インフィニット・ストラトス~輪廻の『X』と黄金の『A』   作:∀X

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第2話 『箒』

「…あれが噂の子かぁ…」

 

「やっぱり皆、気になるんだ。」

 

「世界中で大ニュースになってたもんねー。

最初に聞いた時なんて、私危うくひっくり返りかけたよ…」

 

「そんな噂の子と同じ学年だなんて、これってもしかして運命?」

 

「ほら、誰か話しかけなさいよー…」

 

 

HRが終了し、新年度初の休み時間を過ごしているIS学園の生徒達。

会話に花を咲かせている皆の話題は勿論、『男性IS操縦者』である『織斑 一夏』についてだ。

1年1組の教室の後ろのドアから注がれている他組の女子生徒達の視線は、全て彼へと向いている。

 

 

「…あぁ、もう…

このままここで視線に耐え続けるのも苦痛だけど、下手に動いて更に注目を集めるのも嫌だしな…

…良し、寝た振りしよう、寝た振り。」

 

 

女子生徒達の視線に蜂の巣状態の一夏は机に突っ伏し、視界だけでも楽にしようと目を瞑る。

しかし女子生徒達はそれで静かになるどころか、ますますそのざわつきを大きな物にしていった。

 

 

「…あれ、机に突っ伏しちゃったよ?」

 

「どうしたのかな、具合悪いのかなぁ…」

 

「励ましにいってあげたら~?

こういうのは第一印象が肝心だしね!」

 

「…何の話よ…

けど、疲れるのも仕方がないでしょうね。

『世界唯一の男性IS操縦者』として、殆ど無理矢理この学園に入れられたんでしょ?」

 

「ちょっと待ちなさーい!

今の発言には、訂正すべき箇所があるよ!」

 

「「「「「え?」」」」」

 

 

唐突に話に入ってきた1組の女子生徒の発言に、ドア付近の生徒達は一斉に首を傾げる。

その表情を見て女子生徒はにっと微笑み、得意気に言葉を続けようとしたが…

 

 

「つまり、世界で『唯一』じゃなくて…」

 

「…『三人しかいない』男性IS操縦者の内の一人なんだよ、織斑 一夏は!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

後に続くべき言葉は、女子生徒達の後ろから聞こえてきた声に呑み込まれた。

咄嗟に生徒達が振り向いた先にいたのは、IS学園の制服に身を包んだ二人の『男子生徒』。

着替える為に席を外していた『ギム・ギンガナム』と『アレハンドロ・コーナー』だった。

二人は生徒達が硬直したのを見て自分達のせいだと思ったのか、軽く頭を下げる。

 

 

「これはすまない、驚かせてしまったかな?」

 

「君の声を唐突に聞かされて、驚かない者はまずいないと思うがね。

驚かせてしまってすまないが、入り口を開けてくれないかな?」

 

「お…男だ…」

 

「…ん、何か言ったか…」

 

「「「「「男だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」」」

 

「「!?」」

 

 

今度は女子生徒達の叫びに、二人が驚く番だった。

あっという間に女子生徒達は二人を二重にも三重にも取り囲み、質問を次々と浴びせていく。

 

 

「その制服、まさかあなた達もIS学園の生徒なの!?」

 

「その通りだ。」

 

「IS操縦出来るの!?」

 

「勿論、出来ますよ。」

 

「二人とも!?」

 

「無論だ。」

 

「ねえねえ、あなた達の名前は!?」

 

「私はアレハンドロ・コーナー。

そしてこの男が…」

 

「ギム・ギンガナムと申す。」

 

「凄い髪型だねー…」

 

「自慢の髪型だぞ?」

 

「毎朝自分でセットしてるの?」

 

「武人たる者、己の体を労る事も大切だからな。」

 

「分かる、分かるよー。

私も毎日髪の毛セットするのが大変でさぁ…」

 

「現代社会で男性の上に立っていると言われている女性も、苦労しているのだな。」

 

「ねーねーギンガナム君、その刀って本物!?」

 

「まさか。只の模造刀だよ。

強度は本物なみだがなぁ!!」

 

「へぇー…

こう見えても私、刀を見ると黙ってられない性分なのよ…」

 

「ほう、そなたは刀好きか!

良いだろう、とくと見るが良い!!」

 

「コーナー!?

それってもしかして、国連大使をやってるっていうあの!?」

 

「貴方の言う通り、私はコーナー家の一員だよ。」

 

「凄ーい!

私、教科書に載ってる人の子孫と会話してるーっ!!」

 

「私の一族を知っているとは。

流石はIS学園の生徒さんだ。」

 

「やだなぁ、そんなに畏まらなくても良いんだよー!

けど、されて悪い気はしないなー♪」

 

「…あのねぇ…けど、その気持ちは分かるなー。

ねえねえ、国連大使って普段どんな仕事してるの?」

 

「私はまだ任命されていないので何とも言い兼ねるが、

専ら世界の治安維持と言う名の世界監視を行っているとでも言っておこうか。」

 

「…何かブラックな匂いがする言い方だね…」

 

「ぺらぺら喋っちゃっていいの?」

 

「ハハハ、国連大使の仕事に疚しい物なんてありませんよ…

…フフフ…」

 

「あー、何その不吉な笑い!?」

 

「…きっと今夜辺りに証拠隠滅で…ぶるぶる…」

 

「ばっ、馬鹿!変な事言わないでよ!!

そんなの来ないわよね、アレハンドロ君?」

 

「…さぁ?

戸締まりはしっかりしておいた方が良いかもしれないね。」

 

「…良し、IS機動させておこう…

いや、IS装備したまま寝よう!!」

 

「ちょっ!?」

 

「(良いなぁ、あの二人は直ぐに皆と打ち解けられて…)」

 

 

一夏は目を開けると同時に体を起こして首を後ろに回し、

ギムとアレハンドロが女子生徒達相手に受け答えしているのを羨みが混じった目付きで見つめる。

 

 

「(…俺も参加したいなぁ…)」

 

「…おい…」

 

「(けど、今行っても会話に入れないかもしれないな…)」

 

「…おい。」

 

「(良し、ここは勇気を出して「おい。」!?」

 

 

誰かに呼ばれているのに気づいた一夏は二人から目を反らし、姿勢を正して前を向く。

そこには先程彼の救援信号を二回とも無視した女子生徒、『篠ノ之(しののの) (ほうき)』が立っていた。

一夏は彼女の登場に少し驚きつつも、直ぐに用件を問う。

 

 

「何だ?」

 

「…ちょっと、良いか?」

 

「え?」

 

 

箒は一言だけ言い、首を傾げている一夏を尻目に教室の外へと出ていく。

一夏が呆然としていると、彼女は出入口から腕を覗かせて手招きした。

 

 

「…あぁ、付いて来いって事か。」

 

 

箒の意図を理解した一夏は席から立ち上がり、教室から出る。

そして一瞬だけまだ女子達に囲まれている二人を見た後、二人に背を向けて箒の後に続く。

しかし彼が去ってから数秒後、女子生徒達の話題は再び一夏へと戻っていた。

 

 

「…ねえねえ、二人って織斑君とは知り合いなの?」

 

「いや、赤の他人だ。

お前はどうなのだ?」

 

「ここにいる皆と同じく、例のニュースで紹介されていた事以上の事は知らないよ。

いくらコーナー家と言えども、特定の人物の事だけを詳しく知る等と言う事は…」

 

「では何故ゆえ、小生がギンガナム家の者だと知っていたのだ?」

 

「軍事に関連した情報を管理するのは、コーナー家の義務だからね。

世界最大級の軍備を誇るギンガナム家となれば、尚更だ。」

 

「成る程、初対面で名前まで当てる事が出来た事にはそういう理由があったのだな!」

 

「…そんなアレハンドロ君でも詳しくは知らない、織斑 一夏君かぁ…

正にIS学園のダークホース!」

 

「良し、では親睦を深める意味合いも込めて呼ぶとしようではないか!

おい兄弟、此方に来て話に加わらないかぁ!?」

 

「「「「「兄弟!?」」」」」

 

 

ギムの唐突な『兄弟』発言に女子生徒達は驚き、殆どがその場で固まる。

アレハンドロはその様子を見て溜め息を付いた後、皆に助け船を出す。

 

 

「あくまで『比喩表現』だろ、ギム・ギンガナム?」

 

「その通りだが、そこまで固っ苦しい意味では無いぞ。

織斑 一夏、いるんだろ?早く此方に来い!!」

 

「何だ、びっくりしたー…」

 

「愛称みたいな者なんだね、『兄弟』っていうのは。」

 

「だとしても、随分レベルの高い愛称ね…」

 

「けど、ギム君のイメージにはぴったりだと思うよ。

実際ちょっと呼ばれてみたいもん…」

 

「おおい、聞こえていないのか兄弟!!」

 

「織斑君なら、さっき誰かと出ていったよ。」

 

「何っ!?その『誰か』というのは何者だ!?」

 

「確か…篠ノ之さん…って人だったかな?

教室出て左に歩いて行ったよ「一夏を追うぞ、アレハンドロォ!」あ…」

 

 

女子生徒の言葉が終わらない内にギムは行動し、彼女の言った方へ駆け出していく。

 

 

「お礼くらい言いたまえよ。

君。ギム・ギンガナムに代わって、感謝するよ。」

 

「良いの良いの、同じクラス同士でしょ?」

 

「…小生も感謝しているぞぉーっ!!!…

…そこの者、男子生徒を連れた者を見なかったか?…」

 

「廊下で叫ぶとは、他の教室に迷惑がかかるだろう…

全く、つくづく無骨な男だ…」

 

 

アレハンドロは少し呆れた後、ギムの後を追って廊下を歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたんだ、こんな所に呼び出して?」

 

「…ちょっと、な。」

 

 

IS学園、屋上。

眺め良し広さ良しムード良しの三拍子揃ったこの場所に、一夏は立っていた。

彼をこの場所に連れてきた箒は、屋上の手すりに前のめりに寄りかかって景色を眺めている。

 

 

「(けど、ちょっと安心したな。

箒のやつ、俺を忘れたわけじゃ無かったみたいだ)」

 

「…久し振りだな、一夏…

六年ぶり…だったか?」

 

「ああそうだ、覚えていてくれて良かったよ、箒。

俺はてっきり忘れられてたかと…」

 

「な…そ、そんなわけ無いだろう!?」

 

「え?」

 

 

思わず大声を出した箒に一夏が首を傾げると、

箒は何かを誤魔化す様な咳払いを一つし、頬を少し染めながら最もらしい返答を返した。

 

 

「…同じ時期に剣道を学んでいた同士を、忘れるわけないじゃないか!」

 

「あ、そうか。そうだよな。

ごめんな、疑っちまって。」

 

「謝る程の事では無い…

それよりお前はどうなんだ、私を覚えて…?」

 

「ああ、直ぐに箒だって分かったぜ!

髪型だって昔と同じだったし。」

 

「…よ、良くも覚えていたものだ…」

 

「幼なじみなんだから当然だろ?」

 

「…そうか…」

 

 

一夏の言葉に一々顔を赤らめつつ、箒は会話を続ける。

その二人の様子を、屋上の出入口から覗き見ている者達がいた。

 

 

「…あの子誰?織斑君の知り合い?」

 

「あの二人、何を話しているんだろうなぁ?」

 

「君に読心術の心得は無いのかい?」

 

「そんな手品師紛いの事を学ぶ軍人などいない!」

 

「…交渉とかで結構役立つと思うがね。」

 

 

女子生徒達の目撃情報を元に、屋上まで来たギムとアレハンドロ。

二人に付いてきた生徒達と元々いた生徒三名を合わせ、屋上出入口付近の密度は高くなっている。

後から来た者達はどうでも良い事を駄弁りつつ、一夏と箒の一挙一足動を観察しているが…

 

 

「…お、男が三人もいる…」

 

「今までのIS学園じゃ、絶対に有り得ない光景だっただろうね。」

 

「けど、目の保養になる…

こんな感じの引きの角度で、三人共視界に入る様にして見ると尚良いよー。」

 

「正に、理系・文系・体育会系って感じね!」

 

 

元からいた三人は、新たな男子生徒二人の登場に舞い上がっていた。

そんな者達が自分達を見ている事など露知らず、一夏は箒に話しかける。

 

 

「そう言えばお前、去年の剣道部全国大会で優勝したんだってな。おめでとう!」

 

「な…何でそんな事知ってるんだ!?」

 

「へ?だって、新聞に載ってたし。」

 

「…何で新聞なんか読んでるんだ…」

 

「あぁ、後…」

 

「…あ…」

 

 

一夏は笑顔で箒の方を向き、その笑顔で箒が硬直している事には気づかずにこう続けた。

 

 

「改めて宜しくな、箒!」

 

「…お、おう…宜…しく…」

 

 

箒が動かない舌で何とかそう言った時、休み時間の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。

 

 

「ぬう、時間切れか…」

 

「あーあ、鳴っちゃったー…」

 

「では、教室に戻るとしよう。

授業開始に遅れ、教師に頭を叩かれるのは私の趣味では無いからね。」

 

「…そんな趣味持ってる人いないと思うよ…」

 

 

二人を観察していた生徒達もその音を聞き、皆各自の教室へと戻っていく。

 

 

「ほら、俺達も戻ろうぜ。」

 

「わ、分かっている…」

 

 

フェンスに手を置いたまま景色を眺めている箒を残し、一夏は屋上出入口へと向かう。

箒はその長い髪を暫く手で弄くった後、慌てて一夏の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ではここまでで、質問のある人~?」

 

 

短い休み時間も終わり、1年1組では授業が行われている。

今は真耶によって、ISにおける基礎の基礎の内容が説明されているが…

 

 

「(…このアクティブ何ちゃらとか、交易こうたらって何なんだぁ!?

まさかこれを全部覚えろっていうのか…)」

 

 

一夏はその殆どの内容を理解出来ていなかった。

これではいけないと何か書こうにも、書いてある事の意味が分からず何も出来ない状態である。

 

 

「(…国語や数学ならまだしも、ISの知識なんて露ほども無いからな…

あぁ、箒に基礎ぐらい聞いておけば良かった…)」

 

「織斑君、何かありますか?」

 

「え"っ!?

あ、えーと…」

 

「分からない事があるなら、遠慮せずに聞いてくださいね。

何せ私は、先生ですからね!」

 

「…はい、先生…」

 

 

真耶に優しく促され、一夏はおずおずと手を挙げる。

 

 

「はい、織斑君!」

 

「…殆ど全部分かりませぇん…」

 

「えぇ!?

あの、他に今の段階で分からない場所がある人は…」

 

「「「「「…」」」」」

 

 

一夏は真耶と一緒に教室内を見渡すが、誰も手を挙げようとしている者はいない。

後ろに座っているギムとアレハンドロの二人は、何か面白い物を見る様な目で一夏を見ている。

顔を青くしている一夏を見つつ、千冬は少し前に進み出て一夏にこう尋ねた。

 

 

「織斑、入学前の参考書は読んだか?」

 

「あぁ、あの分厚いやつですか?」

 

「そうだ、必読と書いてあっただろう?」

 

「…いや、間違えて捨てました…でえっ!!」

 

 

千冬は目にも止まらぬ速さで出席簿を振るい、一夏をひっぱたいた後に口を開く。

 

 

「再発行してやるから、一週間で頭に叩き込め!」

 

「い、一週間!?そんなの無理…」

 

「『やれ』と言っている…」

 

「う……はいっ…」

 

 

振り向き様に彼を見下ろしながらそう言い放った千冬に反論出来る筈も無く、

一夏は大人しく彼女に従い、頷いた。

 

 

「では授業を再開します。テキストを開いて下さい…」

 

「ギンガナム、足を机に乗せるな!」

 

「あぁ、これはすみません…」

 

「(…はぁ~っ…)」

 

 

千冬の注意がギムに向いたタイミングで、一夏は心の中で大きな溜め息を付く。

『案外楽に三年間過ごせるかも』という甘ったれた考えを、彼は改めざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先程の授業では注目の的でしたね、織斑 一夏。」

 

「…い、いやぁ…ごめん。」

 

「全く!マニュアルすら読んでいませんというのは『アホ』の言う事だ!!」

 

「…。」

 

 

一夏の無知っぷりがクラス中に知れ渡った授業の終了後。

彼は自分の席で、ギムとアレハンドロにストレートな罵倒と皮肉を喰らわされていた。

ギムは一頻り一夏をからかった後、今度は彼の肩を叩きつつ例の参考書を出してこう続ける。

 

 

「再発行されるまでの間小生のを貸してやろうか、兄弟?」

 

「え、良いのか?

…後兄弟って何だ?」

 

「『比喩表現』…だったよな、アレハンドロ?」

 

「如何にも。」

 

「…ちょっと、宜しくて?」

 

「「「?」」」

 

 

男子生徒三人が声のした方を一斉に向くと、そこには一人の女子生徒が立っていた。

腰まで優に届く金髪。先端がカールしている前髪に、青いカチューシャ。

他の女子生徒よりも遥かに長いロングスカートを履いているその女子生徒は三人の呆然顔を見、

驚きの表情を浮かべて口を開いた。

 

 

「まあ、何ですのその態度?

私の様な者に話しかけられるだけでも光栄なのですから、

それ相応の礼儀があるのでは無くて?」

 

「…何だ、この女は…」

 

「…何か言いましたかしら?」

 

「『何だこの女は』と言ったんですよ、お嬢さん。」

 

「…まあ、無礼ですわね…

世界最強の軍隊だか何だか知りませんが、礼儀がこれではお察しという物ですわ。」

 

「何か言ったか、小娘ぇ!?」

 

「泣いて頼むのなら、もう一度言ってさしあげますわよ?」

 

「「…!!!」」

 

 

ギムとセシリアは睨み合い、会話開始から十秒にも関わらず掴み合いの大喧嘩を始めそうになる。

一夏はその二人を何とか宥めつつ、自身の意見を述べる。

 

 

「まぁまぁ、二人共落ち着けって…

けどギンガナムが怒るのもごもっともだと思うぞ、まず君は誰なんだ?」

 

「知らない!?貴女は私を知らないと言いますの!?

入試首席でイギリスの代表候補生であるこの「『セシリア・オルコット』さんですね?」な…!」

 

 

ここで今まで黙っていたアレハンドロが突然口を開き、セシリアの台詞を途中から奪い取った。

セシリアがその事について何かしら意見する前に、すかさずギムは口を挟んで説明を続けさせる。

 

 

「知っているのか、アレハンドロ?」

 

「えぇ。イギリスの名門貴族『オルコット家』。

古きに渡って名だたる偉人達を産み出してきたその一族の中でも、

特に彼女は頭一つ抜きん出た才能と容姿を持っている、と言われています。」

 

「…そ、その通りですわ!

やはり男性たるもの、これくらいの礼儀は弁えていて下さらないといけませんわね!」

 

「礼儀のなっていない貴女が、礼儀についてとやかく言えるのですかぁ?」

 

「…何か、言いまして?」

 

「いいえ、何も。」

 

「なあ、ちょっと聞いて良いか?」

 

「「ん?」」

 

「ふっ、下々の者の要求に応えるのも貴族としての務め。宜しくってよ!」

 

 

得意気に胸を張ったセシリアに対し、一夏はこう質問した。

 

 

「…『代表候補生』って、何だ?」

 

「…えぇ…?」

 

「な!?」

 

「…。」

 

 

あまりにも初歩的過ぎる質問に、三人以外に話を聞いていた女子生徒達も思わずずっこける。

セシリアは特にショックが大きかったのか、暫くの間手を痙攣させていた。

 

 

「…あれ?」

 

「…無知にも程があろう、兄弟!」

 

「知っているのかい、ギム・ギンガナム?」

 

「IS学園に入学した者にとっては常識だろう?

まあ小生も、こんな小娘が『代表候補生』だとは思っていなかったがな。」

 

「…この、言わせておけば…」

 

「小生に噛みつくよりも、代表候補生について一夏に説明してやってくれませんかね、

セシリア・オルコットさん?」

 

 

ギムの無礼全開の敬語にセシリアは苛立ちを覚えつつも、その気持ちを抑えて一夏に向き直る。

 

 

「…良い事?

代表候補生というのは、国家が使命するIS操縦の代表及びその候補生のエリートの事ですわ!

単語から想像すれば分かるでしょう?」

 

「…エリート?」

 

「そう、エリートです!

本来ならこの私とクラスを共に出来るだけでも、最大級に幸運な事なのですよ!!

そこのところをもう少し理解して、良ーく噛み締めて下さる?」

 

「そうか、それはラッキーだ。」

 

「…馬鹿にしてますわね…

大体貴方、そこの無礼な殿方が言う様に少し物を知らなすぎるのではありません事?

はっきり言って、期待外れですわ!」

 

「…俺に何かを期待されても困るんだが…」

 

「まあでも私は優秀な人間ですから、貴方にも優しくしてあげますわよ。

何せ私、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから…」

 

「教官なら、俺も倒したけど?」

 

「な!?」

 

 

驚きの表情で振り返ったセシリアを見て、一夏は詳しい事を話す。

 

 

「倒したっていうより、

突っ込んできたのをかわしたら壁に激突して動かなくなったんだけどな。」

 

「わ…私だけと聞きましたが…」

 

「『女子では』ってオチじゃ無いのか?」

 

「教官なら、小生も倒したぞ。

教官を倒さなければこの学園には入れない、そう聞いていたのでな。」

 

「…入学手続き書をちゃんと読みたまえよ、ギム・ギンガナム。

『面接試験は教官とのISによる模擬戦闘で行われ、合否は教官が判断する』。

そう書いてあっただろう?ま、私も倒したがね。」

 

「あ…あ…」

 

「「「?」」」

 

「貴方達は三人共、教官を倒しましたの!?」

 

「…お、落ち着けよ、な?」

 

「こっ、これが落ち着いていられ…」

 

 

セシリアが三人に詰め寄ろうとしたその時、授業開始を告げるチャイムが鳴る。

 

 

「…本件の続きは、また改めて!

宜しいですわね!?」

 

 

彼女はそう言い残して机から離れ、自身の席へと向かった。

 

 

「…オルコット家…確かに優秀な人間は多いですよ。

『優秀』で『見栄っ張り』な人間が。」

 

「礼儀を弁えろなどと、一体どの口が言っているんだか…」

 

「君が言えた事では無いと思うがね。

…ん、どうしたんですか?」

 

「…ギンガナム、今日だけで良いから参考書貸してくれないか?」

 

「ハハハハハハ!どうぞ兄弟、ご遠慮なく!」

 

 

ギムは笑いながらISの参考書を自身の机から取り出し、一夏に向かって放る。

 

 

「出来ればあまり汚してくれるなよ、兄弟!」

 

「おう、サンキュー。

さてと…」

 

「一体何を勉強するつもりなんだい?」

 

「…全部…かな。」

 

「おや、それは大変そうだ。」

 

「皆ー、座って下さーい!」

 

「では、私はこれで。」

 

 

アレハンドロはそう言い、自身の席へと移動する。

その後、彼は前に座っているギムと何やら話していたが、やがて呆れた声で喋り始めた。

 

 

「…あの参考書以外の教科書を忘れた…?」

 

「今日はそれだけあれば十分だと思ったのでな!ハハハハハハ!!」

 

「ギンガナム君、良ければ私のを見せてあげようか?」

 

「おっ、すまんな!感謝するぞ!」

 

「(…悪い事したかな…)」

 

 

一夏の心に少しだけ罪悪感が芽生えた事など知らず、

ギムは隣の生徒と和気あいあいしながら授業を受けている。

 

 

「…いってぇ!?」

 

「授業中は前を向け、織斑。」

 

 

千冬の出席簿が、またしても一夏の頭に飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、どうしたのだ、兄弟?」

 

「…ごめん、命の危機に晒されてたんだ。」

 

「その『命の危機』というのは、先程隣から聞こえてきた喧騒と関係あるのかい?」

 

「…大有りだ。」

 

 

全ての授業が終わり、皆が寮にある各自に割り当てられた部屋に戻った頃。

同室となったギムとアレハンドロは、本来なら右隣の部屋にいる筈の一夏を部屋に入れていた。

入れたというよりは、隣の喧騒が気になって戸を開けたら一夏が転がり込んできたのであるが。

 

 

「どうした、まさか入学一日目で同室の者と不仲にでもなったのか?」

 

「…そうなりそうだ…」

 

「…何があったんです?」

 

「はぁ…あのな…」

 

 

一夏は一つ大きな溜め息をついた後、ぽつりぽつりと話始める。

 

 

『こんな格好ですまないが、これから一年宜しく頼む…』

 

 

自身の同室者である箒が、バスタオル一枚でシャワーから出てきた事。

 

 

『…うえぇ!?』

 

『あ"…』

 

 

当然ながら、正面から鉢合わせた事。

 

 

『み、見るな!喋るな!!忘れろぉぉぉぉぉぉっ!!!』

 

『分かった分かったからそんなもの振り回すな…あぶねっ!?』

 

 

慌てて後ろを向いたが有無を言わさず木刀を振り降ろされ、命からがら部屋から出た事。

 

 

『どうしたどうした、一体何があったのだ…

ってどうしたのだ兄弟!?』

 

『…助けて…』

 

 

女子生徒達に囲まれていた時にここの扉が開いてギムの顔が見えたので、そこにすがった事…

 

 

「…で、今に至るってわけだ。」

 

「…擁護は出来そうに無いね。」

 

「小生もだ。」

 

「やっぱりかぁ…」

 

「ま、これ以上不仲にならない為にも、私は早めに謝る事をお勧めするよ。」

 

「自身の非を認めて謝罪する事は、

人が生きていく上で重要な事の一つだからな。」

 

「…そうか、そうだよな!

良し、今から箒に謝ってくる!!」

 

「それが最善だろうね。」

 

「迷惑かけてすまなかったな、二人共。」

 

「気にするな!

部屋は隣同士なのだ、また何時でも来るが良い!」

 

「あぁ、そうさせて貰うよ。」

 

 

ギムの元気な声に一夏は笑いながら答え、一夏がドアを開けて部屋を出ていくまで見守る。

やがてドアが完全に閉まると、ギムは座っていた椅子から立ち上がって移動し、

二つ並んでいるベッドの奥の方にその四肢を投げ出して寝っ転がる。

 

 

「小生がここでも構わないよな、アレハンドロ?」

 

「好きにすれば良いさ。

しかし、十五歳の男女二人が同じ部屋で寝るとは…」

 

「それだけ部屋が空いていなかった、という事だろう。

しかし何しろまだ新学期の一日目だ、そこまで気にする事は無い…」

 

 

ギムがそこまで言うと同時に、又もや隣の部屋から何かを叩く音と怒鳴り声が聞こえて来る。

今度の怒鳴り声は先程よりも大きく、二人にも何を言っているのかは理解出来た。

 

 

「『…変態変態変態変態…』」

 

「…まああの二人の事だ、殺しあったりはしないだろう。」

 

「…そう信じたいものですなぁ。」

 

 

ギムがそう言った瞬間、部屋が丸ごと崩れそうな勢いで壁が揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日。

ギムが見た目に反して余り朝食を多く食さない事が判明して皆を驚かせたり、

一年の寮長である千冬が『遅刻したらグラウンドを十周させる』と言ったのを聞き、

『毎日二十周している』とギムが発言したのをアレハンドロがたしなめたりした後の授業。

 

 

「これより、再来週に行われるクラス対抗戦の代表者を決める!

クラス代表者は対抗戦の他にも生徒会や委員会へ出席するなど、

まあクラス長と考えてもらって良い。

自薦他薦は問わない、誰かいないか?」

 

「はい、織斑君を推薦します!」

 

「えっ、俺!?」

 

「はいはーい!

私はギンガナム君を推薦しまーすっ!!」

 

「ほう、小生を推薦してくれるのか!」

 

「アレハンドロ君を推薦します!」

 

「皆がそれを望むなら、私は進んでその役割を担いましょう。」

 

 

男子三人を生徒達がそれぞれ推薦し、教室は盛り上がる。

千冬は冷静に何人が誰を推薦しているのか数え、結論を出した。

 

 

「どうやら、織斑を推薦する者が一番多い様だな。

ギンガナムとコーナー、異論は無いな?」

 

「えぇ、ありませんよ。」

 

「一夏がクラス代表になると言うなら、小生は喜んで引き下がりましょう。」

 

「そうか。

他に異論のある者はいないか?無ければこのまま決定するぞ。」

 

「ま、待ってくれ!

俺にクラス代表なんて無理「納得がいきませんわ!!!」!?」

 

 

突如クラスの後ろから聞こえてきた大声。

一夏が咄嗟に振り向くと、そこにはご立腹した様子で立ち上がっているセシリアの姿があった。

 

 

「その様な選出、私には到底認められません!

男がクラス代表だなんて、良い恥さらしですわ!!

このセシリア・オルコットに、その様な屈辱を味わいながら一年間過ごせとおっしゃいますの!?

大体文化としても後進的な国に暮らさなければいけない事自体、私にとっては耐え難い苦痛で…」

 

「…おい小娘、ここは『IS学園』だぞ?

如何なる国家・組織にも所属していないこの学園に遥々イギリスから通っておいて、

『文化として後進的な国に暮らしたくない』とは…傑作だな、セシリア・オルコット!!!」

 

「な…!」

 

 

ギムが呆れ混じりの発言と共に一夏の横に移動したのと同時に、

一夏も口を開いてセシリアに異を唱える。

 

 

「ギンガナムの言う通り、今の台詞は俺も聞き捨てならないな。

イギリスだって大したお国自慢無いだろ?世界一料理が不味い国で、何年覇者だよ?」

 

「美味しい料理は沢山ありますわ!

貴殿方、私の祖国を侮辱いたしますの!?」

 

「…」

 

「そなたの『祖国』を侮辱しているのではない。

『そなた自身』の言葉に呆れているのだ!!」

 

「く…っ!」

 

 

一夏とギムの二人、そしてセシリアは互いに敵意をみなぎらせて睨み合う。

暫しその状態が続いた後、セシリアは右人差し指を二人に向けて言い放った。

 

 

「『決闘』ですわ!」

 

「良いぜ、四の五の言うよりもそっちの方が分かりやすいしな。」

 

「わざと負けたら私の小間使い、いえ、奴隷にしますわよ!」

 

「ハンデはどれくらい付ける?」

 

「あらまあ、早速お願い?」

 

「いや、此方がどれくらい付けるかって…」

 

 

一夏の言葉を聞いた瞬間、女子達は大爆笑し始めた。

何故皆が笑っているのか理解出来ていない一夏を見かね、皆は笑いながら説明する。

 

 

「織斑君、それ本気で言ってるの?」

 

「男が女よりも強かった時代なんて、ISが出来る前の事だよ~!」

 

「…あ、そうだった…」

 

「むしろ、私がハンデを付けなくて良いのかと思ってしまいますわ。

日本の男性はジョークセンスが高いのですわね。」

 

「…う…」

 

「織斑君、やっぱりハンデ付けてもらったほうが良いよ…」

 

「もし男と女が戦争したら、三日持たないって言われてるし~!」

 

「…でぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「さっきから聞いていれば、好き勝手な事ばかり言いおって!!

小生率いるギンガナム軍なら、ISの攻略など一日でやって見せるっ!!!

行くぞ兄弟、この女に我ら『男』の力を見せてやるのだ!!!」

 

「…ふん、流石は軍人さん、名乗りだけは立派ですわね。」

 

「何だと「もう良い、ギンガナム。

セシリアとは、俺一人で戦わせてくれ。」しかし!」

 

「大丈夫だ、絶対負けない。」

 

「…分かった、だが協力はさせてもらうぞ。

おおい、アレハンドロ、お前もだ!」

 

「…フィッシュアンドチップスは美味しい店だと美味し…

あぁ、分かっているよ。」

 

「…話は纏まった様だな。

織斑とオルコットの戦いは一週間後、第三アリーナで行う。

各自はそれぞれ、『準備』をしておく様に。」

 

「「…」」

 

「…」

 

 

ここに、第一次男女大戦が勃発した。




負けられない戦い。
織斑 一夏にとって、それは一週間後のセシリアとの戦いだった。
頼れる仲間の力を借り、彼は自らを鍛える―


次回
  『特訓』

風は、吹き抜ける―
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