虚ろな剣を携えて   作:狩奈

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理不尽とは嵐みたいなもの。無意識に弱者を吹き飛ばす、そういうもの。




if:疑技

一本一本がまるで包丁の様に巨大な爪が胸部を浅く抉った。幸いスタン付与まではされなかったが、攻撃回数があまりに多い。経験則と勘に頼りつつも両腕から何度も繰り出される薙ぎ払いを掻い潜り、比較的肉質の柔らかい腹部に攻撃を加える。

剣技連携(スキルコネクト)》。 

斬、打、突、合計10種類のソードスキルを叩き込んでから離脱し、HPバーを確認して途方に暮れる。

 

「オイオイ……。お前本当にフィールドボスか?」

 

三段HPバーの一段目すら、()()()()()()()()()

 

90層級のエリアボスでも、攻略組のソードスキルを10種も食らえば二割は削れるはずなのに。ポーションを雑に飲み干してから瓶を放り投げ、圧倒的なHP量を前に正攻法では絶対に勝てないことを改めて認識し――全力で踏み込み、正面から襲い掛かった。

 

「《スケアクロウ》、《インビジブル》、《ファントムステップ》、《サイレントブースト》」

 

ポーションの瓶の割れる音によってキメラの意識は僅かに俺の後方に向けられる。その隙を突いて隠蔽系統スキルを重ね掛けし、瞬く間に懐へ潜り込むと右足に装備した短剣を最低限の動きかつ最短距離でキメラの眼球に投擲する。短剣を刺したままにして半永久的に視界を奪えれば、まだ楽に戦えると踏んでの行動。しかし、キメラはそれさえも躱してみせた。まだ俺に気づいてさえいないのに、だ。

 

第六感(センス)持ち。極々一部のモンスターが、まるで勘に頼ったかの様に動く。それ自体は分かっているが、観測され始めたのは80層を超えたあたりのタイミングだった筈。人間の感情までモニタリングするカーディナルシステムならやってのけるだろうが、いざ戦うとなれば厄介なことこの上ない。なぜなら当たるはずの攻撃に対して刹那的なタイミングで緊急回避をしてくるのだから――例えば()()()()。それがまさか71層程度のフィールドに登場するとは。強制転移といい、ゲームバランス崩壊といい、毎度のことながらカーディナルは一体何をやらかした?

 

「GISYAGISYAGISYA!!!!」

 

今度こそ逃げられない。キメラはこちらをジロリと一瞥すると、その剛腕を叩きつけるように振るう。剣を割り込ませて防御するのは簡単だが、凄まじい筋力パラメータの前に通じるかどうか。俺が潰れるのが先か、剣が壊れるのが先か分からない。接触まで残り1秒……。

 

「――無明、三段突き――――ッ!」

 

其れは、音すら超えて空を駆けて。

其れは、認識を超えて宙を裂いて。

それは、刹那の刹那のまた刹那に。

 

誰かが、明らかに人間離れした()()()()で腕を弾き返し、俺の前に音も立てず着地した。それだけではない。()()()()装備すると、凄まじい速さと威力のソードスキルを始動させる。目が眩むほどの光に、耳をつんざく轟音。2()5()()()。これでようやく一割。

 

その誰かは俺に向けて警告の言葉を発したようだが、ほとんど聞こえない。俺の意識は『そんな馬鹿な話があってたまるか』と、何度も何度も反芻している。()()()()()()()()()()()なのに、それを両手に持つなんてどういう事だ。理解できない。

 

俺の《両手装備》もとい《異双流》が最弱のユニークスキルだという事、刀が二本だから本当の意味での《二刀流》として成立すること。出来うる限りのすべてを許容しても納得できない。そもそも同ランクの片手剣と刀では、一般的に刀のほうが最低でも二倍程度重い筈だ。ある程度の制限を無視した力がユニークスキルで、その範疇だと言われてしまえば何も言えない。でも、何かが引っかかる。()()()()()()()()()という何の根拠もない、ともすれば逆恨みような感情がぐるぐると渦巻いている。

 

「いや……。そもそも、()()()()()()、のか?」

 

調べなければ、知らなければ駄目だ。俺の置かれた状況、ここが本当にSAOなのかどうか、そして目の前の不可解なプレイヤーについて。とりあえずは、色々引き出すことから始めよう。レインの言葉を借りれば、()()()()()()()()()

 

「おい、聞いてるのか! このボスは君だけじゃ勝てない!」

 

俺に再度忠告をしつつ、知らないソードスキルを次々と繰り出す謎のプレイヤー。先ほどは迫力に押されてしまったが、やはりちらほらと隙が見える。例えば、スキルコンボの際の戦闘の運びは俺のほうが明らかにに上を行っている。だから、手助けの意味を込めて三連突き《ペネトレイト》を放つ。行動遅延効果が高い一撃に、さすがのキメラも僅かに動きを止める。

 

謎プレイヤーへ改めて向き直り、出来るだけ意地悪で多少狂ったような、そんな作った表情を浮かべて言う。

 

「そんな見たこともないスキルぶっ放す奴がいるのに、対抗しないとでも?」

 

がら空きの脇腹目掛けて《ホリゾンタル・スクエア》を打ち込み、それを始点に連携を開始する。《シューティング・スター》、《カーネージ・アライアンス》、《クルーシフィクション》。そしてそれに被せるように謎プレイヤーは先ほどの25連撃他カタナスキルを発動させる。

 

「やっぱり防御力じゃないな……。HP量が膨大ってのが濃厚……」

 

既にクリティカルの数は50を超えていて、『硬い』といった印象も持てない。流石にここまで酷い個体に遭遇したことはないが、似たようなモンスターはいくらでも見てきた。何回か偵察を繰り返せば倒せなくはないだろう。

 

「そこまで分かるのか?」

 

「慣れだよ、慣れ。まあざっくり観察した程度だし、このくらいは攻略組が大体掴んでると思うぞ」

 

攻撃パターンは、威力速度ともに魔改造されているものの問題なく回避できる。横のプレイヤーの超絶火力があれば徹夜になるだろうが倒せる。ただしこれはあくまで少数精鋭だからであって、まともなパーティーやレイドを組んではとてもじゃないが無理だ。援軍が来ないのであればこのまま戦い続けるのもやぶさかではなかった。

 

「先輩!」

 

「ソラ、無事ですか!」

 

金髪なお姉さん系美女に、正統派メガネっ娘。オタク本能が疼くが全力で押しとどめる。……ほほう、このソラとかいうプレイヤー。おそらく()()()()で、モテモテに違いない。モテて、モテすぎで、モテまくってるに違いない。まったく腹立たしい。リア充は須らく爆発してくださって結構ですよ。

 

――それは、そうとして。

 

金ピカ鎧さんとソラ氏は見事な連携でキメラをその場に押しとどめている。いや、見たところ純粋に打ちあえばソラより金ピカ鎧のほうが圧倒的に強いだろう。金ピカ鎧の作った隙にソラが潜り込む。戦術としては簡単だが、互いを互いにカバーしあうその姿は中々様になっている。あの二人が強いのはよく分かったが、それではこのメガネっ娘はなぜここについて来ているのだろうか。識別スキルで覗かせてもらったが、レベル差が奇妙に開いている。

 

「すごいですよね、先輩は。あんなに強いモンスターと対等に戦えるなんて」

 

「先輩って……あのソラって人? まあ、あれだけ強いスキルぶっ放せるんだからそうなのか」

 

反応してもよかったのかどうかは分からないが、なんとなく返答してみる。流石に、俺も渡り合えてましたよ、なんて事は言わない。最弱ユニークスキル使いの分際でそんなことを言うのもそうだが、ああいう輩とは張り合っても仕方がない。結局キリトとの関係もそうだった。勝とうとする事自体が間違いな奴は、結構な割合でいるんだと思う。

 

「そういえば、君はどうしてここに? あの二人とずっと一緒にいるにしてはレベル差が開いてるけど」

 

「えっと、最近入れてもらったんです。先輩と再会したのもそのころでしたから。……えっ? 何で私たちのレベルが分かるんですか?」

 

「何でって、識別スキルで見ただけ。対象のレベルが自分未満なら問答無用でステータスも見えるから便利。コンプリートしないとあんまり使えないんだけどね」

 

「先輩よりも、レベルが高いんですか……?」

 

とりあえずこの場ではこれで十分だ。あのソラとかいうプレイヤー、信頼も厚くレベルは恐らく最高峰。レベルに関しては彼我の差に確証が持てないが、スキルから得られた情報は絶対だ。今は信じておく。墓穴を掘って俺のレベル帯についてあらぬ誤解を受ける可能性が出てきたが、逃げるだとか隠れるだとかいくらでも生き抜く方法はある。

 

そして、ついに二人はキメラを転倒させた。メガネっ娘を置き去りにして、AGI全開でキメラに接近すると、短剣を二本逆手に握りキメラの眼球を抉りつつ突き刺した。これで少しは逃走のための時間を稼げる。

 

「撤退だ。三人がかりでもあの娘は守り切れない」

 

「そうだな……。俺がもう少し足止めするから、三人で先に街へ戻っていてくれ」

 

「いや、そこの美人さんにあの娘の護衛させて男手で足止めするんだよ」

 

なぜだか、ソラは悩んでいる。俺に見せたくないもの、或いは誰にも見せたくないものでもあるのだろうか。なら、猶更引き下がれない。ソラというプレイヤーの何たるかを知らない以上、そういった秘密は見ておきたい。今後のこともある。こいつにどんな態度で接するべきか、こいつの態度によって見定める。

 

「……分かった。アリスはアリシアを連れて先にボス部屋から離脱して」

 

「分かりました、どうか無事に帰ってきてください」

 

二つ返事で言う事を聞いた美人さん。凄まじい堅物に見えたが、割と話のわかる人らしい。

 

「それじゃあ、これから俺がすることは他言無用だ。機会があれば説明できるかもしれない、だから、今は黙認してくれ」

 

瞬間、空気が変わった。世界を構成する何かが不当に捻じ曲げられた。

 

投影、開始(トレース・オン)

 

歪みから現れたのは何本もの剣たち。俺ですら中々お目に掛かれないほどの最強クラスの剣の数々に、唖然とするほかない。

 

「――――投影完了。全投影、待機」

 

今度こそ、理解外の何かだった。スキルだとか、レベルだとか、そういったものを根本的に否定しかねない何か。

 

「――――停止解凍、全投影連続層写」

 

剣が乱れ舞う。上から、下から、左右或いは背後から。およそ20本の剣がキメラの体に突き立つ。

 

そして――

 

「――――壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

爆発、爆発、そして爆発。SAOのシステムに則って爆弾を作ればここまでの威力は出ないだろう。あれだけやって全く減らなかった1ゲージを一瞬にして削るなんて、こんな理不尽があっていいのか。

 

「ボスが怯んでるうちに、早く離脱を」

 

「ああ……。了解」

 

転移する寸前に見えたキメラの顔は、俺と同じように恐怖に彩られ、激怒していた。

 

 

 

 




コラボ編第二回、いかがでしたでしょうか。本編では書ききれていない部分をどんどん混ぜていきたいと思っているので、ジャンヌ・オルタ氏の方も共々よろしくお願いします!

感想その他お待ちしております。
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