虚ろな剣を携えて   作:狩奈

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「それはつまり……エイズの発症、ということです。私は、そのきっかけになったのは、彼女の心を痛めつけた前の学校の保護者や教師たちの言葉だと今も信じています」

ソードアート・オンライン7 マザーズ・ロザリオ 214頁12行目 倉橋医師の台詞より抜粋。


Fighter Ⅰ

 

 ボクの病気について深く何かを考えることは、今ではほとんどない。考えるとすればボクに先んじてしまった両親や、姉ちゃんのこと。それに謳歌兄ちゃんのことだ。従妹にしては珍しくボクらは近所に住んでいて、小学校も一緒だった。小学生だった時の兄ちゃんは……いや、今でもそうだけど。

 

 特段格好いいわけでも、格好悪いわけでも、優しいわけでも、意地悪なわけでも、何でもない男子だった。従妹だったから学校以外ではまあまあ話す間柄ではあったけれど、学校ではほとんど接点がなかった。ボクにもボクの人間関係があったし、どちらかと言うと根暗な兄ちゃんの方からボクを避けていたと思う。

 

 当時のボクは周りに心配をかけないように努めて明るく振舞っていたし、勉強も運動も人並み以上にはできたから友達は多かった。正直言って凡庸な兄ちゃんがボクを避けるのは、そう考えると当然のことかもしれない。でも、ボクの病気がどうしてか学校に露見してからは全てが一変した。

 

 今まで仲良くしていた人たちが揃ってボクから距離をとるようになり、奇異の目を向けるようになり、やがてボクはいじめを受けるようになった。それはもうありとあらゆる手段を使ってボクはいじめられた。上履きをゴミ箱に放り込むなんてまだまだ序の口。教科書や机への落書き、仲間外し、悪口、陰口、夜中に電話で悪口陰口。おしまいには消毒とか言ってバケツで水をかけられたりもした。

 

 ボクは耐えた。胃に穴が開くくらいストレスが溜まっても、眠れなくなる日がずっと続いても、死ぬまで耐える覚悟で学校に通い続けた。でも、ボクも子供だったから当然すぐに限界が来た。これで限界だ、今日がだめならもう駄目だ、そう思って、今度こそ最後になると覚悟して登校した日だった。

 

「そこ、歩いてると邪魔なんだけど」

 

 そう言いながら兄ちゃんはボクを前へ突き飛ばした。この時、今度こそボクは本気で死を覚悟した。このまま惨めに地面に突っ伏して誹りを受けるのかと思うと耐えられなかった。でも、どうしてか倒れない。むしろ、倒す気すらなかったかのようだった。二、三歩押し出されただけだったボクが兄ちゃんにその真意を訊ねようとしたその瞬間。

 

 兄ちゃんの頭上から水が落ちてきた。当然兄ちゃんは避けられずに、そのまま水を被る。頭から足の先までぐっしょりになった兄ちゃんは、絶句する周囲を尻目に上の窓に向かって言い放った。

 

「ちゃんと狙ってから水落とせよなー。コイツはどうでもいいけど俺にまで()()()()()来るだろーが」

 

 どこまでも空気を読まないその台詞には、誰一人として二の句を継ぐことはできなかった。兄ちゃんの空気を読まない行動はそれに留まらない。

 

 わざわざ自分の上履きとボクの上履きを入れ替えて――上履きを全員統一する決まりだったからばれにくかった――取られたらボクの上履きを元に戻す。ボクについての話題が出たら強引に話を逸らす。

 

 ボクが暴力を振るわれそうになったら石を投げて窓ガラスを割って関心を逸らす。とにかく、兄ちゃんは徹底していじめの矛先を自分に向けようとした。そしてすぐにそれは実を結んだ。本来であればボクに降りかかるはずだった嫌がらせや暴力が全て兄ちゃんへ降り注いだ。

 

 ボクには兄ちゃんがいたけれど、兄ちゃんに味方は一人もいなかった。それなのにどうしてか兄ちゃんは相変わらずボクを寄せ付けようとしなかった。

 

 小学校卒業の日、偶然にも兄ちゃんと二人きりで話す機会ができた。青あざだらけの顔を見て罪悪感に苛まれたけれど、どうにか勇気を振り絞って話しかけた。

 

「ねえ、どうしてそんなことしたの」

「そんなことって何だよ」

「だから……なんでボクを助けてくれたのかってことだよ」

 

 兄ちゃんは、始めはボクとしっかり向き合ってくれていたけれど、だんだんと興味なさげに目を逸らすようになった。多分、面倒に感じたんだろうけどそれでも聞かないわけにはいかなかった。

 

 ボクも兄ちゃんも別々のところへ引っ越すことがすでに決まっていたから、話を聞くのなら今日しかない。SNSなんかで聞いたとしても絶対に無視されるであろうことは想像に難くないから。

 

「ねえ、なんで黙ってるのさ。言いたいことがあるならはっきり言ってよ。ちゃんとぶつけてくれないとわかんないよ!」

「特に言うことは無い。つーかさ、そもそもの話だけど()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 誰がそんなこと言ったんだよ」

「何。何言ってるの」

「別に。俺はただ、俺のために必要なことだからやったんだよ。別にお前が虐められてようと何されようと、正直どうだってよかった」

「じゃあ、それじゃあ兄ちゃんは、ボクのことを助けてくれてなかったってこと……なの? そもそもそんなに傷だらけになってまで必要なことって何なの? ねえ、答えて。――答えてよ!!」

「もう全部言ったよ。それじゃあな。病気、治ればいいな」

 

 そして兄ちゃんはボクの前から消えるようにしていなくなった。それからボクは病気の症状が少し悪化して引っ越し先で入院することになって、メディキュボイドの被験者に志願した。

 

 もう一度、ちゃんと病気を治してから兄ちゃんに本音を問いただすために、ボク自身が少しでも強くなるための行為だった。VR世界を旅するうちにラン姉ちゃんやシウネー達と《スリーピング・ナイツ》を結成して、ラン姉ちゃんがいなくなって、お父さんもお母さんも後を追うように死んじゃって、やがてALOにたどり着いた。そしてそんな時に、ボクは謎のバグでSAOに飛ばされて兄ちゃんと再会した。

 

 いつの間にか彼女さんができていたり、SAOでも屈指のトッププレイヤーになっていたりしてびっくりしたけど、本質は何も変わっていなかった。自分のためと言って背負わなくていいものをずっとずっと背負い続けていた。

 

 そして、SAOがクリアされたとき。ボクは激しい虚無感を覚えた。兄ちゃんにはもう会えなくなること。兄ちゃんにとって、命を懸けてもいいほどの人がいること。ボクが何の役にも立てず、あまつさえ剣を突き立ててしまったこと。

 

―――ユウキ……お前もかよ……。なおさらどうやって帰れってんだよ!! 味方もいない! 救済もない! なにもない! 俺には何にもないじゃねえかあああああっ!!!

 

 そしてたとえ何も言わずとも自分のことを理解してほしいと、そんな叶うはずのない傲慢極まる兄ちゃんの本音を聞いてしまったこと。

 

 その全てがボクの弱さを証明していた。VR世界でどれほど強くても、たとえそこでは絶対無敵だとしても、現実世界で何も成せない人間には何の価値もない。そんなことを考えながら、またしばらくメディキュボイドの中で生活すること数か月。新薬を投与された僕は、あっさり病気を克服した。あれだけ苦しんだ日々は何だったのだろうと思わせるほどあっけない終わり方だった。

 

 身寄りのないボクを兄ちゃんの家族は受け入れてくれて、みんなと仲良くできて、いじめられる心配もなくなった。今のボクがここにいられるのは、たとえ本人が否定したとしても、謳歌兄ちゃんのおかげだ。

 

 

 

***

 

 

 

 央都アルンの超高級ホテルで目覚めると、それと同時に『ストレア』が起動して俺を出迎えてくれた。

 

「ライヒおかえり~」

「ただいま。……なんか変な感じだな」

 

 流石に今日は約束も何もしていないのでお嬢はいなかった。いるときはたまに五月蠅いと思う時があるのだが、いないときはいないときでちょっと寂しくなったりする。前回はお嬢がストレアとデュエルをして、そのあと正式にパーティーに入って、そして解散になったはず。

 

 とりあえず前回までの行動を振り返ってみたが、それっきりやることがなくなってしまった。スキリングするにしてもこのあたりでは限界が来てしまったし、さりとてあまり遠くに行くと次の集合日までに戻れるか分からない。

 

 あーだこーだと考えていると、ふと、初日に出会った占い師さんのことを思い出した。装備をいくつか譲り受けて、まだお礼の一つも出来ないままでいる。そういえばロクに武器の詳細も確認していなかったことを思い出して、いろいろ取り出してステータスを確認してみることにした。

 

 片手剣《アルバク=リカラ》、高い物理攻撃値に加えて強力な闇属性エレメントが付与されており、うまくやれば魔法を斬ることができる。

 

 細剣《ミィティア》、様々な鉱石が素材として用いてあり、非常に重いのだが堅牢で、特有のしなやかさがある。

 

 短剣その一《ルー・ガルー》、動物系モンスター特攻。

 

 短剣その二《シャルガフ》、生物科目なんかのシャルガフの法則と関係あるのかと思ったが全然関係はなく、中程度のHPリジェネ効果付き。

 

 結構なものをくれたと思う。だが、もらった時にも思ったのだが、どうしてか俺専用にチューニングしてあるとしか思えないような武器種なのが気になる。そしてもう一つ気になることがある。

 

()()()()()()()()()Accor(アコール)()()()()()()()()

 

 他の装備―――お嬢に見立ててもらった防具類なんかは、一流のテイラーが仕立てたものではあるが全て作成者が異なるのに。

 

 と、いうか。

 

「あの占い師さんがアコールって人で、たまたま売れ残ってたやつを試供品的にくれただけでしょ。普通に考えて」

「え、なに、どしたの急に」

「あ~、突然すまん。ちょっと独り言だよ」

「いやそうじゃなくってね。どうして急に()()()()()の名前が出てきたの? ってこと」

「知り合いなのか? あの占い師の人と?」

「言ってなかったっけ?」

「言ってねえよ……。てかなんだ、ネトゲとはいえ意外と世間って狭いな」

「あ、そーだ。思い出した。また会いたいから自分のことを伝えてくれって言われてたんだった」

 

「あのな、寄り道とかする前にそーゆーのを真っ先に済ませろよ。じゃないと向こうも()()()()するだろ」

「はいは~い。それじゃ行こっか!」

 

 突然ストレアにぐいと、腕をつかまれて窓からどこかに連れ去られる。怖いから放してくれ、自分で飛べるから大丈夫と言っているのにストレアは聞かない。なんとかストラップのようにストレアの付属品となって空を飛ぶこと数分間。のんびりとした平和な空気は突如として終わった。

 

闇妖精(インプ)よ、狩りなさい」

 

どこからともなく弓矢や魔法が雨あられと降り注ぐ。即座に眼下を見渡すが、敵が一人も捕捉できない。

 

「ライヒ! 投げるから急いで逃げて!」

「しばらく頼んだ!」

 

 ストレアが自慢の剛力で俺をオーバースローするのに合わせて翼を展開する。直角に折りたたみ、できるだけ早く街中に逃げ込もうとする。

 

 だが地面に降り立って翼をたたみ、隠蔽スキルを発動させようとしたその瞬間、今まで全く気配を感じなかったというのに、どこからともなく大剣を振りかざすプレイヤーが現れて、危ういところで回避する。

 

 それだけでなく一人、また一人と空間から滲み出るようにプレイヤーが出現する。種族はバラバラで、インプを狩るような発言があったはずなのにインプも存在する。そう、『元』副領主のあのプレイヤーも、また。

 

「おいおいおいおいおい。いくらレネゲイドになったからってそれはお宅のスパイ工作が下手くそだったからでしょ。俺を恨むのは違うんじゃないですかね」

「くひひっ、あのじゃじゃ馬にはハナッから興味なんてねえのさ。全てはあのお方。ゼノビア様の命令でやったことだ」

「それ、そういうとこ。いきなり親玉が誰なのかバラしちゃうそういうところが駄目なんですよ」

「軽口もそこまでだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「俺、人に仕えるとか苦手でさ。うっかり親玉の首とか切っちゃいそう」

「ならば一度死んでから考え直すんだな! 《親衛隊》!! あの餓鬼を木っ端みじんにしろぉッ!」

「やーっぱり、そうなるよな。こーだから集団って嫌いなんだよ。―――《ステルスポジション》、《リィンフォーサー》」

 

 街の暗がりに潜むようにして位置取りを変更すると、影を伝って移動する。

 

「《サイレントブースト》、《ヘッド・ハンター》、《バーストステップ》」

 

 移動の間も立て続けにスキルを発動させていく。相手方も索敵系の集団スキルを使用しているが、こちらを見つけられない。見つけさせない。

 

「筋を、こう、撫でるように……触れるように……」

 

 小石に気を付けるだとか、蛍光色の防具を避けるだとか、わざと地面に体をこすりつけるだとか、そういったほんの少しの工夫を凝らすことで音、光、匂いといった敵の五感が受け取る情報すなわち気配を断ち、一瞬のうちに敵を狩り取る。俺の踏み込み一歩は、致死の刹那に相当する。

 

 敵からすればどこかあずかり知らぬところで剣が振るわれ、気が付けば自分の(HP)は堕ちている。

 

「どこだ、どこなんだッ! 誰かいないのかッ!」

 

 触れれば、落ちる。たったそれだけではあるが、それ故に逃れることの叶わない原始的な恐怖を刻み付ける。

 

「ひッ、ひぃぃっ。分かった。やめるから! 全軍退却! これでいいだろ、だから……なあ、聞けよ!」

「《スター・セイバー》」

「やめてくれぇぇぇっ!」

 

 一切の慈悲も躊躇も感情の動きも無く、息をするように感覚で殲滅した。お嬢ほどではないが、それなりに鍛えている索敵スキルで周囲を見回して戦闘の終了を実感する。

 

「ストレアは……あいつホント派手な戦い方するよな~。()()()()()()()()()()しちゃってるよ……。ぐろっ」

 

そろそろバイオレンスなシーンも見飽きたし、手助けに行こうかな~と翼を出しかけた時だった。

 

「お見事。即席の軍勢を出してみたのはいいけれど、まさか無傷でほとんどやられるなんて思ってなかった。……SAOサバイバーなんてレベルじゃ片付けられないけれど、あなたって何者かしら?」

 

 芝居のかかった拍手をしながら、こちらに歩いてくる美貌があった。待機展開中の翼と、肢体を包む漆黒のナイトドレスを見るに影妖精(スプリガン)なのは分かるが、種族にふさわしくない銀髪を腰まで下ろしており、黄金の相貌は怪しげで魅惑的な輝きを湛えている。

 

 そして俺はインプとしては何の特徴もない容姿をしているが、この人物を知っている。《ALO》公式ウェブサイトに掲載されている各領主の顔写真一覧ページに、この人物は載っていた。

 

「スプリガン領主―――、『Zenobia(ゼノビア)』……」

「あなたのような人に知ってもらえていたなんて、光栄ね。そのとおり、私はそのゼノビアで相違ないわ」

「あなたのような……って、アンタは俺の何を知ってるってんだよ」

「強いわね、とても。しかもただ強いだけじゃない。あなたの剣に宿る本物の殺意……。それが生み出す芸術的なまでの殺戮……。私に、戦闘なんて野蛮なものを最初から最後まで眺めさせのは、あなたが初めてよ?」

 

 知らない空気だ、と思った。尊敬とか敬愛などといった高潔でそれでいて畏まったものではなく、純粋に俗っぽく耽溺していくように()()()()ことに特化したようなカリスマ性を目にしたのは、俺にとってはこれが初めてだった。だからこそ、いけないとは知りつつも、少しだけ惹かれてしまう。

 

「その野蛮な殺戮をけしかけた張本人がいけしゃあしゃあと何を言うかと思えば……。なかなか笑わせてくれそうなこと言うじゃんか」

 

「ふふっ、どうかしら。そんな話をもっとしてみたくない?」

「ここで? 戦地ど真ん中で? 馬っ鹿じゃねえのか」

「そんな無粋なことはしないわ? そうね、今からでもいいのなら私のお家(スプリガン領)に来ない?」

「そこで、どうするんだ?」

「楽しくお話をするの。私のお部屋で、二人きりで、甘いワインを飲みながら、いろいろなことをお話しするの」

 

 駄目だ、と。それは分かっている。ここで行ってしまえばお嬢を裏切ることになる。それは嫌だというのは本音だし、あの美貌に興味が無いことは確信している。でも好奇心が抑えられない。このゼノビアというプレイヤーの為人がどんなものなのか知りたくてたまらなくなっている。

 

「二人でお喋り、しましょう?」

 

促され、呼応するかのように返事をしてしまいそうになる。

 

 

 

 

 

だが。

 

 

 

 

 

「だめだよ」

 

寸前で何者かが俺を引き留めた。

 

「……無粋ね。誰かしら? 私はいまこの人と話して―――」

「《勇者》。君の輝きは影に堕とされるべきではないよ」

 

 腹立たしくなるほど空気を読まない姿なき闖入者にゼノビアが不快感を立ち昇らせて、俺への注視が途切れる。そこを的確に狙って闖入者は動いた。

 

「目を閉じて、それからすぐに後方に走って」

 

 俺の耳元にくぐもったその言葉が届いた瞬間、すさまじい爆音と激光と衝撃波とが俺とゼノビアの間を分断した。

 

 この閃光手榴弾のようなものがアイテムなのか魔法なのかはわからないが、とにかく助かった。そして堰が切れたようにいつも通りの思考を取り戻した俺は指示通りに逃げ出す。

 

「う……くっ、ま……だ、聞こえて、る、かし、ら? 今回は、邪魔、が、入ったけれど、機会はまだ、あるわ。次こそは、あなたを、私のものに、してあげる、から―――」

 

 そんな声も聞こえたが、今の俺には無視できた。あんな有象無象とはいえ、プレイヤーを人形のようにとっかえひっかえするような輩の元には居たくない。ふと横を見ると先ほどの闖入者が並走していた。

 

 藍色を基調とした怪盗を彷彿とさせる軽装に、決して華美ではないが舞踏会にでも着けていけそうな鉄製の仮面をしている。服装こそ青系統ではあるものの、出している羽をみるからに種族は風妖精(シルフ)らしい。かけている仮面によってなのか、声で男か女かを判断することはできない。

 

「えっと、ありがとうでいいのか? お宅俺のこと知ってるの?」

「ああ、知っているよ。《勇者》の一人。《歪なる者》ライヒ」

「なんか、SAO全集のあだ名使われると恥ずかしいんだけど……。まあいいや、お宅の名前は?」

「―――。」

「え、黙るところ?」

「別に、何でもないよ。何物でもない。ただ、君の味方であること。それが重要なのさ」

「はあ……。なんか、よくわかんないけどありがとう」

「それじゃあそろそろ時間だ。僕は行くよ」

「ええっ!? あんなに派手な登場しておいてもう行くの!?」

「大丈夫、また会えるさ。きっとまた会える」

 

 そして怪盗シルフ――名前がわからないので暫定的にそう呼ぼうと思う――は唐突にその姿を消した。そういえば、今の状況に夢中になっていて忘れていたがストレアはどうしたのだろう。

 

「やっべ~……。ストレア置いてきちゃったよ」

「アタシのこと呼んだ?」

「なんでちゃっかりいるんだよ!」

 

 心配するだけ杞憂だった。先ほどの虐殺っぷりを見るに大して手間取ることなく離脱できたに違いない。おそらくナビゲーションピクシーであることを利用して俺の元までワープしてきたのだろうが、ストレアレベルのプレイヤーにそんな機能を与えてはいけないと思う。俺以外は絶対に倒せなくなる。

 

「さて、どうやって宿まで戻ろうか……」

「念のためにマーキングしておいたから結晶で一っ飛びできるよ」

「おおナイス! いや、待て……その結晶はどこから調達したんだ? 俺のストレージからいくつか無くなってるんだが」

「ライヒのだけど?」

「ふざけんな、お前は歩いて戻れ!」

 

 

 

***

 

 

 

「お疲れ様。向こうでのライヒ君は元気にしていたかい?」

「はい。昔と変わらずどこに行っちゃうのか分からなくて、不安になります」

「君には彼がそう見える、と?」

「はい。だから、彼の味方でいるには敵になることも必要だったんです。それでもわたしは、あの選択が正しかったのかどうか分かりません」

「もう済んだことだ。君が望むのなら今度こそ彼の力になってあげるといい」

「そのつもりです。そうしたかったから、この仕事を引き受けたんですから」

「それじゃあ、次も頼むよ。柏坂ひより君」

 

 

 




 今回はストーリーの進行もそうですが、このIFストーリーの中でユウキ生存ルートを採用している根拠を重要視しました。賛否両論あるかな~、と思ったのと、構想段階にちゃんとあったので書くべきだと考えたからです。新キャラを仄めかしつつ既存キャラで押し通すのも段々きつくなっているので、そろそろ大放出できたらいいな……。


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