東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中) 作:タツマゲドン
「来い。」
少年の両手に握られているのは両端に刃の付いた1.8m程の槍。
「行きます!」
対する少女は右手に短刀、左手に長刀を持つ二刀流。
少女が地面を蹴り、少年へ接近する。
2本の刀から繰り出される連続撃を少年は槍の柄で受け止める。
少女が長刀を真っ直ぐに突き出す。
少年が跳び上がると同時に柄で刀を下に逸らし、そのまま空中から頭を狙って槍を薙ぎ払う。
しゃがみ槍を躱した少女は間合いを詰め短刀を振り出す。
少年は槍を回し先端の刃で短刀を弾き、回転の勢いを更に増しもう1撃振り下ろす。
長刀で槍を防いだ少女は槍ごと長刀を振り斬り返しを繰り出す。
少年は素早く体勢を低くし、横から振り回される刀の側面を蹴り上げ軌道を逸らした。
左手が持ち上がった事によって無防備になった少女の腹へ突きを放つ。
間一髪の所で少女は右の刀で槍を逸らし如何にか避けた。
離れ間合いを取る2人。
「流石アダムさん。私の攻撃を完璧に躱すなんて。」
「妖夢、君の剣術自体は僕から見て特に欠点は無い。後は長所を伸ばし、新たな要素を取り入れる事だ。」
「もう少しお願いします。」
「良いだろう。」
今度はアダムが仕掛ける番。
地を踏み、槍を勢い良く連続して繰り出す。
それを妖夢は的確に防御するが、リーチが短く反撃の機会が来ない。
アダムの槍が勢い良く撓り、大きく曲がった。
その動きに驚いた妖夢だが、軌道を読んで右の刀を翳す。
妖夢の短刀は読み通り攻撃を防いだ。
だが、勢い良く叩きつけられた短刀は妖夢の手から弾き飛ばされた。
武器を片方失った妖夢は一旦距離を置いた。
短刀は取りに行くには遠い距離にまで飛ばされている。
「ならば一刀流です!」
妖夢は左の長刀を両手で持ち構える。
アダムは何も言わず突撃した。
リーチを活かした長い攻撃では無く、両端に刃が付いている事を活かし手数で攻める。
左右に振り回される槍を的確に防ぐ妖夢だが、獲物が1本では反撃のチャンスを狙い難い。
妖夢は回る槍に向かって刀を突き出した。
回転する槍を止め、剣先はそのままアダムの喉へと延びる。
だがアダムはそれを体を後ろに反らす事で避けた。
そしてサマーソルトキックで妖夢の刀を握る手を蹴り上げ、刀を弾き飛ばした。
それを認識した妖夢は次の瞬間跳び上がり、舞い上がる刀を取ろうと手を伸ばす。
1回転し着地したアダムは槍を投げ飛ばす。
妖夢が刀に手を触れようとしたその時、横から飛んで来た槍が刀を別方向に吹き飛ばした。
不味い、そう思った瞬間妖夢はアダムから跳び蹴りを喰らい吹き飛ばされた。
地面に落ちた妖夢は起き上がろうとするが、何時の間にか槍を持ったアダムが自分の首に槍先を当てていた。
「......やっぱり勝てませんね。本当に凄いですよ。」
「そちらも相手の攻撃に対抗する判断は見事だ。僕は剣術には欠点は無いと言ったが少し言い直そう。妖夢、君は”無条件の戦闘”よりも”条件付きの試合”の方が得意に見える。だから武器を失った時取りに行こうとした。僕が思うに武器無しでの戦闘術も学ぶべきだと思う。剣術の修行をして何だが、専門外の事を学ぶ事も大事だと思う。」
「はい。ありがとうございました!」
妖夢は立ち上がると腰を深く折って感謝の意を表した。
「凄かったじゃないアダム。」
「最後の剣弾き飛ばして飛び蹴り決めた所とかかっこ良かったぜ。」
霊夢と魔理沙が賞賛の声を掛ける。
「だがまだ本来の使い方をしていない。」
「えっ?槍の使い方ってあんなじゃないのか?」
「これは”半分は”槍では無い。」
「半分?」
「次はまだかしら?」
霊夢の疑問を余所に話を切り替えたのは咲夜だった。
「ならば私にその使い方とやらを見せたらどうかしら?」
「良いだろう。」
5mの距離を取り、双方構える。
「始め。」
霊夢の合図と共に咲夜が目の前から姿を消した。
途端にアダムの周囲を大量のナイフが囲む。
振り回される槍は弧を描きながらナイフを弾く。
次は背後にナイフが配置されアダムを襲う。
槍を後ろへ伸ばし、振り回す勢いで槍を撓らせナイフを弾く。
今度は頭上から、アダムは死角であるにも関わらず攻撃に気付いた。
振り落ちて来るナイフを全て槍で受け止めてみせる。
すると、アダムは感覚的に横を振り向き、槍を翳す。
ナイフを両手に持った咲夜がナイフを振り下ろしている最中だった。
槍の柄とナイフがぶつかり合う。
力で勝りナイフを押し返したアダムは咲夜へ威力は大して無いが素早い蹴りを決めた。
地面へ落ちる寸前、咲夜の姿が消える。
咲夜はアダムの眼前に現れた。
繰り出される斬撃を躱していくが、更なる攻撃が待っていた。
アダムの左右からナイフが挟む様にして飛んで来る。
飛び交うナイフを槍で弾き、正面からの咲夜の攻撃も受け止める。
槍の真ん中で咲夜が握るナイフを受け止めるが、左右から飛んで来るナイフがアダムの頭を狙う。
パカッ
何かが外れる様な音がした。
咲夜がその音源を探るべく周囲を見る。
それは目の前にあった。
槍だ。
更に槍を良く見ると、折れ曲がっていた。
3つに分かれた槍は真ん中が咲夜の攻撃を受け止めたまま、左右の部分が独立して動きナイフを防いだ。
咲夜は一旦時を止め、距離を置く事にし、時を戻す。
「そんな武器があるなんて驚いたわ。」
「三節棍だ。使用者のエネリオンと思念波によって関節部を結合させて槍にする事も出来る。」
槍は丁度60cmずつに分かれ鎖で繋がれている。
アダムは三節棍を折り畳み、右手と左手にそれぞれ端の節を持った。
ナイフがアダムを包囲する。
3本の棒はそれぞれ独立した動きでナイフを防ぐ。
前後、左右、上方、斜め、全ての方角からの攻撃を3本の棒は受け付けない。
するとアダムが左手を離し、右手を勢い良く引き、三節棍を畳んだ。
そして投げ飛ばすようにして三節棍を伸ばし、咲夜目掛けて突き出される。
間一髪で体を横に移動させ避けた咲夜。
振り出した三節棍を薙ぐアダム。
体をしゃがませ何とか躱した咲夜。
アダムは躱された三節棍の中心の節を持ち、3本を1本の棒の様に回転させる。
咲夜が時を止め、アダムの周囲に大量のナイフを配置した。
自分を取り巻くナイフを瞬時に確認したアダムは三節棍の回転速度を加速させる。
跳び上がり体と三節棍を回転させ、回転跳び蹴りでナイフの側面を蹴飛ばし、三節棍でナイフを弾き飛ばす。
着地したアダムが突然体を後ろに反らせた。
何時の間にか背後に回っていた咲夜がナイフを横に薙いでいる最中だった。
一閃されるナイフを躱し、そのまま後ろに倒れる勢いを利用しオーバーヘッドキックを繰り出す。
蹴りは咲夜の頭に炸裂し、吹き飛ばされた咲夜は地面に倒れる。
アダムは倒れる体を手を着いて反動で起き上がり、咲夜は追撃を恐れすぐに立ち上がった。
沈黙が流れ、双方に緊張が走る。
アダムが地面を蹴り接近する。
三節棍の左右を持ち、残った中部を咲夜の持つナイフに押し当て競り合う。
左右を振り回し攻撃を畳み掛ける。
防戦一方の咲夜は反撃を試みるが3本の棒によって完全に阻まれる。
次の瞬間、咲夜からはアダムの右手から三節昆がすり抜けた、様に見えた。
三節棍は咲夜の足元に巻き付き足を刈った。
空中で倒れる最中の咲夜を、畳んで1本にした棒で叩き落とし、咲夜の首筋に刃が付きつけられた。
「......参ったわね、結局1回も勝てないわ。」
「咲夜、君の「時を止める」という能力の利点はこうして正面から撃ち合うよりも相手の知覚外から奇襲を仕掛ける事に本当の価値があると思う。当然この様に接近戦でも効果は高いが、一番の欠点は至近距離では能力が使えないという点だ。先程も三節棍から連続攻撃を受け時を止める為に必要な時間や距離が無かった筈だ。」
咲夜の能力について簡単に説明すると、時を変える対象をエネルギー障壁で囲み、時間を遡ったり薦めたりする。
時を止めるという表現は実際は間違っており、実際は自身がエネルギー障壁内に居て自分の時間を世界の時間と同じ速さで遡る事で、咲夜から見て相対的に時間が止まる事になる。
つまりはそのエネルギー障壁の範囲が至近距離であれば相手も入ってしまい相手も自分と同じ時の中に入るという事だ。
ちなみに、この方法であれば時間以上の速さで時を遡る事が出来れば過去へも行ける、のだが咲夜はそれ程の能力は有していない。
「自分の能力についてそんな深く考えた事なんてなかったわ。私はただそれがどの様な能力でどのように使えば良いか知れば満足だったけど、こんな発動の仕組みを考えれば弱点や更なる活用法も見えてくるのね。」
咲夜が感嘆して言う。
「不可解を解読する手段が科学だ。」
「うーむ......。」
カイルは手に取っている球体を”観察”していた。
これは今は亡きトレバーが以前から身に付け、死んだ際にアダムが取った物で、今はカイルがアダムから頼みこうして手の中にある。
「それはアダムさんが持ってた球ですか?」
「ああ、僕の知覚能力で構造を解析している。」
早苗の質問にカイルは目線を変えないまま答えた。
「何か分かった事とか無いんですか?」
「そうだね......この物質はユニバーシウムに非常に構造が似ている。でも性質は明らかに違う点がある。まずはこの物質にはエネリオンに必ずあると言って良い空間中のエネリオンを吸収するという性質が存在しない。エネリオンを自在に操れる存在、つまりトランセンデンド・マンによって供給される必要がある。」
早苗は興味深そうに聞いていた。
「つまり全く違うって事なんですか?それじゃあ新物質を発見したって事じゃないですか!」
「その可能性は高いだろうね。他にも、通常ユニバーシウムは構造を変換する事でプログラムを埋め込み、そのプログラムに従ってのみエネリオンを他のエネルギーに変換する。でもこの物質は使用者の思念波によってエネルギーを自在に変換可能だ。」
「自分の思った通りの「力」を出す事が出来るって事ですか?」
「ああ、アダムもあの時球体を利用して磁力を生み出した。その前にも念動力らしき現象も起きた。だけど、肝心の部分がまるで分からない。ユニバーシウムと同じ様に構造は分かっていても更に細かい部分は分からない。そもそもどの様にしてユニバーシウムの様な「中物質」を生み出せるのか、それが一番の謎だ。それよりも、今は少し休憩しようかな。一旦データは取れたし。」
「あ、じゃあお茶淹れて来ますね。」
そう言った早苗は襖を開け、奥の部屋へと行った。
「ふう......結構きついな。」
カイルの目の前には高さ2m、横幅50cm、奥行き1mはあろう黒い箱がある。
傍には液晶画面、キーボード、マウス、その他インターフェースが据え置かれている。
このブラックボックスの正体は数日前香霖堂からタダ同然で貰った高性能コンピューターである。
スーパーコンピューター程の性能では無いが、演算処理の能力はカイル曰く十分との事。
カイルが知覚能力を通して受け取った球体の情報はこのコンピューターに記憶され(カイルのテレパシーは機械に送信も可能)、更に外界の人類共和軍の研究施設へと送られる。
1人でやるのは流石に無理があるのも理由の1つだが、カイルは他の研究も予定しているのでまずはこうして情報を整理する事から始めている。
カイルは画面のスイッチを入れ、通信機能を起動させた。
「ロウさん、送信されたましたか?」
『ああ、今受信中だ。しかしお前も幻想郷に来て研究三昧とは、少しは他の事でもして楽しんだらどうだ?』
「これは僕にとっての趣味であり生きがいみたいな物ですからね。気がおかしいと言って貰っても別に構いませんよ。」
『別にお前はマッドサイエンティストって訳でも無いけどな。ただお前はもう少し青春しろって言いたいだけだ。』
「青春って言われても良く分からないですが......。」
『......そういやお前女からはモテる癖に自分からは行動を起こす訳でも無いからな......まあ人生を後悔するなって事だ。ところでデータは全部受け取ったらしい。それじゃあまたな。まあ、がんばれ。』
「はい、そちらも。」
通信が切れ、丁度早苗が部屋に戻って来た。
「持って来ましたよ。」
お盆から片方の茶碗をカイルに渡す。
茶碗には透き通った緑色の液体が注がれている。
「緑茶か。」
その時カイルの脳内には何故か先程のロウとの会話が思い浮かんでいた。
『ただお前はもう少し青春しろって言いたいだけだ。』
(青春、か......。)「.......そうそう、緑茶と紅茶ってどちらも茶葉が同じらしい。」
「そうなんですか?」
「紅茶は緑茶を発酵させた物だ。発酵した分甘味や酸味が増す。西洋人は甘味を好むから苦味そのままが苦手だからね。逆に日本人というのは菜食だから甘味自体に慣れていない。だからこういった薬味みたいな苦味を好むんだろうね。」
「へえ~、凄いですね。」
早苗は興味深そうにカイルの雑学話を聞いていた。
一方、カイルは腑に落ちない感情を抱えていた。
(これで良いのか?......)
「ん?どうかしたんですか?」
カイルの感情は表情に表れていたらしく早苗がそれを疑問に思ったらしい。
「い、いや、何でも無い。」
戸惑っているカイルを見て思わず吹き出しそうになった早苗だが如何にか堪え、これ以上は質問しなかった。
「少林寺三十六房」を見て三節棍を書きたくなった作者でした