コードギアス 俺の妹がこんなに可愛いくないだとっ! 作:札樹 寛人
千葉県千葉市の少女・桐乃は、友人を得る為にイベントに参加した。
しかし、世界は思った以上に彼女に対して冷淡であった。
それでも人は動かなければならない。 その先に待ち受けるものが絶望だとしても
己の命運を切り開く為には、足を止める事は許され無いのだから。
【桐乃サイド】
ああーーダメだったなぁ……
どうしてこうなるのかぜんっぜん理解出来ない。
この日の為に服だって決めて来たし、話題だって……
あたしが話しかけても、どうしても話題は盛り上がらなかった。
上滑りしているのを自分でも感じていた。 悔しい……悔しいっ!!
普段はこんな事ないのに! 友達とだったらあやせ達とだったら……!
「あ、案ずるな、桐乃」
「う、うわっ! い、いきなり現れんなっ!……って言うか物凄い汗じゃん!?」
葛藤するあたしの前に、汗だくで息も絶え絶えな兄が突然現れた。 び、びっくりした。
集合場所はA9地点とか言ってたのに……どっかから見てたんじゃないでしょうね。
……見られたくはない。 この少し天然だけど完璧な兄には自分の弱いところは見せたく無かった。
見せてしまったら、置いていかれるような気がするから。
子供の頃……いっつもあたしの先を走ってた時みたいに……あ、体力は既にあたしのが大分上っぽいけど。
てか、何時の間にこいつは、体力こんな無くなったんだろ。
「何……ちょっとオタクどもの間を移動していたら付着しただけだ。 非常に不快だが、気にするほどじゃない」
「あ、ああ……そうなんだ」
明らかに自分から分泌されてる汗も含まれてそうだけど……
こいつも本当に何時の間にかこういう趣味に目覚めてくれて買い物でもしてたのかもしれない。
そうだったら、ちょっと嬉しい。
「その様子だと……ミッションは失敗だったようだな」
「う、うっさい……別にあたしは今日は買い物出来ただけで満足だし……あいつらと話あんま合わなそうだったし……」
「そうか……」
「……ダメなのかなあたし……今日だって……もっと上手く喋れるって……」
吐きたくない。 こいつの前で弱音なんか吐きたくないのに……
そんなあたしの言葉を遮るように兄は言った。
「1度の失敗がどうした。 歴史に名を残した人間は1000の失敗を重ねる。しかし、1001回目の挑戦をするからこそ成功者になるんだ」
「……うん」
……ムカつく。 無駄に格好付けながら言うこいつのセリフ。
ちょっとだけ嬉しいけど、なんかムカつく。
「それに言ったはずだ。 案ずるな……と」
「え?」
「おーい! きりりん氏〜」
そんなあたし達の前に現れたのは……さっきまで司会をしていたでか女だった。
【ルルーシュサイド】
はぁはぁ……はぁはぁ……む、無駄に……走るものじゃないな……
ちっ……こんな事ならば会場に移動用の馬でも配置しておくべきだった。
俺が、桐乃のところに着いたときも、彼女は変わらず立ち尽くしていた。
まだ、先ほどのショックから立ち直れていないようだ。 だが……1度の失敗を気にしては人は未来を得る事は出来ない。
それに……まだ可能性が消えたわけでは無い。
そして、やはりその瞬間はやって来た。
沙織・バジーナ
先ほどまでのコミュニケーションイベントの司会を行っていた女が、イベント会場に舞い戻って来たのだ。
フ、フフフ……フハハハハ!!
ーー計算通り
やはり、そう動いたかお前はっ! 桐乃にはああ言ったが100%の確証は無かった。
彼女に対して俺は、イベント終了後の細かい指示等は出していない。
但し、一言だけは言っておいた。
『今回のコミュニケーションイベント……参加人数が当初の予定を上回りそうだが……可能な限り全員が、新しい友人を作る事が出来るイベントとしたい』
『ほほう。 それは素晴らしい事でござるな。 拙者もそうなるように尽力させて頂くでござるよ』
『任せたぞ沙織・バジーナ。 君の手腕に期待している』
『にんにん! お任せあれゼロ氏!』
彼女は、この俺が認めた才女だ。
ならば、イベンターであるゼロの意思をきちんと汲んでくれるだろう。
桐乃が仮にイベントで孤立していれば、こういった行動に出る可能性が高い事は想定していた。
「いやぁーそれにしても良かった良かった。 今、ちょうど携帯にご連絡を差し上げようかと思っていたところでござってな」
「あ、あたしに何か?」
突然の展開で桐乃は、おずおずと相手の出方を必死に探っているようだ。
無理もない。 つい先ほどのイベントで感じた疎外感もあり、警戒心も強まっているのだろう。
「実は……これから二次会にお誘いしようと思いましてな」
「え……?」
この展開は悪くない。 恐らく少人数の会合となるだろう二次会ならば、先ほどまでより、密接なコミュニケーションが可能だろう。
そして何よりも……この展開で有れば……
「きりりん氏、ところでこちらのイケメンは? ああ……なるほど、流石きりりん氏ーー」
フッ、そうだな。 桐乃は性格はアレだが、顔は悪くない。
兄である、この俺も申し訳無いが、眉目秀麗なのは全世界が承服したところだろう。
「彼氏でござるな?」
「「違うっっ!!」」
……恐ろしい勘違いをする女だ。
再度確認しておくが、俺は何故か妹と言う存在には甘い部分がある。
それはここまで来たら認めざるを得無いだろう。 しかし、俺の理想とする妹は断じてコイツでは無いっ!
今でも、目をつぶれば……『お兄様』と呼ぶ声が聞こえるようだ……
待て。 決してゲームと現実を混同しているわけでは無いぞ。 俺はっ!
「なわけないじゃんっ!! 本気でやめてよ! 想像しただけでキモっ!」
「フン……そういう態度だから、友人の一人も出来無いんじゃないか」
「な、なによ!」
「失礼……ミス沙織。 俺は高坂京介。間違いなく、彼女の兄ですよ」
「おお、そうでござったか! むっ……しかし、京介氏……どこかでお会いになったような……」
な、なにっ!?
まさか……この女……ゼロと俺の類似性に気づいたと言うのかっ!?
バカな……確かに彼女との打ち合わせにはボイスチャットを用いたが、声には加工を施したし
身元もバレないように何重にもプロテクトを掛けたのに……! マズイ……
今、ここで……あのエロ騒動が起きた今……ここで俺がゼロだと暴露されるのは絶対にマズイ!
「あ、思い出しましたぞ!」
くっ……何か方法は無いか……この女の記憶を……記憶を操る方法は……絶対遵守の力ーー
「雑誌に載っていたお方でござるなっ!」
「な……」
「いやー、きりりん氏も読者モデルをされてると聞きますし、ご兄弟揃って凄いでござるな!」
「あ、ああ……そ、それ程でも無いですよ。 別に俺は妹と違って専属モデルをしているわけでも無いですし」
そ、そっちかーー!! 肝を冷やさせてくれるっ!
ここで俺がエロ……いや、ゼロだと暴露されていたら、俺は少なくとも直ちにこの場を去り、即刻家を出ていただろう。
フッ……それにしても、やはりあの雑誌の俺は輝いて……いやーー
ーー男なら黒に染まれ
「一部で話題になってましたぞ! とても面白……格好いいポーズだったので、記憶に残っていたでござるよ!」
……………………………………
いや、面白くは無いだろ……
くすくす笑ってる妹とこのぐるぐるメガネにハドロン砲を直撃させてやりたい。
俺の内心に気付いているのか気付いていないのか、ノラリクラリと沙織・バジーナは言葉を続けた。
「ではでは、京介氏。 京介氏もご一緒にいかがですかな?」
そうこの展開で有れば……こうなるのは必然
俺が走ってまで、桐乃の元に駆けつけたのは、この展開になった場合に、桐乃の近くにいる必要があった為だ。
俺ならば……桐乃のオタク相手の拙いコミュニケーションをフォローする事が出来る。
人心掌握術ならばお手の物だ。 これで条件は全て整った!
「そうですね。お邪魔でなければ、参加させて頂けたら」
「ちょ、ちょっと! なんで勝手に……それって他にも沢山人来るんでしょ……?」
ちっ! 何を臆しているんだ桐乃っ!! 勝利は既に眼前にあると言うのに……!
どうやら、先ほどの経験が、彼女にとって小さなトラウマになりつつあるようだ。
俺が気弱になった妹を説得しようと言葉を紡ぐ前に沙織・バジーナが先に、「いやいや」と大袈裟な身振りで首を振った。
「きりりん氏と京介を合わせて4人です。先ほど拙者が余りお話出来なかった方と、もっと仲良くなりたいと思ってお誘いした次第で。ですから……まぁ、二次会と言ってもささやかなものですな」
「ふ、ふーん……」
これは桐乃にとっても魅力的な提案のはずだ。
良くやったぞ沙織・バジーナ。 俺が想定した以上の戦果だ。
あれだけの人数相手に司会進行を行いながら、溢れている人間を把握しそのフォローに回る事は中々出来無い。
ここで俺がすべき事はーー桐乃を誘導してやる事だ。
「面白そうじゃないか桐乃。 俺も少し疲れたし、お茶でもしながら話すのも良いんじゃないか?」
「うーん……」
「いかがですかな? きりりん氏」
もはや答えは出ているのだろう。 これは勿体ぶっているだけだ。 全く面倒な生き物だな……
「わ、分かった。 そんなに言うなら……行ってあげても良いケド」
そう言う桐乃の顔は、年相応に見えた。
その回答に満面の笑みを浮かべた沙織・バジーナは、背中のポスターを抜き放つと、行き先を示した。
一時は今回の策は失敗かと思ったが……お前にこの役割を与えてよかったよ沙織・バジーナ。
沙織に案内されたのは、会場の外れにあるこじんまりとした喫茶店だった。
店内には、イベント参加者と思しき客が休憩したり、オタクトークに花を咲かせたりしている。
なるほど、先ほどの離席時に席を確保していたというわけか。 中々手際が良い。
既に最後の一人は、4人掛けの椅子に1人座っていた。
俺たちに気づくと、顔を下に向けて俯いている……この女……
さっきのコミュニケーションイベントで、桐乃以外にも完全に孤立していたのが確かに1人居たが……よりによってコイツか。
桐乃と性格が合うとは思えないタイプとつい先ほど断じた少女だ。
現代日本において彼女の格好は一種異様ではあった。
腰まで伸びる黒く美しい髪、瞳は緋の色に染まり、その身に漆黒のドレスを纏っている。
桐乃とはタイプは違えど、彼女が優れた容姿を持っている事を否定する者はいないだろう。
最も目を引くその格好は、王侯貴族が舞踏会にでも出席する時に着るような服装と言えば良いのか。
……そうだな、俺がかつて男女逆転祭りで女装させられた時に着たドレスに良く似ている。
全く……今の今まで忘れていた忌々しい記憶を呼び覚まさせてくれる。
……ん? そういえば、あの祭りを行ったのは何時だったか……何故、俺はあんなインパクトのある出来事を……くっ……いや、今はそれはどうでも良いか。
「さっきのイベ中もずっと気になってはいたけど……近くで見たらスッゴ……神崎蘭子みたいじゃん」
そんな事を桐乃がぼそりとつぶやく。
神崎蘭子……捕捉するならば、アイドルマスターシンデレラガールズというゲームに登場するキャラクターだ。
身長:156cm 体重:41kg 誕生日:4月8日 星座:牡羊座
血液型:A型 利き手:右 出身地:熊本 趣味:絵を描くこと
ゴシックロリータの衣装に身を包んだ緋眼の少女。中二病テイストの言い回しから誤解されがちだが、
内面は素直で真面目な頑張り屋さん。少し照れ屋な一面もある等身大の女の子。
確かに格好はこの女と良く似ているかもしれない。
もっとも、ゴシックロリータのキャラは数多く存在している、俺は数多のゴスロリキャラの中から
彼女が扮しているであろうキャラクターの目星もついている。 桐乃はどうやら知らなかったようだ。
誤解を与えないように言っておくが、あくまでイベントの為に得た情報に過ぎない。
俺という天才の頭脳をこんな事に使うのはこれっきりにして欲しいものだ。
「お待たせしました黒猫氏。こちらきりりん氏とその兄上の京介氏でござる」
「え、えーっと……よろしくね」
「飛び入りで参加させて貰った高坂京介です。宜しく」
桐乃はやはり緊張の色が隠せない。
俺はなるべく爽やかな感じで丁寧に挨拶をした。
しかし、この女が相手だと……これが正解なのかどうかは判らんな。
モニタで見ていた中で、桐乃以外で最も目についたのがこの女だ。
何をしにイベントに来たのか分からないが、終始俯いて携帯を弄っていた。
イベントと言う空気の中では、彼女の格好は、桐乃の今時女子な格好よりむしろプラスに働くはずだが……そのアドバンテージを活かす事は無かったようだ。
「ハンドルネーム黒猫よ」
漆黒に包まれた少女ーーもとい黒猫は短くそう言った。
そう俺の推測が正しければ……こんな格好をしながらこいつはコミュ障だ。
沙織の選定基準を考えると、そうなるのは必然ではあるのだが……
さて、この場に揃った駒は4騎……
オタクとのコミュニケーションに問題を抱えた妹物のエロゲが趣味の妹と、目の前に座すは漆黒の衣に身も心も包んだコミュ症女
そして喋りと格好はおかしなオタク丸出しだが、そのコミュニケーション能力の高さは既に証明している沙織・バジーナ。
これに加わるは……この俺だ!
さぁ……ここからが本当の戦いの始まりだ。
盤上に俺という王が、降り立った今……先ほどのような無様は起こさせはしない。
いや、起きうるはずが無いっ!!
そうーーここで作ってやろう桐乃。 この俺の手でっ!
お前にとってのやさしい世界をーー!
つづく