コードギアス 俺の妹がこんなに可愛いくないだとっ!   作:札樹 寛人
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契約 の 人生相談

『うう………やめろ……俺の妹は………』

 

『お兄様―』

『ありがとうございますお兄様』

『お兄様、ご無理はなさらないで下さいね』

 

『あー、うっさい』

『はぁ? マジでうざいんですけど』

『チッ なんなのよ、もう』

 

『ち、ちがう……俺の……俺のあるべき世界は……』

 

『シャルル・ジ・ブリタニアが刻むぅぅ! ルルーーシュゥゥ お前は――――』

 

『や、やめろぉぉぉぉぉ!』

 

 

 ドスンッ

 

 

 ぐぅ……体が重い……

 何者かが俺の布団の上に伸し掛かっているような感覚が俺を襲う。

 一体何が起きているのか?今更金縛りを霊体験などと言うはずもない。

 現状を確認するために両の眼を見開く。

 

 

「おああっ!」

「ちょっ……静かにしなさいよ」

 

 拙い! 追い詰めすぎたか。

 実力行使で俺の口を封じ込めに来るとは……!!

 このパターンに対する対応策は……!!

 

 寝起きのせいか頭が余り回らない。

 はっきり言って、容姿頭脳では桐乃に後れをとるつもりは全く無いが

 神は俺に幾つもの才能を授ける代わりに、運動神経と言うものを与え忘れたらしい。

 一方で、この妹は運動と言う点においてはこの俺を既に凌駕している可能性がある。

 

 そうは言っても、高校生男子と中学生女子だ。

 いくら何でも正面からならば中学2年生の妹に後れを取る事は無い(はずだ)

 が……既にマウントを取られたこの状態では、俺が不利だ。

 

「ど、どうしたんだ? 桐乃。こんな夜更けに」

 

 なるべく刺激しないように努めて平静を装い言葉を投げかける。

 まさか、このような結果を招くとは……早急に部屋に鍵をつけるべく両親に打診する必要が有る。

 

「自分の胸に聞けば分るでしょ」

「さっぱりだな。 俺は夜更けに男の部屋に忍び込むような破廉恥な妹が居る等と思った事も無かったよ」

 

 皮肉めいた言葉を桐乃に向ける………言うな。妹にマウントを取られた姿で何をやっても情けないとか。

 

「あんた……何のつもり?あたしのアレ見たんでしょ?」

「アレとは何の事だ? 俺には、皆目見当もつかない」

「ふっざけんな! あんな風に情けでもかけたつもりなの!?」

 

 ほう、どうやらアレが茶番だと言う事には気付いているようだな。

 もっとも、別に情けなど掛けているつもりは無いのだが

 

「フッ……そうだな。不肖の妹に据えるお灸として十分過ぎた。 もはや俺がアレを持っていても仕方ないだろう?」

 

 どうでも良いが余り密着するな。 クソッ! 何でそんな薄着なんだ桐乃!!

 俺の兄としての威厳が保たれているうちに何とかしなければっ!

 既に保たれていないなどと言う戯言には一切耳を貸すつもりは無い。

 俺は状況をどうにかしようと策を思案する。 所詮は、中学生の子供だ。巧みに思考誘導出来れば……

 俺の考えが纏まる前に、妹はゆっくりと腕を天に挙げて行く。

 

「……おい、桐乃。何故、拳を振り上げている。やめろっ!」

「証拠は回収したんだし、あとはあんたの記憶さえ抹消出来れば……」

 

 ぶつぶつととんでもない事を呟く我が妹。

 ほ、本気かこの女!! 絶対に記憶は消えないだろうが、俺の灰色の脳細胞が一定数死滅するのは間違いない。

 

「ば、バカかっ!! やめろっ! そんな物理的な衝撃で記憶が操れるか! 記憶を操るならば……」

 

 ――――

 

 ……ならば何だ?

 俺は何を言おうとしたんだ。

 いや、今はそんな事よりこの状況を打破する事が先決だ。

 俺は心を落ち着けながら、再び平静な兄を装う。

 我ながら、こういった演技は堂にはいった物だと思う。

 

「勘違いするな桐乃。 元より他言するつもりなど無い」

 

 これは本音だ。あくまで桐乃への牽制用のカードとして考えていただけで、わざわざ俺からこの秘密をバラすつもりは無い。

 

「………」

 腕を振り上げた状態で桐乃の動きが止まる。

 俺の言葉の真偽を探っていると言うところだろう。

 面倒だが、ここは”良い兄”を演じ切るしかない。

 幾つもの策の中から、俺が選んだのは何時も通りの平凡な策だった。

 

「当り前だろう?

 俺はお前がどんな趣味を持っていても気にしない。

 俺がそんな事に拘るような小さい男に見えるか?」

「え? 見えるけど」

「…………」

 

 悪びれずにあっさりと言い放つとはな……

 この女……本気で妹を殴りたい等と思ったのは生まれて初めてだ……!

 どう考えても俺の中にある妹像と違い過ぎだ。

 

 そこで言うべきセリフは……

 

『そうですよね。 ごめんなさいお兄様……お兄様の事を疑ってしまって……』

 

 こういう感じだ!! これならば俺も納得する。

 何時からこうなったんだ、この妹は……

 小さい時はもっと可憐な妹だったような気がするのに

 それとも俺は自分でも気づかない内に過去を美化してしまっているとでも言うのか。

 

「それはとんでも無い誤解だな……」

 

 良いから早くその拳を下せ。

 こんな事で俺の脳細胞を減らすわけにはいかない。

 

「約束だ桐乃。 俺はお前がどんな趣味嗜好を持っていても決してそれを卑下したりはしない」

「ふーん……そこまで言うなら信じてあげてもいいけど……」

 

 桐乃はようやく拳を下すと、俺へのマウントを解き、ベッドから降りたのだった。

 何とかいろいろな意味で兄の尊厳は守れた……か? チィッ! それにしてもこのような結果を招くとは……

 夕刻の俺に言ってやりたい、平時だからと言ってシミュレートが甘すぎると。

 これが本物の戦争だったら次は無かったかもしれない。 肝に銘じておく必要がありそうだ。

 

「まぁ、良いわ。話が有るからちょっと来て」

「ここじゃ駄目なのか?」

 

 当然の事だが、話と言うのは例の物に関した事だろう。

 しかし、既に俺はこれ以上詮索をするつもりも他言もするつもりも無いと言っている。

 その上でしなければならない話とはなんだ?

 

「ダメ」

「……理由が分らないな。 俺は、己が納得が出来ない事で行動するつもりは無い」

「良いから。 来れば分るし……」

 

 真剣な瞳が俺に語りかけている。

 どうしても来てほしいと……

 

 ……不肖の妹とは言え妹か……

 そうだな、この俺が妹の願い事を聞かない等と言う事があるはずがない。

 俺がルル…………高坂京介である限りは……

 

 既に目は冴えてしまい、再び熟睡するのは難しそうだ。

 ならば、彼女の要望に少しの間だけ付き合ってやる事にしよう。

 

「分ったよ桐乃。 じゃあ、俺はどうしたら良いんだ? まさかこの時間に外に出るつもりじゃないだろうな?」

「違うわよ。 行くのは……あたしの部屋」

 

 確か、桐乃の部屋は俺の部屋の隣に位置しており、彼女の中学入学を機に元々あった和室を改修したものだったはずだ……

 しかし、まさか自分の部屋に招き入れるだと……!? 何のつもりだ桐乃……!

 少なくとも俺は、彼女が自分の部屋を得てから、一度たりともそこに踏み込んだ事は無い。 どういった心境の変化だと言うんだ……?

 

「入って良いよ」

「あ、ああ……」

 

 多少、俺の部屋より広いようだが、内装は大きくは変わらない。

 俺の部屋は白と黒でシンプルに纏めているが、桐乃の部屋は赤やピンクと言ったいかにも少女っぽいカラーで纏められているのが最大の違いと言ったところだろうか。

 

 妹の部屋とはこんな感じだっただろうか……

 もっとも、初めて妹の部屋に入った俺がそんな疑問を感じるのもおかしな話なのだが。

 

「あんまりジロジロ見ないで」

「初めて入ったんだ。 少しくらいの観察は許容して貰いたいところだな」

「ふん……勝手に色々触らないでよ」

「ああ、俺は勝手に人の部屋の引き出しを開けるような真似をしたりはしないさ」

 

 不敵な笑みと共に皮肉をプレゼントする。ぐぬぬ顔で黙り込む我が妹。

 口でこの俺に勝てると思わない事だな。だからと言って物理で来るのもやめて欲しいが……

 

「それで……この部屋でしか話せない話とは一体なんだ?」

「さっき言ったよね……あたしがああいうの持ってててもバカにしないって……」

「そうだな。 別に他人がどうこう言う事じゃないだろう、それは」

「本当にさ。本当に絶対にバカにしたりしない?」

「何度も言わせるな。指切りの上に宣誓してやっても構わない」

「あんた嘘吐きっぽいから……」

「グッ……」

 

 なかなかの洞察力だ。流石は我が妹だと褒めておこう。

 しかし、俺は妹と言うのはもっと素直であるべきだと思う。

 

「信用は俺の行動で判断して貰うしかないな。ここで幾ら言葉を重ねても信用など得られるはずもない」

「嘘だったら殺すから」

 

 ……再度、寝込みを襲われないように対策を考えておく必要がありそうだ……

 本当の本当に早急に鍵を取り付けるべきだろう。 殺傷性の低いトラップも念の為配備しておくべきか。

 妹に撲殺されるなど、俺の人生においてあってはならない事態だ。

 そんなバッドエンドはゲームや夢の中ですら御免だ。

 

「――あるの」

「すまない。 良く聞き取れなかった」

 

 思ってもいなかった言葉。

 想定外故に、俺はその言葉をきちんと認識出来なかった。

 

「だ、だから……人生相談があるの!」

「………は?」

 

 俺としたことが随分と間の抜けたセリフを吐いたものだ。

 

「お前が俺に……?」

「そ、そう……人生相談……」

 

 これは契約。力など与えられない上に、彼女の望みを叶えるだけの歪な契約。

 ……どこぞの魔女でも悪魔でも宇宙人でも、もう少しマシ契約条件を提示するはずだ。

 

 だが俺は既に引き返せない。元より引き返すつもりも無い。

 それが例え面倒事だけを溜めこんだパンドラの箱だったとしても躊躇わず開くだろう。

 何が有ろうと……どんなに可愛くなかろうと、どんなに反吐が出る程の生意気であろうと……”妹”が本気で望む願望は叶えなければならない。

 

 だから――



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