コードギアス 俺の妹がこんなに可愛いくないだとっ!   作:札樹 寛人

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魔人 が 転生した日

 ダーーーーーーーン!

 

 2つの銃声が鳴り響く。

 その銃弾はお互いを仕留めるには至らない。

 しかし、復讐に燃える白の騎士は、既に相対する黒の魔人の懐に飛び込んでいた。

 お互いの近接戦闘の技術差は明白だ。白の騎士の繰り出す蹴りは黒の魔人を完全に捉えていた。

 

 宿命の対決は、白の騎士に軍配が上がった。

 合衆国日本を掲げ、超大国ブリタニアに挑んだ黒の騎士団は

 総帥である黒の魔人ゼロが敗北した事により地力で勝るブリタニアに各個撃破されていった。

 

 そして、神聖ブリタニア帝国は、ゼロの処刑を発表した。

 世界を揺るがした奇跡の男、ゼロの死亡……

 

 これを以てブラックリベリオンと後に呼ばれる反逆は終わりを迎えたのであった。

 

『コードギアス 俺の妹がこんなに可愛いくないだとっ!』

 

 俺の名前は京介。高坂京介だ。

 日常に退屈しているだけのただの高校生だ。

 周りの人間を愚かと見下す程度に普通のな。

 

「ただいま」

 

「アハハハ。えーマジでー」

 

 リビングの方から女の声が聞こえた。

 どうやら電話に夢中になっているようで俺の帰宅に気付いた様子は無い。

 いや、仮に彼女が気づいていたとしても俺に返事を返したかは甚だ疑問ではあるが。

 もっとも俺としても、彼女とわざわざ仲良く話そうとも思わない。

 彼女の名前は高坂桐乃……まぁ、何だ……不肖の妹だ。

 

 そして、はっきり言うが俺と彼女の仲は最悪と言っていい。

 声を大にして言おう。「俺の妹がこんなに可愛くないわけがない」と。

 容姿は、悪くは無い。いや、町を歩けば衆目が振り返る程度には整っている。しかし、所詮は凡俗だ。

 俺の妹はもっと可憐であるべきだ。外見だけの話ではない。そうでなければならない……どうしてこうなった!

 

 高坂桐乃……血の繋がった妹の存在をどういう訳か俺は許容する事が出来なかった。

 だが、家族である以上は毎日顔を合わせる。そこで無駄なストレスをため込むのも愚かしい。

 俺は妹には優しい兄の仮面で、しかし必要以上に関わらないように接してきた。

 表面上の家族円満くらいは取り繕うつもりなのだが、俺の苦労を知ってか知らずか

 桐乃の態度は硬化の一途を辿るばかりであった。

 

 俺が思考に費やした時間はそんなに長くなかったと思うがいつの間にかリビングからの声は聞こえなくなっていた。

 どうやら電話は終わったようだ。静かになったリビングに入ろうとドアノブに手をかけようとした瞬間

 

「おあぁ!」

「キャッ」

 

 リビング側から扉は開かれ俺は前のめりに倒れこんでしまった。

 そして扉の向こうに居た、俺の「妹」を押し倒すような形になった。

 言っておくが不可抗力だ!

 

「な、何よあんた!どきなさいよ!」

 

 押し倒していた時間は数秒にも満たないだろう。

 妹の罵声で冷静さを取り戻した俺はゆっくりと立ち上がった。

 

「悪かったよ桐乃。大丈夫かい?」

 

 この結果を招いた責任はお互いにあるとは思うが

 それをわざわざ言っても仕方のないことだろう。

 俺は一応のマナーとして、まだ倒れている彼女に手をさしのばした。

 

「フンッ」

 

 その手を払いのけて桐乃は不服そうに呟く。

 

 この女……!この俺の妹であると言うならば……

 

『ごめんなさいお兄様。私が焦って飛び出したばかりに……』

『良いんだよナナリー。俺なら平気だ。でも、気をつけなきゃダメだぞ

 お前の体に何かあったら俺は……』

『お兄様……そんなにも私の事を……』

 

 こうだっ!!これがあるべき姿だろう!それに比べてこの女はなんだっ!

 いや、よそう。この妹にそれを求めても仕方がない。俺の妹は残念ながら可愛くない。それが結論だ。

 気を取り直して俺はぶつかった際に散らかった桐乃のバッグの中身と思しき物を集めようと手を伸ばした。

 

「さわんなっ!自分でやるから良い」

 

 ……落ち着けルルーシュ。妹に手をあげる等と言う行為は、俺の矜持に反する。

 これ以上、己の葛藤を強めないためにも、早々にこの場を去る事にしよう。

 落としたバッグの中身をかき集める桐乃を尻目に俺はリビング奥の台所へと歩を進めた。

 この結果からも明らかだろう。俺と俺の「妹」の間には絶対守護領域よりも強固な壁が既に形成されている。

 

 どうしてこうなったのか。 それは正直なところ、俺自身も良くは分っていない。

 気が付いた時にはこうだったとしか言いようがない。 はっきり言って違和感しか感じない。

 それは、俺だけでは無く、桐乃自身ももしかしたら感じている事なのかもしれないが……

 

 先ほどの衝突より数刻。

 そろそろ明日の課題でも片づけておこうかとテレビを消し、俺はリビングから出ようとした。

 

「…あれは?」

 

 リビング出口の片隅に置き忘れられた見なれない物体が目に留まった。

 どうやらディスクケースのようだが……先ほどの桐乃がぶちまけたバッグの中身か。

 何気なく拾い上げ、その物体を凝視する。

 

「ほしくずウィッチメルル……?」

 

 アニメ調の絵が描かれたピンク色のパッケージ

『ほしくずウィッチ☆メルル』と書かれたそれはこの家においては異彩を放っていた。

 

 桐乃のバッグの中身と言う先ほどの俺の考えは撤回しよう。桐乃と言う妹はこういったアニメに興味がある層とは対極に存在している。

 もしも彼女の所有物であるとするならば、何らかの強制力によって彼女が動かされている可能性の方を疑った方がいい。

 創作物で良くある特定の人間を自由に操れると言うアレだ。

 ならば、これは誰の持ち物か。父と母……父は無口ではあるが、どこかの人非人とは違い好感すら持てる厳格が服を着ているような人物だ。

 母は、小うるさい部分はあるが、非常に平均的な母親像と言えるだろう。「閃光」などと言う二つ名を持っている事も無いだろう。

 

 この二人がこういった物を所有している……どちらにしても中々に考え難い。

 

 思考を巡らしながら、俺はパッケージを開いた。

 

「な、なんだ……これはっ!!?」

 

 俺は驚愕の声を上げていた。

 そこには在るべきものは無かった。

 そこにあったのは本来あるはずの物以上の異形の存在。そこに在ってはならない物。

 

『妹と恋しよっ』

 

 R18のマークが躍るゲームディスク。

 開いてはいけないパンドラの箱を開いてしまった気分だ。

 仮にこれが父、大輔の所有物だとすれば俺は彼を見る目を改めなければならない。

 まさか声だけで無く、人生そのものがまるで駄目な大人、略してマダオなどと思いたくはない。

 

 しかし、妹と恋……か。

 

 検証してみる必要があるだろう。

 言っておくが、このディスクに描かれた少女が俺の理想の妹に似ていたなどと言う不純な動機ではない。

 俺はこのディスクの所有者を突き止めるために更なる情報を必要としている。

 そのためにはプレイしてみなければ見えてこない事もあるだろう。 そうだろう?

 

 

 部屋に戻り俺はPCを立ち上げると。すかさずゲームディスクを挿入した。

 脳内では「チャンチャーチャーンチャー タラララ♪」と盛り上がるBGMが鳴り響いている。

 ゲームが起動したようだ。俺は両腕をクロスし、精神を統一するとキーボードを叩き始めた。

 

「フハハハハハハ!!」

 

 

 

 

 

「ふぅ…………」

 

 下らないゲームだった。

 ただただ、テキストを読み進めるだけで遊戯としてのレベルは非常に低い。

 プレイヤーが唯一介入出来るのはたまに出る選択肢だけだが

 この主人公の選択にはまるで共感できるところは無い。

 優柔不断としか言い様が無い軟弱な男。 俺がもっとも唾棄するような存在だ。

 

 しかし、それらの不満点を除けば読み物としてはそう悪くはない。

 特にしおりの健気さは特筆に値する。この部分のテキストとキャラのデザインを手掛けたスタッフにはこの俺も惜しまぬ賞賛を贈ろう。

 

 

 ……あ、あくまで読み物として悪くないと言っているだろうっ! 他意は無い!

 

 

 

 弁明するわけでは無いが、俺は本来の目的を忘れたわけではない。

 このゲーム内容から持ち主を特定するのが今回のミッションだ。

 実際にプレイしてみて、このゲームの内容より所有者のプロファイリングも可能だろう。

 

 つまり……我が家でこういったゲームを楽しめそうなのは……

 

「俺か……」

 

 バカな……俺はこんな答えに辿りつくために数時間を無駄にしたのか!

 仕方ない。ならば少し探りを入れてみる事にしよう。

 家族全員が揃う夕食の時間は数刻後に迫っている。

 

 

「ごはんよー」

 

 階下から母の声が聞こえる。どうやらステージは整ったようだ。

 

 リビングに入ると既に父と桐乃は机を囲んでいた。

 母は味噌汁を注いでいるようだ。父と母に見たところ変わった所はない。

 先ほどまで出かけていた妹の様子は…………少しばかり顔色が優れないように感じる。

 もっとも、顔色だけで答えが出るわけも無い。

 

 始めようかショータイムを。

 

「そういえばさ」

 

 俺は家族全員が席につき食事を始めたのを見計らい軽い調子で話題を投げかけた。

 テレビからはアニメ等のオタクカルチャーを取り上げた番組が流れている。この番組が今日やっていたのは運が良い。

 この流れの中で俺がこの話題を切り出すのは不自然では無いだろう。"所有者"以外には。

 

「最近、クラスでアニメが流行っててさ」

「そうなの?あんたも見てるの?」

「まさか。俺は余り興味無いんだけどね。友人に勧められてるんだ。

 確かほしくずウィッチ☆メルルとか言ったかな」

「何それ?そういのってオタクっていうんじゃないの?

 やめときなさいよ。ああいうのってニートの予備軍なんでしょ?

 せっかく、あんたは成績も良いのに……」

「そうかな? 父さんはどう思う?」

「……進んで悪影響を受ける必要もあるまい」

「それもそうだね。じゃあ、”今日の昼”友人が押し付けて来たDVDとゲームは返しておく事にするよ」

「そうよー、あんたは東大にも行けるって先生も言っているんだから」

「ハハハ、そんなに期待しないでよ母さん」

 

 さて、大掛かりな仕掛けがあるわけでも無い、簡単な釣りを行ったわけだが

 父と母に不審な点は無い。 俺の見たところ、まさにこういった文化に興味の無い一般人と言った反応を示している。

 やはり、この二人が所有者と言う考えは捨てた方が良さそうだ。

 真実とは、有り得ない事を消して行けば必ず辿り着く。

 

 つまり――!

 

「………………………」

 

 桐乃は押し黙り、俯いていた。食事は全く進んでいない。心なしか手にもったスプーンが震えている。

 どうやら俺の妹はこういった局面でポーカーフェイスを作れる性分ではないようだ。

 ここまで来れば、答えはもはや明白だ。

 

「どうしたんだ桐乃?気分でも悪いのか?」

 

 俺はとびきり優しい声色で桐乃に話しかける。

 父や母からは、何時も通り妹を心配する優しい兄として映っているだろう。

 だが……桐乃は恐らくこう思っているはずだ。

『こいつに知られた』と――

 

「ごちそうさまっ」

 

 俺の方を睨むと忌々しげに吐き捨てて桐乃はリビングから出て行ってしまった。

 

「どうしちゃったのかしらあの子」

「むぅ」

「あの年頃にはありがちな反抗期じゃないかな?」

「そうかしら……?」

 

 両親ともに桐乃の不自然な行動の理由には気づいていない。

 例の物を目撃していない彼らには、俺の話と桐乃を結びつける事は不可能だろう。

 しかし、驚いたな。まさかあの妹がああいった物を所有しているとは。

 どういった経緯であの趣味に走ったのかは分らないが、そこまで詮索する必要も無いだろう。

 俺はただ不可解な現象の究明をしたかっただけで、それは達成された。

 "妹思い"の優しい兄としては、この辺で幕引きだ。

 

 普段ならば夕食の後は直ぐに部屋に引き上げるのだが

 今日はのんびりとリビングでコーヒーを飲みながら父とこの国の情勢について久しぶりに語ってみる事にした。

 警察官と言う立場である父の見解というものは、俺にとっても多少は興味深いところもあった。

 

 

 さぁ、時間は与えたぞ桐乃。

 

 

 1時間程父との親子の会話を楽しんだ俺はリビングを出て自分の部屋に続く階段を登っていた。

 俺の思惑通りに桐乃が動いたならば……既に俺の部屋にはあのゲームは既に存在しないだろう。

 この状況は想定した38のルートの1つだった。

 

「予定通りだな」

 

 部屋に戻ると、机の引き出し中に隠しておいた例の物は消え去っていた。

 与えてやったあの時間で桐乃は鍵のかからない(非常に残念な事であり是正して貰いたい部分だが)俺の部屋に侵入し

 件のゲームをメルルのパッケージごと持ち去ったと言う事だろう。

 桐乃も愚かではない。食卓での発言と机の上に置かれたゲームで俺の意図は十分に理解したはずだ。

 

 とは言え現物を手放した以上は桐乃がしらばっくれれば証拠は無いが

 あの様子だと十中八九あれは借り物などでは無く桐乃自身の持ち物だろう。

 そして何かあった際に俺の進言次第では親の強制捜査が部屋に入る恐れが有ると言う事だ。

 残念ながら成績優秀で品行方正な俺は桐乃以上に親の信頼を勝ち得ている。

 もう少し出来の悪い兄ならば両親は桐乃を全面信頼し有耶無耶に出来ただろうに

 

「フフフ……フハハハハハハハ!! 運が悪かったようだな桐乃!」

 

 とは言え、俺は他人の趣味をどうこう言う気はないし

 そういった事態を俺の方から引き起こそうという気も無い。

 ただ生意気な妹への交渉カードとして持っておく事で、多少なりとも

 妹の俺に対する態度が緩和されれば良い。その程度の物だった。

 

 最近の桐乃の俺に対する風当たりへの予防策のようなものだ。

 心得えておけ桐乃。 撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだと!

 

 俺は高らかに勝利宣言をするのだった。

 

 俺がすべき事とはこんな事だったか……そんな疑問は頭の片隅に押し込んだ。

 

 つづく

 


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