東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中) 作:タツマゲドン
黒い男は長い階段を上ると、見張りをしている半人半霊の庭師にも気付かれずに門を突破した。
そこには他に妖怪1人、幽霊1人、式神2人が居るが、その気配に気付く者は居ない。
黒い男は1本の巨大な桜の大木の前に立った。
しかし、何もする気配が無い。
地底では2人の”死体だった者”が地底にある旧都を走破していた。
旧都には地上で忌み嫌われた妖怪達が数多く住んでいるが誰1人としてその存在に気付いていない。
旧都には以前リョウと戦って敗れた伊吹萃香の姿もあった。
「今日も暇だな~。久しぶりオークの奴とでも会いたい気分だなあ。その時はもう一度勝負をして勝ってやる。」
彼女は仲間を助けてもらった春雪異変のあの日以来一度もリョウ(萃香はリョウの言った偽名を信じ、名前をオークと思っている。)に会っていない。
「で、そのオークって奴強いんだってね。私も戦ってみたいな。」
そう言ったのは萃香の有人である星熊勇儀だ。
勇儀はロングの金髪に体操着の様な上着と足首まで届く女子学生服風の長いスカート、額から生える1本の赤い角が特徴的な長身の女性、の姿をした鬼だ。
「人間なのに少なくとも力は私以上に強いしスピードも凄いし、私の能力を使ってもまるで勝てなかったし、でも顔を見せてくれないんだよね。」
「へえ、人間がそんな力を持っているとはね。顔を見せてくれないのはどうしてなんだ?」
「さあ、でも良い奴だよ。仲間達を誰にも気付かれず幻想入りさせてくれたからね。どうやったかは分からないけど。」
談笑する2人を余所に2人の死体だった者は地底と地上を繋ぐ巨大な穴に辿り付き、岩の間を足場に蹴って上り始めた。
2体の死体だった者はやがて地上に出ると何処かへ向かい出した。
3人のトランセンデンド・マン、2人の巫女、1人の魔法使い、1人の半人半妖は地下に通ずる巨大な穴の前で鉢合わせした。
「リョウ、アダム、君達も気付いたのか?」
「俺は慧音とこの変なボールみたいな奴らを追っていたらここに辿り着いたんだが、何かあるのか?」
「......。」
「アダムが変な事を呟きながら何処かへ行っていると思って付いて来たらここへ来たわ。」
「私たちの呼びかけに何も反応しないんだ。」
カイルの質問に対し、リョウは答えたが、アダムは一言も言わなかった代わりに霊夢と魔理沙が答えた。
「......呼んでいる。」
突然アダムはそう言うとすぐに巨大な穴の中へと飛び下りた。
「アダムっ?!」
「それじゃあ俺達も行くぞ。」
驚く霊夢を余所にリョウがアダムを追う様に飛び下りた。
「霊夢、早く行くぞ。」
「え、ええ。」
霊夢も魔理沙に言われて共に穴へと飛び込む。
「私も行こうか。」
慧音も続いて飛び込み、残るはカイルと早苗になった。
「カイルさん達って確か空を飛べないんじゃ無かったんでしたっけ?」
「確かに飛べないが、一応俯せの状態で飛び下りれば空気抵抗で時速200kmぐらいの一定の速度に安定するから、それ位なら僕達は大丈夫だ。僕はもっと安全的に行く事を想定していたが、まあ良いか。さて、行こうか。」
全力疾走が音速、つまり秒速340mを超えるトランセンデンド・マンにとって時速200km、つまり秒速55m程とは軽い程度なのだ。
「あっ、はい。」
残る2人も穴へと飛び込んだ。
カイルが俯せの体勢のまま飛び込んでから数分が経過した。
「凄く深いですね。一体どれ程続いているんでしょう。」
「もうそろそろだと思うよ。」
ドゴーン!
下から何かが固い地面に勢い良く落下した音が聞こえた。
ドゴーン!
十数秒経つともう一度同じ音がした。
するとカイルの目に自分へ向かって勢い良く迫る地面が映った。
俯せの体勢から足から着地する体勢に変え、残りの距離を確かめる。
カイルの足の裏が地面に着いた瞬間、膝で上手く衝撃を吸収するがそれでも、ドゴーン!という音は鳴った。
間も無く早苗は飛行能力を利用して空中で減速し、安全な速度で着地する。
「アダム達は?」
カイルがそう尋ねたのは見渡してもアダムと霊夢と魔理沙の姿が無いからだ。
「霊夢と魔理沙が言うにはアダムが姿を消したそうだ。その2人もアダムを探す為に勝手に行ってしまったよ。」
「あいつら通信機持って来てねえみたいだから場所は分からないんだ。分かるか?」
慧音から答えを聞き、リョウに言われたカイルは目を瞑った。
「......強力なエネリオンを持つ者が多いな......アダムは最も奥にある4つのエネリオン源、恐らくトランセンデンド・マン、に向かっているみたいだ。こっちだ。」
カイルが先行し、他の3人がそれについて行く。
「それにしても綺麗な街並みですね。幻想郷にこんな所があるなんて。」
早苗の言う通り、まるで北アフリカや中東地域の乾燥地域の日干しレンガ建築群の様な景色だった。
「確かここは元々地獄で地上の者達に忌み嫌われた妖怪が住んでいると聞いた事があるぞ。」
「地獄って事はそれじゃあ、俺は嘘つきだ、って言ったら舌抜かれるのか?」
「それは答えが無いだろ。」
慧音が言った事に対してリョウが言ったジョークと慧音のストレートな突っ込みは場の空気を和ませた。
突然、一行の行く手を遮る様に2人の人影が前に立ちはだかった。
その内の一人を見た慧音以外の全員は何とも言えない様な表情をした。
(......ダセえ......。)
(......幻想郷は昔の流行までも幻想入りするのか?)
(......何か怖いです......。)
上から順にリョウ、カイル、早苗の思考である。
何故ならその女性は金髪に体操着の様な上着、女子学生服のスカートを異様に長くした、いわゆる外の世界の死語で言う「ヤンキー」だったからだ。
更に長身と額の角が威圧感を増している。
そして、リョウはもう1人の背の低い方少女の姿を確認すると一瞬ビクッとした。
リョウは彼女が伊吹萃香である事を知っている。
(萃香こんな所に居たのかよ。まあ俺の素顔と名前は知らないから大丈夫だろうがな。)
「あんた達よそ者だろ?」
「そうだ。」
長身の女性が前に出て尋ねたのに対し、リョウが皆を代表して答える。
「この先の更に奥に行くつもりかい?」
「そうだ。」
「私は星熊勇儀、こっちは伊吹萃香。私達は鬼であり、山の四天王でもある。私と勝負して勝てばこの先を通らせてやろう。」
「俺は柏リョウ。それじゃあ早速やらせて貰うぜ。」
片方の拳を握り、もう片方の手でそれを胸の前で包む。
「臨む所だ、と言いたい所だがお前さんは人間だろう?折角ならばハンデをやろう。」
女性は片手に持っている大きな盃をリョウ達に見せる様に示した。
盃には透明な液体が8割程注がれている。
「この盃に入っている酒を一滴でもこぼせば私の負けで良い。」
「それは随分と気前が良いな。だが......」
次の瞬間、リョウの姿は勇儀の目の前にあり、リョウの突き出されている拳は勇儀の片手が受け止めている。
衝撃でこぼれそうになった盃をもう片手で動かし、何とか受け止める。
「......本気でやったって良いんだぜ。」
「......そうしよう。」
勇儀が盃をフリースビーの様に投げ飛ばすと萃香がそれを受け取った。
「本気でやるつもりだね。これ飲んで良いかい?」
「それじゃあそっちのヒョウタンも飲ませてくれよ。」
「分かった。それとそういやリョウって奴の声って何だかオークって知り合いの声に似てるな。」
リョウは一瞬動揺したが、それが誰かに知られる事は無かった。
「......そうか?まあ良い、さっさと終わらせたい所だ。」
「それはこっちの台詞だよ。」
次の瞬間、リョウの右拳と勇儀の右拳が衝突する音が辺り一面に広がった。
楽しそうに戦う2人とそれを楽しそうに観戦する1人。
一方、完全に場の空気となっているカイル達は、
「あの2人は完全にリョウに気を取られている。迂回して別のルートからアダム達と合流しよう。」
「カイルさん何と言うか......容赦無いですね......。」
「お前はもっと優しい奴だと思ってたが......。」
早苗と慧音が呆れ気味に苦笑して言う。
「これは僕の直感だけど、早く行かないと取り返しのつかない事になると思うんだ。4つのエネリオン源の内3つは「エクストラ」の中でも精鋭と言える位と同等、1つはそれ以上のエネリオン量を保有しているみたいだ。」
「エクストラ」とはトランセンデンド・マンの一種、もしくはその延直線上のエネリオンを操る者達を示す言葉である。
エクストラとなる条件としては、TM専用武器無しで「自己強化」と「自己加速」と「自己防御」と「神経伝達加速」以外のエネリオン変換が可能、という事だ。
例えば走行や身体強靭化等は元々から人間の機能として備わっている性能は普通のトランセンデンド・マンでもそれらを強化出来るが、人間の機能として備わっていない機能、例えば飛行やエネリオン弾発射、そういったことが可能な者達がエクストラである。
一般にエクストラはエネリオン保有量が多ければ多い程なりやすい傾向が高い。
また、エクストラには能力に関する二つ名があり、リョウの「灼熱」やカイルの「バトルコンピューター」(「サテライト」とも呼ばれる)がその一例だ。
カイルの発言はデータとして以前知ったエクストラの平均エネリオン値を比較したものである。
「そうなんですか?それじゃあ早く行った方が良いんじゃないですか?」
「リョウの奴には悪いかも知れんがここは急がなければな。アダムもおかしかったからな。」
カイル達はリョウ達に気付かれる事無くその場から去り、別ルートへと行った。
「アダムー!」
「何処だよー!返事しろよー!」
霊夢と魔理沙の呼びかけに応じる声は無い。
すると、霊夢はある”者”を見つけた。
知り合いの女性が1人、いや1柱倒れていた。
「貴方確か早苗の所の神じゃない。」
しかし、八坂神奈子から返事は無かった。
「気絶しているのかしら?でも何故?」
「霊夢、こっちを見ろ!」
魔理沙に促された方向を見ると誰かが2人同じく身動きせずに倒れていた。
「こいつらも気絶しているみたいだな。一体何が......」
「アダム!」
霊夢の掛け声が魔理沙の思考を遮ると同時に、魔理沙は後ろを振り向くと親しい少年の姿を認めた。
「お前どうしたんだよ、心配したんだぞ!」
2人が駆け寄るが、2人は1mも進まずに何かに行く手を遮られた。
2人の前方から衝撃波が吹き付け、後方へ吹き飛ばしたのだ。
衝撃波の威力は大した事は無く、綺麗に着地した2人だが、突然の地鳴りが襲ったかと思うと2人はまたしても吹き飛ばされた。
地面に倒れ、起き上がった2人が見たのは死んだ筈の敵だった。
衝撃波を放ったのはレックス、地鳴りを起こしたのはサムである。
そしてもう1人誰か立っている。
その姿は、
「......トレバー?」
目の前で死んだのを確かに見た筈のトレバーだった。
アダムは地底の一番奥に居た黒いローブの男の姿を視界に収めていた。
「僕を呼んだのはお前か?」
答えは返って来なかったが、代わりに、
【アンダーソン1号 身体状態:正常 精神状態:許容範囲内 制御チップ:干渉不可状態 トランセンダー循環器:正常......】
ローブの男はアダムをずっと見ていた。
正確にはアダムの”首”を見ていた。
アダムは急に首の後ろが痺れるのを感じた。
痺れは最初は多少の違和感があるものの正常に体を動かせる程度だったが、すっかり体が動けない程に強力になっていた。
突然、アダムの痙攣していた体が元に戻ったかと思うともはや彼はアダムでは無かった。
いや、本来のアダムに戻った、と言えば間違いは無いのだが。
『第2段階計画を邪魔する者を排除せよ。』
アダムは後ろを振り向いた。
そして敵を発見した。
彼が最も信用している人物だ。