インフィニット・ストラトス~輪廻の『X』と黄金の『A』 作:∀X
インフィニット・ストラトス―――通称、『IS』。
女性にしか操作できないその兵器の開発により、女尊男卑が当たり前になった世界。
その世界には、二つの名家が存在していた―
「戦いを止める唯一無二の方法は何だ、答えてみろ!!!」
「「「「「はっ!戦う相手を殲滅する事であります!!!」」」」」
「宜しい!
では演習を始める!!気合いを入れて臨めっ!!!」
「「「「「はっ!!!」」」」」
―ISが開発されるまでは『世界最強の軍隊』として恐れられていた『ギンガナム家』―
「一国のIS所有数について…」
「日本に集中しすぎなのではないか…」
「日本にはIS学園が存在しているのです。
IS所有数が他国に比べて多いのは当然の事かと。」
「…そうかもしれんが…」
「では、これ以上の会議は時間の無駄ですね。
私は一足先に退席させて頂きます。」
「あ、おい…
…くそっ、何が国連大使だ…」
―代々『国連大使』として世界を監視し続けてきた『コーナー家』―
一見相反している様に見えるこの二つの名家だが、最近になって『共通点』が生まれた。
「…IS!?
ギム様、一体どうやってISを…」
「…《インフィニット・ストラトス》だと?
…フフフフフフ…成る程、これがISという物か!!!」
それは、その二家の次期当主となる様に定められた二人の少年が―
「フフフ…ハハハハハハ!!!
女尊男卑の現代社会、そしてその象徴たるISを私も引き継がせてもらったぞ…
世界を変えるのは、我々コーナー家の人間だ!!!」
「ぼ…坊ちゃま!?
旦那様、奥様!!大変です、アレハンドロお坊っちゃまがISを…!!!」
―『同時に』ISを操る能力に目覚めた事―
「「ハーッハッハッハッハァ!!!」」
この二人の少年が出会う時、果たして世界は変革されるのか、それとも―――
――――
―――
――
―
「…はぁ~…」
現在地・IS学園:一年一組の教室:入り口から三列目:最前列の席―
「…これは…」
名称・
「…想像以上に…」
性別:男・生誕日:9月27日・年齢:15・身長:172cm―
「…キツい…」
現在の心理状態:最悪―
クラス全体から向けられる奇異の目線に射抜かれ、顔を青くしているこの少年。
こう見えても、彼は世界で『唯一の』男性IS操縦者である。
「皆さん、入学おめでとう!
私は副担任の『
一夏が心の中で悶絶している間に、緑髪で眼鏡をかけた教師らしき女性が教卓へ上がる。
彼女は教師の誰もが入学生に対してまず最初に言うであろう事を言い、続けて自身の名を名乗る。
「「「「「…」」」」」
「あ、あれ…?」
しかし、クラスの女子生徒達が声をあげる様子は無い。
皆、このクラス唯一の男子生徒の存在が気になって仕方がないのだ。
「…え…えぇっと…今日から皆さんは、このIS学園の生徒です。
この学校は全寮制なので、学校でも放課後も一緒です。
仲良く助け合って、楽しい三年間にしましょうね。」
「「「「「…」」」」」
「…あ…うぅ…
じゃあ、自己紹介をお願いします。えぇっと、番号順で…」
「山田先生、まだ席が二つ空いてますけど良いんですかー?」
「え?」
「…二人?」
一夏が振り向くと、中央列の一番後ろとその前の席が二つ空いていた。
自分の席以外が女子だけで埋まっているこの教室で、その二つの空席はやたらと浮いている。
「(…教室に入った時は気がつかなかったな…
まあ、気づけって方が無理だったと思うけど)」
「…そうですねぇ…じゃあ、その二人は後に回しましょうか。」
「先生、その二人ってどんな人なんですか?」
「名前は?」
「見た目は?」
「お、落ち着いて、ね?
実は先生も詳しくは知らされて無いの。」
「…え、名前も分からないんですか?」
「「「「「!」」」」」
「(…しまった…発言してしまった…)」
一夏が後悔の溜め息をついたのを何か勘違いしたのか、先生は慌てて言葉を続ける。
「え、えぇ…残念ながら、分かってないの。
ごめんなさいね。」
「い…いえ…別に。」
「「「「「…」」」」」
「(…だから一々俺の言葉に反応するのは止めてくれっ!)」
「で、では出席番号一番さんから…」
先生はぎこちないながらも、出席番号順に生徒達の名前を呼んでいく。
呼ばれた生徒は立ち上がって自己紹介をし、それが終われば皆で拍手をする。
だが一夏にはそんな事に集中していられる心の余裕は無く、手をいじりながら目を泳がせていた。
「(…うぅ…
一夏は助けを求める様に左を向き、窓際に座っているポニーテールの女子生徒に救援信号を出す。
しかしその目線を受けた女子生徒はあっさりと目を反らし、一夏に後頭部を向けてしまった。
「(…おいおい、それが六年ぶりに再会した幼馴染みに対する態度かよ~…)」
「…織斑君?」
「(…もしかして俺、嫌われてるんじゃないだろうか…)」
「織斑 一夏君っ!」
「え、あぁはいっ!?」
ネガティブ思考まっしぐらだった一夏は先生に呼ばれている事に気がつかず、
フルネーム(しかも大声)で呼ばれて驚き、思わず声を上ずらせて先生に返事をする。
周りの女子生徒達からくすくす笑いが漏れる中、先生は申し訳なさそうに一夏に声をかけた。
「あの、大声出しちゃってごめんなさい、でも『あ』から始まって今『お』なんだよね。
自己紹介してくれるかな、駄目かな?」
「…あ、いや、あの、
そんなに謝らなくても…」
一夏は先生の態度に少し戸惑った後、覚悟を決めて椅子から立ち上がり…
「織斑 一夏です。宜しくお願いします。」
『この世で二番目に簡潔な自己紹介』を済ませた。
…筈だった。
「…え?」
「「「「「(じーっ)」」」」」
「…えぇ!?」
「「「「「(じーっ)」」」」」
どうやら女子生徒達は、一夏が続けて何か言うものと思っているらしい。
クラス全体から注がれる視線が、それを物語っている。
「…。」
一夏は再び救援信号を窓際の彼女に出すが、彼女はそれを受け取ろうとしない。
その間にも一夏は期待の眼差しを背中に受け続け、石像の様に固まっていく。
「(い、いかん…ここで黙ったままだと『暗い奴』のレッテルを張られてしまう!
よ、ようし…)」
「…おぉ?」
「「「「「…!」」」」」
息をゆっくりと吸い込んだ一夏を、一同が固唾を呑んで見守る中。
一夏は口を開き、こう言った。
「…以上です!」
その瞬間、クラス一同は総ズッコケ。
机に突っ伏しただけの者もいれば、椅子からずり落ちかけた者など、反応は様々だ。
「え、あぁ、駄目でした…?」
皆の反応に焦り、一夏はクラスの生徒達の方を向いて慌てる。
その刹那、彼の側に近づく影があったかと思うと…
「…いでっ!?」
一夏の頭部に、凄まじい威力の拳が振り下ろされた。
「…いってぇ…げっ、
しかも二度も。
一夏を殴った黒髪長髪スーツの女性、殴られた本人曰く『千冬姉』は拳を構えたまま、
頭を抱えて床に膝を付いている一夏を見下ろしてこう言った。
「学校では『織斑先生』だ。」
「織斑先生、会議の方は終わったんですか?」
「ああ、山田くん。
クラスへの挨拶を押し付けてしまって、すまなかったな。」
千冬はそう言い、真耶に代わって教卓の前に立つ。
その姿を見て、やっとこさ着席した一夏は随分と遅れて驚きを覚える。
何しろ彼女の姉は職業不明、しかも一ヶ月に一、二回程しか家に帰ってこないのだから。
「(しかしまさか、IS学園で教師をやってたとはな…
まあIS世界大会のモンド・グロッソで優勝したぐらいだし、妥当って言えば妥当か)」
一夏の言う通り彼女は第一回IS世界大会の優勝者なのだが、その後に突然ISを引退してしまった。
その理由は本人のみが知る事であり、一夏にも分からない。
そんな事を一夏が考えている内に、千冬は軽く息を吸って口を開いた。
「諸君、私が担任の『織斑 千冬』だ!
君達の様な新人を、一年で使い物にする事が仕事だ…」
彼女が名乗った瞬間、クラス中の女子生徒から黄色い歓声があがる。
まるで大物ミュージシャンが来日した際の空港の様である、と表現するのが一番だろう。
「キャー、本物の千冬様よーっ!!」
「私お姉様に憧れてこの学園に入ったのよ、北九州から!!!」
「…はぁ…よくもまあこう毎年馬鹿者ばかり集まる物だ…
わざと私に押し付けているのか…?」
「キャー、こっち向いてくれたーっ!!!」
「千冬様ー、私の方も顔向けて下さーいっ!!!」
「私にも優しくしてーっ!!!」
千冬が呟けば、女子生徒達はその百倍の音量で歓喜の声をあげる。
肝心の本人はと言えば、やれやれと言いたげな表情だ。
「…千冬姉が…俺のクラスの担任…?」
「で、挨拶一つ満足に出来んのか、お前は?」
「え、いやぁ千冬姉、そんな事は…でっ!」
手を打ち合わせながら自分を咎めてきた千冬に一夏は慌てて両手を振るが、
その動作も虚しく千冬は一夏の頭を掴んで机に叩きつけ、一言。
「学園内では『織斑先生』と呼べ。」
「…は、はい…織斑…先生…」
「…ねぇ織斑君って、もしかして千冬様の弟?」
「だとしたら、男性で唯一ISを操作出来るっていうのも血筋が関係しているんじゃ…」
そんな内容の内緒話でざわついてきた教室を千冬は見渡し、教卓を叩いて再び口を開いた。
「静かに!これから諸君らには、ISの基礎知識を半年で覚えてもらう!
その後実習だが、基本動作は半月で体に覚えさせろ!!分かったな?
分かったなら返事をしろ、分かっていなくても返事をしろっ!!!」
「「「「「はいっ!!!」」」」」
「(最早軍隊だな…
ま、千冬姉が元気そうで安心したけど)」
一夏は溜め息をつき、真耶の『IS』即ち《インフィニット・ストラトス》についての説明を聞く。
インフィニット・ストラトス、通称IS。
宇宙空間での運用を想定され、十年前に日本で開発された『マルチフォーム・スーツ』である。
しかし今は本来の利用方法よりも、専ら競技用の飛行パワードスーツとして利用されている。
実際このIS学園も、ISを操作したいと願う世界各国の若者達を育成する施設なのだ。
…とまあ、こんな感じの説明である。
「…それではこれから三年間、しっかり勉強しましょうね!」
「「「「「はいっ!!!」」」」」
「…はぁ…」
因みにISは本来、女性にしか操作出来ない。
一夏は世界で唯一ISを操作出来る『男性』である為、ほぼ特例で入学させられたのだ。
「(これから三年間、どうやって生きていこう…)」
「…ん?
山田君、何故後ろに二つも空席があるんだ?」
「え!?あぁ、はい…
どうやら、後二人生徒が来るそうなんですが…」
「ほう、生徒がね。
入学して早々、しかもまだろくに授業もしていないのに遅刻とは、良い度胸だな…」
「(千冬姉怖っ!
目が狼になってるよ、千冬姉!!)」
一夏からしか見えない千冬の目は、
一緒に暮らしてきた彼でさえ一度か二度しか見た事の無い程、怒っていた。
「…遅いですねぇ…
もしかしたら入学式の時間を間違えたんでしょうか?」
「いくら今年度の生徒が馬鹿だったとしても、そんな失態をやらかす馬鹿者はいないだろう。
とにかく、少し校舎内を捜索してみる。誰か一緒に行きたい者はいるか?」
「「ハーイ!」」
「私で「いや、私がーっ!!!」」
「(恐るべきカリスマだな、千冬姉。)」
「「「「「!」」」」」
一夏は千冬のカリスマ性に感心し、思わず手を叩く。
すると女子生徒達は全員その動作に反応した為、一夏は又もや好奇の視線に晒される事となった。
「何だ、織斑が行くのか?」
「いや、そんなつもりじゃ無かったんだけど…」
「まあ良い、誰が来ようと同じ事だ。お前が来い。」
「え、ちょっと千冬姉…があっ!?」
「織斑先生だ。
山田君、その生徒二人の特徴を教えてくれ。」
「えーと…それが…」
「何を戸惑っている?
私が訊きたいのはあくまで身体的特徴であって、名前等の個人情報では無いぞ…」
千冬がそこまで言いかけた時、教室の前の方の入り口が勢いよく開いた。
クラスの皆は不意を突かれ、一斉に入り口へと視線を集中させる。
「…っ!?」
すると、真っ先に視線を入り口に向けた千冬の顔が驚きで満ちた。
女子生徒達はその表情を見て何故か息を押し殺し、彼女の視線を追って再び入り口に注目する。
「(千冬姉があそこまで驚くなんてな…
どーれ、どんな人が来たのか見てやるか)」
一夏は腰を浮かせ、入り口を覗き見る。
しかし、一夏の目が捉えた『人物』は、彼の予想を大きく上回っていた。
例えるならそう、降水確率0%の日の大雨の様に。
「…男ぉっ!?」
「「「「「!?」」」」」
即ち、予想の全く反対である。
クラスは一夏の叫びの予想外の内容に驚き、次々と席から腰を浮かせて入り口を見ようとする。
教室が本日三度目のざわつきに包まれる中、遂に織斑ズを驚かせた者が教室内に歩みを進めた。
「おやおや?
小生がこの時間に到着する事を、予め知らされていなかったのでありますか?」
紺色で全体にパーマがかかり、先の方で束ねてある長髪。
その髪型の異質さを更に強調する、髷。身長、170cm以上。
胸元のはだけている白黒半袖長ズボンの服に身を包んだその『男』は、ゆっくりと教壇に近づく。
そして、その男の身体的特徴で何よりも皆を驚かせたのが…
「…ねえ、あれって刀だよね?」
その左腰に収められている、一振りの大きな『刀』であった。
「ほら、時代劇とかでよくあるやつ…」
「本物かなぁ…」
「まさか、凶器を堂々と持ち込めるわけ無いよ…」
「…けど、もしも堂々と持ち込めたら?」
「…え、どういう意味よ?」
「いや、だからさ、警備の人をこうあれでズバッっと…」
「…馬鹿!物騒な事言わないでよ!!」
今度は少し恐怖の交じった内緒話でクラスが満たされるが、その男の一瞥で皆黙ってしまった。
「…立て、一夏。」
「え、千冬姉「立て!」わ、分かった!!」
一夏は千冬に急かされて無理矢理立たされ、これまた無理矢理に例の男の前に投げ出される。
男は少しの間一夏の顔を見つめていたが、やがて少し声を潜めてこう呟いた。
「男か…
成る程、この者が世界的な大ニュースの主役だった…という訳だな。」
「うぅ…」
一夏はその男の放つ気迫に怯み、思わず後ろに立っていた千冬にぶつかる。
「あ、ごめん千冬姉…っ~…!」
「織斑先生だと何度言えば分かる。
一つ訊くぞ、お前身長は変わってないな?」
「え、あぁ…多分。」
「結構だ、座れ。」
千冬に言われ、一夏は慌てて席に着く。
「(それにしても、何で千冬姉は身長なんて…
ま、まさか俺を身長計代わりにしたんじゃ無いだろうな!?
俺は銀行の入り口に置いてある観葉植物じゃ無いんだぞーっ!)」
心で叫んでいる一夏を男はまだ見つめていたが、ふと何かを思い出した様に入り口の方を向き…
「いつまでそうやって燻っているつもりだ!
私が先に入ってやったのだ、そろそろお前も入ってこい!」
「全く、君が自己紹介を終えるまで待ってあげようというのに…」
「「「「「!?」」」」」
「(…また男っ!?)」
女子生徒達から今日何度目か分からないざわつきが起こる中、
最初の男の声に答えて入り口から二人目の『男』が教室へと歩を進めた。
その背は最初の男よりは低い物の、一夏とほぼ同身長である。
「聞こえてくる様だよ、生徒達のざわつきが。
登場するタイミングを間違えた道化を哀れむ様な声だ。」
「ざわつきが五月蝿いのならば、自らの力で黙らせれば良いだろう!」
「「「「「!?」」」」」
最初の男が放った一言はそこまで大声では無かった物の、皆を震え上がらせるには十分であった。
女子生徒達は皆大慌てで席を立ち、教室の左上、丁度先生二人の後ろに一斉に避難する。
「…え?え!?」
そして一夏は、移動するタイミングを完全に逃していた。
頭を抱えかけて踏み留まった一夏を二番目の男は見、意外そうな表情で一番目の男に話しかける。
「すると、この少年が?」
「どうやら、その様だ。
これで、わざわざ他の教室を見て回る手間が省けたな。」
「君のその賛辞は、この学園の教師達に送られるべきだと思うがね。
さて…」
二番目の男は一夏から目を離し、教室内をぐるりと見渡す。
うなじ付近で束ねられた茶髪に、緋色のスーツと青いネクタイに身を固めた男。
彼が体を動かすと、左肩から右胸元まで伸びている紫色の鎖も同時に揺れ動く。
そのまま彼は暫く教室を見渡していたが、やがて千冬の顔に視線を止めて喋り始めた。
「その顔を見るに我々の到着は予定外だったようですね、『織斑 千冬』さん。」
「生徒達の動きを見る限り、どうやら我々はあまり歓迎されていないようですなぁ。」
そう言って微笑む二人に対し、千冬はあくまでも冷静な態度でこう返した。
「お前達は何者だ、名を名乗れ。」
「おっとぉ失敬失敬、これは申し訳ない事を致しました。
他人の領地に土足で入り、ましてや名乗りも挙げないのでは武人の名折れ。
この場を借りて、謹んで名乗らせて貰いましょう。」
「(何か回りくどい言い方だな)」
一夏曰く『回りくどい』言い回しをした男は口を閉じ、背筋を伸ばして姿勢を整え…
「…な!?」
「へっ!?」
「「「「「えぇぇぇーっ!?」」」」」
そのまま屈んで床に右膝と右拳を付き、千冬や真耶、大勢の生徒達に向けて頭を垂れた。
「…小生は『ギム・ギンガナム』と申す。
どうか先程の無礼を多目に見て頂き、今後とも懇意にして頂きたく存じます…」
「「「「「…」」」」」
「…というわけでこれから宜しくお願い申し上げますよ、織斑先生殿!
フハハハハハハハハハ!」
「「「「「!?」」」」」
男改めギム・ギンガナムは突然立ち上がり、大きな笑い声をあげながら再び千冬に頭を下げる。
千冬を含めた(勿論一夏も)クラス全員がその声に圧倒されている中、二番目の男が動いた。
「いつまで馬鹿笑いを続けているつもりだ、ギム・ギンガナム。」
「そういえばお主は、まだ名乗っていなかったな。」
「『アレハンドロ・コーナー』と申します。
この無骨な男共々、三年間宜しくお願い申し上げる。」
「無骨…何と、今の言葉冗談と聞いたが?」
「私は君と違い、軽々しく冗談を言う様な人間では無いのだよ。
君も『ギンガナム家』の一員なら、もう少し礼儀作法を弁えたらどうかな?」
「ハッハッハッハ、厳しいですな。
流石は代々世界を監視し続けている『コーナー家』の人間。恐れ入りました。」
「(…ギンガナム家?コーナー家?
うーん、何処かで聞いた事あるような無いような…)」
「…ギンガナム家に、コーナー家!?」
「千冬姉、知ってるのか…ぎゃふ!?」
「織斑先生だ。同じ事を何度も言わせるな。
失礼するが貴殿方は、世界有数の軍隊を持つと言われている『ギンガナム家』の者と
現役で国連大使を務めている『コーナー家』の者か?」
「如何にも。
最もその栄光も、過去の物ですがね。」
「そんな事は無い。
現に今でも国連の最重要課題の一つとして、君達ギンガナム家は私達一族を悩ませているよ。『コーナー家』である我々をね。」
「「「「「!?」」」」」
二人がそれぞれ名家の一員である事を述べると、生徒達はまたざわつき始めた。
ギムとアレハンドロはその様子を見て、満足そうに笑っている。
「…あのー…
ギンガナム家とコーナー家って、何だっけ?」
「織斑君、知らないの!?
毎年世界規模の軍事演習を行っている事で有名なあのギンガナム家よ!」
「ISの開発で肩身が狭いだろうに、良くもまあ毎年やるよねぇ。」
「どっちの家の事も、ニュースで見た事あるでしょ?
特にコーナー家なんて、一ヶ月に一回は必ず出てくるじゃない。」
「…見た事ある様な、無い様な…」
「この学校の入学テストにも載ってたよ。」
「…え、マジで?」
「…もしかして織斑君、勉強してないの?」
「まあ、特例で入学した様な物だからな…」
「だとしても、受験勉強の時に頭に入れるでしょう?」
「…うーむ…」
一夏が過去の記憶を探っている間に千冬は一歩進み出てギムの前に立ち、
深々と頭を下げてこう言った。
「その様な方々に、頭を下げさせてしまって誠に申し訳ない。
私はIS学園の教師で一年一組の担任をしている織斑 千冬。
貴殿方がこの学園に馴染める様、教師一同誠意を持って努力する。
全員、挨拶!」
「「「「「…宜しくお願いします!!!」」」」」
生徒達が慌てて頭を下げたのを見て二人は少しその表情を緩め、同じく頭を下げた。
「此方こそ、世界の最先端を行くこの学園への配属を許して頂けて感謝しています。」
「小生には武門のモラルを守る事しか頭にありませんので、
少しばかりの無礼は寛大に見て頂きたく願います。」
「(しかし二人共、一々言動が丁寧だな…
まあ何処か慇懃無礼っぽいし、正確な敬語かどうかは怪しいけど…)」
「着席!」
千冬の号令で、皆は各々の席に戻る。
それを確認すると千冬は一歩下がり、真耶が再び教壇の前に立って口を開いた。
「…さて、思わぬゲストさんが来た所で、IS以外の通常授業についてですが…
って、あれ?」
「(?)」
真耶は何かを言いかけ、そのまま固まってしまった。
一夏はその視線が教室の後ろに向いている様に感じ、体を回して彼女の視線を追う。
「…え?」
その瞬間、一夏もクラスにいる全員と同じ様に固まってしまった。
何故ならば先程までそこに有り、皆の目を引いていた二つの『空席』が…
「…どうかされましたかな、先生殿?」
「もしや、我々の席はここではありませんでしたか?」
「そんな訳は無いだろう。
現に、ここの席しか空いていなかったのだからな。」
ギム・ギンガナムとアレハンドロ・コーナーによって埋められていたからだ。
皆が今現在の状況を理解しようとその場で固まっている中、
ギムは体を回して後ろに座っているアレハンドロと会話を交わしていた。
「…やはり、断りも無く席に座ったのはまずかったのでは無いか?」
「何を今更。先に座ったのは君の方だろう?
…ああ、我々二人の事はお気になさらず続けて下さい。」
「(気になるに決まってるだろうが!
何でお前達二人がそこの席に座って…ん?
いや待てよ、あの二人の顔を見る限り、冗談を言っている様には見えない…と言う事は…
…ま、まさか!?)」
一夏は自身の仮説の裏付けを求め、クラス全体を見回す。
彼と視線を合わせた殆どの生徒が、彼と同じ結論を導き出した様だった。
「(間違いない…あの二人は…!)」
一夏が自身の仮説を正しい物として口を開こうとしたその時、
今まで固まっていた真耶がおずおずと口を開け、慎重に言葉を紡ぎ始めた。
「あ、あの~…
もしかして、貴殿方二人は…」
「「?」」
「…生徒…さん?」
「「え?」」
「…で、ですから…」
「…単刀直入に聞こう。
お二方は生徒か否か。」
「生徒というのが今年この学園に入学した者の事を示すならば、
如何にも我らは『生徒』でありますが?」
一夏を含めたクラス内の者達の仮説は、ものの見事に的中した。
「…マ…マジで生徒だったのか…」
他のクラスの生徒が思わず顔を廊下に出す程の大声が学園内に響き渡ってから数十秒後。
一夏はそう呟き、彼と同じ様に衝撃を受けている女子生徒達を見回した。
当の騒ぎの原因である『男子生徒』二人は、先程から大爆笑を続けている。
「ハハハハハハハハハ!
まさか、我々二人が新人教師だと思われていたとは!!」
「しかし、これで全てに合点がいきましたよ。
織斑教授の私達に向けた挨拶が、いやに丁寧だった事に関してもね。」
「(あんた達二人の姿を見て生徒だと思う人はまずいないと思うけどな…)」
「…」
「(千冬姉…)」
一夏は前をちらと見上げ、未だに無言のままの姉を心配する。
しかし、そんな心配は無用であった。
「ギム・ギンガナム、アレハンドロ・コーナー。」
「「?」」
「制服は何処だ?」
「ああ、まだ荷物の中に…」
「IS学園では、制服を着ていない者に授業を受ける資格は無い。
この時間が終わり次第、直ぐに着替えてこい。」
「はっ!」
「分かりました。」
「宜しい。
では、今後の学園生活についての詳しい説明だが…
山田君、頼むぞ。」
「え?あぁ、はい…えっと、まずは今後一ヶ月の予定から…」
真耶に教壇を譲り、千冬はその横で腕を組む。
そんな姉を見て、一夏は素直に立派だと感じた。
「…ほう、実に凛々しいな…」
「…流石は、かつてのIS世界大会優勝者…」
「(…それがお年頃の男子がする会話かよ)」
例の二人も、一夏と同じ様に感じている様だ。
一夏はその声に呆れつつも、同時にわくわくしている自分にも気づく。
自分以外の『男子生徒』―
三年間を女子だけと過ごさなければならないと思っていた彼にとって、
ギム・ギンガナムとアレハンドロ・コーナーの二人の登場は大きかった。
「…以上だ、理解出来たら返事をしろ!」
「「「「「はいっ!!!」」」」」
「…織斑、聞いていなかったのか?」
「すみません、織斑先生。
全く聞いていませんでした!」
一夏は素直に、千冬の言葉が全く耳に入っていなかった事を暴露する。
今度こそ、クラス全員が椅子からずり落ちた。
千冬に無言で拳を頭に振り下ろされた一夏を見て、ギムはそっと呟く。
「…成る程、あれが『織斑 一夏』という人間か!」
「興味が沸いた様だね、ギム・ギンガナム。」
「お主も、だろう?」
二人はそう言って顔を見合せ、大声で笑い出す。
千冬の拳が、彼等にも飛んだ。
三人もの男子生徒に沸き立つ学園。
そんな中、一夏は六年振りに再会した幼馴染みに連れられ、屋上へと上がる。
再会の喜びを互いに分かち合えたのも束の間、授業開始を告げるチャイムが鳴り響く―
次回
『箒』
風は、再び巡り会う―