東京喰種ー間ー   作:ショーP

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第2話 神代リゼ

少し肌寒いある日。わたしはとある知人のもとへ向かっていた。『あんていく』で働く前にお世話になっていた人たちとは未だに交友があり、時々夕飯を共にさせて貰っている。

 

今回は私が夕飯を作ることになっているので、スーパーで買い物をしてきたところである。

 

その道中、公園の近くを通ったときだ。

 

グジュグジュ、ブチッ。クチッ。

 

そんな音が公園の中から聞こえた。覗いてみると、

 

「………………」

 

「………………」

 

喰種がいた。

 

食事中だった。赫眼とバッチリ眼が合ってしまった。

 

女性の喰種に食われている男性はまだ息があるらしく、すがるような目でこっちを見てくる。助けを求めているのだろう。

 

その視線をーーー

 

 

 

ーーー私は歩みを止める事もなく無視する。

 

 

 

私は人間にも喰種にも味方につくつもりはない。

 

私の両親は喰種に食われ。

 

私の弟は人間に殺された。

 

『あんていく』の皆さんのようにかけがえのない絆を築いた喰種や、知人のように返しきれないほどの恩がある人間なら話は違うが、関係のない喰種と人間が殺しあっていたって、私には知ったこっちゃない。

 

好きにやっててくれ。興味ない。

 

しかし、あちらはそうは思わなかったようで……。

 

「なに? 私の食事をみといて帰れると思ってるの? 笑える」

 

紫色の長髪をたなびかせながら、公園で男性を食べていた喰種が後ろから声をかけてきた。

 

振り向くと、赫眼はそのままに、艶やかな笑みを浮かべていた。

 

「……慌てて食べたのかい? 口元に血がのこってるよ。あんな奴助けたりなんかしないし、通報だってする気もないんだからゆっくり食べてれば良かったのに」

 

「そんなの信じると思う? 見逃して貰おうとしてるのかも知れないけど、そんなの無駄よ」

 

「別にそのままの意味なんだがな。それで? 見られたから消しておこうってわけかな?」

 

「それもあるけどねぇ。ふふ。貴女ったら、とっても美味しそうな『匂い』がするんだもの! 私、まだお腹が空いてるのよ」

 

「一人食べたばかりだというのに……。随分と大食漢なんだな」

 

「……その言い方は止めてもらえるかしらぁ? ウケる。否定はしないけど。白鳩には『大喰い』なんて呼ばれてるし」

 

「『大喰い』? てことは、貴女が神代リゼか」

 

「…………どこで知ったのかしらぁ?」

 

「なに、私はそれなりにツテがあるということだよ」

 

話をできるだけ続ける。時間を稼ぐために。

 

「しかし、『大喰い』は男性しか食べないと聞いていたんだがな」

 

「いくらなんでも目撃者を放っておいたりはしないわ。それに、貴女からはそんなの関係なくなるほどに美味しそうな匂いがするんだもの」

 

気づかれないようにポケットに手を入れる。

 

「そうか。しかし、ただ黙って食べられるのを待っているとでも思うのか?」

 

「そっちこそ、貴女程度が私に勝てるとでも?」

 

「……勝てはしないだろうな。しかし」

 

取り出した紅い丸薬を一錠飲み込む。

 

「お前が私を食べることはないよ」

 

ドクンッ!!

 

私の心臓の鼓動が大きく、早くなる。血液が身体中を巡る。背中が熱くなる。

 

「……へぇ? なら、試してあげるわぁ!」

 

『大喰い』が襲いかかってくる。赫子を出してこそいないが、人の動体視力ではとても反応出来ない速度。

 

だが、私の『眼』はその動きを捉えている。

 

伸ばされた右腕を左手で掴み、右手を掌底の形にして『大喰い』のみぞおちに叩き込む。と同時に、左手を離して放り投げる。

 

「くっ!?」

 

驚きの表情を浮かべる『大喰い』。

 

「…………とある事情でね。喰種の相手は慣れているんだ」

 

「へぇ……だったら、これならどうかしらぁぁあ!?」

 

ズリュゥゥウ!

 

彼女の腰から赫子が飛び出る。二本だけだが。

 

それでも私には届かない。

 

向かってきた赫子の側面に手を合わせ、流す。

 

「……ッ!? 何で!? 普通の人間なら、掠っただけで肉を抉り取るのに!」

 

「そうだろうね。でも、いつ私が、『普通の人間』なんて名乗った?」

 

「……貴女も喰種なのかしらぁ?」

 

「ハズレ。喰種ではないよ」

 

私が飲んだ丸薬は一錠。見た目に変化は現れないが、私の身体は、強度も、筋力も、一般人とは一線を画している。

 

赫子を正面から受け止めることはできないが、受け流すことなら技術があれば可能な程度には。

 

そのまま、10分ほど小競り合いが続いた。

 

「何なのよ、貴女は。こんなのがいるなんて、あのジジィ言ってなかったじゃない……!」

 

「……ジジィ? それはもしかして、『あんていく』の店長のこと?」

 

「なに?知ってるのかしらぁ?」

 

「知ってるもなにも、私がそこのオーナーだけど」

 

「…………え?」

 

知らなかったようだ。土日には見かけないからしょうがないけども。

 

「……そう。ならもういいわ。貴女を殺したら、あそこの奴らがよってくるってことじゃない。そんな面倒なのごめんよ」

 

そう言って、彼女は後ろを向いて帰ろうとした。

 

「土日に来てみたら?」

 

私の呼びかけに彼女は振り向く。

 

「私は土日ならホールもやってるから。来たら少しはサービスするよ」

 

「……そう。それじゃ、今度行ってみるわ」

 

今度こそ、彼女は帰って行った。

 

 

 

 

 

………………あ。

 

 

 

 

 

prrrrrr ピッ。

 

「……あっ、ごめんなさい。ちょっとイザコザがあって……はい……はい……今から向かいます」

 

…………はぁ。

 

「…………急がないとなぁ」

 

私の呟きは、すっかりと日の暮れた空に吸い込まれた。




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