「それじゃあ自己紹介をしてもらおうかしら」
「はーい! アタシはストレア!」
「アナタは知ってるからいらないわよ。名前とかスキル構成とか、
「それでは私から。現副リーダーの《
「現参謀の《
「
「
「ナノナノ、でいいのか?」
「
「あー……、そうか」
メンバー一人一人の表情を観察しながらワルプルギス・ナイツを自称する彼女たちは実に奇妙な集団だと考えを巡らせる。俺をダシにして何か利益を得たいというのであれば理解もできるが、よりにもよって『配下にしてほしい』、『仕えたい』、『狂信者』と来た。煮ても焼いても食えないとはこの事だ。
何処まで信じて何処まで疑えばいいのか皆目見当もつかない。そういえばSAOにも似たような集団があったような気がする。《血盟騎士団》とか《ラフィン・コフィン》とか、あの辺りに近い。
「そういえばライヒさん。私の武器の使い心地は如何でしたか? 是非とも感想をいただきたいのですが」
「お前が《Accor》……で、いいんだよな? 感想としてはまあ、如何にもALOっぽいって感じがした。属性とか種族特攻とか――マジック効果に慣れるのに丁度いい。耐久に問題あるから思いっきり振れなかったけど」
「ええ、その通りです。この世界の装備はマジック効果の付与が特徴的ですが、代償として耐久値の上限を削ります。《鍛冶》スキルと《
「ああ、あれな。モンスター相手にPvPの練習するのはおススメ出来ない。お前……リューネだっけ」
黒のプーカに向き直ると、ギクリとしてこちらから一瞬だけ目を逸らした。表情や気配の隠し方が下手なところを見ると対人経験は殆ど無いと見ていい。本気でPvPを究めようとするならその位の技術は必須になる。確かに気迫は鋭く激しいがそれは劣勢に陥った故のものであり、威嚇を目的としたものでは無い。
「モンスターの動きはどこまで行っても人間らしくない。絶対に不意打ちをしてこないし、虚を突くとかの心理戦も出来ないからこれ以上は止めとけ」
「そのぉ、分かっちゃう? 女の子相手だと誰も本気で相手してくれないから仕方なくああやって練習してたんだけど……」
「そういう理由か……。確かにその人数じゃ身内でやるのも限界あるか。いずれにしても、だ。
事実として俺とレインのデュエルにおいて俺の勝率は七割程度で、純粋な読み合いでは殆ど勝てた記憶がない。ユニークスキルを入手する前までは殆ど五分五分だった筈で、スキルありきでも完勝には至らなかった。ソードスキルが使えないことを承知で二刀を装備し、俺の《ファントム・レイヴ》でさえも
ソードスキルを二刀で叩き返してインタラプトし、相手が動けない数秒で剣を一本手放してカウンターのソードスキルを放つ。俺のスキル構成を熟知していたり殆ど全ての装備の作成をしていたりするのも要因なのだろうが、あの戦闘センスは本物だと思う。ただし思考が人間のものとは全く異なるモンスターを相手にすると、そのセンスは上手く発揮できない――らしい。
レインと比べれば確かに劣るがこのリューネというプレイヤーも決して弱くはない。気迫自体は相手を怯ませるのに十分な威力を持っているし、鍛えようによっては《閃光》アスナと渡り合える位には強くなれる、と、思う。誰が鍛えるのかは置いておくにしても味方につけておくのには悪くないと思えた。
それはアコールにも同じく言えることで、マスタースミスをタダでこき使えるならかなり美味しい案件となる。装備のメンテの度に足がつかないというのも大きい。
「お嬢。リューネとアコールのスキル構成とか、嘘は無いですか?」
「それどころか四人全員シロよ。スキル、アイテム、
「なぜです?」
「きっとこれのせい」
「パス・メダリオン」
そういって二人がそれぞれ取り出したのはスプリガンを除いた全種族の
もし俺たちが一つの集団として脅威になったその時には、一種族と変わらない地位を手に入れたことになる。まさか、本当にそこまで考えていたのだろうか。俺をそういう立場にするためにここまでの仕掛けを講じていたというのか。
「私たち、サラマンダーとウンディーネの親善大使――みたいな立場」
「リアルでも双子だから仲良し。だから送り込んでも角が立たないの」
「それが意外と話題になって色んな所に呼ばれてる内にこうなちゃった」
「ミズチさんとも面識があるから、はじめは私たちが行く予定だったの」
流石に狙って今の状況を作り出したわけではないようだ。だが、ほとんどの領主に顔が利くとなるとリューネやアコール以上に貴重な戦力となる。
「ん、つまり予想外の出来事のせいで顔の広さが役立たなかったってことか」
「はい、それはわたくしから説明させて頂きます。まず、リーダーが突然姿を消しました」
「つまりリューネがリーダーじゃないのは――」
「リーダーが存在していたから、という事になります。そして消えたというのは、突然ログインしなくなったという意味です。これまでは日時を決めて集合していたのですが、ここ一ヶ月ほどリーダーはログインしていません」
随分と無責任なリーダーも居たものだ。流石に何も言わずに蒸発するのは迷惑すぎる。
「あまり時間をかけるわけにもいかないと判断した我々は独断で貴方との接点作りを優先しました。運よくインプ領で会えた時は興奮を隠すのに必死でしたよ、……フフフ」
「……そうか。それで、そこまでは問題なかったんだろ? 予想外の出来事ってのは何なんだ?」
「貴方がインプとスプリガンの抗争に関わっていることです」
「まだ抗争は始まってないだろ」
「そうですね……言い方に問題がありました。ゼノビアが貴方を欲しがっているのに貴方がインプに加担している、そういう状況になるでしょうか」
「は、ハァッ!? ライヒが欲しいって……あのゼノビアが?」
「そうです。彼女が《
『気をつけろよ。あのヒト滅多に人を選ばないが……見染められたら最後――襤褸雑巾だ』
あの言葉も必要以上に俺をお嬢に近づけないための布石だったのだろうか。他にも根も葉もない噂を流してお嬢の評判を落としていた可能性もあるが、逆にお嬢からすればそれでよかったというわけで――しかしそんな回りくどいことをしてまでSAOサバイバーを集める理由とはなんだろう。
確かにスプリガンは戦闘には不向きで、プレイヤー数も少ない。金でレネゲイドを雇った方が手っ取り早い気もするが、雑兵を集めても仕方ないという事か。先日の襲撃でも確かに部隊としては大したことは無かったが、一人一人見ればまあまあ強い。SAOサバイバーが何人かいたのかもしれない。
あの話術で取り込まれたすれば分からなくはない。ゼノビアの言葉には、何と言えばいいのか、男心みたいな部分を執拗にくすぐられる。思わず付いていきたくなるような、敵だと分かっていても味方したくなるような、いつの間にか心を掴まれている。
「とにかくスプリガンの網が広すぎてアルンで接触するのは不可能でした。ミズチさんに不利益な行動を取れば当然敵と見做されますので、ストレアさんにそれとなく誘導してもらう計画だったのですが、その……何しろストレアさんでしたので。悠長に待っているわけにはいかないと判断しました」
「態とらしく誘ったのもスプリガンの情報網を掻い潜るため、ね。こう言っちゃなんだけど、アナタたち随分と無謀よ」
「それはお互い様です」
早くもお嬢はリューネたちと打ち解けているらしい。だがこれは俺のSAOでの負債でもある。良くも悪くも多くの人に影響を与えてしまった、その責任を取らなければならない。ならその影響を最も受けたと考えられる人物のことを知らなければならない。
「因みに、元居たリーダーって誰なんだ? 名前くらいは知っておきたい」
「その……隠すわけじゃないんだけど、確認していい? 本当に知りたい? 知った後で後悔するかもしれないよ?」
なぜかリューネは躊躇している。あり得ないけれど、もしPoHとかだったら知りたくなかったと思うかもしれない。でもそれは有り得ない。
「今更誰の名前が出たって驚かない……と思う」
「うん……。そう、そうだね。それじゃあ言うけど、私たちのリーダーは――」
「
この場の全員が突然の声の方向を向く。そこにはあの
「嘘……どうやってワタシの《
まずお嬢が驚愕の感情を露わにするが、それには一切取り合うことなく彼女は俺に話しかけてきた。まるで本当に俺以外の存在が見えていないかのように。
「待っていたんだ、ライヒ。今度こそ僕はキミと共に行く」
「なんの冗談だ」
かつて俺が師匠ととして仰ぎ、さらには剣の主の如く崇拝していたルクスは俺に向かって手を伸ばしてくる。しかし振り払う。すべては始末した過去の話であり今の俺とは何の関係もない代物だ。この女は俺にとっては憎しみの対象であり、キリトの崇拝者だ。つまり決して分かり合う事の無い敵。それが突然俺の目の前に現れたかと思えば、
もはや命が仮初めのものとして成り立つこの世界で刃による脅しは効果を持たないが、何十何百と狩ってしまえば流石に追い払えるだろう。手始めにこいつ等に動きを止めさせてから無残にキルする。
「敵対の意思が無い事くらい分かってくれないかな」
「お前の存在自体が俺には害だと何故理解してくれない?」
この空気が、俺は嫌だ。常に上から見下されているような、所詮は二番煎じだと嘲りを受けているような、全て反証しきったはずなのにかつての記憶はどれだけ誤魔化そうとも未だ俺を解放してはくれない。どうしてもこの女を相手にすると精神的に竦んでしまう。そんな俺の心境を知ってか知らずかルクスは苦笑した。
「
「ああそうだ。アンタはPoHと俺との繋がりを危惧して自らラフコフに乗り込んだ……俺が道を踏み外さないように、自分に注目を向けて俺を遠ざけるため――」
「その通り。キミが怒る理由は何となく察しがつくけど、でも違うんだ。あれは誤解なんだ。決してキミを侮って過保護にしたつもりは無くて……」
「いいや違うね。俺がアンタに幻滅したのはそんな馬鹿みたいな理由じゃない。アンタは俺の親でもないんだからそんな感情は生まれようがない事くらい分かるはずだ」
「じゃあ、どうしてかな? 今の僕がキミにここまで嫌われる理由は?」
今更ながら、と思う。まさかこの女は俺の気持ちを一切理解せずに、自分の行動が全て的外れだったと気付かないまま良かれと思って俺の憎悪を煽っていたというのか? 明確に憎むべき対象が存在することで確かに俺はラフコフに正式に所属することは無かった。そこまではまあいい。だがそれまでだ。どんな理由や目的があったところで、その根底にあるものを奴は自分自身ですら理解していない。
それは、俺が彼女に抱いていたものとは逆のもの。
「
「違うッ!!」
「何が!」
「僕は――僕はいつでもキミのことを一番に考えていた! 少なくともキミに嘘をついたことは無い! 例え……どんなに形が変わってしまったとしても……信頼し合っていると信じていた」
「もういい、そんな言い訳は聞きたくない。――――今ここで! もう一度、もう一度その面子を叩き潰して……二度と俺に顔向けできない様にしてやるッ!」
そう叫ぶや否や左腰から長剣を引き抜き最速で斬り掛かる――これはフェイクだ――が、態と当たらない軌道をなぞり本命の上段斬りを打ち込む。一撃で首を落としてやるつもりだったが――流石に狙いがあからさまだったか――上手く体を反らされヒットはするが必殺には至らない。
ふざけるな、ちょこまかと避けるな、さっさと落ちてしまえ。まさか、俺の攻撃ならギリギリでかわし続けられるという目論見か? だとすれば――随分とお目出度い頭だ。俺がこの世界でただ遊んで時間を溶かしているだけだとでも思ったのだろうか。
翼を展開して小刻みに一瞬だけ振動させ、通常のステップでは到底不可能な捻転力を生み出し追撃を加える。低空飛行による翼を用いた超高速機動。この世界の翼は飛行するための、言ってしまえば
「シッ――ぃ!!」
「ぐっ、あ、あ……」
ルクス――いや、今はシオンだっただろうか。キャラクターを作って間もないせいか――翼で威力をブーストしているとはいえ――通常攻撃でもHPをごっそりと削ることが出来た。これならばお嬢とのデュエルの方が余程楽しめた。これでは俺の相手にならない。これでは俺と同じ舞台にすら立てていない。これでは、これでは――
――
直後、硬質な金属音と共に俺の剣が止まった。シオンが強引に腕を滑り込ませてガードしたようだが……軽装の癖にそんな丈夫な籠手を装備していたとでもいうのか。いや待て、今の感触は本当に籠手のものだっただろうか?
籠手に当たったにしては衝撃を吸収された感覚がまるで無い。これは
これが短剣の投擲であれば回避も間に合っただろうが、それすら問題にならない程の速度で真っすぐ至近距離から発射される矢を不意を突かれてまで回避できる術は、少なくとも俺にはなかった。
正確に右目を穿たれ視界を半分失う。残った左目から部位破壊のバッドステータスが見えるが問題はそれだけではなく、毒状態のアイコンまでがHPゲージの下部に表示されていた。《解毒》系スキルの最上位、《免疫》スキルを以てしても無効化できていないことからこの毒は最高ランクのものだと分かる。
だめだ、視界が安定しない。思考はいつも通り回るが――当然だ――いつも通りの動きが出来そうにない。これでは《異双流》を使ってのまともな戦闘は無理だ。だが……まさか、視界を半分潰されることがここまで戦闘に影響するなんて。他者には散々目潰しを食らわせてきた俺だが自分が食らった記憶は殆どと言っていいほど無い。焦りと怒りがじわじわと這い上がってくる。
「畜生、畜生!! 貴、様……!!」
「最初に狙うべきは視界だと教えたはずだよ……。使う前にやられると思ったけど、何故か剣が
「仮にそうだとしたら何だ、まさかこれだけで俺に対抗できるとでも思ったか」
「まさか。一応ALO最高ランクの《ヒュドラ毒》を使ったけど、《免疫》スキルを持つ君に二度目が通用するとは思ってない。ボウガンも一度見せれば不意打ちには使えない。まあ、この《毒》はどんなに体制持ってても罹れば確実にHPを七割は減らすから、HPだけで言えば並んだと思うよ。こんな事話してる間にも、ほら――」
確かに、気が付けばこの短時間でHPは大幅に減って黄色の注意域に至っていた。ポーションを飲んでもいいがその隙に、万が一にでも麻痺毒なんて食らわされてしまえば後がない。第一回復してしまえば俺は奴に一杯食わされたことを認めなくてはならない。そんな屈辱を味わってなるものか。
俺は今度こそ冷静に――或いは全力でそれを装って――細剣を抜いた。万全の戦闘は無理だがそれでも俺の全力に変わりはない。向こうも同様に大小長さの違う剣を抜く。SAOにおいてはソードスキルを犠牲にして技術のみを駆使する戦法。レインの《多刀流》とは異なり奴の
《異双流》が俺固有のものだったとしても、《一、五刀流》の影響を受けていないかと言われればそれは誤りだ。たかが剣をどう持つかで流派なんて馬鹿げていると思うが、それでも戦術の確立には割とネーミングが欲しくなるもので。俺の《暗殺剣》も対人に特化したという意味で、思考の切り替えに割と重要な役割を果たす、時もある。植物系モンスターに《トグロ》を使ったって仕方がない。
読み合いは殆ど無かった。互いに同時に飛び出して剣をぶつけ合う。向こうも俺を侮っているわけではないようで、執拗に俺の右側を狙ってくる。それだけではなく時折ボウガンによる射撃も織り交ぜてくるので非常にやりにくい。細剣と長剣を持ち変えて応戦することで何とか互角以上に立ち回れているがこのまま一気に攻めるのも難しい。
――と。
「あ」
一撃まともに食らってしまった。ほんの僅かな防御のラグに上手く合わせられた。勿論それ以上の追撃は跳ねのけたが、今のは素直に読み合いに負けたと言わざるを得ない。だがこちらも当然攻撃の手は緩めず、攻撃後の無防備な手首を掴んでこちらに引き寄せる。
一瞬だけ至近距離で視線が重なる。そして強引に引き寄せることで動きを封じ、喉笛につま先を叩きこむ。戦闘詠唱などで魔法を発動されれば、シルフの形のない風魔法によって斬る間もなくHPが消し飛ばされてしまう。故に、喉を狙うことで発生を阻害する。
――そうか、俺、師匠と互角にくらいには強いんだ。
右目が回復した。広くなった視界に敵の攻撃がよく見える。細剣で攻撃を受け流して体制が崩れたところを《龍爪》で掴む。このスキルはALOにコンバートされたことで仕様が変更されていて、二メートルほどの魔法の腕を発生させることで威力は若干落ちるが凄まじいリーチを誇るようになった。俺はインプなので、腕の属性は《闇》。その巨大な腕で胴体ごと鷲掴みにし、地面に投げた。いつのまにか俺たちはかなり高いところで戦っていたらしい。
そして、とどめの一撃。剣を逆手に急降下する。
剣は――
剣は、奴の顔のすぐ横に突き立った。俺であれば確実に刺せたはずなのに。
「……
ああそうだよ。
「――――――ぁ、――ぃ」
声がかすれた。そうだ。俺にはどうしても、これ以上のことは、あの時と全く同じで。
どんなに憎んでいても、どんなに殺したいと思っていても、他にどんな理由があっても、俺にはこの人を殺すことだけは出来ない。絶対に。
「で、き……ない。出来ない。あの時もそうだった。レインに止められたけど、多分剣を振っても今みたいになった。俺は――、無理、だ」
理屈じゃない。感情でもない。でも無理なものは無理だ。誰にだってそういうことはある。嫌なものは嫌だし、理由のつけられないものに理由はつけられない。どれだけゲームが上手かろうが俺は所詮子供で、どうしようもないことがあまりに多すぎる。
今までにも喜んでプレイヤーを殺して来ただろうと言われればそうだ。でも殺せない人だっている。
俺は剣を回収するのも忘れて手近な木にもたれかかりそのまま座り込んだ。膝と頭を腕で抱え込む。
「アンタ、本当に何しに来たんだよ……。こんな大掛かりな仕掛け――別アバターまで作って、マジでどうするんだよ」
「本当に、やり直したかったんだ。今度こそ目に見える形で君の力になって、それで、何とかあの頃みたいになれたら……って」
「んなこと無理だって分かるだろ……。アイツら……ナイツの連中はどうすんだ……」
「全部話したよ。その上でついてきてくれた。だから、せめてあの娘たちは傍においてあげてくれないかな」
勝手だ。勝手すぎる。もう俺なんてどうでもいいじゃん。英雄でもなんでも放っておけばお互いに何もなしでいいじゃん……。
「ちょっと? アンタたち急にバトり出すかと思えば森の端っこまで来て何してんのよ! ゼノビアに見つかったらどうするつもり!?」
お嬢たちが追い付いてきた。特にお嬢は、恐らく全部見てて、その上で空気を読んでくれたんだと思う。
「元師匠と戦ってたんですよ。で、これからどうしますか?」
「どうするって……そりゃあ、ねえ?」
なにが、「ねえ」なんだか。何となく面白くて少し笑ってしまった。
「えっとじゃあ提案ですけど、疲れたんで解散にしません? 仲間もホラ、結構集まりましたし」
「全く、勝手な行動しても筒抜けなんだからしっかりしなさいよね。そこの……シオン? アンタも参加してくれるってことでいいのよね?」
「うん、僕もナイツだからね。リューネたちと同じだよ」
当のリューネたちはイマイチな表情をしている。俺には仕えてるけどお前には仕えてねえよ、みたいな。
とりあえず俺たちは事前に決めていた目的地まで移動し、そこで宿を取ってログアウトした。ログアウトする直前、師匠と交わしたやり取りを思い出しながら。
「リアルで会わない? 僕がキミの所に行くから」
「……。分かった」
◇◇◇
誰もいない。何処にもいない。
一人ぼっちでの通学。食事。勿論お喋りなんか出来やしない。ただそこにある空のボウルのような孤独を抱えて生きてきた。好きな物も嫌いなものも、他人に合わせることなく自分で決めて、その先はやっぱり孤独。
もう嫌だ。誰かの温もりが欲しい。暖かな言葉を、表情を、感情を、誰でもいいからワタシに向けて欲しい。そう強く願った時には決まって、欲しいものを全部ワタシに向けてくれる人がいるのだ。
――あら、どうしてこんな所に一人で居るの? 一緒にお弁当食べましょうよ。
そんなのワタシの勝手でしょ。
――テニスが好きなの? 私は運動苦手だからちーちゃんが羨ましいな。
日頃から運動すれば良いだけじゃない。
――ねえ、どうして私を避けるの? 一人が好きなのかもしれないけど、私が寂しいの。だから一緒に居てくれない?
煩い。
――何処かに遊びに行きましょうよ。二人っきりで、ね?
煩い。煩い煩い、煩いっ。
――二人で居れば寂しくない。だから、そんな邪険にしないでよ。ね?
煩い煩い煩い――っ!! 全部全部! 全部! アンタのせいでこうなったんでしょ!!
アイツは知っていた。アイツ自身の行動がワタシを孤立させている事を知っていた。ワタシの知り合いを、友達を、全て自分の友達にしてワタシを孤立させた。全てはワタシを独り占めにする為に。溜まったものでは無い。ワタシはアイツの人形じゃない。友達も、一緒に居たい人も、好きな物も、ワタシを取り巻くあらゆるモノは全てワタシのモノだ。全て自分で選択するべきモノだ。決して誰かに譲って良いものでは無い。
だと言うのに何で、如何してワタシは一人なの? やっと見つけた信頼出来る仲間も、笑い合えていたはずの友達も、暫くしたらワタシに興味を亡くして背を向けてアイツに夢中になってる。こんなのって、酷い。辛過ぎる! 酷過ぎる! もうこれ以上耐えられない!
だからワタシは手っ取り早くアイツから嫌われようと思った。これは譲れない一線だ。これは当然の復讐だ。幸いな事に、アイツがワタシを良く知っている様に、ワタシもまたアイツの事を良く知っている。だからアイツの目論見をズタズタに引き裂いて、ひっくり返して、台無しにしてやる!
例えそれで私が全てから嫌われたとしても、ワタシは、ワタシがワタシで在る事を辞めない限り、決して歩みは止めないと決めたのだ。これは希望も勝機も無く、只々ヤケクソで始めたモノなのだ。誰にも信用されず、誰も信用出来ない、ひたすらに寂しいだけのモノだった。
でも。ある時運命に出会ったのだ。やっと、ようやっと報われたのだ。ワタシを信じてくれて、ワタシが信じられる人に、ワタシの運命にようやく出会えた!
他愛ない話を沢山した! 色んな所に遊びに行った! 迷惑を掛けて、掛けられた! 為人を知り合えた! そして何よりも、同じ時を共有してくれた事が嬉しかった!
まるで甘い夢を見ているかの様だ。この甘く蕩けるような夢に何時までも浸って居たい。いっそ溺れてしまいたいとさえ思う。彼さえ隣に居てくれればアイツだって怖くない、復讐さえどうでも良くなる。
だけれど彼は違う。ワタシの事情なんて彼にとっては取るに足らない些事で、ワタシのやろうとしている復讐が面白そうだから付き合ってくれているだけ。場合によってはアイツの目論見の方が面白い、と思うかも知れない。だから期間限定の契約で縛った。人が離れて行くのには慣れているけれど、彼が居なくなれば、きっとワタシは耐えられない。
それに、自分の気持ちを誤魔化すのにも疲れた。ゲームの中でこんな事を思うなんて馬鹿げている。そんな事は知って居る。だとしても、初めての本当の友達で、そして相棒なのだ。ワタシにとっての相棒という言葉は、家族や仲間、友達よりも尊く聴こえる。だから自分に嘘は吐きたく無い。
――ワタシは、ライヒの事が好きだ。
お久しぶりです。アクワです。何とか蒸発せずにお送りすることが出来ました! 頑張ってたくさん書いたので亀更新には目をつむって頂ければ、と思います。すみません。そんなわけで、出ましたオリキャラ。たくさん出たのでストーリーも沢山進められそうです。次回も頑張ります!
感想その他お待ちしております。