家庭教師ヒットマンREBORN! 夜の守護者 作:tomato88
先に言っておきます。 お願いですからツッコミは無しの方向で
「ケッ! なんでてめぇまでいんだよ」
「仕方ないじゃん。 帰り道、一緒なんだから」
「まぁまぁ、2人とも喧嘩しないで」
獄寺がツナのファミリーに加わって2日が経った。 そして、その放課後、今日は偶々、帰る時間が重なったため、3人は一緒に帰ることとなった。 だが……
「あ! ごめん! 私、1回学校戻るね? 忘れ物しちゃったから。 先に帰ってて?」
姫が学校に忘れ物をしたことに気がついた。
「あ、うん。 わかった。 もう遅いし気をつけてね」
「うんっ! ツナ君も車に引かれないようにね!」
「う、うん!」
「それじゃあ10代目! 行きましょう!!」
獄寺がツナを引っ張り連れて行こうとする。 その光景に苦笑いをしながら姫はツナと獄寺に別れを告げ、1人、学校に戻っていった。
▽▽▽
(えっと、数学の教科書は……あった! これだ!)
学校に戻った姫は教室に向かい、一番窓側の席の自分の机から忘れた教科書を取り出し、鞄の中にしまった。
ふと、窓から見える校庭を見てみると、1人の少年が居残って練習しているのが見える。
(山本君。 こんな時間まで何してるんだろう?)
実は姫、ツナ、獄寺の3人は一昨日のテスト返却日の時に問題を起こし、その反省文を書かされていたために帰るのが遅くなってしまったのだ。 現在の時刻は午後7時半。 もうとっくにどの部活も終わり、生徒は全員残っていない。
(そういえば、ツナ君が山本君がスランプだって言ってたっけ…… それでかな?)
そんなことを考えながら下駄箱まで移動し、せっかくだからと山本武に一声掛けようと校庭に向かった。
だが、校庭に出て姫が見たのは練習している姿ではなく、その場にうずくまり唸っていた山本武だった。
「や、山本君!? どうしたの!?」
「お……大空か…… ちょっと……ドジ踏んじまってな……」
「と、とりあえず! 保健室行くよ? あそこなら治療できるから!」
「あ、あぁ……」
そして山本武を保健室に連れてきた姫だったが、そこに先生の姿はなかった。
「なんでこんな時に先生いないの!?」
「こんな時もあるさ。 それより、湿布くれるか?」
「待って、私が診るからそこに座って」
そう言われ丸椅子に座る山本武。 痛そうに抑えている右腕をこちらに見せようとしているが痛みで動かせていなかった。
「無理して動かさなくていいよ? あと、1回左手を離してもらっていいかな?」
「あ、あぁ。 悪いな」
「いいよ、これぐらい。 えっと、少し腫れてきてるね。 何かにぶつかったりした?」
「走ってたら転んでな。 そん時に受身取れなくて打つけちまったみたいだ」
悔しそうな顔をしながら山本武はそう告げた。 姫はそれをわかりつつも冷静に症状を確認していった。
「うん。 打撲かひびか骨折か、そこらへんかな? とりあえず、応急処置しとくね? 腕を胸より上に上げてて」
言われた通りに山本武は腕を上げ、姫は氷と包帯を用意し、山本武の腕を処置していった。
「はい、おしまい! どう? 大丈夫そう?」
「おう! 大丈夫だ。 それよりもありがとな、ここまでしてもらって……」
「慣れてるから気にしないで! それに、私は知り合いが目の前で傷ついているのが嫌なだけだから」
特に血などはあの日のことを思い出してしまうから姫は嫌だった。
「ははっ! 大空ってすっげーいいやつなんだな。 見直したぜ! ツナといい、お前といい、オレのクラスにはすげーやつがいっぱいだな!」
山本武は嬉しそうに笑っている。 だが、その裏に何か別の感情があることを姫は感じ取っていた。
「山本君、何か悩みでもあるの?」
姫のその言葉に山本武は一瞬肩を震わせ、何か諦めた表情をして語り出した。
「かなわねぇなぁ。どうも最近、打率も落ちて守備も乱れててさ。 スタメン落ちしそうだったんだよ。 だから、居残って練習してたんだけどよ、このザマだ。 はは、野球の神様に見捨てられちまったかな……」
「山本君……」
「なぁ、オレはどうしたらいいんだろうな」
いつもの山本武からは考えもつかない自虐的な姿。 その姿を見た姫は一言だけ、呟いた。
「諦めることだけはしちゃ、ダメだよ……」
「……っ! 悪りぃ、俺帰るは。 手当、サンキューな」
そう言って山本武は逃げるように保健室を後にした。 残った姫は少し後悔していた。
(余計なこと、言っちゃったかな……)
▽▽▽
次の日の朝、姫はため息をついているツナを見つけた。
「ツナ君、おはよっ!」
「おはよう……」
「元気ないけど、どうしたの?」
ツナの表情は優れないものだった。
(昨日の山本君絡みかな……?)
姫自身、昨日のことで山本武の事を気になっていた。 何かあるような気がしてならなかったのだ。
「なんかリボーンがさ、山本をファミリーに入れろって言うんだよ……」
「山本君を? 確かにあの運動神経はマフィアに入れたら武器かもしれないね」
「えー!? 姫までそんなこと言うのー!?」
「え!? ダメだった!?」
そんなこんな学校に着いた2人だったが、教室には誰もいなかった。
「誰もいないね」
「どこいっちゃだんだろ?」
2人して首を傾げていると廊下から誰が近づいてくる音が聞こえた。
「ツナ君! 姫ちゃん!」
「きょ、京子ちゃん!?」
「どうしたの? そんなに慌てて」
「山本君が屋上から飛び降りようとしてるの! だからツナ君なら助けられるかなって思って……」
京子の言葉を全て聞く前に姫は駆け出していた。 その姫の行動に呆気を取られるツナと京子だったがすぐに我に返り姫の後を追った。
▽▽▽
3人が屋上に着く頃にはもう既に多くの人がいた。 その向こうのフェンスの先には山本武が見える。
「練習してもこのザマだ。 オレは野球の神様に見捨てられちまったんだ! いったい、オレから野球を取ったら何が残るんだよ……」
その発言を聞いたツナがどうして山本武がこんな状態になっているのかを理解した。
「お、オレのせいだ…… オレがあの時、深く考えずにあんなこと言っちゃったからこんなことに……」
ツナが「どうしよー!」と騒いでいる間にも山本武は飛び降りてしまいそうだった。 それを見た姫は人を掻き分けて前に出た。
「ちょっ!? 姫、何してるのー!?」
「お、大空……」
ツナは姫の行動に驚き、山本武は罪悪感で顔を歪ませた。 周りも突然の姫の行動に騒ぎ始める。
「大空、オレを説得しようなんて無駄だぜ」
山本武がこの状況で出した言葉だった。 オレの意思は固い。 何を言われても気持ちは変えないと。
だが、それを無視して姫は問いかける。
「ねぇ、山本君。 何をしようとしてるの?」
「……ッ!」
「ひ、姫……?」
周りもすぐに気がついた。 姫は怒っている。 山本武の行動に、全てを諦めようとしている姿勢に。
「もう一度聞くよ? 何をしようとしてるの?」
「みりゃわかるだろ? オレはここから飛び降りようとしてるんだよ」
「どうして?」
「どうしてってお前、言ったじゃねーか。 俺みたいな野球バカが野球の神様から見捨てられたら何も残んないんだって!」
だんだんと山本武の言葉が熱を帯びてきた。 それでも姫は淡々と言葉を並べる。
「どうして、見捨てられたって思うの」
「わかるだろ!? 練習しても上手くいかない! スタメンも落ちそうになる! 挙げ句の果てには野球に大事な右腕も怪我しちまった! どう考えてもそう思うだろ!?」
その2人のやり取りを周りもハラハラしながら見守っている。
「なんで、なんで…… たったそれだけのことでそれだけのことで死のうとしちゃうの……」
「たったそれだけって、お前な!!」
たったそれだけ。 その言葉に山本武の怒りは頂点に達し、いつもの温厚な山本武なら絶対にしないであろう姫の胸ぐらを掴んだ。
「なんでもできるお前にはわからないだろうな! オレの気持ちが!」
「わかんないよ…… 死のうとしている人の気持ちなんてわかんないよ…… 少しだけ我慢すればまた野球できるんだよ? 諦めないで死ぬ気でやったら乗り越えられたかもしれなあんだよ? 死んじゃったら……何も……何も残んらないんだよ……?」
姫にとって目の前で母親を殺されたこと、自分が殺されそうになったことがトラウマになっている。 だからか、彼女は死に敏感になっている。
「私、もう行くから、手を離して」
そう言って姫は山本武の手を解き帰ろうとする。
「大空! ちょっと待てよ!!」
山本武が姫の肩を掴んだ。 だが、移動しようとしていたため、引っ張られ後ろへと倒れてしまった。 そして
「え?」
「あ」
フェンスが壊れ、2人はそのまま…… 屋上から落ちていった。
▽▽▽
「姫!? 山本!?」
2人は屋上から落ちていった。 ツナはその場に立ち尽くしているだけだった。
(ど、どうしよう…… オレがなんとかしなきゃいけなかったんだ……)
ツナにそんな後悔の念が生まれる。 だが、それをこの男が見逃すはずがなかった。
「お前が2人を助けるんだぞ」
その声とともにツナは頭を撃たれた。
▽▽▽
「悪いな、こんなことになっちまって。 お前だけでも絶対助けてみせるからな」
屋上から落ちていく2人。 姫は山本武に抱きかかえられていた。 山本武は自分を身代わりに姫を助けようとしているのだ。
(どうしよう…… このままじゃ私たち2人とも……)
その時、
「復活!! 死ぬ気で2人を助ける!!」
ツナの声が響いた。
「うおー!! 待ってろー!!」
ツナは死ぬ気で校舎の壁を駆ける。 そして、届いた。
「スプリング弾だぞ」
ツナは頭を撃たれ、そこから髪の毛がバネのようになり、地面との衝突の衝撃を和らげ、3人とも無事に生還した。
「ふぅ…… よかったぁ……」
「ツナ! お前すげーな!」
「ありがとう。 ツナ君」
ツナは2人を助けられたことに安堵していた。が、同時に自分がしなければいけないことも思い出していた。
「ごめん、山本! あの時オレ、何にも考えずに言っちゃって! 山本は真剣に悩んでたのに……」
ツナは怒られると思って顔を伏せていたが、いくらたっても山本武は何もしてこない。 恐る恐る顔を上げてみると、山本武は1人、何かに納得してた。
「そうだよな。死ぬ気でやればよかったんだよな。オレ、どーかしちまってたな。 バカがふさぎこむとロクなことねーってな」
「や、山本〜」
さっきの事が嘘のような表情で山本武はそう告げる。 そして、バツの悪そうな顔に変わり、姫に謝罪する。
「大空! 悪かった! 恩を仇で返すようなマネしちまって! 謝っても許してもらえることではないと思う。 それでも謝らせてくれ。 悪かった!」
そう言って頭を下げる。 姫は俯いたままだ。
「いいよ、わかってくれれば。 私も言い過ぎたよ。 ごめんなさい」
「あ、ありがとう! 大空!」
姫と山本武が仲直りしたことでツナは再度、安堵した。
「それじゃあ、私、もう行くね」
「あ、うん! オレも着替えたら教室戻るから!」
「うん」
その日、姫は学校を休んだ。