虚ろな剣を携えて   作:狩奈

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 この手をとって、それでいいの。





Fantasia

――そっか~。キミは僕のことが好きなんだ。

 

それは唐突な告白。

 

――僕もさ。キミとずっとずっといられたら……とか、割と考えるし。

 

それはどこか迂回した同意。

 

――でも、ダメさ。それは出来ない、出来ないんだ……。

 

それは――今になっても分からない。

 

――さ、て、と。そろそろこのお話も終わりにしようか。

 

あれは、あまりに強く、ひどく眩しい思い出。

 

――そんな顔しないでくれ。ほら、もう

 

「『朝だ』よ~~!!」

 

 目覚まし時計よりも早く、大声で叩き起こされる。従妹の、いや、義妹(いもうと)のモーニングコールだ。久しぶりにいい夢を見ていた気がするのに全て吹き飛ばされてしまった。言わずとも木綿季である。

 

 数日前から我が家の養子として逞しく生きているのだが、それに引き換え俺のプライベートスペースは縮むばかりだ。詩歌の部屋に行けばいいものを、俺の部屋で過ごすと駄々をこねて、しかし両親詩歌共に了承して、俺の家での地位の低さを思い知らされることに。

 

「ほらほらお兄ちゃん! 詩歌の手伝いするよ~!」

「わかったわかった……。わかったから布団に侵入してほっぺをぺちぺちしないで……」

 

 でも、賑やかなのはいいことだ。木綿季の事情を知っているものとしては、木綿季が『ユウキ』以外の姿で輝いているのを見ると安心する。SAOでは色々と助けられたこともあるから、出来ることはやってやりたい。

 

 進んで実行したくはないが、起きろと言われれば起きてやるのもその一環だ。父さんと母さん、それに詩歌に朝の挨拶をしてから朝飯の用意を手伝う。差し当たっては目玉焼きを作る傍ら味噌汁を温めるくらいだが。

 

出来上がったものをテーブルに並べてから、『いただきます』。

 

「兄さん。今日も午後はバイトですか?

「うん。今日はちょっと遅くなりそうだから、俺の晩飯は作り置きしてくれると助かるかな」

「わかりました。では、そのように」

「バイトって何のこと?」

 

「菊岡さん知ってるだろ。あの人からVR機器のテストの依頼があってな」

 

「それじゃあ、急いでトレーニングしないとね。あ~、できれば勉強も教えて欲しいな!」

「時間があったらな。てか、俺が教えなくても平気だろお前……」

 

 木綿季は、天才児だ。詩歌と同じく。勉強も運動も、俺なんかとは比べ物にならないくらいに出来る。既に足の速さも体力も追い抜かされそうになっていて、正直焦っている。

 

 凡人である俺が天才たる木綿季と何かを競ったところで――。そんなことは判っているのだがどうにもやるせない。俺にできることは努力、そしてその継続。たった二つを人一倍こなすことでようやく木綿季みたいなやつの背中を拝める。

 

 スキル上げと一緒だと考えれば努力なんてどうということはないが、自分が追い抜かされていく様は見るに堪えない。でも、直視しないとやっていけないから、そこは頑張っている。

 

「んじゃ、お先に走ってくる」

 

今日も今日とてルーチンワーク。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「やあやあ、待っていたよライヒく……もとい謳歌君。挨拶は面倒だから抜きにして、君にぜひ会いたいってお方がいてね。紹介するよ」

 

 施設に到着するや否や、半ば巻き込まれるようにして俺はとある有名人と引き合わせられた。茅場を闇に例えるなら、その人物は光。現VR技術の先駆けを担う若き天才科学者にしてアイドル。

 

 色々萌えポイントを盛りすぎと言えなくもないが、全部本当の事なので文句のつけようがない。自動扉の向こう側から出てきたのは、まだ俺にも及ばない歳の少女と、デカいイケメン。

 

Привет(プリヴィエイト)、四条謳歌くん。あたしは七色・アルシャービン、こっちは助手の住良木陽太くん」

「初めまして。住良木陽太といいます」

 

 合っているような、無いような。変な組み合わせだな、と正直思った。どちらかといえば住良木さんなる人物のほうが科学者然としているし、アルシャービン博士は住良木さんの子供だと言われたほうが説得力がある。

 

 テレビや新聞その他メディアで何度も見かけてはいるけれど、実際に会うとこうも違って見えるものなのか。しかしまた有名人が俺に一体何の用事があるというのだろうか。

 

「それと、ALOではセブンって名前で活動してる。住良木くんもスメラギって名前でそれを手伝ってくれてるの」

「知ってます。《三刃騎士団(シャムロック)》ですよね」

「知ってくれていて光栄よ、唯一使い(ユニークス)のライヒくん。それはそれとして自己紹介はほどほどに。今日はお願いがあってきたの」

「何でしょう」

 

 そういうと、住良木さんは俺に一枚のチラシを渡す。いろいろ書いてはあるが、VRで自分だけの部屋を作ってみようという体験型イベントの紹介だ。確かここの施設の掲示板にも同じチラシが貼ってあった。日時は……俺の入学から数か月後の休日。

 

「SAO帰還者向けの学校は知ってるわよね? そこでVRを広めるためのイベントとしてコレをやるんだけど、参加してくれない?」

「はあ……。まあ、これくらいなら」

「流石ね。普通にかなり難しいことをしようと思ってるんだけど()()()()()って言えちゃうんだ」

 

 その言葉に、思わず『うぐ』と変な言葉とも声ともつかない音が喉から出てしまう。別に隠していたわけでもないが、親の影響で簡単なプログラミングやちょっとしたルームデザインなら出来る。

 

 それでもかなり中途半端で、詩歌にやらせたほうが全然いいものが出来るというレベルではあるが。詩歌も、あと木綿季もだがどうして俺の妹は無駄に高スペックなのだろうか。お兄ちゃん泣くぞ。

 

「このイベントでは、仮想世界においての()()()()()という実感を感じてもらうことが目的。あたしはそれがすごく大事なことだと思うんだけど、常識的に現実世界がメインのあたしだとその辺うまく表現できないの」

「――……なるほど?」

「だから、一定量の知識と長時間のフルダイブ経験を持つキミには興味があるの。そこで提案なんだけど、そっちの分野の道に進む気はない? そりゃいろんなことを勉強しなきゃだけど、きっと素敵なことだと思うの」

「えっ、いやっ、ちょっと待ってください。話が飛躍しすぎて何が何だか……」

「そうね。まあ今日のところは難しい話はナシってことで。とにかくコレに参加してくれればいいから。よろしく!」

 

 До свидания(ダ スヴィダーニャ)と恐らくロシア語であろう挨拶をして、アルシャービン博士は行ってしまった。残されたのは菊岡さんと、ポカンとした俺の二人だけ。どうでもいい話、俺のロシア語に対する知識と言えばせいぜい挨拶の決まり文句や『ハラショー』だ。意味もよく知らないが。

 

「さて、それじゃあ今日も試験運用頑張って」

 

 菊岡さんは相変わらず顔色一つ変えていなかった。

 

 《クラウド・ブレイン》事件発生まで、あと半年。

 

 

 

***

 

 

 

「遅い!」

 

 開口一番これだ。わがインプ族の領主様はオールウェイズでご機嫌斜めなのである。俺の知るゴスロリ少女はもうちょっと慎ましやかだったような――いや胸は結構あるか。胸の話はいいとして。

 

「でもちゃんと10分前に来たじゃないですか。領主が早すぎるんです」

「領主じゃない! お嬢様!」

 

 ほら面倒。このわがままさんと行動を共にし始めてからはや一週間と少し。流石はALO古参勢で、ガイドをしてもらいつつそれなりに名所巡りだとか食べ歩きとかをしてきた。そしていよいよ俺たちは最終目的地である央都アルンへ向かっている。ここはその途中にある中立村。前回はこの村の宿で冒険を中断していた。ここなら無粋な輩に襲われる心配はない。

 

「はいはいお嬢。それじゃ、今日も張り切っていきますか」

「お嬢って……、まあいいけど。それで今日はどうしたい? 空飛んでく? それとも歩く?」

「うーん……。それじゃ歩きでお願いします」

「わかったわ。それじゃ、ルグルー回廊経由で行きましょうか」

 

 いろいろ面倒だけど、でも楽しいからいいや。ゲームの中での関係なんてそれで十分だ。二人して村を出て歩き出す。少し曇っているけれど、風はすごく涼しい。途中でモンスターを魔法で倒しながら洞窟へ入っていった。久しぶりのスキル上げ、武器を一切抜くことなくMPの許す限り魔法を乱射する俺をお嬢は馬鹿を見るような目つきで見ていた。

 

「もう熟練度が700……。どうなってんのよその上がり方」

「だって武器使ってないですからねえ。お、コウモリだ」

 

 闇の刃で飛行するモンスターも、地面をうろつくモンスターも等しく狩る。《アビス・ソニック》。その特徴は飛距離とヒット数。おかげですいすい熟練度が上がる。

 

 MP消費は激しいが、そこは引継ぎの特権で大量のポーションを買い込んである。武器は占い少女に、防具はお嬢に買い揃えてもらったので、今すぐコル改めユルドを使う用事がこれといって無い。まあ、たとえもう一度装備を一新したところで大した出費ではないけれど。

 

エル・イルエレール(斬り飛ばせ)オルミル・ヴェーニス(四肢など不要)

「うわ、詠唱はや……。《高速詠唱》とか《戦闘詠唱》とかも取ったら?」

「フフフ……。既に取得済みですよ、お嬢……」

 

 自覚できるくらいには気持ち悪い笑い声を上げながら、俺はモンスターを殲滅していった。当然無差別にではなく、他のプレイヤーの獲物に手を出すなんてオレンジ的行動は取らない。

 

 しっかりとこちらにタゲらせてから戦闘に入る。最初は言われるままに護衛の騎士っぽい役回りをしていたが、俺自身もだんだんと興が乗ってきた。お嬢には、ゴブリンの指一本触れさせない。

 

「お怪我はありませんか、お嬢」

「ええ、いい働きだったわ」

 

 かしずく俺に、相変わらず女王様するミズチ。こういうキャラ、インプ領では需要あるらしい。でも、数日間一緒に過ごしてきて色々とこのキャラについて思うところが多くなってきた。俺が思うに、ミズチは結構嫌われているのではないかと。

 

 そう思う。初めて会ったときにも言われた、『見初められれば襤褸雑巾』。正直なところあの時点では全く意味を理解していなかったが今は違う。ソロで完璧に仲間を守り切れなんて、普通のプレイヤーじゃ絶対に出来っこない。

 

 なんでまたこんなことをしているのか。愛想よくすれば人も寄ってくるはずなんだろうが……。

 

「そういえば、お嬢は何で領主に? なんていうか、あんまりそういう人望は集まりにくい人柄だと思うんですよお嬢は」

「消去法で指名されたからに決まってるじゃない。領主は種族全体の投票で決まるものだから、決まったら拒否権ないのよね」

「でもなんか、お嬢向いてないじゃないですかこういうの。普通のプレイヤーじゃ出来ない無茶ぶりばっかりしますし」

「アナタ、知ってて言ってる? それとも偶然?」

「知ってるって……性格悪いことくらいわかりますけど」

「そう、知らないのね」

 

 そういって俺に先行して歩いていくミズチ。しかし、ひたすらに何事かを考えながら歩みを進めている。もしや俺の知らない何かを教えてくれるつもりでいるのだろうか。どっちにしてもロクな内容じゃないのは確かだ。

 

 嫌われるのがいやならすっぱりとやめてしまえばいいし、それが出来ないということは根深い何かが存在することになる。こう見えて俺はミズチの真価をしっかり把握しているつもりだ。冷静でいて、そのくせ勘が恐ろしいほどに働く。普段の女王様気質に隠れた、純粋な戦闘者としての一面はやはり才能だ。

 

「ワタシはね、すごく嫌われたい人がいるの。だから頑張って嫌がらせしてたんだけど、今のところあんまり効いてない。寧ろ逆効果」

「それはリアル? それともここでの話? 嫌われたいとか、お嬢ソイツになにされたんですか」

「両方よ。で、ワタシの野望のための仲間が欲しいと思っていろいろ見繕ってたんだけど案外うまくいかないのよね。あたしに振り回されてもピンピンしてるくらいじゃないと困るの。でないとアイツはすぐに奪っていく……」

「なるほど。手塩にかけて育てた領主館のプレイヤーがどんどん引き抜かれてる、と。無茶ぶり始めたのは結構最近の事だったんですね」

「当然よ。そこでアナタに提案。()()()()()()()()()?」

「国盗り、ですか。で、具体的にはドコ狙うんです?」

「狙う領地はスプリガン領。欲しい首は一つだけ」

 

 俺ならば、ここまで付いて来てくれた俺だからこそ絶対に裏切ることはないと信じてミズチは言った。

 

「ワタシのお姉ちゃんであり、スプリガン領主でもある『ゼノビア』。ワタシはアイツを打ち倒して、そしてアイツに嫌われるの!」

 

 堂々と、実の姉に嫌われてやると宣言するウチの領主。正直いままで以上に面倒で、厄介なことに巻き込まれるのは目に見えている。こんなの聞く限りでは一方的な姉妹喧嘩だ。関わるだけ損をするのは目に見えている。

 

 それでもなお、ミズチは何の疑いもなくまっすぐにこちらへ真剣に提案を吹っかけている。

 

「なるほど、では答えを言う前にちょっとしたお掃除させてもらっていいですか? 大事な話なので、落ち着いてからでもいいかなーと」

「ええ、そういう事なら仕方ないわね。ホンット、仕方ないからワタシも手伝うわ」

 

 互いに突き出した武器は、背後にいた何者かに突き刺さる。俺の剣は心臓部を穿ち、ミズチの大鎌は首を切り裂いた。二つの爆砕音。

 

「領主。勝手に出歩かれてはこまりますね……。『主』に報告できなくなるではありませんか」

「やっぱりアンタたち、ゼノビアの犬だったわね。ワタシの個人的な恨みだから、見て見ぬふりをしてたけど、流石に襲ってくるとは思ってなかったわ」

「ははは。流石は領主、慧眼ですね。しかし領主たるもの倒されては領民全てが困ってしまうというのに、そんな新参者一人だけを連れてどうするつもりだったのです? 領主のお仕事が飽きたのならば私が代わって差し上げますよ?」

 

 ペラペラとうるさい男、初めてミズチと出会ったときに俺に『世界樹の雫』を撒いてくれた名も知らぬプレイヤーは結構アブナイ目で俺らを見ていた。五人ほどの仲間を従えて、俺たち二人を取り囲む。

 

――嗚呼、なんて懐かしい感覚……。

 

「行くわよ、()()()。ここで負けるようじゃ、アナタを追放しなきゃいけなくなるわ」

「こんなんで負けるわけないですよ」

 

 かつて俺は《御影》の異名を付けられ、その通りに影のごとく動いてきた。だが、本質は違う。かつて師匠であったルクスに裏切られ、オレンジプレイヤーをひたすらに狩っていたころの俺こそが、あの世界において最も俺らしい俺だ。そう、今の様に黒装束ではなかった頃の俺。《白狼(W.W.)》。

 

 手始めに、体中に仕込んでいたダガーをばらまき弾幕を張る。特に顔面を重点的に狙った。もちろん無視できるはずがない――刃物を顔面に向けられて恐怖を覚えないはずがない――ので、いくらかの隙が否応なしに生まれる。

 

 そしてその隙間を縫うようにミズチは走り、鎌で一度に三人の首を切り飛ばした。流石は鎌使い。しっかり鎌特有の即死効果を活かした戦いをしている。

 

「隙だらけだな」

 

 物理的にという意味ではなく、精神的に。俺らみたいな異常者とは違って、平均的なプレイヤーならだれもが敷いている心の防衛線。非情になれない心の隙間。死んでも死なないという絶対的セーフティーが戦いの価値を濁らせるが、俺らは違う。

 

 本物の命のやり取りを幾度となく繰り返してきた。あの世界はやはりクソゲーで、その考えは変わらない。けれどあの世界に価値があるとすれば、やはり戦いしかないから。

 

 だから、負けない。負けたくない。

 

 瞬く間に五人を屠り、残りは拘束した男性プレイヤーのみ。

 

「わ、わかった。俺が間違っていました! 領主! 貴方に今一度絶対の忠誠を捧げます、だから追放だけは……それだけは勘弁してください!」

「煩いわね。喚かないでよ、(ブタ)

 

 ミズチがコマンド操作をすると、プレイヤーはどこかへ転送された。レネゲイドとして追放されたからだろう。まさに茶番。

 

「で、答えは?」

「リアルが忙しいので、出来るときに参加します」

「そ、十分よ」

 

 

 




 

 ALO編、別名国盗り編! さてさて進展させてみましたがいかがでしょうか。ここのところ忙しく、コラボ編の執筆もありましたので本編が中々……。
 OS編って作ってもいいものなのでしょうか? まだ全然構想してませんが、話の進み具合を見て考えます!


感想その他お待ちしております。

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