「すいませ~ん。フィ~リアさんでよろしいですかあ?」
「アンタ……誰。オレンジプレイヤーが圏外に―――ってことはPKでも狙いに来た?」
「ち~がいますよ、違いますってばぁ。ちょいとウチのボスからお使い頼まれちゃいまして。ちょっと言いたいことがあるというか、お願いしたいことがあるというか」
「告白なら死ぬ直前に言えばOK出るかもよ?」
「そーじゃないですってば。―――ほーいっと」
「……? 何よこれ。写クリ?」
「そーです、そーです。流石はトレジャーハンターですねぇ」
「用件は何。言わないなら首落とすけど」
「簡単簡単なお仕事ですよぉ。ここに来たお知り合いさんの写真をチョーっと撮ってほしいだけです。別に全身じゃなくってもいいですよ?人数と装備形が分かればそれでいいです。簡単でしょぉ?」
「PKの手伝い? ―――ハッ。一昨日来やがれね」
「あれあれぇ? オレンジのフィーリアさんがボクにそれ言っちゃいますぅ?」
「ッ……。私はアンタらとは違う!!」
「同じですよぉ?生き残るために剣を振ってモンスター倒すのと何が違うんですかぁ?ま、フィーリアさんが殺っちゃったのはじ・ぶ・ん。ですよねぇ?」
「―――黙って。それ以上言ったら―――」
「分かりましたよぉ。もう言いませんから剣チラつかせないでくださいよぉ。ソレやってくれればもう来ませんからぁ。ま! ボクが取りに来るんですけどね!あはは~」
***
確かにレベル差はあったけど、これは理不尽すぎる。あの威力は、あの速さは、プレイヤーに許されていいものなのか。今の戦闘で俺のスキルの存在意義が消え失せた気さえする。
――馬鹿みたいじゃないか。
それが正直本音だ。そりゃそうか。キリトは二刀流を扱えるだけの資質がちゃんとある。まさしく勇者に相応しい。しかも正しく使えている。一体その剣で何人を救ったり勇気づけたりしたんだろう。勿論俺みたいに悩みもしただろうが、俺とキリトではそれが違う。俺は自分のためにしか剣を執れない。そこが、違う。
――クソ、何のためにここにいるんだ。
俺は涙ぐんでいるのだろうか。認識機能が薄れていく。俺は死に始めてるのか、システム異常でHPがゼロになったのかもしれない。……そんなわけは無い。俺がここに居たくないだけだ。
この世界は朧げで、そのくせ中途半端にリアリティがあって。所詮
だから。
「ね――――よ――」
「お―――――おき―――よ―――」
ほん、もの―――
「ライヒくん! しっかりしてよ!」
火花が弾けるようにパッと意識が覚醒した。良かった俺は死んでいなかった。気が付くとレインがいた。俺に抱き着いてしきりに揺さぶりながら泣いている。目尻の涙をそっとぬぐってやる。
「何で、お前が泣いてんだ。泣きたいのはこっちだっての」
目が合う。今まで何回目線を交わしたのだろうか、見慣れた絶対の信頼がおける瞳。俺が生きてるのが分かると、レインは更にギアを上げて泣き出してしまった。
「バカッ!バカバカバカ!ばかぁ・・。」
「バカしか言えないのかこの馬鹿」
「……死んじゃうかと思ったんだよ? ずっと一緒だって、言ったのに―――」
「俺が死んだらキリトに惚れろよ。アイツといれば死なないから」
――パン。
引っぱたかれた。
「お願い、そんなこと言わないで。あたしに約束を破らせないで、ずっと傍にいて。あたし、ライヒくんの事―――」
どうやら気絶していたらしい俺は宿屋に運び込まれたようで、幸いここは個室のようだ。きっと他に誰も居ないだろう。こういうのは男からってことは俺でも知ってる。だからレインに最後まで言わせちゃいけない。今まで目を背けてて言えなかった言葉を。ここで伝えよう。
レインの唇を、俺の唇で塞ぐ。
「好きだよ。ちゃんとお前の事、愛してる」
レインがハッとした顔になる。しかし、すぐに顔を綻ばせていった。
「あたしも好き。好きだよ。ずっとずっと――愛してる」
再び唇を重ね合う。それだけでよかった。それ以上は要らなかった。
***
俺が運び込まれた宿屋は、壁のエギルことエギルのぼったくりバーの二階の一室だった。まあ、《担架》属性持ちのアイテムで運び込んだのだろう。ありがたいことに、昔のよしみで自由に使ってもいいとの事。何はともあれ。俺達は攻略組に復帰できたわけだ。因みにアスナさんとデュエルしたレインは、意外にも引き分けたそうだ。
「しっかし、たまげたぜ! ユニークスキル使いが今までこんなになるまで影を潜めてたってのはよお」
声の主はクライン。相変わらずバンダナが悪趣味すぎる。
「別に出ようと引っ込もうとアンタには関係ないじゃない。スキルだってプライバシーの一つだってアスナから聞いたわよ」
これはシノン。なんか―――知らん。何で虚空よりダイブしてきたのか。分からん。
一階喫茶スペースに集まっているのは俺、レイン、キリト、アスナ、シリカ、リズ、シノン、クライン、エギル、あとリーファ。繰り返すがシノンとリーファについてはさっぱり分からない。急にここに転移したとか、意味の分からないことしか言わないから信頼も信用も出来ない。しかしシノンに限っては《射撃》なる弓を扱うユニークスキルを所持しているのだとか。
「お兄ちゃん―――キリト君も凄かったけど、ライヒくんもよくあれに付いて行けたよね。なんかユニークスキル使いって、私達と次元が違う気がするなぁ……」
「あんなの見ちゃうと付いていけないんじゃないかって心配になります……。どうしようピナ……」
「きゅるる」
「キリト君って片手剣のままでも十分強いけど、デュエルであんなに苦戦したのって団長を除けば初めてじゃない? レベルが下のライヒくんがあれだけ戦えたってことは、両手装備スキルが二刀流と同じかそれ以上ってことになるよね」
「まあ、そうだな……。投剣、体術、片手剣、細剣、短剣……。《二刀流》ならぬ《多刀流》って感じだったよ」
「おやぁ? 黒の剣士様もここで形無しかしら?」
「多刀流か。あのライヒがよくもここまで出世したもんだ……」
「……ええ、そうですね。おかげさまで」
自己紹介もろもろを済ませ、俺はすっかり攻略組の一員と化していた。人というのは慣れるもので、一週間たてばすぐに仲良くなれる。たとえ偽りの仮面の上からであったとしても。
それはともかく、今日から攻略を進めていくことが会議で決定したらしい。中でも大きかったのはユニークスキル使いが新たに二人も陣営に加わったこと他にあった出来事と言えば、俺が現在被害を受けているストーカー事件だ。これにはみんな「ストレアだよ、ストレア」と訳の分からない答えしか返してくれない。誰だ、ストレア。
「そういえばライヒ。お前の二つ名なんだか知ってるか?」
「黒の剣士様に言われると何か複雑だな。で、俺に二つ名? どんな感じ?」
「態度と違って興味深々だな・・・。」
「いいから。そういうのいいから早く言えよ」
「《御影》。お前は今から《御影》のライヒだ」
安寧と偽りを天秤にかけることは正しい事だろうか。
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