虚ろな剣を携えて   作:狩奈

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再び笑う棺桶の中で

 

 盟友、いや盟友の幻影を認識した瞬間全力で跳躍して斬りかかった。敵の数は10人と格上を殺すには少ない。向こうが挨拶代わりだというならこちらは最初から本題に入るべきだ。ここで最低でもPoh一人、出来れば取り巻きをもう二人再起不能にしておきたい。俺が、現在眼下に存在するPohを幻影と判断した理由はただ一つ。

 

 ――そもそもホロウ・エリアとは幻影だ。

 

 しかし理想通りに物事は進んでくれない。Pohの前に取り巻きの一人が立ちはだかり行く手を阻まれる。曲刀の煌めきが視界の上を掠めて俺の首筋へ降ってくる。《曲刀》カテゴリソードスキル《リーバー》。しかしそれよりも速く俺はソードスキルを始動させていた。

 

 ――《ヴォーパル・ストライク》

 

 ジェットエンジンじみた轟音とともに打ち出された深紅の刃が、容赦なく心臓を貫き人影をポリゴン片と変える。あまりの躊躇のなさに、この場の全てが凍りついた。少し長めのスキル後硬直―――とはいってもかなり短縮され、1秒もないが。―――を脱すると俺は言った。

 

「さ、覚悟出来てないわけないよな」

 

 容赦なく蹂躙し―――全員殺す。

 

 床を蹴ると、一番近くの黒フードに斬りかかる。その後も動きは止めない。次に近い敵に斬りかかり、集団に対してダメージを与えていく。流石に案山子ほど無能ではないのか、斬撃が数発降ってくるがまるで遅い。前に戦った骸骨の王のほうがよっぽど速く硬かった。Pohを狙っているつもりが、器用に位置を変えて俺から逃げている。それでも逃げるだけの時間はいい加減に終わるころだ。狙いを定め、敵が出来る限りの数一直線に並ぶ位置に来るまで機を待った。そして来た。

 

 細剣スキル最上位突進技。《フラッシング・ペネトレイター》。

 

 かなりの数が砕け散った。残りはあと二人。Pohともう一人、幹部格の誰か。《赤目のザザ(XaXa)》か、《ジョニー・ブラック》、いや違う。

 

「よ、モルテ。いい加減そのあみあみ頭巾脱げよ暑苦しい」

 

「余計なお世話ですねぇ。そっちこそ、その真っ黒コート脱げばいいじゃないですか。暑苦しいのはお互い様ですよぉ?」

 

 《ラフィン・コフィン》の超古参勢。ふざけた口調と片手斧をトレードマークとしてSAO序盤から結構な数のPKを企画し、また実行してきた最早精神的には人外である凶悪レッドプレイヤー。そして奴の名前。由来はいたって単純にこうだ。

 

 イタリア語で《死神(Morte)》。

 

 互いに文句をつけながら互いに駆けだした。剣は両方とも鞘に収めて片手でウィンドウを開き《クイックチェンジ》を起動させる。向こうも全く同じアクションを起こしている。奴の選択は盾なし片手斧。最速のスキル《ランバー・ジャック》を発動させて襲いかかってくる。俺の選択したスタイルは―――

 

 盾持ち短剣。

 

 《盾防御》スキルのmod《反撃(カウンター)》が発動し、モルテの斧を弾き返して持ち主にもスタン効果を与える。純銀に輝く《アブソリュート》が限界を超えて左右に奔る。《ソニック・レゾナンス》。

 

 モルテが大きく吹き飛んでいく瞬間、黄色く濁った煙が俺を覆った。

 

「一手遅れましたねぇ。《麻痺煙幕》です。フッツーの煙幕の材料に《水》ってのがあるんですけどぉー。それを麻痺効果つきの水で作るとこうなるんですよお。いかがです? 男の手作り品で申し訳ないですが」

 

 俺はさっさと煙幕を抜けると、モルテの顔面に蹴りを叩きこむ。普通の蹴りだが《体術》スキルで強化されたそれは、さらにモルテを吹き飛ばすには十分な威力を持っていた。

 

「お前こそ甘い。俺に状態異常は効かないんだよ」

 

 いい加減HPも危険域までは減らしただろうと目を凝らすと、どういうことか半分以上までHPがあった。そこまで防御力の高い防具だったのか、それともレベルが予想外に拮抗していたのか。

 

「あー…。やっぱり持ってましたか……。《プレイヤーユニーク》装備」

 

 胡乱な単語を発するとモルテは続けた。

 

「ボクのこの頭巾ちゃんですけどぉ…。攻撃力の半分犠牲に5秒間で5000のリジェネつくんですよぉ」

 

「へえ?随分とまあ……この世界にご執心なお前にピッタリだな」

 

「ラーイヒさんこそぉ。この世界は虚構虚構ってまだ言ってるんでしょうけど、言ってるならよくお似合いですよぉ? 『感覚すらも虚構』ってとこですかぁ」

 

 気がつけばPohの姿は消えていた。煙幕で視界がふさがれた瞬間に逃亡したのだろうか。とにかくモルテに関してはコネクトを全力で使いでもしない限り倒せないことが分かった。今はそれだけ情報があれば十分だ。

 

「ん~ん~。流石に準備が足りなすぎましたかぁ。流石にこのままだと死んじゃうので帰りますねえー《転移》」

 

 転移結晶の対象になるのは管理区か、アインクラッドの主街区のみ。おそらくは《移動結晶》だろうか。転移結晶の上位互換アイテム扱いではあるが、あらかじめ場所を設定しないと使えない。おそらくどこかのアジトに転移したのだろう。とにかく親玉を叩くことは叶わなかったが、ただでさえ少ないだろうメンバーはそれなりに排除できた。次に会うときはキリトだか誰だかが何とかするに違いない。それより今確認するべきことが一つ。

 

「フィリア。お前あいつらと―――ラフコフと繋がってたろ」

 

「……うん」

 

 

 

***

 

 

 

 前々から、オレンジであることを警戒していた。アークソフィアに帰る直前に、フィリアが撮影クリスタルを持っていたことに気がついたときから警戒だけはしていた。滅多な証拠がない限りはどうにもできなかったが、奴らが俺の位置を完璧に把握。言い換えればフレンド登録したフィリアの位置情報から俺の位置を特定したことから、黙って見過ごすわけにはいかなくなった。

 

 まあ、当然脅されたんだろうがやったことの重大さだけは身にしみて分かってもらいたい。人を殺めてからではもう遅いのだから。

 

「ふーん? で? 脅されて怖かった? それで? 道連れに人犠牲にしてもいいのか?君はそうやって他人を平気で犠牲にしちゃう系人間なのか! おーけー、おーけー。みんなに言っといてやろうか?フィリアさんは仲間をを自分の保身のためなら平気でブッ殺す人ですって!」

 

 とりあえずは、こうしてひたすら言葉でなじり反省させた。もちろんフィリア自身の意思でラフコフの面々とのフレンドは解除させた。こういうとき、キリトならもっとうまくやるに違いない。俺はこういうやり方しかできない、だから駄目なんだ。キリトと俺には運命の強さとでもいうのだろうか。そういった眼には見えない力に圧倒的な差がある。そんなことを思って無性に自分に情けなさ、怒りを感じ、報われない悲しみをかみしめた。

 

 

 

―――それから約1週間ほどして、ホロウエリアにレベリングと称して出て行ったプレイヤーがあった。

 

《御影》のライヒはどれほど待っても帰ってくることはなかった。

 

 

 

 

 





 殺戮は救い足り得るだろうか。

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