コードギアス 俺の妹がこんなに可愛いくないだとっ! 作:札樹 寛人
行動の果てには結果という答えが待っている。例外はない。そこにルルーシュの力は及ばない。いかなる力を以ってしようと、その必然からは逃れられない。妹・桐乃が友人をつくるために動き出したルルーシュ。だがしかし、世界は、人々は、彼の思惑とは別に結果を突き付ける。それはエロと言う伝説。彼が世界に刻んだ最初の偉業は、彼に苦悩と世界の一部に熱狂をもたらすのだった。
「それでは、イベント会場に潜入してみたいと思います」
「物凄い熱気ですね。このイベントはアニメファンやゲームファンなどを数多く動員し、大変賑わっています。」
俺の企画したイベント『ブラックリベリオン』はここ1週間、一部のワイドショーなどで取り上げられていた。まさしく企画は大成功。これも全て俺と言う卓越した人間の手腕であると言わざるを得無いだろう。そう、桐乃は無事にオタクの友人を作り、俺も少なからずのリターンを得た。完璧だ。完全に完璧に計画通りだ……
場面が変わり、主催者である俺の演説シーンが映し出される。そして演説が終わるその瞬間……
「「「エロっ!! エロっ! エロっ!!」」」
くっ………何故このシーンを流す……!! 茶の間に流して良い単語じゃないだろうっ!!
「いやはや、オタク文化の近年の加熱っぷりも凄いですね」
「エロ(笑)ですか。この人物は経歴も何もかも全く謎らしくてネット上でもその正体が取り沙汰されているようですね」
「このような人間が、アニメやゲームと現実を混同してですね。問題を起こしたりするんですよ」
スタジオではコメンテイター達が勝手な事ばかり言っている。ふざけるな……! 俺が近い将来、絶対的な権力を握った日には、こいつらは全員業界から干してやる……!
俺は不愉快なニュースを垂れ流すテレビの電源を切った。よっぽど今週は大きなニュースが無かったのか、週末のワイドショーは突如現れた正体不明のエンターテイナーをこぞって取り上げた。全く……これだからマスコミと言う連中は……カオスとやらが本当に好みのようだ。ネットニュース程度ならば封殺出来ると思っていたが……こうも大々的に取り上げられては、身元を隠しながら全ての情報をカットする事はもはや不可能になったと言えるだろう。世間体への反逆者エロは、その汚名を公共電波を通じてお茶の間にまで届けてしまったのだ。
ネットの匿名掲示板においても、謎の仮面の男の正体を暴こうとする者や面白おかしく騒ぎ立てる者。そんな連中が大挙してありもしない憶測を並べ立てていた。
* * *
【急募】世間体への反逆者エロの正体 part32
[1]名無し[]2017/06/10((土) 20:13:14 ID:???
エロってどこの会社のステマなの?
[2]名無し[]2017/06/10(土) 20:14:34 ID:???
エロゲ会社じゃね?最近エロゲ落ち目だし、なんかインパクト出したかったんだろ。
まぁ、流石にあれはどうかと思うが
[3]栗悟飯とカメハメ波[]2017/06/10((土) 20:15:56 ID:???
痛々しい厨二病仮面乙
それはともかくステルスマーケティングの意味は正しく使うべき
大々的にイベントを成り立たせた以上、あれはステルスでは無く業界が用意した大掛かりなマーケティングと考えるのが妥当
ああいう痛々しい奴は知り合いにも居るけど、割とパワーは有ったりするから個人でやってる線も捨てきれ無いが……
[4]名無し[]2017/06/10((土) 20:1610 ID:???
あそこまで厨二病な感じなのに、何で名前だけエロにしてしまったのか……
[5]名無し[]2017/06/10((土) 20:16:35 ID:???
>>3
隙あらば自分語り
クソコテ氏ね
[6]名無し[]2017/06/10((土) 20:17:02 ID:???
エロの中身は美少女やぞ
[7][1]鳳凰院凶真[]2017/06/10((土) 20:17:14 ID:???
フゥーハハハハハハ!!
名前以外のセンスはこの俺、鳳凰院凶真が認めてやろうエロよ!!
[8]名無し[]2017/06/10((土) 20:17:30 ID:???
エロ様を崇めなさい。エロ様こそが、この堕ち行く業界の救世主なのです。
[9]名無し[]2017/06/10((土) 20:17:55 ID:???
クソコテばっか沸くし、何もエロの情報無いならもう落とせよ
[10]名無し[]2017/06/10(土) 20:18:30 ID:???
>>9
こいつ、エロっぽい
[11]名無し[]2017/06/10((土) 20:18:32 ID:???
>>9
おっ、エロか?
[12]名無し[]2017/06/10((土) 20:18:44 ID:???
>>9
エロそう
* * *
………………
………………ネットの人非人共め……!!
こいつ等は何時もそうだっ! 勝手なレッテルを貼り付けてっ!
……落ち着け、落ち着くんだ高坂京介……冷静に戦況を分析しろ。こうなってしまっては、もはや何をしても炎上する案件だ。もっとも、ミッションは達成したはずだ。俺が再びエロ……ゼロの仮面を被る必要は無いだろう。愚民どもも新たな刺激的なニュースさえ出れば、ゼロの事などすぐに忘れ去るはずだ。それはこれまでの炎上ニュースにおける統計が証明している。ゼロの衣装はタンスの奥深くに仕舞われた。もはや、日の目を見る事は二度と無いだろう。あとは時間が解決してくれるのを待つだけだ。
俺はノートパソコンを畳み、リビングに向かう事にした。そろそろ夕食の時間だ。何も出来ない以上は、勝手に推測させておけば良い。
こうして、ゼロはたった一度の奇跡を成し、世界から去ったのだ。
「あら、ちょうど呼ぼうと思ってたのよ」
リビングに入ると母がそんな風に声をかけてきた。ジャストタイミングと言うところか。カレーの匂いがリビングを包んでいる。週末はカレーと言うのが我が家のルーティンだ。別に拘りのカレーでも何でも無いが、個人的には嫌いでは無い。
桐乃は先に降りていたらしく、テーブルについて牛乳を飲んでいる。父は、テレビを見ながら難しい顔をしている。それは何時もの事か……だが、父の見ているニュースは……
「「「エロっ!!エロっ!!エロっ!!」」」
くっ!! またかっ!? 今度はどこのテレビ局だっ! 本当に全ての局にあるこの映像のマスターデータを破壊してやろうか……その為のプログラムを作るには……!
「いやねぇ。昼間っから何を叫んでるのかしら……」
「全くだ。こういう事をして世間からどのように思われるか、それを全く考えていない」
「ハハハ……全くオタクと言う人種は良く分からないね」
「ほ、ホント……キモって感じ」」
俺も桐乃も両親からの言葉に、乾いた返事をする。いや、桐乃はまだ良い。精々このイベントに参加しただけだ。ステージにも何千人も集まっていたし、カメラが向けられてピックアップされる可能性も少ないだろう。しかし、俺は……
「オタク共よっ!我と歩めっ!!」
テレビからは、俺自身がやってのけた演説がまだ流れている。しかし、自分で言うのも何だが完璧だな。間のとり方といい、抑揚といい……ここまでの演説をやってのける政治家は、現代日本にいないだろう。
…………自画自賛くらいさせてくれ、今の俺が針の筵に居ると言う事くらいは、分かるだろう? 何故だ……何故、俺がこんな思いをしなければ……今日のカレーは全く味がしない。
夕食を終えた俺と桐乃は、未だにニュースを見続ける父と母をリビングに残し、早々に部屋に引き上げた。
「……テレビに映らなくて良かった」
ポツリと桐乃がそう呟いた。
「ああ……そうだな。まぁ、あれだけの人間が居たんだ。そうそう映る事も無いだろう」
もっとも、俺は完全に全国ネットにその姿を晒していたわけだが……物珍しさがあるとは言え、他に報道すべき項目も有るだろうに……ほとほと平和な国だな……本当に悲しくなるくらいに平和な国だ……こんな国ならばきっと……
「あそこに映ってたら、今まで作ってきたイメージ全部台無しになるところだったし」
「父さんや母さんが知ったら卒倒するかもしれないな」
「うん……特にお父さんには絶対にバレたら拙いだろうし」
堅物な父は、桐乃がモデル活動をしている事もあまり快くは思っていなかったはずだ。それを含めた我儘を許して貰う代わりにその分ちゃんとすると桐乃は父と約束したと母に聞いた事がある。趣味の事を知られれば、父は何と言うだろうか……
「おろかなりぃぃぃ! きりのぉぉ! お前がやっている事は無価値ぃ・無駄ぁ・無意味ぃぃぃ!!!」
……いや、父さんはこんな喋り方では無かったな。どうも俺の中で父のイメージと言うものがあの堅物な父親で固定されない。だが、父親とは多かれ少なかれ独善的で独裁的なものだ……だからこそ桐乃はこうして趣味を隠す必要がある。悪い人間では無い、だが……少なくともサブカルチャーへの理解は無い、少しばかり古い人間。それが俺たちの父親だ。
「お前は案外抜けているからな。この前のような下手を打たないように気をつけろ」
「……案外抜けてるのは、あんた譲りよ」
「…………」
ああいえばこう言う。この俺が案外抜けているだとっ!? 天才的な戦略家であるこの俺が……!? いや、確かにイベントでは色々想定外の事態も有ったが、それはお前は知らないだろう、桐乃っ! 全く本当に可愛く無い妹だ。
「ま、まぁ、それは良い」
俺は話を変えて、今一番確認しなければならない事を切り出した。
「この前の連中とはどうだ? 仲良くしているのか?」
「え?あ、あー……あいつらね…………ま、入って」
「ああ」
部屋の外で立ち話を続けるのを嫌がったのか、素っ気ない口調で桐乃は、俺を再び部屋に招き入れた。
「一応、両方ともやり取りしてるよ、いまも。LINEとかで」
「いちおー話は合うしさーあ? 色々知ら無い事とか教えて貰えたりするしぃ……ま、役には立ってくれてるかなぁ」
さも興味無いと言う風を繕いながら、桐乃はそんな風に語った。本当に素直さが足り無いなこの妹は……もう少し素直になっても良いだろうに。この俺の妹であると言うならばーーなにはともあれ、連絡を取り合っていると言うならば、俺もあれだけの犠牲を払った甲斐もあったというものだ。これで、俺も幼稚な遊びに無駄な時間を割く必要も無くなると言うわけだ。
「あの黒いのは割と近所に住んでるらしいけど……でかいのはちょっと遠いらしくてさ。だから明日、秋葉原で遊ぼうって話になってて……ま、まぁ、仕方ないから行ってあげてもいっかなぁ……とか」
「そうか」
俺は短くそう答えた。桐乃は一歩を踏み出した、元々社交性は高い妹だ。この先は問題無く友人関係を育んでいくだろう。
これを以って妹から兄への『人生相談』と言う名の絶対遵守の契約は終わりを迎えたと考えて良いだろう。ここから先、彼女自身が友人とどのような物語を紡ぐかは俺が預かり知るところでは無い。願わくば……最後まで信頼し合える友であって欲しい。
「そういえば、あんたも……見るんでしょ、メルル」
「は?」
「今度、上映会しようって話になってて……ほら、来たいなら、来たら良いんじゃない……黒いのもでかいのも……なんか、会っても良いとかって言ってたし」
「そうだな……予定が空いていたら考えよう」
どうやら今回の件を通して、俺と妹の関係も多少は改善されたらしい。いや、俺が求めている妹像とは正直言ってかなり違うのだが……まぁ、悪くはない気分だ。
「ちゃんと来なさいよ。これも人生相談だから」
「まだ続くのか……」
「あったりまえじゃん!」
笑顔で桐乃はそう言い放った。どうやら絶対遵守の力はどう簡単に解除される物では無いようだ。それもそうだ。仕方が無い……もう少しだけこの我儘な妹に付き合ってやろう。我ながら甘いな。
こうしてハッピーエンドとならないのが、物語と違って現実の面倒なところだ。
異変は次の日に起きる。
そして、俺は平和な日常を得て、なお父と対峙する事になる。
それはもはや宿命を超えた運命なのかもしれない。
ならばーー
つづく