未だ雪の止まないボス部屋前の大広間に攻略組は集っていた。やはり、と言うよりはいつもどおりに俺は後方で作戦概要の最終確認を聞いていた。やはり贔屓目に見てもアスナさんの統率力は流石だ。それと同時に今は亡き指揮官ディアベルをちらりと思い返す。あのバカ騎士との初めての会話は今でも覚えている。パーティ勧誘まではともかく、俺にこっそり「LAを譲ってくれないか」と言ってきたその図々しさには感服する他ない。俺との交渉失敗を反省したからか、遠回しに有力プレイヤーの戦力を削いでいたことは後にキリトから聞かされた。
戦力はフルレイドの四十九人、七パーティ。そのうち攻撃役は一パーティと少ない。具体的には俺、キリト、クライン、アスナさん、レイン、ユウキ。そしてシノン嬢。
九十層ボス『ザ・ブレイドルーラー』は先の『アルフェルド』よろしく騎士型のモンスターで、凄まじい大きさの両手剣を軽々と振り回す。そこまではいい、しかし今回注意するべき点としては常に『一定以下のダメージを無効化する』パッシブスキルにある。勿論ボス個体としての攻撃や速さも忘れてはならないが遊撃隊がちょろちょろヒットアンドアウェイをしても邪魔になるだけとの判断が成され、最大火力を叩きだせる七人を選抜して他の人員全てをタンクや荷物持ちで構成してある。
まさに『
「さて。年越しして早速これか」
「面倒な雰囲気出してるけど、一番戦いたがってるのはアンタじゃない」
そりゃそうだ。モンスターに殺意を向けていないと人を殺したくなるから仕方がない。最近変化したことといえば、予定していた通りにmod『装備部位追加』の二つ目を取ったことくらいだろうか。両足に一本ずつの短剣、少々重くなるが瞬間的に抜いて攻撃を捌くにはこれ以上に無く頼もしい。
死地に踏み込む前に、いつものアレはちゃんと聞いておこうと耳を澄ませる。
「それでは。――勝ちましょう」
「Ah―――aaaaa」
まるで歌っているかのような、どこか美しい咆哮。しかし気を取られている暇は微塵も無かった。歌い終わるや否や、凄まじい速さで横薙ぎに一閃。タンクが出て来るよりも早く俺とキリトが剣で受ける。その間にタンクの陣形は整いつつあるが、三十を超える人数だ。もう少し時間が要る。
「シノン!」
「了解」
キリトの合図で収束した光の線がシノン嬢の弓から放たれ、クリティカルポイントである頭を射抜かれた騎士は動きを鈍らせる。その隙に他の四人が一斉にソードスキルを放つ。HPゲージが目に見えて削れていく。
「あの四人でこれか。これは中々……」
「しゃべる暇があるなら躱せ。後ろとスイッチだ」
縦に軌跡を描く剣を横に飛んでやり過ごす。さて、どれくらい後ろが耐えるか。とりあえずの方針を伝えようと口を開きかけるが、踏みとどまってやめた。代わりに隣のキリトに押し付ける。
「キリト、お前から伝言しといてくれ」
「はあ!? 言いたいことがあったらお前が直接……」
「俺が言って聞く奴がいるかよアホ。いずれにせよ俺は背後を取って『繋ぐ』段取りだろ」
結局俺は折れてしまったのだ。俺が後ろでディレイを狙うと言いださなければこうも大勢が来るわけがない。アスナさんからは散々謝られたのでもうそれでいいとした。しかし俺の評判の悪さは相変わらず。それならキリトに言わせたほうがいい。
「縦斬りは回避してそれ以外の攻撃は前に出て受けさせろ。それだけ言っといてくれ」
「わー……かったよ。言っとく」
後は何とかしてもらおう。俺よりも上手く伝えてくれるはずだ。肉薄する俺を嵐のように振われる剣が邪魔をする、しかし時に躱して時にいなすことで何とかソードスキルの射程にまで潜り込む。
「いよっ――と」
片手剣スキル《レイジスパイク》を発動させて脚部を裂きながら一気に後方まで潜り込み、そして着地する前には既に左手でスキルの形を完成させておく。細剣スキル《スター・スプラッシュ》。ここまでで刺突系の攻撃の効果が薄いことを看破すると即座に次へ次へと発動させるべきスキルを脳裏で構築する。《スネークバイト》、《オーバー・ラジェーション》、《ファントム・レイブ》――
「兄ちゃん、スイッチ行くよ!」
「了解……。スイッチ」
完璧なタイミングでユウキが飛び込み、次いでレイン、アスナさんにキリトと増援が代わる。シノン嬢に関しては近接戦闘はほぼ無理なので仕方ない。しかし後ろから確実に頭を射抜く集中力は半端ではない。みるみるうちに三本あるHPゲージが一本削れる。
「まあ今回も何とかなるか、な」
「ねえ、あたしのこと忘れてない?」
「あ、いやちょっとスキルの上がり具合がよくってさ」
「まったく……。これ以上何のスキルを上げるつもり?」
渡されたリジェネ系ポーションを煽る。純粋にミントの味と香りがして中々に美味しい。
「ライヒ君、スイッチ五秒前!」
「おっけ」
アスナさんのレイピアが鎧の間を貫いたのを見届けると同じく《スラント》で鎧の隙間に斬り込む。そして剣を両方投げ捨てると《龍爪》でさらに抉る。さらに《閃打》、《玖乱》、《瞬牙》と突きの類の体術スキルで膝の裏側を執拗に抉って抉って抉る。やがて騎士は膝を崩され『転倒』状態に陥る。短剣を抜き《ファッド・エッジ》を放ちながら叫ぶ。
「全員フルアタック!」
のしかかるようにタンク隊が最大威力のスキルを叩きこみに掛かる。ただでさえAGIの乏しいタンク隊だが確実に攻撃を当てられるならそれでいい。凄まじい効果のパッシブスキルの代償として、極端に低いHPゲージは凄まじい勢いで減少しわずか数ドットを残して止まる。
「もらったぁぁ!」
キリトが物欲丸出しで《ソニックリープ》を発動させるのを横目で見ると、俺は静かに《ニュートロン》を発動させた。黄金の軌跡は若草色の風を追い越して騎士の鎧を神速で穿つ。
収縮、爆散。
スキルを空振りし、唖然とするキリトにねぎらいの言葉をかける。
「
***
「で、す、か、ら! 少しくらい見せてくれてもいいじゃないですか」
「え? 嫌だよ、これは俺のなの。君に見せるためのものじゃないの」
今回のLAは短剣だった。短剣の二本目の性能が心元無かったので俺としてはありがたいが、短剣使いのシリカに執拗に見せろとせがまれる。相手をするのが非常に面倒だ。皆は勘違いしているようだが、俺は別に優しくなったわけではない。ちゃんと、自分の本音を話すようになっただけだ。
「じゃあ、デュエルで勝ったら見せてもらえますか?」
「デュエルはいいけど、短剣は使わない」
「それくらいにしてやれライヒ。剣くらい見せてやれよ……」
涙目のシリカを救済に入るキリト。結局折れて短剣を見せてしまうところが俺の甘さだと思う。レインやユウキ曰く、それが優しさというものらしい。
「なんで頼まれたら断らないんだろうなぁ、俺」
「君がやさしいからだよ」
正面の席に座るレインが言った。愛想笑いで受け流すと、頼んでおいたカフェオレに口をつける。
もう終わるかも知れない世界で、一体何をそんなに楽しくしているのか。きっといつまでも変わらない俺の心情を舌の上で転がしつつも、カフェオレを楽しんでいる俺がいた。
報いは罰にのみ与えられるわけではない。
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