虚ろな剣を携えて   作:狩奈

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残されたのは、腕に残る微かなぬくもりだけ。




if:邂迷

 要するに、懲りないのだ。俺という人間は。ホロウエリアでは何度も死にかけたというのに、こうしてまたスキル上げを敢行している。俺の理性はそのように語るが、本能の内では見る見る上昇する熟練度の数値を見て興奮さえしているのだから。自分で言うのもおかしな話だが、全くもって狂っている。

 

レベル121モンスター《カオス・スケルトン》に向けゆったりとした動作で振りかぶり、上から《スラント》を発動させた。それよりも早くスケルトンはガードの体勢に入っているが、お構い無しに腕を振り抜く。俺の剣は宙を舞う。俺自身は既にスケルトンの懐に迫っている。

 

そして既に右腕は腰の真横に構えられている。スキルコネクトならぬ、《片腕連携(シングルアクション)》。

 

「余所見してんな」

 

体術重攻撃技《龍爪(タツメ)》がスケルトンの顔をHPバーと共に粉砕した。獲得経験値、コル、アイテムを流し見しつつ、剣を拾いに少しだけ来た道を引き返した。主武装《ナーバライザ》をくるくると指先で弄びながら腰の鞘に納める。

 

「はあ……。お前って怒らないからいいよな」

 

血盟騎士団には色々と規則が存在するが、その中でも『剣を己の半身とし、丁重に扱うべし』。これには正直呆れを通り越して笑うしかない。剣が半身? リアルの自分は剣なんて重いものなど持ち上げる事も出来ないのに?

 

だからこの世界に於いての武器は、俺にとってはどこまで行こうと道具しかない。ただし、信頼できる道具としては扱う。例えば先程のように雑に扱おうと、アルベリヒとのデュエルでやった様に投げようと、うっかりメンテを忘れようと、暫く放置しようと、絶対に逆らわない使い勝手のいい道具として。

 

傲慢だと思うだろうか。だが、《本当》に使えもしないのに《愛剣》などという方が傲慢ではないだろうか? だからこそ俺は剣を己とを切り離している。まあ、一度それをリズに語ったらブン殴られたので他人には話さないようには心がけている。

 

「馬鹿馬鹿しい……」

 

今日はまだ目的を達成していない。せめて終わるまでは、何かの感傷に浸るのは、よそう。死だけはどう足掻いても現実と繋がっているのだから、どうしようもない。

 

ジリオギア大空洞エリア、大空洞入口付近に稀に出現するモンスター《刃竜レイディーン》。こいつをソロで打ち負かせたら、すぐに帰るつもりでいる。()()()()()()()()()()()()()()()()()が。

 

生と死の境が曖昧なこの世界に於いて、死をはっきりと直視するのは大事な儀式のようなものだと俺は考える。極限まで己を死に追い込み、生と言う細い綱を渡る。その果てに俺は生きていることを改めて確認する。今日に限らず、俺は無茶な戦闘を幾度も繰り返している。

 

そこには勝算など無い。絶望的なレベル差を、理不尽を相手に、生きる覚悟を再燃させるため。そんな狂った理由で俺は今を生きている。

 

生きるか死ぬか(stay living or dead end)。それだけの世界のはずなのに。いつの間にかそれを忘れてしまっている。嗚呼、今日は随分と運がいいようだ。虚空からポリゴン片が一点に収束して大きな何かを形作っている。嗚呼、世界はそんなに俺を殺したがっているのか。

 

宇宙の深淵を思わせる青い体。触れただけで体が切れてしまいそうな尾剣。空すら裂くような双翼。そして、濃密な死の気配。

 

《raydean of sworddragon》

 

(シャ)

 

もはや視認すら不可能な速度で水平に振るわれる尾剣。それを勘だけで始動させた《ホリゾンタル》で迎え撃つ。横薙ぎ同士で押し合う形になり、歯を食いしばり必死に抑え込む。鍛え上げた筋力パラメータが功を奏したのか、逆に弾き返すことに成功する。だが、追撃までは出来なかった。余りの重さに腕が次の動きに反応出来ていない。

 

このままでは、倒し切る前に集中力が切れる。

 

続けて襲い来る縦斬りをステップで躱して、今度こそ反撃を開始した。ソードスキルでは遅すぎる。故に通常の連続攻撃だけで勝負する。

 

二年もブッ通しでレベリングをしているのだ。それくらいの芸当は当然出来る。狙うは尾剣の付け根。《レイディーン》と同タイプの敵とは以前に戦った事があるため知っている。尾剣は最大の武器にして無二の弱点。つまり、切り落とせばーー

 

『ァァァァアアアァァ……』

 

ーー落ちる。

 

次は双翼。これで二度と飛べないだろう。

次に爪。これで二度と切り裂けないだろう。

次に眼。これで二度と俺を視認出来ないだろう。

次に頭。これで死ぬだろう。

 

スキルコネクトで次々と要所を破壊し、死に追いやる。SAOはもう少し思い知るべきだ。死の瀬戸際に立っているのはお前達も同様なのだと。

 

「バケモノは、お互い様だよ」

 

確かに強いモンスターではあったが、ワンパターンなのだ。刹那の隙を的確に突けさえすれば、やはり恐るるには足りないのだ。俺は、俺の思う以上にバケモノじみている。そしてスキルはやはりレベル差を覆しうるのだ。限界を超えた動きを、理不尽すら打ち砕く破壊力を、それらを可能にしてくれる。

 

化ける。そう、文字通り人が化けるのだ。

 

「気ッ持ち悪いなあ……。現実とかけ離れすぎでしょ」

 

絶望的弱者が一瞬にして絶対的強者へと豹変する。それが、俺の強み(スキル)

 

また一つホロウ・ミッションをクリアしたことで、左手の甲に刻まれている十字に双翼を模した紋章が少しの間光量を増して、

 

―――ズバ。

 

「えっ……」

 

―――ズ、ズズ、ズババババ――

 

そして何の前触れもなく、俺の見る世界が塗り変わっていく。前方に見えていたはずの森も、後方で口を開けていたはずの大空洞も、ゼロと一の羅列に置き換わっていく。やがては空までも……。

 

「おい、何だよ。これは何だ!」

 

そして俺もゼロと一に飲み込まれ――

 

 

 

***

 

 

 

気を失っていた。よほど徹夜でもしない限りそんなことは無いはずなのに、一体何故。未だぼんやりと霞む頭を左右にひとしきり振ってから、周囲を見渡すと真っ先に目に付いたのは大きな扉だった。年月を感じさせるその木組みの扉は印象に残っている。ここが迷宮区ではないことからこの先に控えていたのは中ボスクラス――恐らくはフィールドボスだと推測できる。主街区も扉が語るように木組みの街で、確か名を『オブシディア』。攻略済みなのだからボスと相まみえることはなさそうだ。に、しても。

 

―――はて。

 

何かのバグで偶然にもここに転移してしまったのだろうか。それだけならいいのだが、今更カーディナルシステムがバグを引き起こすだろうか? 確かに機械である限り完璧ではないが、それにしたって『今更感』が強い。だがクリアはされている階層だ。このまま扉を抜けてしまえば次の村まですぐに辿りつく――筈。

 

なんの気負いも無しに、自宅の入り口を開ける感覚で扉を押して数歩進むと、ボス部屋の億でバタンと大きく派手な音が聞こえた。いやいや、まさかそんな、おかしいって。しかし俺の否定をさらに否定しつつ松明が道を示すように順に点灯する。そしてその先に存在したのは。

 

《シャガラガラ・ザ・キングキメラ》。

 

顔はライオン、顎はワニ、四肢はクマ、胴はゴリラ。

 

まさしく合成獣(キメラ)のそれである容姿は、正直なところ見ているだけでも気分が悪くなる。それを理由に攻略をサボったのはいい思い出だが、なぜ()()()()はずのボスが復活している!?

 

俺の困惑を余所に、凄まじい速度で接近し腕を叩きつけてくるキメラ。こちらも突進しつつガードで去なそうと試みる、が。

 

力負けし、()()()()()()()()()()()()()()

 

おかしい。どう考えても71層の中ボスごときに力負けなんて有り得ない。と、言うより。

 

「テメエ、ワンパターンで負けたばっかだろうがよ。ホロウエリア最高位(ハイエスト)テスター舐めてんの?」

 

その言葉に呼応したのか左手の紋章がほんの僅か瞬いた――気がした。

 

「フルスロットルで行こうか――。《OSS》、起動」

 




 今回はジャンヌ・オルタ様の作品「ソードアート・オンライン〜白夜の剣士〜」とのコラボ作品となっております(ALO編はしばしお待ちを)。綿密に話し合いを重ねた末に出来上がったものなので、楽しんでいただければ幸いです。

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