虚ろな剣を携えて   作:狩奈

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何だってやった。生きるためにはそれしかなかった。




if:祝鳴

 

 

ふと思う。俺は一体誰と戦っているのだろうか。

 

極端な突撃型の俺が防戦一方になるほど、ソラというプレイヤーが強いのは確かな事実だ。しかし戦ってみればみるほど、細部まで見れば見るほど余りに沢山のことが噛み合っていない。戦術はチグハグで、パッチワークのように体裁を成しているだけ。何故か最適解を意図的に避けているような気持ち悪さがそこにはあった。最初は舐められているのかとも考えたが、そういう訳でもない。剣道か、或いは剣術なんかの心得があるかと思えば、そういった物の特徴である()()()が欠けている。

 

何をしたいのかが、さっぱりわからない。

 

フェイントを掛けるとか、ミスリードを誘うとか、それならまだ解る。しかし違う。あくまで向こうは真っ向勝負なのだ。だがこちらから見ると、戦術における基盤とでもいうのだろうか。それが目まぐるしく変化し続けている。多数を相手取る時のような行動もあれば、逆に一対一に適した行動をとる時もある。

 

再び思う。俺は一体誰と戦っているのだろうか。

 

重量のある刀を必死に受け流し、時に捌いては反撃の機会を探し続ける。どんなに戦術がごちゃ混ぜであろうとも、()()()()()()()()()()()()()()()。そうなると向こうは何故使い分けをするのだろうか。攪乱でないどころか、何か考えがあるようにすら見えない。それでは一体、何のために。

 

「クッソ、手練れェ!」

 

「そっちこそ、な!」

 

違和感。そう、違和感だ。凄い技を見せられて、それを実際に身を以って体感して、普通ならこの次にまだ何かを感じる筈だ。強い者が必ず持っていて、命と同じくらいに絶対的なもの。()()()()()

 

ソラからは、()()()()()()()()()()()()()()()()。少なくとも俺には、高価な玩具を見せびらかす子供の様にしか見えない。歯車と歯車が全くかみ合っていない。しかしそれは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。他人を誇るが故に自分を見失い、積み上げた歴史の浅さ故に力を持て余す。言うなれば、()()()()()

 

しかし、その力の正体が分からない。ソラの強さは一体何に由来しているのか、何をどうすればそこまで異質になれるのか。

 

眼前に迫る刀を何とか受ける。《2Hブロック》は剣を痛めやすいのであまり多用したくはないが、この際なりふり構えない。ここまでは何とか耐えているが、限界が来るのは時間の問題だ。どのタイミングで仕掛けるべきか分からないままでいると、先に痺れを切らしたのは向こうだった。大きく横薙ぎに刀を振るい俺から少し距離を取ると、剣を鞘に納めてそのまま抜刀の構えに移る。

 

「我が心は不動――」

 

()()()。これはあの時の状況と似ている。シャガラガラの爪をソラが弾いた時のことだ。たしかあの時も何か言っていた。一歩で何たらを超えるとか、三段突きだとか、()()()()()()()を間違いなく聞いた。つまりこの危険な感覚は正しいということで、早急に対策が必要なのだが、()()()()()()()()。生半可に回避行動をとれば背中を切られる気がしてならない。かといって片手剣や細剣でのガードでは押し切られると確信できる。

 

「――剣術無双・剣禅一如」

 

考えるよりも先に体が動いていた。開いたままのシステムウィンドウのアイコンを空いている左手で押し、()()()を床に突き立てた。俺の十八番の《クイックチェンジ》。俺と斬撃との間にギリギリで剣が割り込み、ダメージを肩代わりしてもらう。俺命名『キャスリング』。因みにボードゲームのチェスから名前を拝借した。俺が呼び出した両手剣《ナハトムジーク》は強化を重さに全振りしていて、元の重さや耐久地のパラメータも相当に高い。階層の天蓋が降ってくるレベルの事がない限りまず折れないだろう。

 

「そんな受け方が――」

 

「危なかった……マジで危なかった……。俺の性格(スキル上げ中毒)に感謝だわ……」

 

再びクイックチェンジで装備を片手剣・細剣に戻すと、何故だか落ち着かない。何かが分かった気がして、伝えたいのだが自分でもよく分からない。逸る気持ちを落ち着けて呼吸を整えると、俺はほとんど衝動に任せて口を開いた。あの()()、あの()()。総合的にあの居合技を見て、何となく分かったことが一つだけ。

 

「あの居合の型は、()()()、か?」

 

ソラの目つきが一変して鋭くなった。まるで罪人を問い質すかのような、下手をすると本当に罪人扱いされそうな雰囲気に苛まれる。いや待て。なんで俺は今まで聞いたことも見たこともないような、剣道の流派的な固有名詞を的確に答えられたのだろうか。いよいよ何かが違う。間違っているはこの世界ではなく、今この瞬間に限っては俺なのではないだろうか。何なんだ、俺は一体誰なんだ。

 

「ほう? 何故そう思った? ()()

 

「何でって、そんなの俺にもよく分からない――」

 

俺よりは年上なのだろうが、小僧に小僧と言われて少し困った。取り敢えず考えを整理するために知識の出所を探ろうと思考を回転させ始めた途端、猛烈な頭痛に襲われた。思わず頭を抱えて蹲ってしまう。そして何故だかビデオテープが巻き戻るみたいに、記憶が逆流していく。俺がこの『別世界』に来る前の事だ。俺は『ジリオギア大空洞』でドラゴンを倒して――――()()()()。俺は大空洞エリアなんかにはいなかった。『アレバストの異界』最深部でレベル上昇時のパラメータ向上のバランステストを行っていて……。それで、それで、気が付いたらここに――

 

「そう、か。そうだった、のか」

 

「ライヒ?」

 

頭を抱えながらも俺は一つの事実を噛みしめていた。

 

()()、プレイヤー『Reich』の()()()だ。

 

それならばこの状況にもある程度説明がつく。そもそも、別世界に迷い込むなんてありえない話なのだ。もちろんホロウエリア中枢もこんな状況は予想していなかったに違いない。おそらくはシミュレーションで似たような状況を観測し、当初は特殊フィールドと銘打ってオリジナルの俺を放り込もうとした。しかしどんな偶然か、本物のこの世界へのアクセスに成功してしまったのだ。当然ホロウエリア中枢は使命に従いオリジナルを送り込もうとしたが、それには生身の『四条謳歌』の脳へ高出力スキャンを行う必要があった。当然ながら不当にプレイヤーを殺害することはできない。かといっていつ切れるとも分からないリンクを調査しないわけにもいかない。

 

代替案としてホロウエリア中枢はMHCPのシステムを用いた。オリジナルのメンタル情報のみをスキャンしてホロウの俺に植え付け、端末(デバイス)プレイヤーとして此処へ送り込んだ。故に、今の俺はホロウエリア中枢に保存されている情報の《参照》が許されていた。《比較》することでより正確なデータを取るために。

 

これが、真実。俺の思い出も、感情も、全ては偽物。

 

だが、裏を返せばこの世界でのみ俺は本物でいられる。オリジナルの存在しない此処でなら、俺は正真正銘『俺』として真実で居られる。

 

頭痛は引いた。矛盾は解決した。俺はようやく本当の意味でこの地に足を踏み入れることが出来た。

 

「ソラ。最初に謝っておくけど……俺はライヒの()()だ。本当の意味でお前とは戦えない」

 

「いいや、お前は本物だ。事情は分からないけど、こうして剣を重ねていられるのならお前は間違いなく本物なんだよ」

 

「まあ、その通り。厳密に言うと、俺は今此処にいる瞬間に限って本物でいられる」

 

「それで? どうするんだ? 早くしないと時間が無くなる」

 

「そうだな。それじゃあ――」

 

――Let`s play up.(遊ぼうか)

 

今の俺ではショータイムには役不足だ。だったら、精々ゲームらしく遊んでみよう。決闘ならいざ知らず、ゲームで負けるわけには行かないから。

 

俺から何か感じ取ったのか、ソラは二刀を装備した。それに正面から向かっていく。

 

「来い、《ナハトムジーク》」

 

「な――」

 

スピードを落とすことなく、目の前の敵に向かって力任せに両手剣を叩きつけた。如何に刀を二本装備していようが、超重量級の両手剣を弾き返せるほどその刀が重い筈がない。間髪入れずに二撃目、三撃目と追撃を加えていく。その度にソラの体制は崩れ、防御も中途半端になっていく。

 

「何でッ……。こんな重い剣見たこともッ!」

 

「たりめーだ。そもそも70層程度じゃ素体のコレも手に入らないし」

 

だが流石に向こうも素人ではない。両手剣を扱うならば必ず生まれる隙を即座に探し当て、一息のうちにそこを突いてくる。だが、甘い。

 

「そこっ――」

 

「はいガード。悪いけど二剣だけが武器じゃないんだわ」

 

両手剣を使うことのメリットの一つは、その両手剣自体が強力な盾になりうることだ。故に、攻略組にいるような、いわゆる強い両手剣使いは『攻撃キャンセル&ガード』の技術を必ずと言っていいほど習得している。俺は盾持ち片手剣時代の経験を活かすことでこの技術を実践レベルにまで引き上げた。

 

これ以上接近されてはマズいと考えたのか、ソラがいったん距離を置こうとする。しかしそれをみすみす見送るわけがない。体を限界まで横に捻り、筋力パラメータ全開で《ナハトムジーク》を投擲した。風切り音を鳴らしながら真っすぐに飛来する両手剣を、しかしソラは二刀で受けた。当然だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ギリギリのところで踏みとどまり、なんとか両手剣を叩き落とすことに成功するソラ。一方の俺は、ソラの眼前にまで迫っていた。隙を逃さず、右手で首根っこを掴み上げた。そのまま持ち上げ首を締め上げる。

 

「ぐッ――コフッ」

 

「お前が距離を取ろうとするとき、大体は戦略――じゃなかった。流派を変えて来るよな? その瞬間だけは、お前は絶対に無防備なるしかない――だろ?」

 

剣の戦闘中に最も大切なことは、正しい場所を正しいタイミングで捉えることだ。剣道や剣術なんかを大雑把に言うなら、そこへ至るための最適解を様々な視点から導くためのもの。だから一つ極めれば敵に先んじて刃をお見舞いできる。どんな攻撃にも余裕を持った対処ができる。だが、複数持つことに果たして意味はあるのだろうか。或いは達人の領域にまで達しているなら別だが、ソラは違う。中途半端に正解への道を垣間見たことで、かえって正解を見誤ることがある。

 

そういう意味で今のソラは間違いなくその状況に陥っていた。両手の剣で俺の腕を攻撃しようとするがそうもいかない。剣が腕に届く前にソラを地面へ引き倒す。拘束を解こうとするたびに一度ソラを浮かせて地面に叩きつけ直す。やがて完全に腕を押さえつけ、マウントポジションを取るに至った。このまま窒息によるダメージで決着をつけようとする。

 

この場の誰もが、ソラの敗北を信じた。身動きの取れない状況で首を絞められ、じわじわとHPが減少するのを眺めるしかない状況。例えば俺が抑えている相手がキリトや、アスナさんや、ヒースクリフであったなら俺は何があろうと拘束を解かなかっただろう。だが、このソラに限っては俺を跳ねのけうる手段を持っていた。()()()()()()、何かが歪む感覚。俺にだけ聞こえる声で。

 

投影(トレース)――」

 

ハッとした俺は即座に大きく距離を取り、装備を片手剣・細剣に変えつつ全方向に注意を巡らせた。もちろん、剣など降ってこない。そして俺はこの試合最大の失態を犯した。アレを使うはずがないと自分で結論付けたはずなのに、あろうことかソラへの注意を外してしまった。気が付いた時にはもう遅い。剣を持ち上げる暇もなく俺は神速の斬撃に捉えられていた。

 

「小細工は……終わりかッ――!!」

 

「うぐ、うう……っ」

 

まさに怒涛の勢い。さっきまでの鬱憤を全て晴らすかのような、一切の容赦がない斬撃の雨、雨、雨。剣でのガードもままならない。このままではHPを半分まで持っていかれてしまう。二割、三割……。

 

やがて勢いに押され、俺は床に倒れこんだ。ソラはしめたとばかりに刀で俺を串刺しにしようとするが、その前に俺は足から短剣を宙に投げていた。短剣を挟んで視線がぶつかる。俺はブーツの底で短剣の柄を受け止め、そのままソラの心臓部へと短剣を押し込んだ。完璧なクリティカルヒット。ソラが怯んでいるうちに、俺は地面を転がりながら間合いを広げた。そしてどちらともなく最後の一撃を食らわせるために剣を構える。

 

「やられた……短剣を忘れてたよ。でも、()()()()()外さない」

 

「はは――。あんな簡単なブラフに掛かるなんてホント、俺らしくない、なあ……。はは……」

 

もはや集中力は限界だった。次が外れてしまえば、もう動けない。だからこそ、こんなところで引きたくない。絶対に、何が何でも()()()()()()。乱れたマフラーを整える。ペースはいつも通りに、何も変わったところはない。なら、きっと大丈夫。

 

「「行くぞ――」」

 

同時に床を蹴って走り出した。もう、誰にも止められない。

 

「《OSS》起動――」

 

「三歩絶刀――」

 

全身全霊が、今、炸裂する。

 

「《ヴォーパル・ストライク》――ッ!!!」

 

「《無明三段突き》ィィィッ――!」

 

逸る気持ちの中でも、俺は割と冷静に状況を読むことが出来ていた。一度だけ見たあの突き攻撃は、間違いなく首を取るための技だ。ホロウエリアから得た《天然理心流》の心得とも一致する。だから俺は技を受けることにした。半ば祈るような気持ちで、ギリギリのところで首を横に反らした。マフラーは貫かれ首が半ばまで切り裂かれる。だが、HPはまだ残っていた。遅れて俺の渾身の《ソードスキル》が真っすぐソラの左腕を捉えて、吹き飛ばした。そして()()。《剣技連携》の二撃目。

 

細剣最上位ソードスキル、《フラッシング・ペネトレイター》。

 

このソードスキルには助走が必要だが、正確には、ひつようなのはスピードだ。当然スピードを出すには助走を取る以外に方法はないし、それが一番確実だ。だが、《ヴォーパル・ストライク》発動中なら。ギリギリで必要な条件を満たすことが出来る。腕を真っすぐ横に伸ばし、剣の先端は正面に向け、反対側の手はまっすぐ前に。

 

音もなく激光が十字に煌めき、ソードスキル中最強の突きがソラを襲う。この至近距離でコレを躱せるのなら最早人間ではないが、偶然なことにソラも俺と同じように首を思いきり反らしていた。頬を掠めて細剣が後方へ流れていく。そして俺の右腕は、至って自然に片手剣を手放して腰溜めに構えられていた。先の二つはこの状況を作り出すための布石。完全に密着した()()()なら。間違いなく()は命中する。大技を二つも捨て石にして、俺が選んだ最後の一撃。体術重攻撃技、《龍爪》。

 

「あ、た――――れええぇぇぇェッ!」

 

相手も剣を抜刀しようとしている。しかし戦いの常識として至近距離では刀よりも短剣、短剣よりも素手のほうが早い。掠るだけで俺の勝ちは決定する。間違いなく先に届く。外れるわけがない。当たる、当たる、当たる当たる――

 

D()R()A()W()

 

俺の拳はシステムの障壁に阻まれ、虚しく光を散らせた。しばらくは踏み込んだ体制のままでいられたが、精も根も尽き果てて床に膝から崩れ落ちた。

 

あと少し、届かなかった。

 

正直こんな結果になるなんて思ってもみなかった。だから勝ちを確信した分あまりにも悔しい。ああでも、こんな戦いも結構いい物なのかもしれない。

 

「そっか。俺、ここでちゃんと生きてるのか――」

 

もう何の後悔もない。それにきっと二度と戦う機会はないだろう。俺の戦闘は人のペースを乱すのが前提で、人をなじる様な戦法ばかりだから。排斥されても仕方がない。

 

「ああ、お前はこれからも生き続けるんだ」

 

俺の予想とは裏腹に、周囲は歓声で満ちていた。主に俺を称える声が。ナイスファイトとか、お前が勝ってたとか、疑って悪かったとか。皆が俺を認めてくれていた。そしてヒースクリフまでもが拍手とともにこちらに歩み寄ってくる。

 

「――()()()()()。実に素晴らしい戦いだった。――さて、試験結果だが……言わずとも分かってもらえるだろう。ライヒ君には《イノセント・エクセリア》諸君と共に攻略に是非とも参加して貰いたい。私からは、以上だ」

 

「次は、ちゃんと決着させたい」

 

「今回みたいなのは、あんまりすっきりしないからな」

 

ソラに手を差し伸べられ、それを迷いなく掴んだ。腕を一本失くしているというのに、その手は変わらず力強く俺の手を握った。

 

 

 

***

 

 

 

「それで――結局《異双流》って何なんだ?」

 

《イノセント・エクセリア》ギルド本部にて、俺は昨日と同じように質問攻めにあっていた。まあ気持ちはわかる。俺のユニークスキルについて気になるところは山ほどあるに違いない。オリジナルの遭遇したキリトも興味津々だったことを記憶している。

 

「そうだなあ……。スキルを無理矢理繋げるスキルって言ってもわかってくれないよなあ……」

 

「当然だ! 全部話すまで寝かせないからな!」

 

夜はただ静かに白んでゆくのみ。

 

 





そんなわけでコラボ編第五話です。割と気軽な感じで始めた企画ですが、完結まではきっちり持って行けそうです。個人的にコラボ回では、SAO編で書き残したことを色々書いてみようと思っています。ライヒのホロウもその一つです。異双流は……どうなんでしょう。ここから先の本編で正式なスキルとしては出てこないでしょうから……。ジャンヌ・オルタ氏の「白夜の剣士」も一緒にお願いします!

感想その他お待ちしております。
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