痛い話   作:葛桜 杏子

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初めましてです。

体験談のような私小説
私小説のような体験談
この辺をコンセプトに書き進められていけたら
なーんて思ってます。

文章硬めで好みが分かれるとは思いますが
批評批判大歓迎です。


第1痛・虫歯

子供の頃、歯磨きが嫌いだった。

人によっては起床後、食後、就寝前、と一日に何回も歯磨きをするらしいが理解できん。

 

何がキライって、まず朝

朝の目覚めは

「このまま布団にずーっとくるまれていたい」

そんな単純な欲求に無理やり別れを告げ・・

本当は目を三角にした母に

「学校遅れるわよ」

とせかされ、引きはがされ、渋々と安息の寝床から出るのであるが

体に残るぬくもりの余韻に浸りながらうだうだするのも好きだった。

そんな半覚醒の体を一気に現実世界に引きずり落とす歯磨きが嫌いだった。

そんな訳で

「もう磨いたー」

と返事しながら

実際は水で口を軽くゆすぎ、顔にぱちゃぱちゃと水をつける程度ですましてた。

その事実がばれた時

「虫歯になって泣くのは自分なんだからね!」

とヒステリックに怒られたが

表面上は恐縮し、反省し、毎回ではなく【たまたま】だった風を装いながら

心の中では

『野生動物は歯なんか磨かなくても虫歯にならないじゃん』

『それに歯磨きったって石鹸みたいなもんだろ?

石鹸で口の中を洗うなんてかえって体に悪そうじゃん』

そう思ってた。

 

何がキライって夜

『もーちょっと遊びたい』とか『もう少しテレビが見たい』とかの欲求に睡魔が打ち勝ち、

とろとろと、うつらうつらと船を漕ぎ始める、そんなふわふわとした状態が好きだったので

願わくは〈そんな時間帯の自分〉をそーっと抱え上げ布団に運び寝かしつけて欲しかった。

しかし現実は

「そんなぼえぼえしてる位ならもう寝なさい」

「布団敷いておいてあげるからその間に歯磨きするのよ」

と至福の時を打ち砕く母の一声で儚くも終わりを迎えるのだ。

『これから寝ようっていうのに歯を磨いたら目が覚めちゃうじゃん』

と心の中で毒づきながら

朝と同様にチョー簡単にごまかしていた。

 

何がキライって食後

食事とは関係ない話からたとえ話で説明したいんだが、

例えば恋人同士が愛を語らい口づけをする

そのあとは

甘い吐息や柔らかな唇の感触、至福のひと時の余韻を楽しんだりするのではないだろうか?

お互いの愛情を再確認して幸せな時間を堪能するのではないだろうか?

もしその時パートナーが腕を振りほどき、おもむろに歯を磨きに行ったら

あなたはどう思うだろうか?

「俺は(私は)不潔なの?」

と思いショックを受けるのではないだろうか?

食べ物に話を戻すと

地方によって表現方法が違うとは思うが

昔から食べ物を粗末にすると罰が当たるとか、コメには7人の神様が宿るとか

梅干しの種には天神様がいるとか言われたものだ。

それに

食前の「いただきます」という言葉には「命をいただきます」の意味があると言われたものだ。

そーいった神々に対して食後に歯磨きをするなんて失礼千万な行為ではないだろうか?

さらに言えば、食事の香りや食感、味といったものの余韻も楽しみたいものではないだろうか?

そう考えたら食後の歯磨きなぞ言語道断の愚行といっても言い過ぎではないだろう。

 

ガキの頃から少年時代、そんな事考えながら日々を送ってきた。

おかげで母の目を盗む技術だけは達人の域にまで来ていた。

 

野生動物が歯磨きもせず虫歯にならないって話も真偽の程は確かではないし

そもそも捕食に支障が出る虫歯持ちの野生動物がいたら長生きしないだろうし

人は野生動物のように自然の食材だけで生活している訳ではないという至極単純な理屈に

自身が虫歯になって初めて思い知らされた。

 

母に虫歯になったことを白状すれば

「ほれみたことか」

と勝ち誇られそうな気がして疼痛に耐えた。

都市伝説ってやつは定期的にリバイバルするものらしいが

間の悪い事に俺が虫歯になった頃、〈口裂け女〉の話題がガキ達の間で大流行していた。

なんで[間が悪い]かって?

ガキの目から見たマスクをした女医さんや看護婦さんなんて

『ひょっとしたら口裂け女?』

と畏怖される対象そのものではないか。

この時点までは恐怖と痛みを天秤にかけたら恐怖の方が勝っていたので(母に対する恐怖も含む)

歯科医院の門を叩くには至らなかった。

とは言っても、常時襲い来る疼痛、時に激痛に痛み止めでなんとか対処していたが

限界が近いことをひしひしと感じ始めていた。

 

そんなある日、クラスメートが歯医者に行った体験談を学校でしていたので

そばに行き聞き耳を立てると

曰く

「口をおっきく開けさせられて暴れたり逃げたりできないようにべろをナイフで押さえつけ

のどちんこをちっちゃな掃除機で吸いながら電気ドリルで歯に穴開けて虫歯菌を殺すんだぜ」

「さらに痛くて怖くて必死に逃げようとしたら今度は歯の周りにブスブス注射されて

しかもどーやら毒みたいのが入ってて終わった後も口の中がもわんもわんしてて

おやつ食べても味が全然しなくなっちゃうんだぜ」

クラスメートの

「うっそーーー!ちょーこえぇーーー」

「泣かなかった?平気だった?」

の問いかけに件の彼は

「泣きそうになったけど必死で耐えた」

と少し誇らしげに答えていた。

傍らで聞いていた俺には彼の背中が心なしか勇者の風格を備えているように見えたものだ。

 

とてもまっとうな診療行為に思えないその治療実態は俺の畏怖心をさらに強めるだけだったが

話の中に福音とも思える光明もあった。

要は【歯の虫歯になった部分を削り取る】事が虫歯治療ということだ。

痛みが耐えがたくなってきていた俺は自身の手で虫歯を削り取る事を決意した。

と言っても電気ドリルなど持っている訳でもなく、また仮に持っていたとしても

自分で電気ドリルを使って歯を削ろうとして手元が狂えば悲惨な結果しか待っていないだろう。

ドリルで頬を突き破るか、歯茎に突き刺すか、回転する刃に舌が絡まりちぎれるか・・

例え電気ドリルを持っていたとしてもそんな無謀な冒険は出来る分けもない。

手作業でプラモデル作成用に持っていた先の尖った棒やすりで少しづつ削る事にした。

これは意外なほど上手くいった(と思ってた)

 

虫歯の部分は菌に侵食され窪み、穴が空いていたので、

やすりの先を収めてしまえば多少手元が狂っても口中を傷つけることもなく

少しづつではあるが虫歯の部分を削り取る事が出来た。

時々溜まったつばを吐きだす時黒っぽい粉が混ざっていたので

それが虫歯の部分なんであろう。

黒い粉がほとんど出なくなるまで削り舌先で歯を触るとぽっかりと穴が空いていた。

「俺って天才じゃん♪」

悦に入りながらクラスメートの話を思い出す。

「はー削ったあとなんかハッカみたいなの塗って最後に粘土みたいなの詰めて終了」

確かそう言ってたはずだ。

しかし塗るハッカなんか持ち合わせていない。

その時天才的なひらめきが脳内を駆け巡った。

「そっかー、ハッカのガム詰めれば一石二鳥じゃん」

「俺ってちょー天才じゃん」

早速近所の駄菓子屋に買いに行き(コンビニなんて存在してない時代だった)

ガムを買い、噛んで柔らかくしたものを詰めて治療終了。

・・のはずだった。

 

数日後、虫歯はさらに悪化し激痛は限界を超えた。

さすがに前回の自己治療が失敗だった事を悟った。

少なくとも前の状態に戻す為には歯に詰めたガムを取らなければならない。

そこで爪楊枝でほじったが中々奥の部分が取りきれない。

力を入れて角度を変えながらほじくってたら、ポキっと先端だけが折れてしまった。

その後折れた先端を取り出そうと口をゆすいだりしてみたがうまく取れてくれない。

『こんな時こそ歯磨きだ』

とばかりに必死で歯磨きをしたらさらに奥に押し込めてしまったようだ。

万事休す!

その時脳がまた閃いた。

昔指にとげが刺さって中々取れないのを母が針で刺して取ってくれた事があったのだ。

母の裁縫箱から待ち針を取り出し楊枝の先を取ろうと格闘する。

しかし待ち針は細く柔らかい為しなって中々上手くゆかない。

待ち針の使用をあきらめ太めの縫い針に変えてみる。

強度が高くなった半面太くなってしまった為中々目的地に先端が辿り着かない。

これまた角度を変えて悪戦苦闘していたところ

パッキン

と嫌な音を立てて縫い針まで折れてしまった。

背中を冷たい汗が流れたが舌で探ってみると先端ではなく中ほどで折れたようで

舌先に針が触れる。

指でつまみ取ろうとしたが触る事は出来るが滑ってうまく取り出せない。

ここまでさんざん修羅場を潜り抜けてきた俺は慌てず騒がず

工具箱から先の尖ったラジオペンチを取り出してきた。

針や楊枝と違ってペンチは大きいので大きく口を開け

慎重にペンチの先で針を探る。

『あった、これだ』

何度も失敗したくないので滑って取り損なうことがないように

針を挟んだペンチに力を込め確実に握りしめる。

 

いざ、抜こう

と思った瞬間事件は起きた。

いつの間にか帰宅した母が

「あんたさっきから何やってんのよー」

と言いながら俺の後頭部を思いっきり引っぱたいたのだ。

※□▼☆※★!><

なまじ長めに残っていた針としっかり握っていたペンチが災いした。

叩かれた瞬間

ビキッと歯を針が突き抜ける音と

グチュっと奥の歯茎に針が深々と突き刺さる嫌な音が耳に響き

間髪を置かず気絶しそうな激痛が走った。

口をおさえ激痛にのた打ち回る俺。

口からは大量の血が溢れ出し顔を喉を指を伝う。

半分パニック状態に陥った母だったがそこだけは冷静に救急車を呼ぶ。

救急車に乗せられ薄れいく意識の中俺は

『せめて朝位はちゃんと歯を磨こう』

と心に誓うのであった・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

後日談

 

俺は1日にして地元の歯医者の超有名人になってしまった。

先生曰く

「いやー、救急車で運ばれてくる患者さんて中々いないからびっくりしちゃったわよー」

看護婦さん

「ほんとほんと、何事かと思ってびっくりしちゃったw」

「そもそもこんな無茶する患者さんなんてまずいないしねーww」

「もう少し深く刺さってたら骨に達していたから、そーなってたら本当に大変だったのよ♪」

 

歯科医院、そこは【口裂け女】の巣窟などではなく

心優しく美しい女性たちの仕事場であった。

彼女たちに会うために

「やっぱり歯磨きはほどほどでもいいかなー」

などと、喉元過ぎればなんとやらの能天気な俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書きながら真剣に思いました。

歯を磨こうw
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