コードギアス 俺の妹がこんなに可愛いくないだとっ!   作:札樹 寛人
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桐乃 の 戦い

「「「エロっ!! エロっ!! エロっ!!」」」

 

 ばぁかなっ!!

 俺の計画は完璧だったはずだっ!

 こんな……こんなイレギュラーで台無しにされるだと……

 

 未だに熱狂に支配された愚かなオタク共は、俺が控え室に戻った後も、俺のもう一つの名を呼び続けている。

 いや、正確にはもう一つの名などでは無いっ! マイクの調整をしたスタッフはどこだ!!

 こんなミス、玉城ですらしない。 ……誰だ、玉城って。 まぁ、良い。

 

 大きな……本当に大きなイレギュラーはあった。

 しかし、結果自体は俺が達成すべき二つの条件を満たすのに十分な結果と言える。

 

 一点……一点だけ本当に悔やまれるのは……!

 

「「「エロっ!! エロっ!! エロっ!!」」」

 

 不愉快過ぎるコールを未だに続ける観客共を映し出すモニターは、俺の神経をどんどんと逆撫でしている。

 いかん……いかんぞ。 これ以上このコールを聞かされ続けては、後々の計画にも支障が出る。

 今は一旦、思考からこの事を切り離さなければ……

 

「くっ……モニターを切れっ!!」

 

 スタッフの一人に忌々しげにそう告げる。

 

「は、はい!エロ様」

「ゼロだっ!!!」

「は、はぃぃ!」

 

 ふぅ……どんな時もポーカーフェイスである事が、勝負事に勝つには重要だ。

 こんな事で腹を立てていては、まだまだだ。 我ながら青いな。

 だが、もう落ち着いた。この後の対処方法も既に……

 

「すみません、エロ様。 今後の予定ですが……」

 

 この時の俺が、全世界に対して軍事的に宣戦布告しなかった事を褒めてやって欲しい。

 

「すまない。水を……水をくれないか」

「は、はいe……ゼロ様」

「水を置いたらすぐに部屋から出て行ってくれ。 私は今後の事を少し考えたい」

「わ、分かりました」

 

 スタッフが部屋から退出するのを確認すると

 俺はマスクを脱ぎ捨て、水を一気に飲み干した。

 もう二度と被りたく無いが、少なくともこのイベントが終わるまではそうは言っていられまい。

 

 取り敢えず、ゼロ……ゼロだっ!! ゼロの出番は一旦終わりだ。

 次は、兄として……妹の友達作りを手伝ってやらねば。

 さて……桐乃の方は上手くこの状況を利用出来ているかな。

 先ほど、壇上から見渡した限りは多少、黒髪に黒い服の気合が入りすぎた男性諸君が多かったようだが……

 

 しかし、俺とてR18のゲームだけでイベントを開催すればそうなる事などお見通しだ。

 ちゃんと、女性に受ける作品もリサーチして配置してある。

 良く判らんが、6つ子のギャグ作品が流行っているようなのでその辺もキチンと抑えている。

 それらの策も功を奏し、待機列を確認した限りは男女比も悪くは無い感じだ。

 

 但し、問題はそれに食いつく女性層が、桐乃と趣味が合うかどうかと言う事だ……

 ホモ漫画を嗜む女とR18の妹物のゲームを嗜む女。 似たような物だと一蹴してしまえば良いのだが

 どうもこの業界はそれだけで括れない何かが有るように思う。 結局、問題点としては桐乃にある。

 あいつもオタクならばオタクで、普通の女オタクが好むような物を好きになっていればいい物を……!

 何故興味ジャンルが明らかに男性向けなんだ。 お陰でイベント自体がカオス極まりない事になっている。

 

 策は幾重にも張り巡らせたが、結局……友人などと言うものは自分で作るしか無い。

 そう、ステージは用意出来ても、そこで何を成し遂げるかは、監督である俺では無く演者である桐乃……お前の役目だ。

 きちんと結果を出してくれ。 そしてお前の友人作りの成功を以って俺はこの業界から足を洗う。 

 

 二度と、この俺の事をエロなどと呼ばせん……!!

 

 

 一旦、ゼロの衣装を脱ぎ、私服に着替えた俺は会場内を見て回る事にした。

 どこのブースも賑わっている。 イベントとしては間違いなく成功だろう。

 この1ヶ月間の苦労も報われると言う物だ。

 

 俺が感慨に耽っていると、ポケットのスマートフォンが着信を告げた。

 

「はい? もしもし」

「やっと繋がった! あんた今どこいるの?」

「ああ……ちょっと色々あってな。 ようやく会場に着いた所だ」

 

 本当に色々あった。

 もはやあの悪夢の記憶を消し去りたいくらいだ。

 

「お前こそ、今どこにいる? そろそろ友人は出来たか?」

「はぁ? 無理に決まってんじゃん! って言うかキモいオタクしかいないし」

 

 お前もそいつらと趣味同じだろうが。

 話しかけてみろ。 もしかしたらそこから新しい物語でも紡がれるかもしれんぞ。

 そうだな「私の彼氏がこんなにキモいわけない」なんてタイトルはどうだ。

 この俺が作品化すれば、このイベントの目玉の一つにでも成長させる自信がある。

 既にオタク共の好みと傾向は読み取った。 後はAIに自動制作させてもそれなりの物は出来る。

 どう売るかならば、ドルイドシステムを用いて民意を操作すれば簡単な事だ。

 今回の件で、方々にパイプを作る事も出来た事だしな。

 

「まぁ、良い。 一旦合流しよう。 集合場所はA9だ」

「オッケー」

 

 合流した桐乃は既に幾つかのグッズを抱えている。

 しかし……誘致しておいて言うのも何だが……お前、その袋持って歩くつもりか?

 

「はー、マジ疲れた」

「ふん、それだけ持ち歩けば疲れもするだろう。」

「はい」

「なんだ?」

「そう思うなら持ってよ。 男でしょ」

「バカを言うな。 俺は肉体労働派じゃないんでね」

「この貧弱モヤシ……」

「ひ、ひんじゃく……」

 

 い、言わせておけば……くっ、別に俺だってその程度の荷物持てないわけでは無い。

 むしろ、これが「お兄様……ちょっと疲れてしまって……」みたいな感じであったならば

「良いんだよナナリー。 さぁ、こっちに渡して」と言う風になっている!!

 

「まっ……このチケットくれた事は感謝してるけどね……」

「ほう? 珍しいな。 お前がそんな事言うとは」

「う、うっさい。 それにしても開会式出れなくて残念だったねー」

「別に俺はこのイベントに大して興味があるわけじゃない」

「いやー、でもあれは見ておくべきだったよ! 世間体への反逆者エロは」

「ゼロだっ!!」

「へ……な、何、急に大きい声出しちゃって」

「い、いや……パンフレットに主催者ゼロって書いてなかったか?」

「あ、そうなの? ふ〜ん、まぁ、どっちでも良いや」

 

 どっちでも良く無い。 絶対に良く無い…… おのれ……

 くっ……この場でどうしても訂正して置きたいが、これ以上俺がムキになるのは明らかにおかしい。

 しかもなんだ。世間体への反逆者って……俺は一言もそんな事は言っていないぞ!

 このイベントが終わり次第……絶対に情報操作をしなければ……

 

 いや、この件は、一旦忘れよう。 今はそれよりも大事な事がある。

 

「ところで、ここならばオタク仲間も選び放題だろう? 女オタクもそこそこ目に付く。

 イベントで開放的になっている今がチャンスだ。 適当に声を掛けて友人を作って来たらどうだ」

「……あんたさぁ。 簡単に言うけど、そんな簡単に声掛けて……こういう話するなんて……」

 

 その行為に心理的な抵抗感を感じるのは普通の事だろう。

 そう、見ず知らずの人間に話しかけるには、心理的な抵抗感のハードルを下げる必要がある。

 

「ふぅ……良いだろう。 ならばプランBに移行する」

「え?」

 

 俺とて、簡単に桐乃がその辺のオタクを捕まえて仲良く出来る等と楽観視していたわけではない。

 当然この事態は想定していた。 故に幾つかの団体と交渉し、既に策は打っている。 そろそろだな。

 

 ぴんぽんぱーん

 

『12時より、カフェにて交流イベント、オタクっ娘あつまれーを開催するでござるよ!』

 

 フッ、これが俺の用意した策だ。

 淑女の社交場をこのイベント内で開催する。

 アルコールは残念ながら用意出来なかったが、女どもの喜びそうなスイーツは数を揃えた。

 それらを摘みながら、オタクイベントの会話でもすれば、まず間違いなく心の壁はほぐれるだろう。

 そこから徐々に友人にでもなっていけば良い。 もちろんこの交流イベントへの参加資格が有るのは女性のみだ。

 交流イベントを開催するに辺り、幾つかのオタク団体に接触したが、運営を任せるに値すると感じたのは、この放送を行っている彼女……

 沙織・バジーナ……こと槇島 沙織。 彼女の身辺調査も行ったが、家柄的にも申し分無く、桐乃とも対応に渡り合えるであろう上級オタクだ。

 

 もっとも桐乃も参加者の一人に過ぎず確実性に欠ける策なのは百も承知だ。

 しかし、それで良い。 確実に作れる友人などは存在しない。

 そう……友人だけは、自分の目で見て、触れ合ってその上で、決めるべきだ。

 それこそが本物と言うものだろう。

 

「ほら、桐乃」

「これって……」

「今の放送聞いていただろう? 参加チケットだ。ケーキも食べ放題らしいぞ」

「あ、あんたはどうすんの……?」

「残念ながら、男子禁制らしいからな。俺はどこかでゆっくりコーヒーでも飲んでいるよ」

「で、でも……あたし、一人じゃ……」

「友達、作るんだろ?」

「うん……」

 

 そう頷いた桐乃は、チケットを受け取り決戦の地へと向かった。

 

 不安そうに何度かこちらを振り返る桐乃を見送り、俺は再びイベント運営に戻る。

 桐乃の参加するイベント会場には、監視カメラを幾つも取り付けてある。

 状況は、俺の方で把握出来る。 把握出来たところで何が出来るわけでも無いが

 どのような結果になるかを俺としても見届けておく必要はある。

 仮に今回の策が不調に終わった場合は、次の手も考えなければならないのだから。

 

 俺はスタッフ用のルートから、割り当てられた控室に戻ると、すぐさま再びマントを羽織り、仮面を付けた。

 大きなトラブルは現時点では起きていない。 ならば、ゆっくりと桐乃の状況を確認する事が出来そうだ。

 

 俺は椅子にもたれ、足を組むと、モニターをONにする。

 そして、交流イベントが行われているカフェの映像に切り替える。

 

 桐乃は、緊張した面持ちで、席に座っていた。

 

 ……こいつ、こんなにコミュニケ―ション苦手な方だったか?

 むしろ、友人との間では輪の中心にいるように感じていたが……

 

 ……この事態を予想しなかったかと問われれば70%以上の確率でこうなると俺は思っていた。

 桐乃はこの場において狼みたいなものだ。同属性の人間で集まっている分には、桐乃のそのキャラクターは中心人物として機能するのだろう。

 しかし、オタクと言う人種は羊みたいなものだ。 羊の群れと狼は決して相入れる事は無いだろう。

 仮に俺であれば、羊の群れだろうが、狼の群れだろうが、どちらでも関係無い。

 飼い主――王として、等しく手玉に取るだけだ。 それを桐乃に求めるのも酷だろう。

 

 集音マイクから漏れ聞こえてくる、必死に話しかけてはいるようだが、二言三言しか保っていない。

 そんな時間が過ぎていくと、桐乃の声がどんどん弱々しくなっていくのを感じる。

 

 ……忌々しい妹と言えども、そういう姿を見せられると……

 しかし、この場はただ見守るしか無い。 起きるかどうかも分らない奇跡を待つ気分だ。

 周りが楽しそうに会話をする中、完全に桐乃は孤立していた。

 ……その他にも痛々しい格好で、殆ど喋れていない女も俺が見た限り一人は居たが

 ダメだろうな……どう見てもコミュニケーション障害タイプだ。 桐乃とウマが合うとは思えない。

 

 それから約2時間ほど、俺はイベント運営スタッフに指示を出しながら

 一方で桐乃の様子を見守っていた。 結論から言おう……どうやら今回の策は不調に終わったようだ。

 最後に行ったプレゼント交換で、桐乃が受け取ったのは、誰が持ってきたか良く分からないオレンジ型のキーホルダーだった。

 どこで買ったんだ、それは。 俺だったら全力で投げ捨てる。

 

「皆様のご協力も有りまして、本日のコミュニケーションイベントはつつがなく終了出来たでござる!

 拙者、心より感謝しておりますぞっ!」

 

 沙織・バジーナは、イベントを締めくくろうとしている。

 少なくともイベント自体は成功だろう。 仲良くなった何組かの少女たちが連絡先を交換したり

 この後も続くイベントで、何をするかを話し合ってる様子が見て取れる。

 

「この会を通じて仲良くなった皆さんは、ぜひこの後も会場で楽しんで頂けると幸いでござる!

 きっとオタクの伝道師エロが色々と催しを考えているはずですからなっ!」

 

 ……ちょっと待て。 お前にはイベントの打ち合わせの時にちゃんとゼロって名乗っただろう。ふざけるなっ!

 

「それでは、これにて解散っ! 皆さん、今後も思い重い楽しんでくだされっ!!」

 

 わぁっと喧騒が広がった。そこには新たな友人と次に何をするか話合う楽しそうな輪が広がっている。

「ね!これから6つ子についてみっちり語り合わない!」「カラ松をやしないたーい」「筋力Dの人って絶対に槍の人に押し倒されるよね」「おっと、心は硝子だよー」

 などと実に楽しそうだ。 ……しかし、話す内容からして、桐乃の趣味と合致していないような気がしないでもない。

 やはりあいつの趣味は少し……同じオタクと言う集団であっても特異だったか。 もっともそれ以前の問題も多々有ったが。

 

 そんな風に、人はだんだんと捌けていった後も、会場に桐乃は一人ポツンと残っていた。

 手に持ったオレンジのキーホルダーが虚しい。

 

 ……くっ! そんな表情をするなっ! 計算はしていた。 こうなる可能性も考えてはいた。

 だが、実際にそうなると俺は締め付けられるような思いに駆られていた。

 俺は……また妹に優しい世界を見せてやることが出来ないのか……? また……?

 違う、これは計画の第一段階だ。 まだまだイベントは続く!

 

 俺は気づくと仮面とマントを再び脱ぎ捨て、控え室を後にしていた。

 そうこれは終わりでは無い……! いや、終わらせはしない……!

 

 絶対にーー!!



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