東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中)   作:タツマゲドン

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作者は思った

俺って気付けばシリアスなシーンばっか書いてるな


87 過去

 カイルは通信端末を取り出し、ある人物に通話を掛けた。

 

 送信から30秒経過して、相手が回線を開いた。

 

『カイル君?何の用?』

 

「ああ紫さん、貴方に頼みたい事があるんですけど、良いですか?」

 

『良いわよ、どうせ今暇だし。』

 

「こちらはそうも行きませんけどね。」

 

『ん?どういう事?』

 

「それは後でまとめて話します。まずは地底に行って古明地さとりという人物をこちらに連れて来させて下さい。話はそこで。」

 

『分かったわ、連れて来るわね。少し待ってて。』

 

 紫のその声を最後に通信が切れた。

 

 それから2分も掛からない内に、

 

 カイルの前方の空間が引き裂かれた。

 

 引き裂かれた暗黒空間から3人の人物が姿を現した。

 

 まずは2分前まで通信相手だった八雲紫。

 

 次にカイル自身が連れてきて欲しいと言った古明地さとり。

 

 そして、

 

「お兄ちゃーん。」

 

 呼んでも頼んでも居ないのにスキマから現れ、カイルにいち早く駆け寄った古明地こいし。

 

「ごめんなさい、私が行こうとするとこの子も行きたいと言って、待っててと言っても聞かなくて仕方なく連れて来てしまって......」

 

 さとりが妹の代わりに謝罪をし、こいしはカイルに対し、遊ぼうよ、と動きで示している。

 

「それじゃあ、こいし、僕は今やるべき事があってそれで君のお姉さんを呼んだんだ。だから出来るだけ邪魔しない事と僕の言う事は必ず聞いてくれ。分かったかい?」

 

 それに対し、こいしは本当に分かったのか分かっていないのか、

 

「分かったー。」

 

 とマイペースな返事だった。

 

「で、何の用で呼んだのか話してくれないかしら。」

 

 紫が話を戻そうと言った。

 

「はい。それじゃあ、まずは......」

 

 カイルは、地球管理組織が送り込み、その中で唯一生き残った生存者が知らぬ間に怪我を治し逃げ、自分達は今その人物を探している事、を伝えた。

 

「私達にも捜査に加わって欲しい訳ね。それなら私の得意分野よ。藍、橙、出て来なさい。」

 

 突然キツネとネコが紫の背後から現れたかと思うと、キツネは八雲藍に、ネコは橙に姿を変えた。

 

「話は聞いたわよね。」

 

「はい。」

 

 主の質問に返事し、2体の式神はどこかへと行った。

 

「私も行って来るわね。何かあったら連絡するわ。」

 

「頼みます。」

 

 カイルが返事をすると紫はスキマを開き、中の暗黒空間へと入っていき、スキマが閉じた。

 

「それで、私は何を?」

 

 さとりのサードアイによる読心は視線を定めればその方角にある人物の思考を読む事が可能で、相手の意志が強ければ強い程遠くても感知出来る。

 

 その事はさとり自身も知っているが、カイルには知られた事も伝えた事も無い筈だと思っている。

 

 だが回答は予想外だった。

 

「ああ、”交渉”の為だ。目的の人物の思考が分かれば相手が何を求めているのか分かる。相手の目的さえ分かればそれに応えれば良い訳だ。だから君を呼んだんだよ。」

 

 さとりは成程、と思い、同時に別の事を伝えようかと考えた。

 

 これまで「心を読む程度の能力」という力が他人にばれた時、それを知った者は皆自分を嫌い、蔑む視線や感情を向けるのだ。

 

 だがこの目の前に居るカイル・ウィルソンという人物はそれを知っても嫌いも蔑みもせず、自分を受け入れてくれた。

 

 それだけでさとりは嬉しかった。

 

 だからこの人なら何でも受け入れてくれるかもしれない。

 

「私の「心を読む程度の能力」は相手が見えなくても強い意志があれば遠くでも”見える”んです。だから、その......もっと役に立ちたいって思って......。」

 

 カイルは感心した様な表情を一瞬見せ、少し間を置いて口が開かれた。

 

「どれ位の距離なら分かる?」

 

「うーん、あんまりやった事がないから良く分かりませんけど......。」

 

「なら僕が周囲情報を読み取ってそれを送るから、視覚的情報だからそこから”見る”事は可能な筈だ。それでどうかな?」

 

「はい、良いですよ。」

 

 さとりの返事は普段よりも元気そうだった。

 

「それじゃあ早速......待って、こいしは何処へ?」

 

 始めようとした所で、1人の姿が消えているのに気付いた。

 

「全く、何時も人を心配させるんだから......でも毎回平気に返って来るんですよ。」

 

 さとりは己の愚痴に近い呟きによって苦笑した。

 

「僕も、外界の弟が良く言う事を聞かなくて困ってるんだ。」

 

 カイルも同情の意を込めて喋り、2人共苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......。」

 

「どうしたの?立ち止まって、何か考え事?」

 

 仁王立ちで腕を組むアダムは霊夢からの質問に答えなかった。

 

 ただ黙って何かを考えている。

 

 というのも、アダムは気になっている事が幾つかあるのだ。

 

(......僕が霊夢をカバーした時、奴から敵意が消えた......。)

 

『俺みたいになるな。大事にしろ。』

 

 あの男の言葉が蘇った。

 

(何故あの様な事を言ったのだろうか。意味が理解出来ない。)

 

 そして、もう1つ、

 

(奴と対峙した時、僕は不安だった。)

 

 これまで自身が死に肉迫した場面は何度もあったが、その時でさえアダムには殆どの感情を表に出さなかった。

 

 だが今回だけは違う。

 

 あの男の手が霊夢に向けて伸びる時、焦り、苛立ち、不安、ある種の恐怖すら感じた。

 

 対面した時から僅かに震えているが、まだ残っている。

 

 自分が死に近づいてもこの様な事は無かった。

 

 以前「破壊神」と呼ばれるあの男と戦った事は2度もあったが、その時も圧倒的な力の前に怯む事は無かった。

 

 だが、今は......

 

「アダム、大丈夫?顔色が変じゃない?」

 

 不意に声を掛けられ、アダムは勢い良く振り向いた。

 

「ん?ああ、大丈夫だ。」

 

 突然の事だがすぐに冷静さを取り戻し、何とも無かったかのように振る舞うアダム。

 

 しかし、彼はある事に気付かなかった。

 

 自分の体の震えが治まっていた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰かに見られている。

 

 気の所為では無い、確かだ。

 

 その距離は100mもあるまい。

 

 だが方角が分からない。

 

「何処だ!」

 

 俺は無意識に怒鳴り、右手を突き出した。

 

 エネリオンと呼ばれる素粒子が俺の周囲の空間から俺自身へ吸収され、俺の脳を通り、俺の腕から発射されるのが”分かる”。

 

 エネリオンに当たった分子構造物が原子に分解される。

 

 結果、手を伸ばした延長50mにあった物体が消える。

 

エネリオンの流れ道に土や木を構成していた元素が塵となって積もり、風に飛ばされた。

 

「何処だ!何処だ!」

 

 エネリオンを乱射し、半径50m以内は森林から荒地となった。

 

 手応えは無い。

 

「......そこに居るんだろ。」

 

 後方10m、地面から数m。

 

「良く気付いたわね。見破られた事なんて余程付き合いが長い知人でも無いわ。」

 

 若い女性の声だがやけに落ち着いた声だ。

 

「誤魔化すな、姿を見せろ。何のつもりだ?」

 

「はいはい、今出て来るから。」

 

 空中に黒い、何と言うべきか、時空を繋ぐワームホールを巨大化するとこんな風になるのか?

 

 何も存在しない空間に暗黒の窓の様に浮かんでいて、そこから俺に声を掛けたと思われる女が黒い空間に腰かけている。

 

「私は八雲紫。私達は貴方に協力して貰いたいだけよ。」

 

「協力?ふざけるな。第一何に協力しろと言うのだ。」

 

「具体的には、貴方が居る此処、幻想郷を地球管理組織とやらから守って欲しいのよ。」

 

「幻想郷......地球管理組織......」

 

 前者は少し耳にした事がある様な......だが後者は俺が憎むべき対象......

 

「......。」

 

「別に貴方を利用しようって事じゃないわ。取引に応じてくれれば......」

 

「じゃあアイツらは何だ?」

 

 紫の台詞を遮り後ろで明らかに敵意を見せている奴らを指差した。

 

 キツネみたいな奴とネコみたいな奴が攻撃態勢を解いたのが見える。

 

「あの時と何も変わらん、二度と同じ手には食わんぞ。前だってそうだった。良いか、何度でも言ってやるぞ。俺に関わるな!」

 

 最後に怒鳴り、俺は立ち去ろうとした。

 

「やっと見つけたぜ。少し待って話だけでも聞いてくれや。」

 

 不意にこの場に割り込んで来たのは俺より6、7年位年上と思われる男。

 

 隣にはそれより少し若く見える女。

 

「待て待て、そう睨むなよ。何もしないってば。」

 

 俺が睨んでもこの男は飄々とした態度を取っている。

 

 気に入らん。

 

「俺達は平和を望んでいる。お前も同じだろ?ならお互い平和にするべきだ。だろ?」

 

「お前達は何が出来る。」

 

「少なくともアンタが管理軍の奴らを憎んでいるのは分かっている。俺達共和軍や此処幻想郷の奴らも奴らとは対立関係、つまり協力して打ち勝ってやろうって事だ。そして、お前の頼みならある程度は聞いてやる。悪くないだろ?で、望みは何だ?」

 

 馴れ馴れしく口を聞きやがって、舐めてるのか?

 

 気付けば目の前には荒れ果てた土地の幻覚が見えていた。

 

『どうだ?私達の目的を共に達成しないか?世界はお前の望むがままだ。失った物すら取り戻せる。”私達”にはそれが実現できる力を持っている。』

 

 目の前の男が俺に話し掛ける。

 

『本当か?何でも出来るのか?!』

 

 訊かれたガキ1人が半信半疑で問い返した。

 

『勿論だ。もはや”私達”は地球上で最高等生物の人間を桁違いに上回っている。お前がこの世界最大の都市を一瞬で壊滅させた様にな。何ならその逆だって可能だ。』

 

『本当か?!なら1つだけ頼みがある。それを......』

 

 冷静さの無いガキは疑わずに話に乗り掛かった。

 

 だがガキは最後まで言い切る事が出来なかった。

 

 ガキは警戒心を解いてしまっていた。

 

 背中に尖った物体が突き刺さる感覚がした。

 

 1発、2発、それどころでは無く、気付けば無数の針が背中に刺さっていた。

 

 分かっている、これも幻覚だ。

 

「なら俺の目の前から消えろ!」

 

 俺は何時の間にか拳を握りしめていた。

 

 自身が前進しながら腰の位置にあった右手は前に伸びる。

 

 ドスッ!

 

 重たい打撃音と共に俺は手応えを感じた。

 

 この男の両手に受け止められたが、威力を殺しきれず自分の手ごと腹にめり込んでいる。

 

「ぐっ!」

 

「リョウ、大丈夫か?」

 

 目の男がふらつき、隣の女がそれを見て心配そうに声を掛けた。

 

 だが、この男は強い力で俺の拳をその場から放さない。

 

 すると、俺の腕を掴むこの男の手から冷たい感覚が走った。

 

「俺もお前と同じだ。これは俺以外の他の奴に知らせた事は無い。よって今知っているのは俺とお前だけだ。」

 

 冷たい感覚は確かな物となり、腕先の体温が奪われ冷たくなるのが分かる。

 

(冷却か?......何か何処かで聞いた事が......)

 

 無言で俺は腕を引き離した。

 

「......秘密なら何故俺に明かした?」

 

「俺はコイツの所為で色んな物を失った。お前も、自分で制御出来ないんだろう。お前は昔の俺に似ている。だからお前を助けてやりたい。」

 

 先程の軽薄そうな態度に対し、今はやけに真面目な顔つきだ。

 

「......。」

 

 俺は無言で地面を蹴り、奴らの姿はあっという間に見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ごめん、逃げられたわ。』

 

 紫から端末越しに声を聞き、カイルはやはりか、という表情をした。

 

「分かりました。僕からでは場所を特定したので後は僕達に任せて下さい。」

 

『すまんカイル、俺からもどうにかしようと話を持ち掛けたが、途中で逃げられた。』

 

 今度は珍しくリョウからの謝罪を聞いた。

 

「良いよ。敵対して攻撃して来る可能性まであったのに、意味のある会話を少し出来た程度でも十分と言えるよ。」

 

 スピーカーからありがとよ、と聞こえ、今度は別の人物から通信が掛かって来た。

 

『カイル、目標の正確な位置を教えてくれ。僕が交渉する。』

 

 アダムが自身があるのか無いのかも分からない様な感情が読み取れない声で言った。

 

「今送るよ。それと交渉には僕も加わりたい。」

 

『構わない。』

 

 データを脳からテレパシー経由で端末に送り、アダムからの短い返事の直後、通信が切れた。

 

「急ごう。君のペースに合わせるよ。」

 

「あ、はい。」

 

 一応飛行能力のあるさとりだが、それ程速くは無いのを考慮してカイルが言ったのだろう。

 

「......カイルさんは、何で皆にそんなに気遣ってくれるんですか?」

 

 移動中にさり気なくさとりが訊いた。

 

「......昔、僕は自分のミスで父親を死なせてしまった事があったんだ。」

 

(しまった、込み入った話にしてしまったわ。どうしよう......。)

 

 心を読めばカイルから後悔という負の感情が感じ取れた。

 

 また、心を読めばその時の記憶までも読める。

 

 見えるのは目の前に倒れる1人の大人、そしてそこからナイフを引き抜くもう1人の大人。

 

(この倒れている人がカイルさんのお父さんなのかしら。)

 

 急に視界が揺さぶられた。

 

 その中に見える確かな2本の細い腕とそれに握られる銃。

 

 そして白い閃光。

 

 発光した僅かな時間で目の前には2つの死体が横たわっていた。

 

 視界は今度は地面を向いた。

 

 更に視界に水滴が地面に落ちる様まで追加された。

 

(こんなに泣いているなんて......。)

 

 今のカイルは大丈夫か、とさとりが顔を見上げた。

 

 だがカイルは悲しみを表情に出さず、何時ものはにかんだ笑みを浮かべた顔だった。

 

「僕はもう既に助けられた身だ。だから僕も父の様に今度は自分が他人を助ける必要がある、そう思っているよ。」

 

「......ごめんなさい、そんな悲しい話にするつもりは無かったのに......。」

 

「気にしないで、そんなつもりじゃない事は分かっているよ。別に過去の事はどうだって良いさ。」

 

「......カイルさんは偉いんですね。私なんか人に拒絶された過去ばかり気にしてしまって......。」

 

 逆にさとりが鬱に沈み、何時の間にか足が止まってしまっていた。

 

「......私、今まで私が心を読める事が他人に知られた時、皆揃って私を嫌い、差別されて、誰も居ない地底の奥深くでひっそりと暮らす様になって......。」

 

 カイルは話を逸らそうともせず真面目になって聞いていた。

 

「......でもカイルさんは私の能力を知った時、拒絶しなかった。それどころか私の為になってくれて......私、こんなに優しくされた事が無くて......。」

 

 さとりは目から液体が湧き出ているのに気付いた。

 

 カイルは何を話そうかと腕を組み考える様を見せた。

 

「......差別なんて外の世界でだって幾らでもある。違いは髪の色や肌の色、出身地、血筋、遺伝子、何だって差別の理由になる。違いは生まれつきある、それは自然界の摂理と言えるだろうね。でも君に非は無いよ。」

 

 カイルはここでわざとか、無意識か、間を取った。

 

「人は皆、自分が崩れるのを恐れている。自分が自分じゃなくなるのは誰だって同じだ。それは対人関係でもね。違いがあればある程拒絶するのも当然だ。でも大事なのは受け入れる事。程度の差はあれど不可能では無い。意識の違いだ。捉え方次第で欠点は利点にも成り得る。さとり、君の能力だって別の人から見れば嫌かも知れないが、僕から見れば興味を引くし凄い能力だと思う。結局は物の見方だ......その、根本の解決にはなっていないと思うけど、君自身の考え方を変えるだけでも周囲は変わる、僕はそう思う。」

 

 さとりは話を真面目に聞き、ある種の感動を覚えていた。

 

「......私、こんなに人から励まされると思わなくて......ありがとうございます!」

 

 涙を拭いながら礼を言い、さとりは自分が止まった所為で目的を忘れかけていたと我に戻った。

 

「しまった、ほんの思い付きで話したのに......。」

 

「大丈夫、今からでも間に合う。行こう。」

 

「はい。」

 

 さとりは嬉しそうに返事をし、前を進む青年の後について行った。

 

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