インフィニット・ストラトス~輪廻の『X』と黄金の『A』   作:∀X

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大使の口調が分からない


第4話 『決闘』

「さぁ、踊りなさい…

私と『ブルー・ティアーズ』の奏でるワルツで!」

 

「うおっと!?」

 

 

セシリアは一夏に大型ライフルの照準を合わせ、連続で引き金を引いてビームを発射していく。

一夏は向かってくるビームを紙一重で回避し、照準を定めさせまいと動き回っている。

ぱっと見、そう見えるだろう。

 

 

「…あいつ、白式を制御出来ていないな…」

 

 

だが実際、一夏は『避けて』いるというよりは『振り回されて』いた。

白式が発進した格納庫で箒・アレハンドロと一緒にモニターを見ていたギムはそれに気づき、

それを指摘する声に続けてアレハンドロも軽い溜め息と共に口を開く。

 

 

「どうやら、その様だね。

折角敵の攻撃を回避する特訓をしても、あれでは実践しようが無いんじゃないか?」

 

『ほう…織斑に『特訓』してやったのか、お前達は?』

 

 

スピーカーを使ってまで千冬が質問してきた事にアレハンドロは少し驚くが、直ぐに返答を返す。

 

 

「えぇ。

と言っても、馬鹿の一つ覚えで何回も同じ事を繰り返していただけですがね。」

 

「…ばっ、馬鹿とは何だ、馬鹿とは!?

私はただ、一夏をかつての様な頼れる男…じゃない、たるんだ一夏を鍛えていただけだ!!」

 

「馬鹿と言う貴様も、特訓に付き合っていただろう!」

 

「分かっているよ、元々私込みのつもりで発言したんだからね。」

 

『成る程、道理であいつの動きが初めてにしては良いわけだ…

あれだけ危なっかしい動きをしていながら、体の軸は殆どずれていないからな。』

 

『確かに織斑君は姿勢制御には苦労している様ですが、

飛ぶ事自体にはあまり苦戦していない様ですし『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』えっ!?』

 

 

一同の目に写ったのは、空中でブレイクダンスらしき動作をしている一夏と白式。

先程まで一夏を褒めていた千冬は態度を一転させ、額に手を置いて首を振る。

 

 

『…全く…』

 

『ま、まぁ、墜落しないだけ凄いと思いますよ?

ね、皆さん?』

 

『「「「…」」」』

 

『…うぅ…』

 

 

真耶が四人からスルーされて涙目になった時も、一夏はまだブレイクダンスを続けていた。

一夏は姿勢を安定させようと試みるも、容赦無いセシリアの攻撃に晒されて上手くいかない。

 

 

「うふふ、まるで操り人形ですわね!

でも、とても良く…似合っていますわよっ!!!」

 

「…ぐうっ…(やばいな、このままだと当たるのも時間の問題だ…

ようし、それならいっそ!!)」

 

「喰らいなさいっ!」

 

 

セシリアのライフルから放たれたビームを、一夏は回転しながらも目で捉え…

 

 

「ここだっ!」

 

「な!?」

 

 

自らそちらへ突っ込んで足に当て、その反動で体を起こして姿勢を安定させた。

 

 

「あ、織斑君が立て直した!」

 

「敵の攻撃を利用するとは、流石は織斑君ね!」

 

「良いぞ、おりむー♪」

 

 

一夏の咄嗟の判断に、アリーナ席の生徒達は黄色い歓声を挙げる。

その歓声を眼下に一夏はようやく上になった頭を動かし、驚いているセシリアに視線を合わせた。

 

 

「どうだ?

いくら正確に射撃を当てても、相手を倒せるとは限らないんだぜ?」

 

「…滅茶苦茶やりますわね、貴方。

ここまで来ると、呆れを通り越して逆に関心いたしますわ。」

 

「そいつはどうも。」

 

 

そう言って笑みを浮かべる一夏と対峙しているセシリアと同様に、格納庫の三人も驚いていた。

 

 

「今のは…受け身か!?」

 

「相手の弾をいなしつつ自身の機体制御に利用するとは、中々やるではないか!」

 

「だが、いくら利用したと言っても攻撃は攻撃。ダメージは小さいながらも確実に入っている。

そう何度も使える物では無いと思うよ、あれは。」

 

『そうだ。回避の度にあんな事をしていたら、シールドエネルギーはあっという間に底を付く。

ISのエネルギーは無限では無いんだぞ、馬鹿が…』

 

 

千冬がぼやくと同時に、セシリアは再び一夏を狙って次々とビームを撃っていく。

一夏は大きく動いて避けるが、姿勢維持に気を取られている為か先程よりも紙一重の回避が多い。

当然セシリアがそれに気づかない筈が無く、直ぐ様挑発の材料として利用した。

 

 

「あらあら、動きが鈍くなりましたわねぇ…

やはり、頭を下にして飛んだ方が安定するのではなくって?」

 

「うるさいな、そう言っておきながら一発も当たって無いじゃないか…うわっ!?」

 

「言葉には気を付けた方がよろしくってよ?」

 

「くそっ…避けてるだけじゃ駄目だ、何かしら反撃しないと…

えーっと、武器は…」

 

 

一夏がIS内部に検索をかけると、立体モニターに刀らしき武器が一つだけ表示された。

詳細データには『近接ブレード』とだけ記されている。

 

 

「…詳細でも何でも無いじゃないか…

けど、丸腰よりはましだっ!!!」

 

 

一夏はそう自分に言い聞かせ、その無骨な刀らしき武器を右手に出現させる。

 

 

「遠距離射撃型の私に、近距離格闘装備で挑もうとは…笑止ですわっ!!」

 

 

セシリアはそう言い放ち、距離を詰めてきた一夏から離れる様にしてライフルを撃っていく。

それを一夏は円を描く様にして避け、続けて離れていくセシリアに食らいつく展開が続いている。

 

 

「何だ何だ、どうしたんだ一夏!

剣を出したからもしやと思ったが、間合いが全然とれていないではないか!」

 

『織斑君の武器が近接型なのに対し、セシリアさんのISは遠距離に特化していますからね…』

 

「遠距離型のISが、わざわざ近距離型のISに接近戦を挑む理由はありません。

このまま行けば持久戦、そしてその先の結果は…」

 

『織斑の『完敗』だな。』

 

「そんな…」

 

 

千冬の言葉によって、場は暗い雰囲気に包まれそうになる。

そんな空気を破ったのは、皆の中で一人だけ微笑んでいたギムの言葉だった。

 

 

「そうとも言い切れませんぞ、織斑教官。」

 

「「『?』」」

 

『…織斑『先生』と呼べ。

で、何を持って織斑が完敗しないと言えるのか教えてもらおうか?』

 

「まず第一に、剣を持ってから彼の動きが安定した事。

彼はこの一週間毎日剣を握っていましたから、自然とその時の姿勢をとれているのでしょう。」

 

「…あ、確かに…

だがあれでは駄目だ!竹刀は両手で持つものだろう!」

 

「…第二に、試合開始直後より小さな動きで相手の射撃をかわしている事。

姿勢が安定した事により、回避行動に意識を割ける様になったんでしょうな。」

 

「操縦者本人の技能向上、というわけかい。」

 

「如何にも。」

 

 

淡々と、『一夏が完敗しないと思う理由』を述べていくギム。

その言葉に千冬はじっと耳を傾けていたが、やがてその言葉を途中で遮って口を開いた。

 

 

『お前の言いたい事は良く分かった。

だがそれだけではまだ、織斑が完敗しないと信じる事は出来んな。』

 

「最後の理由を、まだ小生が話していないからでしょう。

彼が完敗しない、いやむしろ勝利すると小生が考えている最大の要因はー

 

 

 

 

 

ー彼が、諦めていないからですよ。」

 

 

事実、その通りであった。

 

 

「うぉぉぉぉぉぉっ!」

 

「くっ…しつこいですわね!

潔く諦める事も、時には必要ですわよっ!!」

 

「日本男子として、そんな事はしない!!

いや、絶対にしてたまるものかぁっ!!!」

 

 

一夏はセシリアの降伏勧告を跳ね退け、直ぐ様に彼女との距離を詰めていく。

試合開始から今まで余裕の表情を崩さなかったセシリアだが、

ここに来て一夏のしつこさに気圧され、少しだけ焦ってきている。

 

 

「ここっ!」

 

 

そして、一夏は彼女の焦りに気づいていた。

彼はセシリアが照準を合わせた瞬間、少しだけ進行方向をずらす事でビームを回避していく。

暫くの間セシリアは何とか当てようと奮闘していたが、やがてスコープから目を離した。

 

 

「この私とブルー・ティアーズを相手に、初見でここまで耐えたのは貴方が初めてですわ。

その事だけに限定すれば、貴方は十分褒め称えられるべきですわね。」

 

「お褒めの言葉をありがとう…」

 

「では、そろそろフィナーレと参りましょう!!」

 

 

そうセシリアが言い放つと、彼女のISの『羽』に付いていた青い板状のパーツが左右二つずつ、

合計四つが本体から分離し、飛びながら一夏に向かってビームを撃ち始めた。

 

 

「何っ!?」

 

 

一夏は思わぬ敵の武装に気を取られるも、何とか剣で弾いてガードしつつ動き回る。

ビームの雨を掻い潜りつつ一夏がセシリアの方を見ると、彼女の顔には余裕が戻っていた。

 

 

「私の『雫』、貴方はどう避けるのかしら?」

 

「…雫って言うか、これじゃむしろ土砂降りだな…」

 

 

一夏はぼやきつつも、剣を振るって何とかビームの直撃を避けていく。

一方格納庫では、ギムとアレハンドロがセシリアの新武装に興味津々になっていた。

 

 

「全方位攻撃!

何と、相手のISにはあの様な武装の備えもあるのか!」

 

「実に脅威的な武装だね。織斑 一夏の被弾率も目に見えて上がっている。

これでも完敗はしないのかい、ギム・ギンガナム?」

 

「…うーむ、少しだけその確率は上がったと見るべきか…」

 

 

少し苦い顔付きでそう述べたギム。

しかし、箒はその言葉を真っ向から否定した。

 

 

「一夏は勝つ。」

 

「「!」」

 

「いや、むしろ負けるわけがない。私達が鍛えたんだからな。

というか負けたら只ではおかん。」

 

「…篠ノ之 箒、その自信に何か根拠は「そうだ、お主の言う通りだな!

あれだけの特訓を施したのだから、一夏が勝利するのは当然の事!!」…無さそうだ。」

 

 

勝手に盛り上がっている二人のノリに着いていけず、

アレハンドロは肩を竦めながら溜め息をついてモニターに目を移す。

 

 

「…成る程、あながち二人の精神論も間違ってはいないかもしれないね…」

 

 

そう呟いたアレハンドロの視線の先には、彼の予想以上に奮戦している一夏の姿があった。

一夏はまだセシリアに攻撃可能な距離までには近づけてはいない物の、

彼女の操る四基の羽型武装から放たれているビームに確実に対応してかわしている。

 

 

「…良く対応出来ますわね、貴方…

本当にISでの実践経験は初めてなのかしら?」

 

「初めてさ。

正確に言えば、触ったのだって今日が二回目だからな。」

 

「末恐ろしいですわね。

貴方の様な危険分子の芽は、早めに摘み取っておくのが賢明ですわ!!」

 

 

セシリアはライフルを二三発連射した後、再び距離をとって羽型武装を射出する。

一夏は三連続で飛んできたビームを前進しつつ避け、

間髪入れずに四方向から放たれたビームを一発ずつ剣で弾き飛ばす。

 

 

「どうだぁ!」

 

「甘いですわね、まだまだ終わりませんわよ!!」

 

 

一夏を中心に目まぐるしく回転しながら、羽型武装はビームを次々と放つ。

その間隔が余りにも短かった為、剣を振る頻度が増えた一夏は次第に失速し始める。

 

 

「…ぐっ!」

 

 

そして、遂に一夏は一瞬だがその場で停止した。

当然そのチャンスをセシリアが見逃す筈も無く、彼女は直ぐ様羽型武装を帰還させ…

 

 

「その左足、頂きますわっ!!」

 

 

ライフルの照準を合わせ、一夏を目掛けて撃った。

 

 

「「!」」

 

「…一夏っ!」

 

 

箒が思わず声を挙げたその瞬間、一夏は自身に飛んでくるビームを見据えて叫ぶ。

 

 

「一か八かぁっ!!!」

 

 

その一声と共に一夏はビームを弾き飛ばし、一気に加速してセシリアへと迫る。

セシリアはまさか自身の攻撃に反応されるとは思っておらず、

慌てながらも咄嗟に数メートル後退し、羽型武装を射出した。

 

 

「…やっぱりそう来たか!」

 

 

一夏はそう呟いて機体を地面すれすれまで降下させ、地表付近を滑空しつつ前進する。

彼の通った軌跡に沿って羽型武装のビームが地面を抉る中、一夏は体を上げて攻撃を避けていく。

 

 

「…なっ!?」

 

「「「おぉっ!?」」」

 

 

生徒達もセシリアと同じく一夏の動きに驚き、思わずどよめきを挙げる。

一夏はその声を背に受けつつ、硬直しているセシリアとの距離を再び詰めた。

 

 

「でりゃぁぁぁっ!!!」

 

「くうっ!?」

 

 

一夏が振り下ろした剣をセシリアは難なく避けて後退するが、

彼女は攻撃の単調さよりも『攻撃される間合いまで距離を詰められた』事に動揺していた。

 

 

「…ですが、いくら足掻いた所で無駄ですわっ!!」

 

 

セシリアはそう言って動揺した感情を払い飛ばし、急上昇しながら羽型武装を射出する。

羽型武装は一列に並んでビームを発射したかと思えば次の瞬間には二連装に分かれたりと、

今までとは段違いの複雑な動きで目標を落とそうとしていたが…

 

 

「な…何故当たりませんのっ!?」

 

「そりゃあ、当たったら痛いから…なっ!!」

 

 

一夏はその全てを最小限の動作でかわし、遂には自身から羽型武装に突進して両断した。

続けて一夏はセシリアに接近し、さっきよりもより近い間合いで剣を振るう。

 

 

「分かったぜ、この兵器のからくりが!」

 

「何ですって!?

…いいえ、そんなはったりには惑わされませんわっ!!」

 

 

セシリアは焦りながらも残り三基になった羽型武装にビームを撃たせるが、

先程よりも密度が低くなった攻撃に一夏が当たる筈も無くあっさりとかわされ、

逆に彼の攻撃で二基目の羽が無惨に爆散した。

 

 

「分かってなきゃ、こんな反応は出来ないさ。」

 

「…ぐ…」

 

 

セシリアが悔しげに口を歪ませる姿を見て、

箒は思わず驚きの表情で口を開く。

 

 

「…あの謎の兵器の何を見切ったというんだ、一夏は…」

 

「まだ分かっていなかったのか、お主は?

小生よりも一夏の勝利に肩入れしているというのに、人は見かけによらぬ物だな。」

 

「まあまあ、ギム・ギンガナム。

織斑 一夏の乗るISだけを見ていた彼女に、そんな事を言うのは酷だと思うよ。」

 

「な!?」

 

「ッハッハッハッハ、それは失礼をした!」

 

「わ、私をからかうなっ!」

 

 

少し赤面した彼女を見て一頻り笑った後、ギムは真面目な顔になって武装の説明を始める。

 

 

「あの青いISに搭載されていた例の兵器は遠隔操作型、

所謂『オールレンジ攻撃』用の武装であると考えられる。」

 

「…オールレンジ攻撃?」

 

「平たく言えば『全方位攻撃』と言った所だ。

あの手の兵器は思わぬ位置からの攻撃が出来るという点では、一丁のライフルよりは優れている。

だが、問題点もある。一夏は今そこを突いているのだよ。」

 

「…問題点?」

 

「今までの動きを見る限り、彼女は例の武装とライフルを併用していない。

更に、例の武装を使う際には必ずその場で停止した後に武装を射出している…」

 

「…つまり、撃ちながら動く事は出来ないという事か!」

 

「如何にも。」

 

 

合点が行った顔で手を叩いた箒を見、ギムは満足げに微笑む。

 

 

「…その兵器の弱点を、

セシリア・オルコットが認識していないとは全く考えられないんだがね…」

 

 

そうぼそっと呟いたアレハンドロの言葉は、誰にも聞かれる事は無かった。

 

 

「残り二つっ!」

 

「生意気な…っ!!!」

 

「(必ず俺の反応が一番遠い角度を狙ってくるっ!)」

 

 

セシリアが二基まで減った羽を帰還させるよりも速く一夏は動き、その二つを切り裂く。

その大きさに見合わぬ爆発を起こした二基の羽を尻目に、一夏はセシリアへと突進した。

 

 

「距離を詰めれば此方が有利っ!!!」

 

 

一夏はそう言い放ち、右手に持った剣を握り締めて急加速するが… 

 

 

「…かかりましたわ…」

 

「!?」

 

 

セシリアの不敵な笑みに一夏が気付いた時には既に遅く。

 

 

「四基だけではありませんのよ!!」

 

 

彼女のISの背部に取り付けられていた一対の白い筒から、それぞれミサイルが発射されていた。

 

 

「し、しまっ…」

 

 

一夏は咄嗟に旋回してミサイルを避けようとするが、

ビームと違って追尾性のあるミサイルを避けきる事は出来ず…

 

 

「一夏ぁっ!!!」

 

「「…」」

 

 

箒の叫びと共にミサイルは見事に一夏に命中し、空は爆風に包まれた。

 

 

「織斑君!?」

 

 

司令室で見ていた真耶も思わず声を挙げるが、千冬は何故か微笑み顔。

 

 

「…機体に救われたな、馬鹿者めが…」

 

「え?」

 

 

その言葉を疑問に思い、真耶はモニターに映っている煙へと視線を移す。

煙が晴れるにつれて、その中にある機体の姿は明らかになっていく。

 

 

「…一夏?」

 

 

先程までよりも遥かに巨大な、白い翼。

 

 

「…えっ!?」

 

 

肩を覆う、白い肩当て。

 

 

「…機体の形式変化…」

 

「面白いでは無いか、白式ぃ!」

 

 

一回りは分厚くなったであろう、腕と足。

『白式』はその姿を変え、煙が晴れた中に佇んでいた。

 

 

「…?」

 

 

まだ何が起こったのか良く分かってない一夏の眼前に現れたのは、

『フォーマットフィッティング・終了』の文字。

 

 

「…な、何だ?」

 

「…まさか、ファーストシフト…

あ、貴方まさか今まで、初期設定だけの機体で戦っていたっていうの!?」

 

「…良く分からないが、これで漸くこの機体は俺の『専用機』になったみたいだな。」

 

 

一夏はそう呟きつつ、右手に持った剣に目を移す。

先程まで無銘だったその剣は、『雪片弐型』としてISに登録されていた。

 

 

「雪片弐型…雪片って、千冬姉が使ってた武器だよな…

…ふっ、俺は世界で最高の姉さんを持ったよ。」

 

 

その言葉と共に雪片弐型の刀身は割れ、青いエネルギーで形成された刃が現れる。

 

 

「けど、そろそろ守られるだけの関係は終わりだ。

これからは、俺が俺の家族を守る。」

 

「…貴方、何を言って…?」

 

「取り敢えずは、千冬姉の名前を守るさ。

弟が不出来じゃ、格好がつかないもんな。」

 

「良い弟を持っている様ですなぁ、織斑教官!」

 

『…』

 

 

ギムは嬉しそうに司令室を仰ぎ見た後、腕を組んで一声吠える。

 

 

「勝てよ、一夏ぁ!!!」

 

 

その声が聞こえていたのかは定かでは無いが、一夏はふっと微笑む。

セシリアにもその笑みは見えていた様で、苛々しながら再び白い筒を前方に向ける。

 

 

「ああもう、面倒ですわっ!!!」

 

 

筒の先端からは先程の倍のミサイルが放たれ、一夏へと襲いかかるが…

 

 

「見えるっ!」

 

 

一夏は軽々とミサイルの追尾を振り切り、雪片弐型で全てを一刀の元に切り捨てる。

 

 

「行ける…っ!!!」

 

「はっ…!?」

 

 

セシリアが硬直した瞬間を狙って一夏は急加速し、雪片弐型を全力で振るった―

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁ~…」

 

 

夕暮れ時、IS学園敷地内にある寮へと続く道。

一夏はがっくりとしょげかえり、横を歩いているギムに励まされていた。

 

 

「どうした兄弟、そんなに負けた事が悔しいのか?」

 

「そりゃあ、悔しいさ。

ギンガナムは悔しく無いのかよ?」

 

「小生は悔しいぞ?」

 

「…やはりIS関連の知識を学んでおくべきだったのでは無いかな…」

 

「白式という未知数の機体に、

マニュアルで身に付けた知識が通用するとお思いか?」

 

「だとしても、エネルギー切れによる負けは余りにも…」

 

「もう良いよ、その話は…」

 

 

そう。一夏はセシリアに負けたのだ。

しかもその敗因は『シールドエネルギー切れ』による物という不完全燃焼過ぎる負け方。

 

 

 

 

 

『…何で俺、負けちゃったんだ?』

 

『バリア無効化攻撃を使ったからだ。

武器の特性を理解せずに戦うからああなる。』

 

『…バリア無効化攻撃、ですと?』

 

『相手ISのバリアを切り裂いて直接ダメージを与える、雪片に設定された特殊能力だ。

これは、自身のシールドエネルギーをも攻撃に転化する能力。

私が第一回モンド・グロッソで優勝出来たのも、この能力による所が大きい。』

 

『そうか、それで白式のエネルギー残量が一気にゼロに…』

 

『ISの試合は、シールドエネルギー残量がゼロになった時点で負けとなります。

バリア無効化攻撃は、自分のバリアを犠牲にして相手にダメージを与える…

所謂、諸刃の剣なんです。』

 

『…では、織斑 一夏の機体は欠陥機であると?』

 

『その通りだ。』

 

『えぇっ!?』

 

『…言い方が悪かったな。ISはそもそも完成していないのだから、欠陥も何も無いか。

お前の機体はただ、他の機体よりも少しばかり攻撃特化になっているだけだ。』

 

『は、はぁ…』

 

 

 

 

 

「…特性を理解してないのがいけないって…あの状況で呑気にそんな事してられないっての…」

 

「今回は少しばかり臨機応変さに欠けたな、兄弟。」

 

「いや、逆に臨機応変に対応しすぎて肝心な所まで持たなかったんじゃないのかい?」

 

「どっちでも良いよ…

あーあ、これであいつがクラス代表か…」

 

 

一夏はぼやきつつ、夕焼けに染まった空を見上げる。

その耳元に、アレハンドロはそっと声をかけた。

 

 

「…織斑 一夏。」

 

「…一夏で良いって。何だ?」

 

「…何、大した用じゃ無いよ。

篠ノ之 箒が何か君に喋りたそうにしているので、それを伝えただけさ。」

 

「…箒が?

箒、何か俺に話したい事があるのかー?」

 

「へっ!?

な、何でででそうなるっ!?」

 

「いや、コーナーがそう言って…ん?」

 

 

一夏が横に目をやると、そこにあったのは呆れ顔のアレハンドロの姿。

今まで少し後ろを歩いていたギムも、彼の横で苦笑いしながら肩をすくめている。

 

 

「どうしたんだ、二人共?」

 

「…私達の事よりも、篠ノ之 箒と会話したらどうだい?

彼女には君に聞いてほしい話題が何かあるのだろう。」

 

「お、おう…

どうなんだ、箒?」

 

「い、いや、その、あれだな…

明日からは、ISの訓練も入れなければいけないな。」

 

「そうだな…自分の未熟さを思い知ったしな。」

 

「…その、一夏は私に教えてほしい「三人共、これからも宜しく頼む!」…」

 

「…あ、すまない箒…何か喋りかけだったか?」

 

 

一夏は箒の言葉を遮ってしまった事に気づき、言葉を止めて箒にそう訊ねる。

 

 

「…何でもない。」

 

「そうか、変な事訊いてごめんな。

ところで二人共、少し気になる事があるんだけど…」

 

「どうした、兄弟?」

 

「…何だい?」

 

「俺が先生に貰ったISについての規則が書かれた本、お前達二人も受け取ってたよな?

もしかして、二人も専用機を持ってるのか?」

 

「当然だ。既にここにある。」

 

 

ギムはそう言い、左手を一夏の眼前に突き出す。

その年不相応の逞しい手首には、

一夏の右腕で待機状態になっている白式と似た形状のリストバンドが巻かれていた。

 

 

「ほう、こうして見ると中々似ているな。

ISが待機状態時にとる形状は様々だと聞いたが、少しばかり運命的ではないか。

なぁ、兄弟?」

 

「お、おう…」

 

「ギム・ギンガナム、そう易々と他人にISを見せるのは…」

 

「待機状態だ、別に構わんだろう。

お主の方こそ、その目立つ紫色の鎖をどうにかしたらどうだ?」

 

「…容量の問題でね、仕方無い事なのさ。」

 

「…え、コーナーのそれってISだったのか!?」

 

「まあね。」

 

 

男子三人がIS談義で盛り上がっている中、一人残された箒は膨れていた。

これ以上いても話題が回ってこなさそうだと思い、彼女は早歩きで三人を抜かそうとするが…

 

 

「あ、箒!」

 

「…何だ?」

 

「今日はありがとう。」

 

「…うぇっ!?」

 

「お前のお陰で戦えたよ。

明日からの特訓も、宜しく頼むぞ!」

 

「…そ、そうか…そうかそうか、私と特訓したいのだな。

良し、では帰るとしよう!」

 

「え、ちょっと待てよ、箒!?」

 

 

急に上機嫌になって早歩きになった箒を追い、一夏は少し小走りになる。

 

 

「…初日の蟠りは解消されたみたいだね。」

 

「これで当分は安泰、だと良いのだがな。」

 

 

その二人の後ろ姿を見ながら、ギムとアレハンドロはそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…織斑…一夏…!」

 

 

丁度その頃、とある部屋のシャワー内で一人の女子生徒が恋に落ちていた。

その生徒の名は、セシリア・オルコット。

彼女は織斑 一夏から勝利をもぎ取った代わりに、心を奪われてしまったのだった。




専用機として姿を変えた白式に振り回されつつも、一夏は何とかこれに慣れていく。
更に何故かセシリアが譲渡した事によって、彼は正式なクラス代表になる。
そしてその頃、一人の少女が不敵な笑みを浮かべてIS学園の門前に立っていたー


次回
   『クラス代表』

大陸の風、ここにありー
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