コードギアス 俺の妹がこんなに可愛いくないだとっ!   作:札樹 寛人

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その名 は ゼロ?

 ブリタニアの少年ルルーシュ……もとい千葉県千葉市の少年、高坂京介は、妹の思わぬ秘密に直面する。

「人生相談」。いかなる兄にでも願い事を下せる、絶対遵守の力。

 京介は、この『人生相談』を受け数多の妹ゲークリアに邁進する。

 妹、桐乃のゲーム貯蔵が尽きるまで。その先に待つのは、ただのエロゲオタクだとしても。

 少なくとも、それが当時の桐乃の願いであった。

 

 * * *

 

「いや、だから、そこの詩織の心情はそうじゃないでしょ」

「フン、お前に詩織の何が分ると言うんだ? 間違いなく彼女は愛に飢えていたんだ」

「はぁ? どうしてそうなるわけ?」

「兄である俺だからこそ、分る」

「……あたし、詩織ちゃんと同じ妹なんだけど」

「詩織とお前では月とすっぽんだがな。 どちらがどちらかは言うまでも無い」

「はぁー!?」

 

 あれから1週間が経っていた。

 俺はたびたび人生相談と称してR18のゲームを持ってくる桐乃に辟易としていた。

 はっきり言って、俺と言う頭脳がこんな事に時間を割いていると言うのは人類史における大きな損失と言っても過言では無い。

 その辺りの事をこの妹はきちんと理解しているのだろうか?

 俺の1分1秒はその辺りにいる凡俗共の数時間、数日、いや数年以上の価値があるのだから。

 

「それにしてもあんた呑み込みやたら良いよね。 あ、本当はこういうゲーム良くやってたんでしょ?」

「ふざけるなっ!! お前がどうしてもと言うから付き合ってやっているんだろう。

 これらのゲームのどこに俺の知的好奇心を刺激する何かがあると言うんだ!?

 改めて宣言しておくぞ。 俺をその辺の一般大衆と一緒にするな」

「必死すぎワラタ」

「…………」

 

 たまに妹と言う事を忘れて本気でぶん殴りたくなってくる。

 いかん、いかんぞ……それだけは俺の矜持を曲げる事になる。

 

「それにしてもあんた良いPC使ってるよね」

「ああ、そうだな」

 

 分っているのか、桐乃。 こいつの本当の価値を。

 この俺の構築したシステムは、俺の頭脳と合わされば国家機密にアクセスする事すら不可能では無い。

 それだけの性能を以てやっているのが……R18の妹物のゲーム……性能の無駄遣い甚だしい。

 第7世代のナイトメアフレームを用いて近所のスーパーに夕飯の買い出しに行くくらいの無駄だ。

 すまないなガウェイン(PC)……お前のドルイドシステムを活用する日は遠そうだ。

 

「これだけのマシンパワーなら、最新のあのゲームだって余裕ね。 そんじゃあ、次は〜」

 

 この1週間で既に、俺は睡眠時間を削り相当数のゲームをクリアしている。

 その上で更に課題を与えるつもりか。 いい加減にこれ以上付き合うのは時間の無駄だ。

 

 既に桐乃の行動の理由は読めている。それは——

 

「桐乃……」

「なに? 何かリクエストでもある? 今までクリアした中でお気に入りあったら——」

「お前は、俺以外にこういうゲームについて話したり出来る友人はいるのか?」

 

 俺の質問が意外だったのか、桐乃は、きょとんとした表情になってそれから俯いた。

 

「…………どっちでも良いでしょ」

「なるほど」

 

 俺の推測は的中のようだ。

 桐乃の友人と直接言葉を交わした事は無いが、見た目は桐乃に負けず劣らず今時の女子中学生といった様相だった。

 彼女達にこの趣味を理解しろと言っても酷と言う物だろう。 もっとも俺と言う頭脳が無駄な時間を浪費している事を考えると

 彼女達に良き理解者になって頂く事を俺は願ってやまないが。

 

「なに? バカにしてんの?」

「違うな桐乃。 事実を確認しているだけだ」

 

 この妹はプライドが高い。

 プライドの高さでは俺も相当な物であると自負しているが、彼女も勝るとも劣らずといった所だ。

 素直に周りに打ち明けて、理解してくれる人間を探す等と言う策は愚の骨頂だ。

 ならば——俺が提示するべき策は……

 

「お前はもう一つの居場所を作るべきだ」

「えっ……それってどういう……」

「人間、誰しも多様な側面を持つ。 現在の友人にはお前が見せられない側面が有ると言うならば、それを曝け出せる場所を作れば良い」

 

 世界は決して誰にも優しいわけでは無い。

 天から与えられただけの世界では、人は決して幸せにはなれない。

 幸せを得るためには、行動しなければならないのだ。

 

 ……そして、俺は妹には、与えてやりたいと思っている……優しい世界を。

 何故だ? 今回の件まで殆ど喋った事も無い妹。 普段は俺を邪険にしている妹。

 そいつの為に俺は何かをしようとしている。 自分自身の思考が不思議だ。

 根っからのシスコン……そう言われても否定出来んな。

 

「つまり……オタクの友達を作れって事……?」

「呑み込みが早いな。 流石は俺の妹だ」

 

 桐乃は俺の言葉に若干の戸惑いを見せている。

 そして次の言葉を探すように、俯いて考え込んでいるようだ。

 彼女自身、この答えには辿り着いていたのかもしれない。

 しかし、恐らくそこに踏み出す事が出来なかった——

 

 数分の黙考……やがて、彼女はこう呟いた。

 

「……やだよ……オタクの友達なんて……一緒に居たら、あたしまで同じに見られちゃう」

「ほう? お前はこれだけのコレクションを揃えて置きながら、今更取り繕うつもりか? 」

「そ、それは……そんな事言っても仕方ないじゃん……世間体の事をあたしは言ってるの」

 

 世間体……当然の事だ。

 普通に考えて女子中学生がR18のゲームをやっているなど普通では無い。

 学校の友人がそれを受け入れるはずも無い。 そういう事だろう。

 

「あたしはこういうゲームと同じくらい学校の友達も好き……

 でも、こっちも同じくらい好き……どっちかなんて選べない

 きっとこういう趣味がバレたら、皆……あたしを避けると思う。

 そうなったら、もう学校に行けないもん」

 

 学校の人間関係。

 普通の中学生にとってはそれは世界の全てに等しい。

 目的のためならば、俺であれば切って捨てる事が出来る程度の関係だとしても

 一般的にどちらが正しい生き方かと言えば桐乃の方だろう。

 

 ならば、俺が提示する答えはーー

 

「違うな。 間違っているぞ桐乃」

「ど、どういう事……?」

「俺は、学校の友人に秘密を打ち明けろと言っているのでは無い」

「じゃ、じゃあ……どうやって……」

「学校の友人にバレないように、新たな人間関係を構築する。

 コミュニティというものはたった一つでは無い。 目的に応じて必要なコミュニティに参加する。

 それが賢い生き方だ。」

「……なんか……良い手はあるの?」

「既に28通りのプランを思いついている」

「……聞かせて」

「フッーーならば願うが良い。 この俺に! 『人生相談』と言う絶対遵守の力を用いてっ!!」

 

 桐乃は口籠もりながらも願いを口にした。

 

「あたしは……こういう話が出来る……友達が…………欲しいの……」

「その願い! 聞き入れたっ!!」

 

 全く……何故だろうな。 俺がここまでこいつに甘くしてしまうのは。

 まぁ、良い。 『妹』が願った以上は、その願いは確実に叶えるーーこの俺の全てを賭けてでも。

 

「それで……具体的にはどうすんの?」

「そうだな……お前のレベルからすれば統計的に一般レベルのオタクでは太刀打ちが出来ないだろう。

 たった今収集したデータによると、平均的な14歳のオタクの小遣いは日本円にして3000〜5000程度。

 これでは資金力がどうあっても足りない。 もっとも、資金力の無さをアイディアや妄想で補う剛の者もいるだろうが。

 まずは効率よく、資金もしくは技術を持つ上級オタクを探し出す必要がある」

「ネットかなんかで探すとか? SNSとかツイッターとか」

「もちろん、それらも使う。 だが……仕掛けが必要だ。 そうだな……作戦決行は1ヶ月後としよう」

「な、何をするつもりなの……ちょっと怖いんだけど」

「なに……楽しいイベントを催すだけだ」

 

 そう概要は至極単純だ。

 この俺が、上級オタクが集まるイベントを開催する。

 イベントとなれば多少は開放的に人間はなるものだ。

 そこでイベントを通してオタク友達作りをすれば良い。

 なに、こんな低俗な趣味に嵌るような人間の行動心理など手に取るように分かる。

 

 多少、資金は使うが問題無いだろう。

 少なくともここ数日間で、オタク産業の規模についてはリサーチは完了している。

 中々に興味深い経済圏を形成している。 さて……まずはどこの会社にアプローチをかけるか。

 1ヶ月有れば、方々への根回し及びドルイドシステムを用いて、イベントのステルスマーケティングも完了するはずだ。

 恐らく俺の手腕ならば支出以上の収入と、桐乃に友人を作り、俺の有意義な時間を取り戻すという二つの結果を達成出来るだろう。

 

 問題はただ一つ……この俺が主催者として……オタクの王のような扱いをされるのは避けたい。

 そうだな……少し細工が必要だな。

 

 

 そしてあっという間に、一ヶ月と言う時は流れた。

 準備は万全だ。 

 

 刮目するが良い! さぁ、舞台の開幕だっ!!

 

 

 ー桐乃視点ー

 

 幕張の某展示会場。 兄に言われるがままにあたしは今、そこにいる。

 今日、ここではアニメやゲームの祭典が開かれるとの事だ。

 ……ここなら友達も出来ると兄は言っていた……でも、周りを見渡すとやったら黒い男が多い。

 これ絶対に無理なんですけど。 もっとも、イベント自体は、あたしの好きな声優さんやアニメやゲームのトークショーもあって楽しみなんだけど。

 と言うよりもほとんど、あたしの趣味に合致してると言って良い。 一部、謎の厨二感があるイベントもあるみたいだけど、どうせ全部観れるわけじゃないし。

 

 どこで手に入れたかは判らないけど、兄に渡されたプラチナチケットとやらで行列も何のその

 あたしは、今はオープニングイベントが開かれるセレモニーブースの椅子に座って開演を待っている。

 外は3時間待ちの行列だとか……このイベントだけの限定グッズとかも有るから当然そうなるよね。

 

 つーか、あの兄貴はマジで何なんだろう。

 このイベント自体、ネットではいきなり注目されだしたイベントなのに

 どこからこんなチケット入手してきたのか。 やっぱり昔からオタクなんだろうか。

 どう考えても、あのゲームに対する筋の良さって普通じゃないもんね。

 

 そんな事を考えていると、ステージの大スクリーンではカウントダウンが開始された。

 午前10時そこでオープニングイベントが行われる。 プログラムによると最初に主催者の挨拶のようだ。

 こんなイベントを開催する主催者だけど、その全貌は謎に包まれているらしい。

 ネットでも色々な噂が有る。 コミケスタッフのお偉いさんだとか、どっかの出版社の敏腕編集だとか、

 はたまた海外のアニメ好きな富豪が面白半分に企画しただとか……

 

 まぁー、センスは悪くないみたいだし?

 ちょっとどんな奴なのか興味有るのも事実だし。

 それにしても兄貴は、後で合流するとか言ってたけど、間に合うんだろうか?

 まっ、別に良いんだけどね。 

 

 スクリーンの数字がゼロになると同時に、舞台に煙が溢れ、スポットライトが当てられる。

 相当ハデ好きな主催者みたいだ……周りのオタク達もテンションがどんどん上がっていってる

『うぉぉぉぉ』とか叫んでる奴らの、大体がマジキモ。

 

 煙が晴れ……そこに現れたのは。

 

 真っ黒

 

 真っ黒なマント

 

 真っ黒な仮面

 

 その正体を晒す事を完全に拒絶したかのような主催者?らしき人間の姿があった。

 

「諸君……私の参集に応じ、この場に集まってくれた事にまず感謝したい」

 

 異様な風体の仮面の男は、そんな風に切り出した。

 

「オタク共よ! 我らを求め、共に歩むが良い! 我らは黒の騎士団!

 我々、黒の騎士団は、全てのオタクの味方である!

 腐女子だろうと、エロゲーマニアだろうと、萌えオタであろうと……

 

 だが、世間にはまだオタクを迫害するものを多いと聞く!

 無意味な行為だ。 故に我々は、オタクの居場所を作る。

 

 私は、決してオタク行為を否定しない。

 今日、この場は、数多のオタクと呼ばれる人種が轡を並べて楽しめる場所を用意したつもりだ。

 貴様達に覚悟はあるかっ!? このイベントを遊び尽くせるのは、楽しむ覚悟のあるやつだけだっ!

 

 力あるオタよ! 我と歩め!!

 力なきオタよ! 我を求めよ!!」

 

 会場は一種異様な雰囲気に包まれていたと思う。

 割と意味不明な事を言ってる仮面の男だけど、無理矢理納得させるオーラみたいなの感じる。

 こういうのがカリスマとかってやつなのかな? 変人っぽいけど、こういうイベント纏めるだけはあるなぁ。

 

「そして我の名を呼ぶが良い。

 我が名は……きぃぃぃぃぃぃぃzェロ!!」

 

 肝心なところでマイクトラブル発生したみたい。

 せっかくマントを広げながら、名前を名乗ったんだけど、マイクの不協和音で良く聞こえなかった。

 

「おい? 今なんていった?」」

「いや、あんま良く聞こえなかったな」

 

 どうも周りもそうみたい……ちょこっとだけ聞こえたのは……

 

「でも、エロって聞こえなかったか?」

「ああ、なんかそう聞こえたな」

「なるほど! 全てのオタクの代表者エロか!」

「エロゲーの伝道師エロ!?」

「エロだってよ」

「エロか」

 

 あー……あたしもなんかそう聞こえた。

 ひそひそ声はだんだんと大きくなっていく。

 そして会場のボルテージもどんどん上がっていく。

 

「エロ!!」「エロ!!」「エロ!!」

 

「お、おいちょっとま「エロっ!!」「エロっ!!」「エロっ!!」

 

 ……何か続けたそうな仮面の男を他所に

 会場には集まった数多のオタク達のエロコールが響き渡るのだった。

 

 いや、本当にキモっ……


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