インフィニット・ストラトス~輪廻の『X』と黄金の『A』 作:∀X
「…」
「…」
「「「「「…」」」」」
セシリアが一夏とギムに宣戦布告し、それを二人が承諾したその日の授業中。
新学期開始から二日目という事もあり、本来なら皆の緊張もある程度は解ける筈なのだが…
「どうした、小生に何か用か?」
「貴方こそ、私に何か意見したい事があるんではなくて?」
「「…」」
セシリアとギムが放っている気迫の様な物によって、1年1組は程良い緊張感に包まれていた。
二人は先程からずっと睨み合っており、度重なる周りからの静止にも聞く耳を持たない。
見かねた千冬が二人の間に立って同時に拳を喰らわせても、睨み合いを止めない始末である。
「…」
「…」
「…やはり、私が前の席に座った方が良かったか…
睨み合うのは勝手だが、当人二人が隣の席同士となると…」
「(横を向けば嫌でも視界に入ってくるんだし、
無視しようと思っても中々出来るもんじゃ無いよなぁ…)」
一夏は後ろで二人の気迫がぶつかり合っているのを感じつつ、
教壇の前で腕を組みながら二人を睨み付けている千冬の姿をぼんやりと見つめる。
この時一夏は一瞬だけ、セシリアとは自分一人で戦うとギムに宣言した事を忘れていた。
「織斑。」
「…へ?」
「一週間後に使うお前のISだが、準備に時間が掛かるぞ。
何しろ、予備の機体が無いからな。」
「え!?間に合うんですか!?」
「学園側で専用機を用意するそうだから、心配する必要は無い。」
「「「「「専用機!?」」」」」
千冬の口から『専用機』という言葉が出た瞬間、クラス内の生徒達は一斉にざわつき始める。
「…1年のこの時期に、もう専用機ですって!?」
「…って事は、政府からの支援が出るって事でしょう?」
「一夏君が男性操縦者なだけあって、仕事が早いねぇ~。」
「良いなあ、私も早く専用機欲しいなー…」
生徒達の声にもれなく羨みが籠っているのを聞き、一夏は首を傾げる。
ISについて殆ど何も知らないと言っても過言ではない彼にとっては、
専用機がどういう物なのかや何故周りがそんなに盛り上がっているかなどちんぷんかんなのだ。
「…専用機があるって、そんなに凄い事なのか?」
「それを聞いて安心しましたわ!」
「げっ!?」
いきなり自分の机の前にずいと立ったセシリアに一夏は驚き、危うくひっくり返りかける。
彼女はそれを自身への怯えだと勘違いしたようで、先程よりも更に得意気な表情で言葉を続けた。
「一週間のクラス代表決定戦、私と貴方では全く勝負にならないでしょうけど、
流石に私が専用機、貴方が訓練機ではフェアではありませんものね!」
「お前も『専用機』ってのを持ってるのか?」
「あら、知りませんの?
良いですわ、庶民の貴方にも分かる様に説明してあげましょう。」
セシリアは一旦言葉を切って腰に両手を当て、再び口を開いて自慢気に話を再開する。
「この私『セシリア・オルコット』はイギリス代表候補生。
つまり、現時点で既に専用機を持っていますの。
世界にあるISの総数は僅か467機。その中で専用機を持つ者は全人類六十億の中でも、
エリート中のエリートだけなのですわ!!」
「…ISって、467機しか無いのか!?」
一夏の口をついて出た咄嗟の疑問に、
いつの間にか彼の後ろに立っていた女子生徒とアレハンドロとギムが順番に答えていく。
「ISの中心に使われているコアって技術は、一切開示されていないの。」
「今現在、この地球上に存在しているISは467機。
そのコアは全て『
コアは完全なブラックボックスであり、開発出来るのは篠ノ之博士だけ、と言われていますよ。」
「…それって、箒の姉さんの事か…」
「しかしその博士は、一定数以上のコアを作る事を拒絶している。
現在は各々の政府や機関が割り振られたコアを解析して研究を続けているとの事だが、
未だに誰も何も言わないのを見る限りは、独自開発には難航している様だな。」
「あら、見た目に『反して』中々博識ですのね、軍人さん。」
「お褒めの言葉をありがとうございます、イギリス代表『候補』生様。」
「「…」」
「…先生の話が始まるから、席に戻ろうじゃないか。」
再び睨み合う二人をアレハンドロが両者の席に誘導したのを見届け、千冬は再び話し始める。
「本来IS専用機は、国家や企業に所属する人間にしか与えられない。
だが織斑の場合は状況が状況なので、データ収集を目的とした専用機が支給される。
理解出来たか?」
「あ、はい…何となく。」
一夏が納得したのとほぼ同時に、一人の女子生徒がおずおずと手を挙げ、千冬にこう訊ねた。
「…あのう…
ISの開発者の篠ノ之博士って、もしかして篠ノ之さんの関係者なんですか?」
「そうだ、篠ノ之はあいつの妹だ。」
「「「「「ええーっ!?」」」」」
一夏に専用機が支給されると分かった時よりも、更に教室内の生徒達はざわめく。
専用機の話にはあまり驚かなかったギムとアレハンドロも今回は少し興味を持ったようであり、
箒の方に視線を向けている他の生徒達とひそひそ会話する。
「…ほう、あの者は篠ノ之博士の妹だったのか。」
「名字が同じだったからもしかしてとは思ってたけど、まさか本当にそうだったとはねぇ~。」
「現在は『行方不明者』として扱われ、世界中の企業や機関が血眼になって探しているよ。
発見したら国連に引き渡せとは一応発表してあるが…」
「…仮に何処かの機関が見つけたとして、
そんな優秀な者を大人しく引き渡すとは思えん、であろう?」
「アレハンドロ君の言う通りに国連に引き渡したとしても、
まず間違いなく色んな国同士で引っ張りだこになりそうだしね。」
「まあ、十中八九そうなるだろう。
今の時代、『ISを制する者は世界を制する』と言っても過言では無いからね。」
「…いや待て、お主の一族は確か『国連大使兼監視者』という肩書きを持っていたよな?
それだけの力があるのなら、人を一人探す程度の事軽々と出来るのでは?」
「…あ、確かにそうだよねー。
ねぇねぇ、ここは一つ篠ノ之さんの為に探してあげたら?」
「…私用に権力を乱用するのは好ましくない「あの人は関係無い!」…」
皆のひそひそ話に我慢の限界が来たのか、
今まで黙って座っていた箒は突如声を張り上げて皆を黙らせ、言葉を続ける。
「…私はあの人じゃ無い。
教えられる事など、無い。」
箒はそれだけ言い、顔を窓の方へ向けてしまった。
「「「「「…」」」」」
「山田先生、授業を始めてくれ。」
「…あ、はい!
では昨日の続きから再開するので、テキストを開いてくださーい…」
気まずい沈黙が流れる中、千冬は瞑っていた目を開いて真耶に授業をする様に伝える。
真耶は少々戸惑いつつも承諾し、教科書を開いて授業を始めた。
「…ISには意識の様な物があり、操縦時間に比例して操縦者を理解しようとします。
なので皆さんはISを道具としてでは無く、あくまでパートナーとして認識して下さい。」
「先生、そのパートナーというのは所謂『兄弟』の様な物ですかぁ?」
「いやいやギム君、むしろ彼氏彼女みたいな感じだと思うよ?
ですよね、先生?」
「そ、そうですねぇ…
私には経験が無いので、何とも言いかねますが…う~ん、どうでしょうねぇ…」
「先生可愛い♪」
「(所謂女子高のノリって奴か…慣れるまでには時間が掛かりそうだな。
…しかし…)」
「ですが、ISに依存し過ぎるのも問題なのでは?」
「いーじゃんいーじゃん、頼れる彼氏って感じでさ!
アレハンドロ君も、まだまだ青いねぇ~。」
「ISに頼り過ぎて、人間自体の能力が下がってしまう可能性もあるじゃないか。」
「…な、成る程…
ISに全部任せて楽チン生活、少し憧れてたんだけどなー。」
「いや、ISは人が乗らなきゃ動かないでしょ…」
「あ、そっか。」
「(何であの二人はあっさり混じれてるんだ…)」
「…」
「(…箒…)」
賑やかに授業が行われていても、一夏は何処か哀しげな様子の箒から目が離せなかった。
「…」
「おい、箒。」
「…何だ?」
「飯、食いに行こうぜ。」
授業も終わり、皆が待ち望んでいた昼休みがやってきた。
我先にと食堂に駆けていく者、持参した弁当を教室で食べる者。
そんな生徒達で学園内が賑やかになる中、一夏は箒を昼食に誘おうと彼女の机の側まで来ていた。
「…私は良い。」
「そんな事言うなよ。
誰か、一緒に行かないかー?」
一夏が呼び掛けると、教室の後ろに固まっていた三人の女子が元気よくそれに応えた。
「はい!はいはぁーい!!」
「ちょっと待ってー!」
「お弁当持ってますけど、行きます!」
「やっぱりクラスメイト同士、仲良くしなくちゃな。
お前もそう思うだろ?」
「…私は良い…
折角お前以外にも男が二人いるのだから、その二人と食べれば良いだろう…」
「その二人は先に食堂で俺を待ってくれてるんだぞ?
お前の分の席もとっておいてくれって頼んであるから、早く行こうぜ!」
「…頼んだ覚えは無い…」
「ほら、立った立った!」
一夏は気乗りしなさげな箒の腕を掴んで引っ張り、半ば無理矢理に彼女を立たせる。
「…私は良いと言っている…!」
「何だよ、歩きたくないのか?
だったらおんぶしてやろうか?」
「…っ!」
一夏のからかいが何かしらの琴線に触れたのか、
箒はいきなり一夏に掴まれている腕を自分の方へ引き…
「離せっ!!」
「どうわぁっ!?」
そのまま一夏にタックルを炸裂させ、彼を床に叩きつけた。
周りの生徒が思わずどよめきが挙がる中、不意討ちを喰らった一夏は痛そうに箒を見上げる。
「…ててて…腕上げたな…」
「…お前が弱くなったのではないか?
こんな事は剣術のおまけだ。」
「…あの~、やっぱり一緒に食べるの遠慮しておきま~す…」
「…うんうん。」
「あ…はぁ…」
三人がこそこそと教室外に出ていってしまったのを見て、一夏は溜め息をついて立ち上がった。
「…」
「…何だ、何か私に言いたい事があるのか?」
「箒、行くぞ。」
「だから私は行かないと…あ、おい!?」
「良いから、黙って付いてこい。」
渋る箒の手を掴み、一夏は彼女を食堂へと引っ張っていく。
廊下中の生徒達から憧れ二割妬み八割の眼差しが注がれる中を、
箒は少しばかり頬を染めながら一夏に連れられていった。
「来たか、兄弟ぃ!待ちくたびれていたぞ!」
「ごめんごめん、ちょっと色々あってさ…」
「…」
「まあ、とにかく座りなよ。
ギム・ギンガナム、一つ席を詰めてくれないか?」
食堂に来て食事を受け取った二人をギムは大声で出迎え、確保しておいたテーブルに座らせる。
「しかし、ギンガナムって本当に食べる量少ないな。
見るからに体育会系って感じなのに、それで午後の授業を乗り切れるのか?」
「いつ何処で敵の襲撃にあっても迅速に対処出来る様に、食事は必要最低限に留めている。
敵の襲撃にあった時に『腹が重くて満足に動けませんでした』では話にならんだろう、兄弟?」
「…君はこの学園を戦場か何かだと思っているのかい?」
「小生にとっては、生きるという事自体が戦いなのだ!
終わりなきその戦いに打ち勝ち続けてこそ、初めて『生き抜く』事が出来るっ!!」
「…忙しい男だね、君は。」
「けどさ、『腹が減っては戦は出来ぬ』って言葉もあるぞ?
食える時になるべく食べておく方が良いんじゃないか?」
「成る程、そういう考えもあるのだな…」
ギムの一夏の意見を興味深げに聞きつつ、黙って白米を口に運ぶ。
そのまま暫く全員で黙って食事を摂った所で、一夏は神妙な顔をしながら口を開いた。
「…はぁ…どうしよう…」
「『決闘』の事だな、兄弟?」
「ああ…
このままだと、何も出来ずにセシリアに負けそうだからな…
なあ箒、俺にISについて教えてくれないか?」
「引き受けたお前が悪い。」
「えぇ…」
頼みの綱である箒にけんもほろろに断られ、一夏は困り果てて頭を抱える。
そんな様子の一夏を見てギムは何やら考えていたが、やがて決心した様に立ち上がった。
「ようし、小生に任せろ!」
「え?」
「まさか、君が戦うつもりかい?」
「違う。
一夏、小生が言った言葉を覚えているか?」
「ああ、『協力はさせてもらう』ってやつの事か?」
「そうだ。一つお前を鍛えてやろう、と思ってな。」
「「…えぇっ!?」」
箒が自分と同時に声を挙げた事を少し不思議に思いつつも、
一夏は思わず驚き顔でギムを見上げる。
「どうした、小生では不満か?」
「…いや、別にそういうわけじゃないけど…
鍛えるって、俺の何を鍛えるんだ?」
「勿論、お主自身だ。
ISは『パートナー』の様な者だと先程の授業でも言われていただろう?」
「…確かにそう言われていたが、それと君が彼を鍛える事と何の関係が?」
「だから、一夏をIS操縦者に相応しい武人に鍛え上げてやろうというのだ!」
「けど、俺の専用機が届くのは一週間後だし、予備のISも無いって言うし…」
「だから何だ?
ISに乗らずとも、体と心を鍛える事は出来る!」
「…つまる話『知識の少なさを身体能力でカバーする』という事かい?」
「言い方に少しばかり悪意が感じられるが、その通りだ。
そうと決まれば直ぐ様行動だ!行くぞ、兄弟!!!」
「え、ちょま、まだ食べ終わってな…」
一夏の抵抗も気にせずにギムは彼の腕を鷲掴み、一夏が立つのも待たずに歩き始める。
その後に呆れ顔のアレハンドロが続き、三人はテーブルから離れていこうとするが。
「ま、待った!」
「「「?」」」
今まで黙っていた箒の声に反応し、三人はその場で立ち止まった。
首を傾げながら三人が自分の方を振り向いたのを確認し、箒は口をゆっくりと開く。
「…ギンガナム、何処で一夏を鍛えるつもりだ?」
「そうだな、取り敢えずはグラウンドを二十周「それでは駄目だ!」ほう?」
「何だ箒、何か良い考えがあるのか?」
「ある。」
「ならば聞かせてもらおう、その考えとやらをな!!」
「それは…」
「…ていっ!」
「うわっと!?」
「はあっ!!」
「ちょっと待て箒…いてっ!?」
IS学園、武道場。
何故か剣道の格好をさせられた一夏は、同じく剣道の装備を着けている箒に打たれまくっていた。
箒は彼を十数回程床に叩きつけた後、呆れと怒りが入り交じった声を上げる。
「…どういう事だ…何でそんなに弱くなっているっ!?
中学校では何部に所属していた!?」
「帰宅部。三年連続皆勤賞だ!」
「鍛え直しだな!
これから毎日放課後三時間、私と一緒に特訓だ!!」
「いやちょっと待て、俺はISの事をだな…」
「今のお前はIS以前の問題だ!!!
少しはあの二人を見習ったらどうだ!?」
「二人って、ギンガナムとコーナーの事か?
けどあの二人、さっきからずっと座ったままだぞ?」
そう言う一夏の視線の先には、胴着に身を包んで座っているギムとアレハンドロの姿がある。
二人は一夏が箒に滅多打ちにされていた間もずっと座っており、一歩も動いていない。
そんな二人の何処を見習うべきなのかが分からず、一夏は暫くぽかんと二人を見つめていたが…
「…。」
「!」
やがて、一夏と箒から見て左側に座っていたアレハンドロが動いた。
彼はゆっくりと立ち上がりつつ、自身の足元にある竹刀を右手で静かに拾い上げて横に構える。
「…」
暫しの沈黙の後、アレハンドロは力強く左足を踏み出し、ギムに斬りかかった。
「はぁっ!!」
彼の竹刀がギムの頭に直撃しそうになったその瞬間、
ギムは跳ねる様にしてその場に立ち、予め右手に掴んでおいた竹刀を負けじと振り抜く。
二人の竹刀は真っ向からぶつかり合って小気味良い音を響かせ、そのまま鍔迫り合いに移行する。
「流石は由緒正しき軍人の家系の者だ。
私から先に仕掛けたにも関わらず反応出来るとは。」
「お前も、良くぞ小生の剣を受け止めたな。
どうだ、この学園を卒業したら我がギンガナム家の一員にならんか?」
「生憎私は国連大使を継がなければいけないのでね。
気持ちだけ、有りがたく受け取っておこう。」
「(…す…すげえ…二人共に半端じゃ無い動きだ…
成る程、箒が見習えって言ってたのも分かるな…ん?)」
一夏は自身の横に立っている箒の様子を見て、少し違和感を感じる。
「…」
「(…怒ってる?)」
何故なら、箒の表情は怒りのそれだったからだ。
普段から既に怒っている様な顔に見える事を差し引いても、今の箒は怒っている。
「…」
「(…何で怒ってるんだ、箒の奴「そうだ、勝つのはこの…」な!?」
突然声を挙げたアレハンドロに気を取られ、思わずそちらを見た一夏の目に写ったのは…
「アレハンドロ・コーナーだっ!!!」
竹刀の先端を床に叩きつけると同時に右手で竹刀に全体重をかけ、
棒高跳びの要領で上空に跳び左足でギムに蹴りを放ったアレハンドロの姿だった。
「ほう!良い動きではないか、アレハンドロォ!!」
普通の剣道ならまず有り得ない、いや認められない攻撃が迫って来てもギムは慌てず、
逆に感心しながらアレハンドロの蹴りを竹刀で受け止めて押し返し、
続けて無防備になっているアレハンドロの左腕に狙いを定めて素早く竹刀を振り下ろす。
「ぬんっ!!」
「…フン!」
一見回避不可能に見えたその一撃は、
アレハンドロの咄嗟の機転によって竹刀の『柄』で受け止められる。
再び竹刀同士が触れ合った後、アレハンドロはギムから少し離れた場所に着地した。
「ハハハ、平和の象徴である国連大使に将来なるとは思えん程の実力だな!」
「平和の象徴たる為には、それに相応しい力を持たなければいけないのだよ。
軍人である君も、少し共感する所があるだろう?」
「確かに、分からなくも無い「貴様らぁぁぁぁぁぁっ!!!」ん?」
突如聞こえてきた箒の怒号に二人は睨み合うのを止め、声の聞こえてきた方を向く。
そこには、憤怒の表情で床を踏みしめながら此方に向かってきている箒の姿があった。
「今の戦いは何だ!?
剣道の基本が何一つといって守れていないではないか!!!」
「…剣道、でありますか?」
「具体的にどの辺りが守れていなかったので?」
「片手で竹刀を使い、相手に蹴りを入れ、竹刀から手を離して刃の部分を持ち…
これだけ酷い戦いをしておいて何が『どの辺りが守れていなかったので?』だっ!!!」
「箒、落ち着けって「黙っていろっ!!!」は、はい…」
先程の戦いのルール無視っぷりに箒は憤慨して怒りの言葉をギムとアレハンドロに叩きつけるが、
箒の怒号を怪訝な顔付きで聞いている辺り、二人は怒られている理由を理解していない様である。
一夏は暫くその様子を首を傾げて見ていたが、ふと思い付いた事を口にした。
「…もしかして、二人は剣道を知らないんじゃないか?」
「…何?」
「いや、俺には二人がふざけて戦ってる様には見えなかったしさ。
箒だって、最初は俺に見習わせたいと思ったんだろ?」
「それは…
…それはあくまで最初だけだ。実際この二人は基礎がなっていない分、お前よりも酷いぞ。」
「今日が剣道初体験だったからじゃないのか?
二人共、どうなんだ?」
「小生は、幼い頃から剣をたしなんでいるぞ?」
「いやいや、そういうんじゃなくて…
『剣道』って名前のスポーツを今までやった事はあるか?」
「「スポーツ?」」
二人が同時に首を傾げたのを見て、一夏は確信した。
この二人は先程の戦いを剣道という『スポーツ』として行っていたのでは無かったという事に。
「『剣道』…
そういった名前の競技が、日本にはあるのかい?」
「良い響きのスポーツではないか!」
「け、剣道という競技を知らずに竹刀を振るっていたというのか…!?」
「な、箒。だから大目に見てやれって「ふざけるな!!!」えぇ!?」
「お前達三人共、揃いも揃って剣道を舐めきっている!
一夏だけを鍛えようと思っていたが気が変わった、お前達二人も特訓に参加してもらう!!!」
「ちょ、箒!?」
「…剣道とやらには興味をそそられるが、
今現在の我ら男子の最重要課題は『対IS用』の特訓である故、断らせてもらう。」
「!?」
「…何だと?」
ギムの返答を聞き、箒は先程よりも更に険しい表情になって竹刀を構えた。
しかしギムはそんな彼女に対して竹刀を構える事もせず、横にいたアレハンドロに話しかける。
「アレハンドロ、何か敵についての情報は無いのか?
お主は一応、世界で登録されているISを全て把握しているのだろう?」
「流石に全てまでとは行かないが、代表候補生の機体ならある程度は把握している。
彼女…セシリア・オルコットの機体は公式上、『遠距離特化型IS』とされているよ。」
「…成る程、遠距離か…
此方で銃の特訓が出来れば問題は無いが、まず到底不可能であろうしな。
万に一つ許可が下りたとしても、銃は僅か一日そこらで扱える様になる代物ではない…
となれば、残された道は一つ。」
「…結局は『気合い』というわけかい。」
「大体そんな物だが、気合いだけで敵の弾丸は落とせんからな?
良し、一夏!」
「…え、は、はいっ!?」
「これからお主には、小生達の刀を連続で受けてもらう!
自身に迫る刀を避けつつ、見事我らに一撃を加えてみせよ!!」
ギムはそう言い放って竹刀を構え、その先端を一夏の眉間に真っ直ぐ向ける。
一夏はそのまま暫くギムの気迫に圧倒されていたが、程無くして思わず疑問の声を挙げた。
「ちょっと待て、何でそうなるんだ!?
相手の特性が分かったんだから、それを分析するなりなんなりして対策を…」
「その『対策』がこの特訓なのだ!!」
「私達の不規則な攻撃を相手の射撃に見立てて避け、隙を突いて相手に一撃を喰らわせる訓練…
そういう事だね、ギム・ギンガナム?」
「その通りだ。
理解出来たか、兄弟?」
「あ、あぁ…取り敢えずは。」
「それは結構。では…」
「え、もう始めるのか!?まだ心の準備が「行くぞぉっ!!!」うわっと!?」
一夏に竹刀をしっかり握らせる間も与えず、ギムは一歩彼の方に踏み込んで竹刀を振るう。
「アレハンドロ、お主も来い!」
「はいはい、分かったよ。」
アレハンドロはため息をついた後に一夏へと近づき、ギムとは異なる軌道で竹刀を振っていく。
当然ながら二人の連撃に一夏が対応出来る筈も無く、十回中九回はまともに喰らう始末である。
「いって!
こ、このっ…でででででででででっ!?」
「どうした!その程度では、戦場で生き残る事は出来んぞ!!」
「あまりやり過ぎると彼の体が持たないと思うんだがね、ギム・ギンガナム。
彼は君とは違って、至って普通の男子高校生なんだよ?」
「ISを操作出来る『普通の男子高校生』か…滑稽な物だな。
ではお主の言う様に、剣撃の回数を半分に減らすとするか。」
「…出来れば十分の一ぐらいまで減らしてほしいんだが…」
「何か言ったか、一夏ぁ!?」
「…はい、ごめんなさい。」
一夏は楽をする事を諦め、軽く落ち込みながら二人に滅多打ちにされていく。
そんな感じで特訓を始めた三人の様子を、箒は少し離れた場所から呆然と見ていた。
「…あの二人、私の意図を全くと言って良い程理解していないな…
折角一年以上は剣を握っていないであろう一夏共々、鍛えてやろうと思ったのに…
…いや待て、何で私は怒っているんだ?あの二人には断られたが、一夏には断られていないぞ…
…つまり、私にはあの二人と特訓した後の一夏と一緒に『二人で』特訓出来る権利がある!」
「…篠ノ之 箒…」
「…良し、あの二人に頼んで彼らの特訓時間を五時までに設定してもらおう…
そうすれば、一夏と二人っきりで…」
「…篠ノ之 箒!」
「…な…いやいや、決して疚しい気があるわけではない!
私は只、同門の不出来を嘆いているだけだ!故に正当だ「篠ノ之 箒!!!」ふぇあぁっ!?」
ギムの声で現実に引き戻され、箒は思わず情けない声を挙げた。
その声にギムは一瞬硬直したが、直ぐに言葉を続ける。
「お主も手伝ってくれないか?
この特訓は人数が多ければ多いほど、効率が上がるのでな。」
「…良い…のか!?」
「ちょっと待ってくれギンガナム、今のままでも充分キツい「行くぞ一夏!!!」何でだぁぁぁ!?」
一夏は咄嗟に腕を振って拒否の意を示すも、
箒はその動作を全く気にせず嬉しそうに竹刀を構え、彼に向かって切りかかる。
「…篠ノ之は、よっぽど剣を振りたいらしいな。」
「彼女は織斑 一夏を鍛えたいだけなんじゃないかな?」
二人は箒の行動が理解出来ずに二、三回言葉を交わした後、
既に床に叩きつけられている一夏とそれを何故か嬉しそうに怒っている箒の元へと向かった。
「あら、来ましたの。
てっきり私、貴方は怖じ気付いて逃げるかと思っていましたわ。」
「誰が、逃げるかよ。」
第三アリーナ、上空。
一夏は今、セシリアと互いにISに乗った状態で睨み合っている。
『織斑、これがお前の専用機『
『こ…これが…』
『一夏の…IS…』
『シンプルかつ、無駄の無いフォルムだな。
小生は気に入ったぞ?』
『君が気に入るかどうかと性能は関係無いんだがねぇ…』
一夏のIS、白式。
そのカラーリングはグレーを基本としており、所々に青い線が入っている。
『ISに背中を預ける感覚で乗れ。後は機械が調整する。』
『お、おう…』
『どうだ兄弟、専用機に乗った感想は?』
『まだ動かしてないから何とも言えないけど、良い感じだ。』
『それは朗報だね。』
一夏の腕の太さの二倍はあろうかという両腕の先には、
人間のそれより大きく鋭利な青色の手が付いている。
『織斑君、ISには『絶対防御』というシステムが搭載されていて、
どんな攻撃を受けても最低限、操縦者の命は守られる様になっています。』
『但し絶対防御を発動すると『シールドエネルギー』が大幅に減少する。
この戦いではシールドエネルギーが先に尽きた方が負けとなるので、念頭に置いておく様に。』
『…つまり、なるべく当たらない様に立ち回れって事か…』
『なあに一夏、お主は我ら三人の特訓に耐え抜いたのだ!
今のお前ならば、絶対に勝利出来るっ!!』
『期待していますよ、織斑 一夏。』
『…勝てよ、一夏。』
『…あぁ!』
一夏はその巨大な手を握り締め、
得意気な表情で自身を見下ろしているセシリアとの睨み合いを続ける。
すると、不意に彼女は口を開いた。
「最後のチャンスをあげますわ。私が勝利するのは自明の理。
今ここで謝ると言うのなら、許してあげない事もありませんわよ?」
「何言っているんだ、そんな事するわけ無いだろ?
それに、そう言うのは『チャンス』って言わないんだぜ?」
「では、仕方がありません…」
瞬間、一夏の目に飛び込んで来たのは『警告・敵IS射撃体勢へ移行』の文字。
その文字に一夏が目を通している間に、セシリアは両腕を大きく振り上げ…
「お別れですわねっ!!!」
どこからともなく巨大なライフルを取り出し、一夏に狙いを定めて放った。
「っ!」
一夏は自身に迫ってきた青色のビームを咄嗟にかわし、再びセシリアを睨み付ける。
「…さぁ、踊りなさい…
私と『ブルー・ティアーズ』の奏でるワルツで!!!」
そして、決闘が始まった。
『専用機』同士の激突。
特訓の成果もあり、セシリアの攻撃を順調に躱していく一夏。
しかし、セシリアの攻撃方法は一丁の大型ライフルのみでは無かった。
一夏は次第に追い詰められていくが、やがて彼は敵の攻撃の『穴』を見つけるー
次回
『決闘』
雫は、風に舞うー