が感知出来ない者は恐らく肉体を再生不可レベルまで破壊されたのだろう。スペースマシンの点検もあり人員の補充は1週間後、それと同時に第二段階開始だ。」

 

「了解!」

 

 ディック中佐がそう言うと彼の部下達が返事をし、オペレータールームの様な部屋から出て行った。

 

 一人になった所でディック中佐は椅子に深く腰掛け、ため息をつく。

 

「ハァ......結局ポールは何を考えているのか......。」

 

 するとドアが開き、入って来た人影を見ると立ち上がり、敬礼した。

 

「司令、お久しぶりです。」

 

 司令と呼ばれたのは20代前半の男性だった。

 

「ディック中佐、話がある。」

 

「どんな話でしょうか。」

 

「君には能力がある。しかし悪いが、「ユニバーシウム・マイン計画」の最高責任者から外れてもらう。」

 

 ディック中佐は動揺した。

 

「理由は一体......?」

 

「すまんがこちらの都合で話せない。だが君のトランセンデンド・マン開発に関しての地位には影響は無い。」

 

「そうですか......それで、代わりとなる者は誰なんでしょうか。」

 

「ラニング中尉だ。君も知っているだろう。」

 

 ラニング中尉とはディック中佐の部下であるポールの事だ。

 

 またしても中佐は動揺した。

 

「一体どの様な理由で?」

 

「これも言えなくてね。すまんな。ではこれで私は退出する。」

 

 司令と呼ばれた男はドアを開けると部屋から出て行った。

 

 再び一人となった中佐。

 

 突然、机を叩く音が鳴った。

 

「何故だ!何故だ!何故だ!!!!!」

 

 自分が計画から外されたのは仕方が無いと思える事だったが、ポールが自分の代わりになったという事だけは納得できなかった。

 

「......何を企んでいるのか必ず暴いてやる......!」

 




風神録はあと1話か2話分続きます
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