コードギアス 俺の妹がこんなに可愛いくないだとっ! 作:札樹 寛人
『高坂桐乃』
彼女は二つの側面を持っている。
一つは、完璧で優秀な今時の女子中学生と言う側面。
そして、もう一つはーー その秘密に触れた時、ルルーシュは人生相談と言う枷に囚われる。
* * *
俺と桐乃は、何の変哲もない本棚の前に立っていた。
そこに収められているのは、どれも当たり障りの無い本ばかりだ。
俺の興味を引くような本は、そこには一冊も無い。
「すぅ」と深呼吸をすると、意を決した桐乃はその本棚を横に動かす。
そこに現れたのは、元々和室だった事を想起させる、押し入れであった。
なるほど……秘密の収納スペースと言う訳か。
しかし、やり方が甘いな……
この程度では、家宅捜査が入れば簡単に秘密は露見してしまうだろう。
本当に隠したいものが有るならば、もっと厳重に……
いや、普通の中学生がそこまでする必要も無いのか。
テロリストでもあるまいし。 どうも俺は事を大げさに考えすぎる癖があるようだ。
「元々和室だったじゃん、あたしの部屋。 リフォームした時の名残だと思う。 そんで……」
言うか言い終わるか、桐乃は、押し入れの扉をスライドさせた。
「今、こういう事になってんの」
な、なんだ……コレは……
そこにあったのは、膨大な量のアニメ・ゲーム・漫画・フィギュア
オタクカルチャーと呼ばれる物を、徹底的にコレクションしたと言わんばかりの
膨大な品々が、俺の目の前に広がった。
これだけの量集めるのにどれだけの資金が必要になるのか。
そして消費し尽すには、どれだけの時間が必要になるのか、考えただけで頭が痛くなる。
ここまでになると、もはや壮観……畏怖すら抱くと言っても過言では無い。
俺は一番手前にあった、大きな箱を手に取る。
そこには『妹と恋しよっ♪ 反逆の詩織R2』と書かれている。
俺が昼間にプレイしたゲームの続編だろうか?
「あ、それは最初はPS3から出たんだけど、パソコンに移植されてから別シリーズ化されたの。
名作なんだけどねー、ちょっと内容もハードだし、コア向けだから初心者にはお勧めしないかな」
「そ、そうか……いや、ちょっと……整理させてくれ……」
妹とはなんだ?
俺の思考は目の前に積み重なったコレクションの数々に対してでは無く
妹と言う概念に対する疑問の方に比重が置かれていた。 どうしてこんな事になったんだ。
可憐にして優美……この世の全ての形容詞を用いたところでその魅力を余す事は難しい存在
それが……その妹がハードでコアなR18のゲームをプレイしているだと……!?
これは冒涜だ。 妹と言う概念に対する反逆と言っても過言では無い。
認めない……認めんぞ俺はっ! そのような妹の在り方などっ!!
昼間の一件は、1本くらいは若気の至りでどこからか入手してしまったものだろうと
俺の中で勝手に結論付けていた。 故に今後のちょっとした交渉材料くらいにはなるだろうと言う程度の認識だったのだ。
しかし、これは既に俺の想像を遥かに超えてしまっている。
猫とじゃれ合っているつもりが、それはライオンだったという程の違いが有る。
もはや言い訳は無用だ。 テロリストが重火器を隠し持っているのはある意味で当然だが
まさか、妹が大量のエロゲ―だのアニメだのを隠し持っている等と想像すらした事が無かった。
清楚にして貞淑……もはや、そこまでは桐乃に求めるつもりなど無かったが……
ここまでと、予測を立てろと言うのは無理が無いだろうか。
幾ら俺が優れた頭脳を持とうと、普通の思考をしていたら想像などするはずがない。
「ちなみにこっちがシリーズ3の「相貌の儀妹」、シリーズ2「亡国の妹」
シリーズ9「漆黒の妹」シリーズ16「シスターレクイエム」」
俺の苦悩を知ってか知らないでか、桐乃は普段とは全く違うテンションで俺の前に山を積み上げて行く。
人間と言うのは、自分の趣味に関しては饒舌になるものだと言われるが、ここまで普段と態度を変えられると流石の俺でも多少、戸惑ってしまう。
「やたらと箱がでかいんだな……」
何か言おうとしたが、俺もまだ混乱しているようだ。
どうでも良いような疑問が口から出ていた。
「小さいのもあるよ。 これなんかは普通の円盤サイズだし」
18禁ゲームについて語る妹の顔は、普段とは違い年相応に見えた。
しかし……14歳の女が、18禁ゲームを語る時のみ年相応と言うのは如何なものなのか。
世の中の妹と言うのは、実はこういうものなのか。 俺の考えがおかしいのか。
「でも、やっぱメインストリームはコッチなのよね、平積みでのインパクトが違うもん」
「最近では……コピーだの何だので大変らしいな、その業界も」
少し前にネットニュースで得た知識で、桐乃に話を合わせて様子を伺う。
言っておくが、断じて俺はこういったゲームに手を出した事は無い。
昼間に少しだけプレイしたが、あれが最初で最後だ。
ご存知の通り、俺は好きなゲームを聞かれたら「チェスかな」と答える事が出来る程度の教養と実力を持っている。
もしも、俺が好きなゲームを聞かれて「エロゲ―かな」等と答えようものならば、世の中に数多居る、この俺のファンが決して許さないだろう。
「ホントそう!! やっぱり優れた作品にはちゃんとお金出さないと!
そうじゃないと続編も出なくなるし業界も縮小されちゃうと思うのよね! その点あたしは――」
喋り出したら止まらないと言った様相だ。
「そっちのアニメのボックスなんて5万円くらいしたけど、買って損は無かったしね!」
「ご、5万!?」
こういった物はそれなりに値段がするのは分るが、それにしても高額だ。
一介の中学生がおいそれと買えるようなものでは無い。 俺のようにFXや株で資産運用をしているわけでも有るまいし。
……まさか――まさかっ!?
「桐乃……お前が何をしようと俺は口を挟むつもりは無いが……この資金源……そ、そういう事では無いだろうな!?」
「はぁ? そういう事って何よ」
「これだけの高額商品を一介の中学生が揃える術……それは」
「高いって言っても服一着や二着程度でしょ」
「そういう事じゃない! 俺が言ってるのは……この資金源は……その……なんだ……」
「………あんた何想像してんのよ。キモッ……これだから童貞は」
……そんな目で俺を見るなっ!!!
何だ、この視線は……妹と言うよりも別の誰かに以前に向けられた事が有るような気がする。
しかし、こいつは俺の事をそういう目で見ていたと言うのか。
この俺を! 容姿端麗にして、学校にはファンクラブすら存在するこの俺の事をっ!!
全力で否定してやりたいが……フン、思いたい奴には思わせておけば良い。
「はぁ……ギャラよ。ギャラ。ギャラで買ってるの」
「ギャラ?」
「言ってなかったっけ? ほら、あたし読者モデルやってるから」
事も無げにさらりとそんな事を言う。
そして一冊のティーン紙を持ち出し、ぺらぺらとページを捲ったかと思うと俺に差し出してきた。
そこに写っているのは……見間違うはずも無く、俺の妹であった。
「なるほどな……流石は俺の妹と言う事か……」
「は? なんかその言い方ムカつくんだけど」
「フッ、読者モデルとやらが出来るのがお前だけとでも思っているのか」
部屋に戻ると俺も一冊の本を持ち出し、再び桐乃の部屋に戻ると、こちらをいぶかしげに見ている妹にお返しとばかりに差し出す。
「俺にもその程度の経験はある」
――男なら黒に染まれ
そんなフレーズと共に紙面に踊るのはこの俺だ。
片目を隠すようなポーズを取りながら、そこに写る俺は、自分で言うのも何だが決まり過ぎていて困るくらいだ。
「うわっ! ダサっ!」
ふ、フフフ……
…………美的センスの無い妹には困ったものだな。
これで読者モデルなど務まるのか疑問すら生まれる。
……いや、ダサくは無いだろ……
言っておく。 俺は別に傷付いてなどいない。
素直になれない妹の妄言を聞き流す事など些細な事だ。
勘違いだけはして貰っては困る。
絶対に――!
つづく