極悪高校外伝   作:しすてむだうん

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前にじふぁん様のところで活動していた、しすてむだうんと申します。
どうぞよろしくお願いします。


始まりの秋

 

 

「いっくぞ〜〜〜」

「おう! さあこい!!」

 

 夏の暑さに包まれた公園のグラウンドで出された声が辺りに響きわたる。幼さが残る声色の中にどこか真剣な雰囲気を滲ませるその声はグラウンドで向かい合う二人の少年から発せられていた。

 日中も頭上でこれでもかというくらい輝いていた太陽は今ではその姿を変え、辺りはオレンジ色のやさしい光に照らされている。 

 とはいえ、夏のうだる様な暑さは未だ引くことはなく地上にしがみついたままでいるのだけれども。

 

 そのため公園を利用している人々は止まる事の無い汗を少しでも減らそうと昼よりは面積の増えた日陰で夕方のひと時を過ごしてた。

 そんな人達がいるなか二人は堂々と照りつける日差しに身をさらし、自分たちが手に入れたスペースで動き回るという真逆の行動をしていた。

 

 少年たちは泥まみれのユニフォーム ーPAWAFURUーの赤字が胸に踊る、に身を包みグラウンドに君臨する。

 帽子からピョコリと出る赤毛が特徴的な少年は、グラウンドに描かれたへたくそな野球のフィールド、そのピッチャーマウンドに立ち相手を見据え、もう一人の少年はバッタボックスに立ち鋭いその視線を受ける。

 マウンドを睨み返すその目には挑戦的な光がありありと映し出され、二人の間でぶつかった視線がバチバチと火花を散らした。

 

 『ぜってー打ってやる』バッターボックスから出された視線はマウンドに対峙する赤毛の少年にそう語りかける。

 それに応えるかのようにマウンド上の表情が三日月の弧を描きニヤリと挑戦的な笑みを作り出す。

 

 周りから見たら二人の子供のお遊戯に過ぎないかもしれない、だけど二人にとってはこの戦いは真剣勝負であり、いまはその真っただ中ということだ。

 真剣な、神聖な戦い。お互いのプライドがぶつかり合う戦いというものに大人や子供という概念は関係ないのだ。

 だがそんな中であってもお互いの口元にうっすらと笑みが浮かんでしまうのは、この瞬間を楽しいと思う気持ちが互いの心の奥から湧き出てくるからなのだろう。

 

 投手とバッター、投げる者と打つ者、二人だけの野球。

 いや、それはもしかすると野球とは言わないのかもしれない、でも二人のこの瞬間にとっては野球そのものなのだ。

 

 赤毛の少年がぐっ、と手に力を入れて掌サイズのボールを握り、それからボールにある薄い山を人差し指でそっと撫でる。

 毎日の投げ込みのせいなのだろうかボールにあったはずの山は削れてツルツルになり、ボールの色自体も土色がしっかりと付いてしまっている。

 最初は真っ白だったボールはとても安っぽくなってしまっていたが、だからこそこの瞬間にふさわしいのかもしれない。

 

「お〜い、早くなげろよ」

 

 ボールを見つめて投げないでいるピッチャーに我慢しきれなくなったのか、バットで描いたヘタクソなバッターボックスの一番前から身を乗り出して声をかける。

 

 わるかったよ、今投げるからそう焦れるなって。

 そう言うかのように赤毛の少年は肩をすくませセットポジションに移る。 

 

 グラウンドに風がヒュウッと吹きつける。生暖かい、でも確かな暑さを感じさせてくれる、そんな風が。

 フェンスの周りの木の葉がサワサワと音を鳴らし、砂塵がフワッと足下を走り抜けフェンスと衝突してかすかな音を立てる。

 

 ぐっ、とバットを持つ少年の体に力が入り構えを取る。

 それに対抗するように手の中にあるボールがもう一度しっかりと握り込まれる。

 

「ふっ!」

 

 始めはゆったりとした動きで、それから気合いの言葉とともに振り上げた右足がグラウンドに落ちる。そのまま前に出したグローブが引き込まれ左腕が、振り抜かれるっ!

 ビュッと耳の奥に腕が空気を切っていく音が聞こえ、目には今しがた指の先から放たれたボールが思っていた所に飛んでいくのが映る。

 

(それを見てばかりいるのがお前のやる事じゃないよなぁ)

「どっせーい」

 

 マウンドからの心の問いかけに応えるかのようにバッターがスイングを開始した。

 小さいステップで踏み込み体を回転させ、スムーズな動きでバットが出される。奇麗なスイングによって力を与えられた金属製の棒がボールに噛み付かんと襲いかかった。

 しかし予想していたコースよりも違う場所にボールが飛んで来たからなのか、キンッと言う小気味いい音の代わりにカシュンっと弱々しい音を立ててフラフラとボールがホームベースから扇状に伸ばされた線の外側、ファールグラウンドに飛んでいった。

 勢いなく転々と転がったボールが、コロコロとグラウンドに後を残しながら進んでいく。

 

「くっそ〜〜!!」

 

 打ち返せなかった自分自身にか、それとも予想以上の球を投げて来た相手に対してか悔しそうに顔をくしゃっとさせながら少年はバッタボックスから離れボールを取りにいく。

 それを見るマウンド上の少年にも同じ様な表情が張り付いている。どうやら悔しいのは一人だけではなかったらしい。

 それは結して口には出さないでいたので、ボールを取りにいく少年は知る由もないのだが。

 

「あ! あーちゃん、ボールちょうだい」

「う、うん」

「ちっくしょ〜、もうちょっとでカキーンって向こうまで飛んでいったのにさ」

「そうだね。次はきっと当たるよ」

 

 ボールを追いかけていった少年の先には、二人の戦いをベンチにちょこんと座りながら見ていた女の子ーーあーちゃんと呼ばれている少女がーーがいて、さっき転がっていったボールは彼女の数メートル先で動きを止めていた。

 彼女の特徴的なフサフサの紫色の髪は後ろで一纏めにされ、ボールを取ろうと彼女が一歩足を進めるたびに右へ左へピョコピョコ動く。

 ほにゃっとした優しそうな顔立ちをしているのに快活さを目に秘めている、そんな可愛らしい女の子は二人の勝負をずっと見守っていたのだった。

 

 彼女は駆け寄ってくるあいつに大事そうに抱えていたボールを両手で差し出す。

 ありがと、とニカッと笑いながら受け取る快活少年は気付いてなかったのだが、ボールを渡すとき彼女の頬が赤くなっていたのは、きっと夕日のせいだけではないのだろう。

 

 それをマウンドから見つめる少年は、ついっと目線を彼らから外し夕日に照らされている茜空を仰ぐ。

 沈み行く夕日が最後に残す一枚の絵。波打つ赤い雲の波がゆらりゆらりとその形を変える。

 ほう、と一息ついたのはその絵になにを感じたからなのだろうか。答えを自分に問いかける前にもう一球、の声と一緒に投げられたボールが来た為に解を得る事はついぞ出来なかった。

 だが、ボールを受け取ろうとしたグローブを持ち上げた腕は、何故か一球前の時よりずっと重く感じられた。

 

「みーくん、はやく投げろよ〜。早くしないと暗くなっちゃうぜ」

「……次は打たせないよ」

「へへっ、それはどーかな」

 

 噛み合ったようにみえて本当の意味で噛み合っていない言葉のキャッチボール。目の端にじっとこっちを見る視線を感じながら赤毛の少年が投球動作に移る。

 空の色はますます赤々として燃える様な輝きの端に宵が訪れて来ている。

 

「ピッチャー、振りかぶって……投げましたっ!!」

 

 空に翻る赤い髪が、夕日に照らされ赤々と燃えた。

 

 

◆◆◆

 

「ーーーーー!!」

 

「むにゃ……おまえには……まけない」

 

「タカッ!! いい加減起きろ」

 

 秋のどこか柔らかな昼下がり、テニスコートのそばの木の下で絶え間なく攻め続ける睡魔に全面降伏しながら彼、三鷹光一は昼寝にふけっていた。 

 彼の特徴的な肩口まである真っ赤な髪の毛が木々の間から差し込む日差しに照らされ、薄暗い色彩を鮮やかに染め上げる。

 ほっとけば何時までも起きる事無く続くであろう彼の昼の一時は耳元で出された叫び声によって終止符を打たれるのであった。

 

 気持ちいいはずの時間を急に終わらせられたからか三鷹は額に皺を作りながら薄く目を開けて声の主に応えた。

 彼が瞼をあげた先には同じテニス部に所属する外町良太がいて、彼の特徴的なツンツンヘアーが彼の視界に広がる。

 

「ん、良太か。僕の優雅な昼寝を邪魔するという事はいったいどういう事なんだ?」

「優雅なって、お前いつの人間だよ。てか優雅な昼寝ってどういうことなんだし」

「なんだい? 用がないなら放っておいてくれよ。大事なひと時を君によって邪魔されたくないんだが」

「おまえ、良くそこまでキャラ立てできるよな……」

「なに、君の髪型ほどじゃないよ」

「むきーーーー!! これは最先端の髪型だって何度言ったらわかるんだよ!」

 

 そんな事を言いながら地団駄を踏む彼の髪型はたしかに独特である。ワックスに固められた髪は皆等しく上を向き、天の神様に喧嘩を売っている。よもや『怒髪天を衝く』の言葉を素で表現する奴が居るとは高校に入る前の三鷹には想像出来なかったのだが、どんなにこれはないと思っても起こってしまったらしょうがない。だが美的センスのちがうこの友人と話す時は必ず髪について茶化すのが三鷹の高校生活の常であった。

 

「それで? 僕はお昼の貴重な休みを邪魔された理由を聞きたいのだけど」

「ああ、それなら俺じゃないんだよ、用があるのは」

 

 それを聞いて三鷹は不審そうに眉を寄せる。今日は休日であり、部活動をしている人意外は学校に来る必要はない。

 それに三鷹の通う高校に休日にわざわざ学校に部活関連以外の理由で足を運ぶ奴なんか皆無に等しい。

 いや、例え部活動関連の理由があったとしても休日に学校に来る奴は少ないか、と三鷹は考えた。

 

 二人の通う高校は正式名称を極東亜細亜恒久平和高等学校という。

 時代を間違えたかの様なネーミングセンスのこの学校は悲しい事に、何とも悲しい事に、ここに通学する学生までもが未来の世界にタイムスリップしてきたような生徒なのであった。つまり、不良学生である。

 そんな彼らの素行の悪さは学校につけられた平和の名とは正反対に県内でもトップクラスで、その悪行からこの学校は近隣から親しみを込めて『極悪高校』と呼ばれているのだ。

 

 入学当初、三鷹はそんな風評なんてそこまでの物ではないと高を括っていたんだが、その恐ろしさは初めてのテニスの大会に出た時に現れた。対戦相手が張り出されたトーナメント表を見た瞬間に受付に怒濤の勢いで突っ込み、棄権したいと申し出るのを呆然と見つめるしかなかった三鷹は暴動が治まった瞬間に初めて『極悪』の恐ろしさに戦慄するのであった。

 それに『極悪』が招いたものは外の活動に対する不利益だけでは飽き足らず内にもその影響を与えていた。

 なんとも迷惑な話しなのだが『極悪』な人達は自分たちのたまり場を求めて部活に入部しており『極悪』同士の縄張り争いがある為に部活動間においていざこざが起こってしまうのだ。

 

 閑話休題。こういうわけでまともに部活らしい活動をしている部はあっても、休日までは活動しておらず、よしんばしているとしてもそれは自主練習としての形であった。そして部活動同士の関わり合いなど友好な方向で起こる訳も無く、先の良太の言葉も不安材料になるしかなかった。

 

「やれやれ、僕は大事な練習時間を減らしたくはないんだけどね」

「お前さっきまで優雅な昼寝してたんだろ……」

「それで? いったいどんな奴なんだい、僕に用があるのは?」

「人の話しを聞けよ」

 

 話しが思うように進まないからなのか、良太はげんなりとした表情を三鷹にする。

 

「俺だよ」

 

 そんな二人の掛け合いを遮ったのは、二人が話していた後ろから飛び込んで来た一声であった。

 たったの一言、されどその一言は十分な存在感を持っていた。

 言葉に収まりきらない挑戦的な響きがにじみ出た、そんなどこか懐かしい響きの声。

 耳を打つ声に三鷹は覚えがあった。

 

 何処か夢の中から出て来た様なその声。

 三鷹は声のした方に振り向く。ゆっくりと、その声の持ち主のかつてのイメージを思い浮かべながら。

 

「小波……」

 

 ポツリと出されたその言葉はザザッと吹いた風とともに宙に溶け、吹き上がる風が木を揺らし落ちる木の葉が、ゆらりゆらり、絡み合う軌跡を宙に描き出す。

 

 

ーー高校一年の秋、なにか物語の始まる音がした様な気がしたーー

 

 

 




4月6日 一話全体を一人称から三人称視点に変更しました。それに伴い内容も若干変更。
出来るだけ早く二話も視点変更します。
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