なんだかんだで76層以降のアインクラッド攻略は順調に進んでいる。元より76層以上に存在するプレイヤーは約二年続くデスゲームの最前線を生き抜いている精鋭しかいない。閃光アスナ一人とってもキリトに匹敵する戦闘力を誇るのだから、結局のところユニークスキルは所謂『やりこみ要素』なのだ。《両手装備》も《二刀流》も瞬間的な火力は他のスキルを凌駕するが一撃の威力、攻撃範囲、命中率の面で総合的に劣る部分も多い。
やはりSAOはどこまで行っても結局『ネトゲ』で、そうである以上誰もが人とは違う定石、装備、そして最強を目指す。
でも俺は、みんなと同じでもよかった。唯一性が欲しくて生きて来たのではないのだから。
***
「ディレイ系で援護しろ!お前は何とかして後ろを取れ!タゲは一括俺が受ける!」
「了解。三秒後に着弾するわ」
「宜しく!《ミスディレクション》《サイレントブースト》《バックスタブ》……」
「剣技連携支援システム《OSS》起動。《ペネトレイト》《クルーシフィクション》《トライアンギュラー》」
シノンが稽古をつけてくれと言うのでご無沙汰していたホロウエリアに連れていくことにした。キリトとも訪れてはいるが、攻略が進まない。前にやっとこさ「森林」エリアのボスを解放したところだ。
ランク2ホロウミッション「守護騎士隊の反乱」の討伐対象ターゲット《ツーソードパラディオン》を相手に俺、シノン、フィリアは奔走していた。取り巻きのルーン系モンスターはすでに排除して1対3の体制を作れるには作れているが、例の討伐対象のレベルが明らかに高く、アインクラッドでもほとんど記憶にないモンスターパターンなので苦戦を強いられている。一撃食らうだけでもどれだけHPが持って行かれるか分からない。
故に、俺とシノンの二人がかりでディレイさせ、フィリアは遊撃に回してチクチク削る戦法を取っている。
宣言通り、指示からきっかり三秒後に弓ソードスキル《ブレイジングショット》が四足歩行の魔獣騎士のウィークポイントを捉え、ディレイさせる。その間もテスター権限で条件解放させた「OSS」システムを用いて一撃が比較的重い剣技でディレイを継続させる。
―――データ収集完了。片手用直剣専用ソードスキル《カーネージ・アライアンス》の制限解放。SAOシステムに反映。実装しました。
システムメッセージが狙い通りの内容を伝えてくる。《トライアンギュラー》の3撃目が命中するや否や、右手を引き戻しサンプルムービーでのみ見たソードスキル《カーネージ・アライアンス》をスキルコネクトで始動させる。独楽のように回転し2発叩き込み、腕を返してクロス状に2連撃。更に腕を振り抜き、斜めに2発でフィニッシュ。情報通り、この剣技の最終撃は非常に高いディレイ効果を持っている。騎士が大きくのけぞった瞬間を見逃さず、フィリアが高威力の《シャドウ・ステッチ》を発動。二段ゲージのうち二段目が半分を割ったことで黄色く染まる。その瞬間、騎士が一際大きく咆哮した。
「
「分かったわ」
「うん!」
ネームドモンスター級の相手のパターンとして怒り状態になった瞬間、ダメージはそれほどでも無いが吹き飛ばし性能の高い固有の衝撃波攻撃を放ってくる。今回もその定石通りに防御を指示した。たとえ衝撃波攻撃じゃなくとも防御の心構えができていれば躱すなりも可能なはずだと読んだからだ。
予想通り赤黒い衝撃波が俺達を襲った。剣で防いだものの、やはり体が大きく泳いだ。しかしここで俺は失策を悟った。更に2波が押し寄せてきたからだ。防御も回避も間に合う筈がなかった。シノンやフィリアは吹き飛んだだけで済んだが、至近距離で受けた俺は更にスタン状態に陥った。指一本動かなくなった俺に容赦なく大剣が叩き込まれる。一瞬でHPが8割も消し飛んだ。危険域突入の不快な警告音が鳴り響くがやはり体が動かない。『麻痺』状態と化した俺は全身全霊で鬨の声を上げた。一定量の
「ライヒ!」
虚しく散った俺の咆哮を上書きするように《射撃》スキル専用の剣技のサウンドエフェクトが唸りをあげ魔獣騎士に突き刺さるが、一切の興味を示そうとしない。それもそのはず。俺がパーティー唯一のダメージディーラーだからに決まってる。それをこなすためにヘイト上昇系のスキルはありったけ使っているため、ソードスキル一つくらいで変動するはずがない。フィリアも駆け出してきてはいるが、今まさに剣を振り下ろさんとする悪鬼に間に合うわけがない。
見えそうになる走馬燈のような幻燈を必死に意志力でかき消し、トライレジストのリキャストを待つくらいが俺の今の限界だった。寒くも無いのにどこからか寒さが忍び寄ってくる。---死の恐怖。
ここまで窮地に落ち行ったのはいつの時だっただろう。それこそ例の25層ボス以来かもしれない。心の中で半分はあるはずのない攻撃のファンブルを祈り、もう半分では生きることを諦めながら俺はその瞬間を待った。凶悪に煌めく刃がとてつもなく遅く見える。
まだ、来ない。まだ―――まだか。
刃が装備を切り裂きアバター本体に、俺の命の鋳型に食い込むのが見える。俺は息を詰まらせた。
俺の呼吸が詰まったのはその剣が半ばから叩き折られ、消失したからだ。シノンでもフィリアでもましてや俺でもない。その現象を起こした張本人は俺の前に立っていた。女性だろうか。キリトかと思ったが違う。さらりと舞う長髪、何より紫紺の装備がそれを物語っている。気が付くと俺の右手の長剣がもぎ取られていた。
「ごめんね、お兄さん。ちょっと剣借りちゃった。でも結構危ない感じだったからさ」
えへへ、と明るく笑うと少女は唐突にパラディオンに突っ込み―――
「これで終わりだよッ!!」
一瞬何が起きたか分からなかった。十字のパーティクルが煌めいたと思ったが違う。神速の高速突きのライトエフェクトがそう錯覚させている。そして、一泊置いた後、十字の中心にもう一撃叩き込んだ。速さもさることながら威力も凄まじい。そしてなりより11連撃。片手剣最上位スキル《ノヴァ・アセンション》をも上回る、何より美しい剣技に俺達はしばし見入った。《ツーソードパラディオン》討伐完了のログが流れると、ようやく時がまともに動き始めた。
「おにーさん大丈夫?ゲージ真っ赤だけどアイテムはある?」
「ん、ああ。結晶結晶」
結構高価な結晶を見栄で使ってしまった。また無駄遣いをレインにどやされると内心泣きながら死活問題であったことを思い出した。返却された剣を鞘に戻すと改めてパーティーに向き直る。
「悪い。未開のフィールドだったのは承知してたけど読みと警戒が浅かった。―――あー、それと君。ありがとう。お礼は必ずする。そんで俺はライヒ、そっちの弓使いがシノンでこっちはフィリア。君は?」
「ボクはユウキ!なんか急にここに飛ばされて出られなくなってさー」
改めてボーイッシュなその顔を正面から見る。―――一瞬間、なにか違和感を感じた。
ボクという一人称。紫色に偏った好み。そして何より見覚えのある顔が―――
「もしかしてお前……木綿季…?」
「え?もしかして……兄ちゃん!? なんで!?」
***
場所は変わってエギルの店。
新たな新参に流石にキリトその他は参っていた。光の妖精じみたリーファの次は闇の妖精ユウキときた。アスナさんは頭を抱えてうんうん唸っているし、俺もレインにこってり絞られて半生状態になっている。とにかく異常事態が多すぎるという事で、緊急会議を兼ねて自己紹介タイムといった時間である。
「ユウキです!リアルではオウ兄…じゃなかった、ライ兄とはいとこでした!向こうのALOっていうゲームをやってたら急に飛ばされてきたんですけど、よろしくお願いします!」
「おうおうライヒよぉ…おめぇも段々キリの字路線まっしぐらかよ……。なんで俺には誰も来てくれねぇんだ!!」
クラインの嘆きはどうでもいいとしてなかなかどうして大変な事には違いない。こんなんでホントにSAOはクリアできるのか??
***
「おおっ!間違いないじゃないですかぁ!!これでヘッドにもいいお土産ができましたぁ。いやぁ~感謝感謝ですよぉ~」
「もう、用はないでしょ。さっさとアンタの親玉の所にでも帰んなさい。じゃないといい加減に―――」
「それがそれが自分じゃなくてですねぇー。ウチの超クゥ~ルなヘッドが会いに行っていいかっていうんですよぉ~。いやいや自分も結構ホントにビックリですよ?」
「何なの、アンタたち……一体何がしたくてライヒとキリトの写真が要るの?答えて!!」
「そんなの簡単ですよぉ?―――即ち~生きるためですよぉ。
――だって自分ら
その男。モルテと呼ばれたプレイヤーの影は、愛おしそうに、狂おしそうにささやく。
――
如何でしたでしょうか。久々にしては中々だと自覚がありますが・・・。そのために思わぬミスがあるやも分かりませんので気が付いたらどうぞ一報お願いします。
感想その他お待ちしております。