ジェミニが覚醒した後、宇月達は彼の部屋に行った。
「最悪だ…ホロスコープスが増えた…」「ゆりこの行方も…」
宇月と礼の表情は、随分と重いものであった。
「ホロスコープスの目的って…一体なんだ?」
一夏の質問に、宇月が答える。
ホロスコープスはゾディアーツを生み出しながら、何を狙っているのだろうか。
「おれの知ってる限りでは、首領のヴァルゴは、残りの十二使徒を覚醒させるために動いている。特に十二使徒の中心である「サジタリウス・ゾディアーツ」の覚醒を急いでいるらしい。その先にある目的は…まだ分からない」
これ以上の目的は宇月も知らないのだが…。
「おそらく十三番目の使徒であり、蛇使い座の使徒「オフューカス・ゾディアーツ」を覚醒させる事が真の目的だろう。その十三番目が覚醒して、どうなるかまでは知らんがな」
礼は違う。その目的まで知っている。
なぜなら彼は…。
「どうして分かるのかな?」
シャルルの質問に、礼はアリエススイッチを見せ付けて答える。
その行動に宇月は焦る。
「れ、礼、おまえ!?」
「なぜならば…」
「おれはホロスコープス。牡羊座の運命を持つ「アリエス・ゾディアーツ」だからだ」
「「「「礼がホロスコープス!?」」」」
此処にいる、宇月以外の全員が驚愕した。
「半年前に世界を騒がせた「眠り事件」があっただろう。その犯人はおれだ」
「眠り事件」とは、アリエスである礼が、ヴァルゴの命令でIS開発者や政府要人を長期間の昏睡状態に陥らせ、世界を大混乱に導きかけた事件。
彼等の反応が想像していたのか、礼は馬鹿にしたように笑う。
「おまえ…フォーゼである宇月に近付いて…!」「騙してたのね!」
一夏と鈴音が敵意を見せ、白式と甲龍を展開しようとするが…。
「一夏、鈴音、待った!礼は「元」ホロスコープス!今は完全におれ達の味方だ!」
それを必死に止めた宇月。無駄な争いは起こすべきではない。誤解をすぐさま解く。
「でも…こいつは!」
「確かに昔は、アリエスとして「眠り事件」を引き起こしていた。でも、今はその人たちの眠りも覚ましたし、おれを支えるためにスイッチ調整やコズミックエナジーについて独学で学んだくらいだぞ!」
そういいながら、宇月が礼のクローゼットをあけると…。
様々なコズミックエナジーの資料が並べられていた。よく見ると、本の上には大量の付箋が貼り付けてあり、かなり年季が入っているように傷んでいる。
礼はその行動を見て、すぐさまクローゼットを閉じる。
「礼って実は…」
「ものすごい努力家ですの?」
「宇月、余計なことをしゃべるな!」
「おまえだって、自分がアリエスだって明かしたってことは、こいつらを認めたからじゃないのかよ?」
宇月はそう思った。礼は用心深い性格で、宇月にすらアリエスになる前の生活を明かさず、秘密も数多くあるくらいだ。
そう、まだ秘密が…。
そんな彼が自分から正体を明かすと言う事は、それ相応の信頼が必要なはず。
「…こいつらを遠ざけたかっただけだ。ゾディアーツ対策には邪魔だからな」
宇月を否定する言葉が見つからなかったのか、真実を述べ、パソコンに目を向ける。
その姿を見ていた箒は軽く笑いながら、腕を組む。
「素直じゃないな、礼」
「おれは常に素直だ。とにかく、宇月がゆりことケリをつけなければ、安心してフォーゼの役目を果たせん。関わる気があるならば、おまえ達も手を貸せ」
彼の申し出に、一夏達は頷きあう。
「最初からそのつもりだったさ」
「わたしにだって…何かできるかもしれない」
「パワーダイザーの操縦だって、あたしがいないとダメなんだからね!」
「もとより仮面ライダー部は、宇月さんに手を貸すことが目的ですわ」
「この状況で逃げるほうが、おかしいもんね」
5人の決意は固い。宇月は嬉しそうに笑った。
「みんな、マジで嬉しいぜ。おれに此処まで力を貸してくれるなんてな。…おっし、いくぜ仮面ライダー部!」
宇月が右手を高く突き上げる。まるでフォーゼに変身する過程で右手を掲げるように。
礼以外の全員も右手を突き上げた。
『おおぉっ!』
そのころ…。
ある場所で、ホロスコープスが集められていた。招集をかけたのはヴァルゴ。
集められたのは、ジェミニであるラウラ。それ以外にはスコーピオン、リブラ、レオ。
ホロスコープスが一堂に会するのことは非常に少ない。
あるとするならば、ヴァルゴ直々の任務を全員に依頼するか、今回のような新たなホロスコープスの覚醒を歓迎する時だけだ。
特にレオは、ヴァルゴが呼ばないと姿を見せることはない。
「おめでとう、歓迎するよ。ようこそ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。いや、ジェミニよ」
「…これで、わたしはIS学園最強の名を手にしたと言えるか?」
ヴァルゴの歓迎の言葉を無視して、ラウラは自分が一番気になっていることを聞く。
その途端…。
「貴様…我等が女王である方に何たる口の聞き方だ!」
スコーピオンが激怒し、ラウラに襲い掛かる。
「ちっ…!」
彼女はジェミニスイッチを押して、ジェミニに姿を変えて応戦しようとするが…。
ガッ!ドガァッ!
「ヌゥッ!?グアアアァ!?」
攻撃を全く防げず、蹴りを叩き込まれる。
「許さん…!貴様は絶対に許さない…!」
「グッ…!」
凄まじい剣幕で、ジェミニの胸倉を掴み、無理矢理立たせるスコーピオン。
だが、ヴァルゴがスコーピオンの手に優しく触れる。
「落ち着きなさい、スコーピオン。私を思う気持ちは有り難いが、此処は祝いの場。しかも主役に対して、その仕打ちは関心しない」
彼女の言葉を聞き、すぐさまジェミニを離すスコーピオン。
「…申し訳ありません、ヴァルゴ様。ですが、この者の態度…主である方に対するものではありません」
「煩いんだよ」
そこへ、レオが口を挟む。
「レオ…!」
「そういうことは、もっと結果を得てから言え。覚醒させたのは、ジェミニだけだろうが」
普段ならば彼に怯えるスコーピオンだが、今回ばかりは怒りを見せる。
「それを言うならば、君は新たな十二使徒を一人も覚醒させていないだろう?」
「アリエスはヴァルゴ様がスイッチを渡したとは言え、めぼしをつけたのはオレだ。貴様のように、何も分からずスイッチをホイホイ配ってるわけじゃないんだよ」
「何だと…!?」
一触即発状態のスコーピオンとレオ。それを止めたのは…。
「やめなさい!」
やはりヴァルゴだった。
「此処は祝いの場と言った筈。まずはジェミニの覚醒を祝うべきだ。安心したまえジェミニ。IS学園に潜り込んでいるスコーピオンを除けば、君は間違いなくIS学園最強だ」
そう言って、スイッチを再び押して元の姿に戻ったラウラに手を向けるヴァルゴ。
「…ふん」
肝心のラウラは、スコーピオンによる暴挙で気分を損ねているようだ。
スコーピオンも不本意ながらも、彼女に手を向ける。
「とりあえずは、歓迎しよう。我等は同士だからな」
これをずっと傍観しているリブラ。心の中でそっと呟く。
(ホロスコープスなど、どうでも良い。ヤツさえ消す事ができれば…!)
そして、その横では…。
拘束されているゆりこの姿もあった。
「…うつき…うつきぃ…」
彼女は涙を流し、彼の名を呼び続ける。
次の日。
朝のホームルームで山田と千冬から報告があった。
「今日は、臨時教師の方をご紹介します!」
山田の紹介とともに教室に入ってきたのは…。
20代前半の穏やかな表情の男性と、背が低く少女にも間違われそうな女性。
女性は赤いカチューシャが印象的だ。
「みなさん、こんにちは。今日から此処で少しの間、教師をする事になります。龍崎竜也と…」
「同じく、月宮あゆです。よろしくね」
クラスメイトの女子達は、2人を見ながら騒ぎ始める。
「なんか、優しそうだね…」「怒るイメージなし…」
「静かに!」
クラスのざわつきを千冬が粛清し、一つ説明を始めた。
「龍崎先生は、月宮先生と区別していただくために旧姓を使っておられる。故に本名は月宮竜也さんだ」
「と…いうことは…」
箒が聞くと、2人は少し顔を赤くして、左手を見せる。
その薬指には小さい宝石をあしらった結婚指輪があった。
「龍崎先生と月宮先生って、結婚してるんだ…」「お似合い~!」
「静かにしろ!」
再び千冬が騒ぎを治めて、説明を続けた。
「明後日は承知のとおり、ツーマンセルトーナメントだ。ペアの希望があれば、明日までに要望書とともに提出しろ。無ければ、ランダムで決める。以上だ」
放課後…。
ペアの件で、宇月達は教室に残った。
「とにかくさ、仮面ライダー部同士で固めたほうが良いだろ。最悪、おれ達の行動を知ってるメンツで」
そう言ったのは一夏。もちろんトーナメントでの、ゾディアーツやホロスコープスの襲撃に備えてだ。仮面ライダー部ならば連絡の取り合いも比較的簡単であり、知っている者同士ならば、ゾディアーツ対策の行動も不審がられたりしない。
すでに学校内の一部には知られているが、一応、仮面ライダー部もフォーゼも秘密にしているのだ。
「じゃあ、おれと組むやつ!」
宇月が手を上げ、候補を探すが…。
誰もいない。
「…なんで、こんなに不人気…?」
自分の人望のなさにへこむ宇月。しゃがんで、指で床に「の」をなぞる。
「仕方ない。じゃあ、おれが組もうか?」
「お、待ってたぜ一夏ぁ!」
そこへ一夏が申し出た。彼の言葉を聞いて…。
「わたしは…一夏がよかったのに…」
「まさか、宇月さんに取られるなんて…」
「もう!組む人、いなくなったじゃない!」
宇月にかわり、箒、セシリア、鈴音がしゃがみこんで落胆中。
その姿を見た宇月に罪悪感が募る。
「なんか、おれが悪いみたいじゃねぇかよ…」
3人を見ながら、嘲笑する礼。
「分かりやすい連中だな。さて、おれは…宇月が居ないから棄権す…」
「はいはいは~い!」
「ぬぉ!ノロマ!?」
背後から急に、本音が手を上げてきた。
「わたし、つっちーと組む!仮面ライダー部もフォーゼも知ってるもんね!」
「消えろ!おまえは関係ないだろうが!」
「あ、まって~」
恒例の礼と本音の追いかけっこが始まった。
「のほほんさんと礼って…仲が良いのか悪いのか」
一夏が2人を見ながら、ぼそっと呟く。
「さぁ…?」
数分後。
結局、礼は本音と組ませられる事になった。理由は簡単。
それが終わったら、フォーゼやゾディアーツに関わることはしないと言ったからだ。
「じゃあ、決まってない4人は…」
箒、セシリア、鈴音、シャルル。
だがシャルルは少し、勝手が違った。
「どわぁっ!?」
宇月達を押しのけて、クラスメイトの女子達がシャルルに近付く。
「デュノア君!わたしと組まない?」「わたしわたし!」
未だに紫苑と何故か女子だと知っていた理雄以外に男子と思われている彼女は、人気が尋常ではない。
止めにいきたいが、仮面ライダー部の事をクラスメイト達に持ち出すわけにはいかない。
そこに…。
「あ…えっと…ぼ、僕…シャルルと出たい!」
少し離れた場所から、紫苑が手を挙げた。
「白石君が…?」「珍しい…いつもは自分から行くような子じゃないのに…」
彼の意外な行動に、ざわつき始めるクラスメイト。
しかし、シャルルは…。
「うん。紫苑、一緒に出よう!優勝、目指そうね!」
「…うん!」
OKサインを出し、シャルルと紫苑のペアが決まった。
今回、男子のメンバーは、ここにいない理雄以外は全員決まったので、残りのクラスメイトも興味をなくしたように教室を出て行った。
残りは…。
「結局、こうなるわけね」「まぁ、仕方ないと言えば、仕方ないですわ」
鈴音とセシリアがペアを組んだ。どちらも専用機持ちであるので、真っ当な判断だ。
問題は…。
「…わたしのペアは…?」
宇月と一夏、礼と本音、シャルルと紫苑、セシリアと鈴音。以上の4組以外で余った仮面ライダー部のメンバーは…
箒だ。
「余りモノだ。大会参加も棄権したらどうだ?」
「なにをぉ!?」
礼が小バカにしたような感じで言ったところ、箒は怒って竹刀を礼に振りかざすが…。
パシッ!
「…!?」
片手で、完全に防がれた。
「そうやって、暴力で人を捻じ伏せたがる奴に、誰かペアを組んでくれると思うか?」
何気ない一言のつもりだった。だが、箒はその一言を聞いた途端に気迫を失い、竹刀を下ろす。
彼女の雰囲気を読み取った礼は、静かに告げる。
「素手で挑むなら相手を選べ。…おれは元ホロスコープスだ。忘れるなよ」
「あ、つっち~!」
そのまま席を立ち、本音も後に続いた。
「箒…」
取り残された箒が気になった一夏は、しばらく見つめていた。
「おい」
その視界を遮るように、ラウラが立ち塞がった。
「ラウラ…!」「ジェミニ…!」
「おまえ…ゆりこを返せ!」
彼女はジェミニであり、ホロスコープスの一員。レプスの時よりも強い存在である。
戦いに来たと思った宇月はフォーゼドライバーを取り出そうとするが、ラウラは手で制した。
「待て、戦いに来たわけではない。おまえ達とはトーナメントで決着をつける」
「どういうことだ…?」
疑問を言った一夏に対して、不敵な笑みを浮かべてラウラは宣言した。
「どうせなら、はっきりとIS学園最強の称号を得ようと思ってな。キサマらをトーナメントで叩きのめし、ゆるぎない最強を手にする!」
「なんのためだ?」
いつのまにか戻ってきた礼が詰め寄り、彼女の行動理由を聞く。
ラウラはヴァルゴ達から、礼がアリエスだと言う事は知らされており、彼を見た途端、鼻で笑う。
「ふん、おまえに教える義理はない。裏切り者のアリエスめ…」
「確認のために聞いただけだ」
実際、礼は観察力に優れており、理由を聞かなくても、その者の行動などである程度は目的が理解できる。
「…そうしないと、おまえの存在理由がなくなるからだろう?織斑一夏に拘るのは、姉の…」
「黙れ!」
核心を突かれたらしく、ラウラは激情してジェミニスイッチを押す。
だが、礼もアリエススイッチを押して、同時にジェミニとアリエスに変化する。
ガギィ!
アリエスのコッペリウスとジェミニの拳がぶつかり、鍔迫り合いのような状態になった。
「取り乱すと言う事は図星だな。…トーナメントでケリを着けるんだろ?」
ラウラの言葉をアリエスは呟き、ジェミニの行動を止めた。
「…覚えておけ。織斑一夏もフォーゼもおまえも…必ず倒す!」
そう言い残し、ラウラの姿に戻って去っていった。
別の場所ではあゆが、山田の見ている前でISの適性検査を受けていた。
「う~ん…」
「月宮先生、残念ですが…」
結果…起動しなかった。
実際、彼女はこの世界の住民ではないので、当たり前ではあるが。
「うぐぅ…やっぱりダメだったよ…」
「気にしないで、あゆ。ISが使えなくても、君にしか出来ない事がある」
付き添っていた竜也が元気付けるようにあゆの頭に手を置く。
「…そうだね…!ボクにだって!」
2人の姿を見ていた山田はくすりと笑う。
「本当に仲の良いご夫婦ですね」
山田の言葉に、竜也とあゆは少し微笑む。
「おれ達、たくさん困難を乗り越えてきましたから」
「うん!だから今、こうやって一緒に居られるんです」
2人の絆は揺ぎ無いものである。だが、そこまでたどり着くには、彼女が知る由もない凄まじい戦いや苦しみがあった。
山田は小さく呟く…。
「仮面ライダー部のみんなも…困難を乗り越えられるでしょうか…?」
寮部屋に戻る途中。
「あれ…千冬姉…」
一夏は千冬の姿を見た。隣にはラウラがいる。
「何故です、教官。貴方は何故、こんなところに居るのです?」
「逆に聞こう。ならば、私はどこに居るべきだというんだ?」
雰囲気はよろしくなく、ラウラが千冬に憤りをぶつけているようだ。
「ここでは、貴方の真価が発揮されないではありませんか!」
「私にどうしろと言えるようになったか…。随分とえらくなったな、ボーデヴィッヒ。いや…」
「ジェミニ・ゾディアーツ」
「教官…!?」
彼女には知られていないはず。どこかで見られていたのだろうか…?
「ある人から教えてもらった。自分や他者に対する不満を持った者が、ゾディアーツスイッチを押して変化する怪物…。どうやら、暫く見ないうちにお前も弱くなったようだな」
「違います!…わたしは…あのときより強くなりました!」
ラウラは千冬の言葉を確信を持って否定した。今の自分は弱くない。
「私が言っているのは…力と言う意味での強さではない。お前はその強さを持っているのか?」
「…ッ!」
彼女の問いに対して、ギリッと歯を噛み締めたラウラは、その場を走り去った。
「盗み聞きは関心せんな、織斑」
やはり気付いていた。
「ち、千冬姉…」
「織斑先生と呼べ」
普段であれば、2人きりの時は普通の呼び名で許されていたのだが、ここでもその呼び名を許さなかった。理由は分からないが…。
「は、はい…。ラウラとはどういった関係が…?」
「アイツは遺伝子強化試験体として生み出された試験管ベビーだ。戦闘における様々な分野において、優秀な成績を残していた。だがISの普及により、軍で出来損ない扱いされていたところ、私から指導を受けた事で、再び優秀な存在になれたというところだ」
それを聞いて、一夏はラウラが自分を狙う理由が分かった。
数年前、一夏は誘拐された過去がある。それを救ったのは、2連続優勝を賭けた第2回IS世界大会の決勝を棄権してやってきた千冬。
ラウラは過去の事から千冬を尊敬し憧れているらしいが、一夏のために千冬の輝かしい経歴に「IS世界大会決勝の棄権」という汚点をつけられたために、一夏を憎んでいるのだろう。
「…ところで、どうしてラウラがジェミニだって…」
「龍崎先生と月宮先生から教えてもらった」
「龍崎先生たち…?」
ラウラがジェミニになった瞬間を見ていたどころか、彼等はゾディアーツに遭遇すらしていないはず。
なぜ、彼等はジェミニのことを知っていたのか…。
推測するならば…。
(あの2人のどちらか…いや両方が…ホロスコープス?)
今、思いつくのはそれしかない。
同時刻。
鈴音とセシリアはトーナメントに向けての特訓を行なおうとアリーナに向かったところ、先客がいた。
「理雄さん…?」「不良男、マジメに訓練するつもりかしら…?」
そこにいた理雄は一人、アリーナを見つめる。
2人はなにげなく物陰に身を潜め、彼の行動を見ることにした。
「チッ…あのドイツ女…自分が最強だと抜かしやがる…」
彼はラウラが最強を謳うことが気に入らず、苛立っている。
「ふざけんなよ。最強はこのオレだ…!」
霧裂を握り締め、自身の力を示す決意をする。
「もう…後戻りはできねぇしよ」
そう言って、服を捲し上げる。
「あれは…!?」「うそでしょ…!」
2人はそれを見て、驚愕した。
彼の腹は異常なほどやつれており、皮と骨しかないように思えるほど細かった。
まるで、栄養を満足に摂取できていない、餓死寸前状態のようだった。
「トーナメントが終わったら…そろそろマジで動く必要があるな」
意味深な発言の後、後を少し見て、眉間にしわを寄せる。
「いつまで盗み聞きしてんだよ、中国女、イギリスお嬢様」
どうやら気付いていたようだ。観念して姿を現すセシリアと鈴音。
「特訓をしますの?」「似合わないほどマジメね」
「特訓だと?…バカじゃねぇの?」
鼻で笑い、すぐにその場を後にした。
そして箒。
「…」
彼女は礼の言葉が引っかかっている。
姉である束がISを開発した事により、一家は離反状態。彼女が行方不明後に様々な事情聴取を受けたりされた事で、精神的なストレスを大きく抱えていた。
自分の行動は、そこにあるのだろうと薄々だが自覚していた。それを紛らわせるために、学んでいた剣道に没頭していた。
だがそれは…。
「ただの…暴力だった…」
極端に言えば、ただの発散だった。
「意味のある力が欲しいか…?」
「…スコーピオン!?」
突如、そこにスコーピオンが現れた。右手にはゾディアーツスイッチが握られている。
何がしたいかは一瞬で理解できた。
自分にスイッチを渡し、ゾディアーツにさせるつもりだ。
「無意味な力ではなく、理由をもち、かつ強い力…。君ならば手に入れられるかもしれない。IS開発者である篠ノ之束の妹である君ならば…」
だが、箒はそれを受け取るつもりは全くない。ゾディアーツになった者達がどうなるかは理解している。
なにより…ゾディアーツも、以前の自分がやっていた暴力と変わりない。
「わたしには、その力も無意味だと感じる」
「案ずる必要はない。ゾディアーツとは、人が進化するためのモノ。言うなればゾディアーツも、フォーゼやメテオと似た存在なのだよ。君も進化し、織斑一夏達と共に戦える。さぁ…星に願いを…」
断る箒に全く引き下がらず、スイッチを押し付けるスコーピオン。
「断る!」
「クズが…。受け取る気がないならば…!」
断固拒否する箒に痺れを切らしたスコーピオンは、左手にある蠍の針を模した爪を振りかざす。
そこへ…。
「彼女にスイッチを渡してはいけない」
白い翼を生やしたゾディアーツが現れた。
今までのゾディアーツどころか、ホロスコープスをも越える威圧感を放つ存在。
それと対照的に、姿は女性的なモノである。
それを見たスコーピオンは跪き、頭を下げた。
「ヴァルゴ様…!」
「まさか…首領の乙女座!?」
目の前に現れたのはヴァルゴ・ゾディアーツ。ホロスコープスのトップである。
フォーゼが居ない今、下手に抵抗すると危険だと感じた箒は、その場で警戒しながら動かなかった。
「スコーピオン。フォーゼを支援する誰かにスイッチを渡そうとする作戦は素晴らしい。フォーゼの支援者達もジェミニと同じ代表候補生が多いからね。だが、彼女にスイッチを渡すことだけは許さない。今回は私の報告不行き届きだから、咎めはしないが…」
「はい…。申し訳ありません」
「少し篠ノ之箒と話がしたい、席を外してくれ。後、SOLUの件は…任せても良いか?」
「仰せのままに…」
深々と頭を下げたスコーピオンは、ヴァルゴの言葉通りに姿を消した。
「箒…」
それを見送ったヴァルゴは、箒を見つめる。
「気安く名前を呼ぶな…!」
「悲しいね。そんな風に邪険に扱わなくても良いだろう…?」
ヴァルゴは懐かしむように箒に呼び掛けるが、当の箒は警戒心を隠さず、すぐにでも逃げられるように身構えている
「おまえが全ての元凶なんだな…!」
「…そうだよ。私は間違いなく、この学園にゾディアーツを生み出している張本人だ」
「なにが目的だ…何のために…!」
箒の問いに、ヴァルゴは空を見つめる。
「宇宙…。無限のコズミックエナジーを秘めた、神秘の世界。ISは、その神秘を汚しているんだよ。だからISの人材を生み出すこの学園を潰し、ISを無機能化させる。宇宙に向かうことが出来るのは、コズミックエナジーに選ばれた者だけ」
「そのISを無機能化し、宇宙に向かう選ばれた者が…蛇使い座と言うわけか!?」
礼が言っていた、13番目の使徒。箒がその名を口にすると…。
「良く勉強してるね。そう、蛇使い座のオフューカスが覚醒すれば、全世界にあるISのコアは完全に停止する。止められるものなら…止めてみなさい」
ある程度の情報を言い残し、ヴァルゴは消えた。
しかし、彼女の行動に一つ気になることがあった。
「わたしのことを…箒と呼んだ…」
まるで馴染み深い者のように、箒と呼んでいた。
それに、ゾディアーツスイッチを自分に渡すことを「許さない」と言っていた。
今は避けているが、信じたくはない。だが、彼女以外に…思いつく人物がいない。
随分と口調や声が変化しているが、おそらくヴァルゴは…。
「…姉さん…なのか?」
「ただいま」
自室に帰ったシャルル。
すでに紫苑が窓辺に立っていた。どうやら、彼女が帰ってきたことに気付いていないらしい。
「紫苑…?」
「あ、おかえり、シャルル」
振り向いた紫苑は優しく微笑んでシャルルを迎えた。
「ありがとう紫苑」
「え…何が?」
いきなり感謝された紫苑は意味が分からずに、理由を聞く。
「ボクとペアを組んでくれたの、他の人にボクが女の子だって知られないようにするためだったんだよね?」
「あ…う、うん…まぁ…」
確かにそのつもりだったが、あの場で言ったときは、本人も自分で何をしているか分からないくらい緊張していた。
「優しいね、紫苑は…」
「そう…なのかな…?」
シャルルは紫苑の手を取り、強く頷いた。
「うん、そうだよ!じゃ、今日は寝よう。明日から特訓だからね」
彼女が布団にもぐりこんだ後、紫苑は俯いて暗い声で呟く。
「…シャルル・デュノアに、心を許してしまっている…」
拳を強く握って、部屋を出て行った。
礼は本音を漸く振り切り、宇月、セシリア、鈴音と共に部屋に向かっていた。
「ゆりこ…見つからなかったね」「気を落とさないで下さい。また明日、いっしょにさがしますわ!」
この3人でゆりこの行方を捜していたが、さっぱり見つからなかった。
そこへ…。
「オオオオォ!」
ドガァ!
「うおあぁ!?」
突如、スコーピオンが襲い掛かってきた。
既にクロークは脱ぎ捨てており、戦闘形態だった。
「スコーピオン…!」「今度は、そちら側からですの…?」「もう…空気呼んでよ、サソリ怪人!」
宇月を起こした3人は、スコーピオンに毒づく。
「フォーゼ、SOLUを返して欲しいか…?」
スコーピオンは、ゆりこの行方を捜していた彼等を煽るように言う。
「ゆりこを返せ!あいつは…あいつは!」
「では、感動の再会だ」
そう言って右手を空に翳すと黒い霧が現れ、中から拘束されたゆりこが現れた。
その身体は、所々から銀色の液体が漏れている。SOLUとしての真の姿が現れているのだ。
どうやら擬態が解けかけている。おそらく、何かゾディアーツ側の干渉を受けていたのだろう。
「うぅ…。あっ、うつき!」
それでも意識を取り戻したゆりこは宇月を見ると、絶望に満ちた表情から少しだけ笑みがこぼれていた。
「ゆりこ!てめぇ、ゆりこに何をした!?」
「…SOLUをコズミックエナジーに変換する実験だ。だが、彼女には感情が芽生えており、君ともう一度会うために一生懸命耐えていたよ。健気だったね、苦しみながら君の名を呼ぶ様は」
スコーピオンは笑いながらゆりこに不可思議な機械を取り付ける。
「だが、これが最後の別れだ」
電源をオンにした瞬間、彼女の身体は淡く光り始めた。
「あっ…うっ…」
「ゆりこ!」
弱々しい声が漏れ、宇月に向かって必死に手を伸ばす。
彼も手を伸ばし、その手を強く握る。
「うつき…。わたし…ちゃんと、うつきのきもちがわかったの…」
「…好きだったよ。…おれ、ゆりこのこと…」
「うん…わたしも…。ふぉーぜとか、おなじとか、かんけいなくて…」
「宇月が好き」
儚げな微笑を遺して…ゆりこは消える。
そこには、銀色のスイッチと、大きなレンジ色のスイッチが残されていた。
「そんな…ひどい…!」「うそでしょ…!?」「駄目だったか…」
鈴音とセシリアは唖然とし、礼は後悔で拳を握り締めた。
スコーピオンはそのうちの銀色のスイッチを拾う。
「SOLUスイッチが完成したよ。そこのスイッチは残りカスのようだから、受け取ってくれたまえ。形見としては、ちょうど良いのではないかな?」
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁ!!!!!」
宇月の激情に呼応するように、自動的にフォーゼが装着される。
「おまえええええええええええええええええええええええええぇ!!!!」
闇雲に突進し、拳をメチャクチャに振るう。
「一時の怒りで、私に勝つことは出来ぬ!」
ドガァッ!ズガアアァ!
「がはっ!うわあああああぁ!」
それらを全て避け、蹴りを叩き込んでいくスコーピオン。
「くそっ!くそおぉ!」
愛するものを奪った存在に、全く報いる事ができない。それが悔しかった。
礼は、セシリアと鈴音に問う。
「オルコット、鳳。おれは奴をフードロイドで分析しながら、メテオを呼んでくる。時間稼ぎを頼む」
「…よろしいですわ!」「今度こそ、あのサソリにひと泡吹かせてあげるわよ!」
そう言って、セシリアはブルーティアーズ、鈴音は甲龍を展開した。
礼は、バガミールなどをラビットハッチから持ってくるために、一度この場を離れた。
「サソリいいいいいいいいぃ!」「今のわたくし達…ものすごく気分が悪いですわ!」
突如の襲撃だったが、スコーピオンはヒラリとかわす。
「言ったはずだ。怒りで私は倒せないとな!」
大振りな攻撃だったため、後に大きな隙が出来た2人の背中を凄まじい勢いで蹴る。
ドゴオオオオオオオォ!
「「きゃああああああああぁっ!」」
地面に叩きつけられ、シールドのダメージもかなり減った。
「うおおおおおおおおおおおおおぉ!!!!」
フォーゼBSは2人の心配もせず、スコーピオンに向かって一心不乱に攻撃を向ける。
「あのバカ…!」「怒りで我を忘れてしまってますわ…」
いつもの様子はなく、ただ怒りに身を任せて拳を振るっている。
「落ち着いてください、宇月さん!」「それじゃ、サソリにも勝てないわよ!」
「うるさいっ!あいつを許す事はできない!」
セシリアと鈴音はフォーゼBSを必死に止めようとするが、それを振り払おうとメチャクチャに暴れまわっている。
<ELEKI-ON>
バリイイイィ!
「きゃっ!?」「うあっ!?」
2人を引き剥がすためにエレキを使い、変身時に現れる電撃で離れた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!!!」
「フフフ…ここで、フォーゼは終わりだ!」
2人は一気に距離を縮めていく。
そこへ…。
ドガアアアアアアアアァ!
「うわああああぁ!?」「ヌゥッ…!?」
フォーゼBSとスコーピオンを攻撃しながら、青い発光体が降り立つ。
「随分とお早い到着ですわね…」「礼、連絡が早くて助かったわ!」
光が消えると同時に、メテオが姿を現した。
「辻永礼の話どおりだな。まるで猛獣だ」
「どけええええええええええええぇ!」
フォーゼESはメテオにも我を忘れて攻撃する。
「目を覚ませ、フォーゼ!」
<SUTURN-READY>
メテオは右手にあるメテオギャラクシーのスイッチを押し、右手に土星のようなカッター状のエネルギーを作り出す。
<OK-SUTURN>
「アチャアアアアアアァ!」
ズバアアアアァ!
「ぐああああああぁ!」
メテオの攻撃の一つ「サターンソーサリー」で、フォーゼESの頭部を攻撃し、気絶させる。
「今だ、こいつを連れて逃げるんだ!」
「はい!」「わかったわ!」
セシリアと鈴音はメテオの言葉に従い、フォーゼESを抱えて退散した。
「用は済んだかな、メテオ?」
「あぁ。だが、おまえと戦うほど暇でもない」
そう言って、メテオはすぐさま去っていった。
取り残されたスコーピオンは去っていった方向を見つめる。
「仮面ライダーメテオ…一体、何者だ?」
翌々日。
宇月はあれから、ラビットハッチにこもって出てこない。
それを待たずして、遂にトーナメントの日がやってきた。
申請済みのペア以外はランダムで発表なのだが…。
対戦分けを見て、一夏は冷や汗が流れた。
「うわ…最悪だ…」
一回戦の対戦相手の一部を抜粋すると…。
篠ノ之箒&能美ミキVS辻永礼&布仏本音
セシリア・オルコット&鳳鈴音VS白石紫苑&シャルル・デュノア
織斑一夏&城茂宇月VSラウラ・ボーデヴィッヒ&裾迫理雄
「ラウラと理雄かよ…」
クラス内でも、特に厄介な2人が一回戦目の相手であった。
遠くを見ると…。
ラウラは一夏に対して不敵な笑みを浮かべ、理雄はラウラを敵意むき出しで睨んでいた。
教師の竜也とあゆは、彼等を見て心配そうな面持ちになる。
「大丈夫かな、竜也くん…」「信じよう。宇月君だって、この世界の仮面ライダーだ。ラウラちゃんも救ってくれるはずだ」
確信を持って呟く竜也だが、あゆの心配は収まらない。
「でも…万が一の時は…」「分かってる。助けるつもりだよ」
そう言いながら、龍騎のデッキをポケットの中で握り締めた。
続く…。
次回!
宇月、起きろ!
塞ぎこんで、どうするつもりだ!?
ジェミニ、君は用済みだ
なぜ、おまえは強い…?
強くなれラウラ。そうすれば、何も奪われはしない…!
まさか、あいつがスコーピオン…!?
第12話「恋・心・爆・発」
青春スイッチ・オン!
キャスト
城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ
織斑一夏
篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音
???=仮面ライダーメテオ
辻永礼=アリエス・ゾディアーツ
布仏本音
シャルル・デュノア
白石紫苑
裾迫理雄
ラウラ・ボーデヴィッヒ=ジェミニ・ゾディアーツ
ゆりこ/SOLU=仮面ライダーなでしこ
織斑千冬
山田真耶
龍崎竜也=仮面ライダー龍騎
月宮あゆ
???=スコーピオン・ゾディアーツ
???=リブラ・ゾディアーツ
???=レオ・ゾディアーツ
篠ノ之束(?)=ヴァルゴ・ゾディアーツ
あとがき
如何でしたか?
ジェミニがほぼ全く戦わなかったという…(汗)。まぁ、次回で何とか…!
礼の正体バレ、どのタイミングにするか悩みましたが、今回にしました!
後々にまわすと、厄介な事になるので。
ヴァルゴの正体に、少しだけ触れました。箒の予想は当たりか外れか…。
ちなみに彼女のペアの能美ミキは、元リンクスの娘です。原作の三浦ポジションかな…?
次回は、トーナメント!ラウラとゆりこの話に決着をつけます!
一応、メテオを大活躍させたいのですが…変身者が不明ですから四苦八苦(汗)。
遂にスコーピオンの正体にも触れる…かも?
お楽しみに!