虚ろな剣を携えて   作:狩奈

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アークソフィア

 

 

 俺のユニークスキルは名前も地味、専用ソードスキルもマスター時に使用可能になった技が一つだけ。およそ《二刀流》と比べればさっぱりの外れスキル。

 

 しかしここで一つの疑問が浮上する。

 

―――なぜ俺が、こんなスキルの所持者として選ばれた?

 

 スキルにはフレーバーテキストとしてその特徴が書いてあることが多い。しかし俺の《両手装備》には何とかの国の剣士が使っていた流派だとか、そんなロマンの一切を省いてただこう記されていた。

 

In the most dexterous person this world.(この世界で最も器用な者へ。) From Aincrad to you.(アインクラッドから君に。)

 

 器用。恐らくそれは、俺がこの世界を生き延びてこられた一つのアドバンテージを指す。

 

 ――両利き。

 

 スキルが出現した25層時点で、俺は従来のスタイルを捻じ曲げてこのスキルを鍛えることを決意した。結果的にそれは正解だったが、面倒なことに《両手装備》スキル一つを鍛えたところで何の意味も成さなかった。

 

 メインとして扱う武器以外のスキルも鍛えなければ性能をこれっぽっちも引き出せない。少なくとも十種類、出来れぼもう少し。例の事件のおかげでスキリングの時間を作るために睡眠時間を限りなく削る羽目になった。

 

「おお……おおおぉぉ!」

 

 だが、黒の剣士ことキリトさんの反応は他と比べても常軌を逸していた。目にお星さまが瞬いていらっしゃる。

 

「いや……そんな驚くものでもないでしょう。キリトさんの二刀のほうが便利じゃないですか。俺のスキル、武器カテゴリが同じな武器は装備できませんし」

 

「いいや……。それを補って余りあるアドバンテージになるだろ。ああそれと。これからはさん付けなんかしなくてもいい。キリトとライヒ。俺とお前で行かないか?」

 

「そうですね―――じゃない。そうだな、それでいいなら、これで」

 

 二人のユニークスキル使いが握手を交わす。これは俺にとっての幸運だったのか、或いは不幸だったのか。答えはずっと先まで出ない。

 

 

 

***

 

 

 

 ここは高台。マップ名称は「セルベンディスの神殿前広場」。文字通り神殿と思しき建造物オブジェクト前の、変な形状をしたモニュメントの前で俺達は立ち止まっていた。

 

『定刻になりました。これより『ホロウ・エリア』の解放及びテスターの介入を許可します。』

 

 無機質なシステムアナウンス。その声が過ぎ去った後俺とキリトの右掌に例のオブジェクトと同じ、変わった十字の紋章が現れた。続いてシステムウィンドウの表示。

 

『《ホロウ・エリア》管理区へ転移しますか?』

 

「どうするの?」

 

「どうするのよ」

 

「「行こう」」

 

 結託した二人は迷うことなく、完全に同期した動きで「YES」のアイコンを押す。全身が薄青い転移エフェクトに包まれ、浮遊感―――それが消える。

 

 転移先の空間はこれまでとは大きく違って異質だった。球型の部屋―――天球を模した部屋には星が瞬いている。およそ、アインクラッドでは有り得なかった「システムの存在」が色濃く見える場所。

 

「あのコンソール……一層地下ダンジョンと同じだ」

 

 キリトが何やらコンソールを操作し始める。ウィンドウに文字列が現れては消えていく。俺もこういうのを齧ったことがあるクチなのでおおよその意味は分かる。

 

「見つかったか?」

 

「ああ、これだ」

 

 キリトがエンターキーを押すと、後方の床に新たなオブジェクトが出現する。

 

「ねえ、ライヒくん。何を探してたの?」

 

「ここがホロウ・エリアの基点になるんだったら当然もとの階層エリアにも戻る方法がある――無くちゃならない。転移門起動コマンドを探して起動したんだ」

 

 何はともあれ戻れるようになった。今はこれで十分。これからはテスター認定された俺とキリト、そしてそのパーティーメンバーなら自由に出入りできる。それにしてもこれだけ広いエリア。探索の価値は十分にある。

 

「さて、俺はいったん76層に戻らなきゃいけないんだけど。二人もよかったら来ないか? お前たちならきっとアスナも喜んで攻略組に入れてくれるはずだからな。それでフィリアの事なんだけど……」

 

「私は大丈夫。今まで森で野営とかしょっちゅうだったし。暫くここに寝泊まりするから」

 

「そうか。それじゃあ、さっさとカルマ回復クエストでも何でも探さなくちゃな」

 

 別れを告げる。知り合いとなったフィリアを置き去りにするのは気が進む行為ではないが、俺にも戻るべき場所がある。

 

「《転移》。アークソフィア」

 

 

 

***

 

 

 

 帰還早々、なんてものを見せられているんだ俺達は。

 

「本当に心配したんだよ!?」

 

「ママは泣くの我慢してずっと待っていたんですよ! 今回ばっかりははパパが悪いです!」

 

 夫の帰りに感動する妻と、母親を泣かせたことに憤慨する娘。SAOで実際に子供を作る機能は無かった筈だ。

 

 そんな俺達の心の声を知ってか知らずか、よく攻略に顔を出すキリト専属鍛冶屋リズベットが俺の肩を叩いて悟ったような言葉を投げかけてくる。

 

「分かるわ。その気持ち分かるわよライヒ。あんなバカップル、さっさと滅べばいいのに……」

 

 それはお前の声だ、と言えるほどの勇気は俺にはなかった。茶番劇が終わると、《閃光》アスナがつかつかと歩み寄ってくる。思わず意識が尖りそうになる。

 

「そこのお二人は……ライヒさんにレインさんですね?」

 

「はい。お会いできて光栄です」

 

「そんなに堅くならないで、以前から何度も顔を合わせているじゃないですか」

 

 流石は鬼の副長、現《血盟騎士団》団長の《閃光》アスナ。人を束ねてまとめ上げるのが実に得意だ。

 

「あの、攻略組復帰の件についてですが了承を頂けますか?」

 

「ええ、問題ありません……と言いたいところですが。今のアインクラッドは異常事態です。現状あなた方がどれほどのものか見せていただきたいと思います」

 

 つまり、今まで引っ込んでいた俺たちが何をしに来たのか知りたいと。そのために試験をするとそういう事なのだろうと思う。つくづくこの人は優秀だと思う。底抜けに優しいが、決してただのお人好しでは無い。

 

 試験相手は、即座に決まった。

 

「なあ、アスナ。ライヒの相手、任せてもらってもいいか」

 

「キリト君っ!? 何で君がわざわざ名乗り出るの? 流石にレベルの差が大きすぎるよ!」

 

「いいや、コイツもユニークスキルだからな。だから、実力を見るならユニークスキル使い同士のほうが良いと思ってさ」

 

 周囲のプレイヤーが一斉に集まってくる。

 

「おい! 新しいユニークスキル使いに《二刀流》が宣戦布告したらしいぜ!」

 

 これが俺の不幸の始まり。俺は、俺が関わるべきでない人に関わってしまった報いを受けることになる。

 

「それじゃあ……レインさんはあちら私と戦って貰います」

 

 レインは手を振って行ってしまう。ともかく売られたなら全力で買うのが決闘というものだ。

 

 俺は勝てるのだろうか。

 

 いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 クイックチェンジのコマンドを叩いて現状では最強の装備を身に纏う。片手剣《ナーバライザ》と細剣《デュールライト》。片方は美しく迫力は装飾品の如しだが、刃を見ればそれが間違いであることが分かる。宝石のような薄っぺらな輝きではなく研ぎあげられ、鍛え抜かれた鋭く深い輝きがそうと錯覚させている。もう片方は優美どころか名前通り濁った(デュール)ような光を放っている。もしくは輝きなどないのかもしれない。しかしそれは質実剛健である証拠だ。見た目の頼りなさに反してスペックは《魔剣》の域に達している。

 

 二刀を装備したキリトの迫力は圧倒的だ。そう圧倒的。かつて《一、五刀流》と罵られた俺の剣技。キリトにとっての俺は、俺のスキルは、()()()()()()

 

 

 

 

 

 





 進める筈の無い道へと進むなら。その贖いに必要なものは何か。

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