オーバーロード  ハイドアンドシーク   作:Gonざれす

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本編がなかなか進まなくてすいません。

今回は本編と同時進行で書いていた話です。

自分としても描いておきたい部分だったので、読んでいただけると幸いです。





外伝
ナザリック侵攻大作戦 その1


体感型RPG『ユグドラシル』。

 

 

その中の世界の1つ『ヘルヘイム』にある

広大な沼地『グレンベラ沼地』。

 

元々はツヴェークと呼ばれるカエルの姿に酷似した高レベルモンスター達が根城にしていた領域であり、『ユグドラシル』の中でも難所の1つとされる場所であった。

 

 

そして、その中央にある

『ナザリック地下大墳墓』。

 

ここは現在、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の本拠地であり、『ユグドラシル』の世界でも数少ない最上位級の拠点地域でもある。

 

 

 

そこから少し離れた森の中の一角に

大勢のプレイヤーの姿があった。

 

 

それぞれが種族も性別も様々な面々が集まり、

仲間同士談笑する者達や念入りに装備品の確認をする者達、ある者達は互いに記念写真を撮りあっていたり、あるいはネットに生放送して上げてるのか実況中継をする者の姿まであった。

 

ガヤガヤと賑わいを見せるそのなかに、

とある3人の姿があった。

 

 

「いや~、ついにきましたね、この時が!」

 

「ずいぶん張り切ってますね、Fスピさん。」

 

「当たり前じゃないですか!あの『アインズ・ウール・ゴウン』をぶっ潰す時がきたんですよ!」

 

『Fスピ』と呼ばれた巨大な銀色のフルプレート姿のプレイヤーは、腕を振り大袈裟なリアクションをしながら意気込んで答える。

 

 

「エリックさんはワクワクしないんですか?

1ギルドの本拠地進攻に、これだけの人数が集まるのはそうそうあることじゃないですよ!」

 

「まあ、おっしゃる通りなんですけど、僕は特にそこまで張り切る理由も無いので…。」

 

『エリック』と呼ばれた黒いフード付きのマントを羽織った人型のプレイヤーは、Fスピとは対照的に少し緊張した様子が伺えた。

 

 

「なに言ってるんですか!ここでテンション上げてかないと、いざというときに尻込みしちゃいますよ!桜田さんを見てくださいよ!気合いでうち震えてますよ!」

 

Fスピはそう言って勢いよく指をさす。

その方向には赤いメタリックな鎧を着た──鎧というよりも全身に装着した装甲と呼んだ方が正しいと思われる──二足歩行の獣、すなわちコボルトの姿をした1人のプレイヤーが両手を握りしめ、うつむきながらブツブツと何かを呟いていた。

 

「あの、桜田さん。どうしたんですか?」

 

その異様な様子に不安を覚えたエリックが『桜田』と呼んだコボルトに話し掛けると、コボルトは急に声を上げた

 

「うおおおおおお!!!やぁあっってやるぜぇぇぇぇ!!!」

 

「うわ!びっくりした!」

 

あまりの勢いにエリックは後ろに飛び退くと、

その姿に気付いた桜田は照れくさそうに言った。

 

「あっ、エリックさん。すいません、ちょっと色々考えてて気合い入れたくなっちゃって」

 

「急にやめてくださいよー。心臓止まりかけたじゃないですかー」

 

「いや、本当にすいません。」

 

頭を下げて謝罪をする桜田にエリックは両手で、もう大丈夫とジェスチャーで答える。

 

 

「というか、なんでお二方ともそんなに気合い入ってるんですか?」

 

エリックは素朴な疑問を二人に投げかける。

 

「そりゃ~気合いも入りますよ。ねぇ、桜田さん?」

 

「ええ、ここは僕にとっての因縁の場所ですからね…。」

 

「因縁?」

 

エリックにとっては初耳の話だ。

桜田こと『桜田ファミリア』が『アインズ・ウール・ゴウン』と何かしらの関係があるなんて今まで聞いたこともなかった。

 

 

「桜田さんて、もしかして過去に『アインズ・ウール・ゴウン』に何かされたんですか?」

 

エリックは当然の疑問を桜田にぶつける。

すると桜田は少しうつむきながら語り始めた。

 

「いえ、僕が直接『アインズ・ウール・ゴウン』に何かされたわけでは無いんですよ。問題は彼らがこの『ナザリック地下大墳墓』を本拠地にしてる、てことなんですよ。」

 

「?」

 

イマイチ話の真意が掴めないエリックに対し、桜田は語り続ける。

 

 

「僕もね、実は昔ここの沼地のことを調べていた時期があるんですよ。まだ発見されてないダンジョンがあるんじゃないか、て」

 

「へえー、そうだったんですか。」

 

意外な事実にエリックは少し驚くが、桜田は構わず話を進める。

 

「もうちょっとだったのに…。あとちょっとで僕が『ナザリック地下墳墓』の所有者だったのに…。」

 

「え!?」

 

感傷的になっている様子の桜田とそれに対しウンウンと頷きながら同意するFスピ。それに対し驚きを隠せないエリックは思わず質問をしてしまう。

 

「え?桜田さんが『ナザリック地下大墳墓』の所有者ってどういうことですか?」

 

「見つけたんですよ、僕は!!あの時『ナザリック地下墳墓』を!!でも、あのカエルどものせいで!それ以上先に進むことができなかったんですよ!ちくしょー!!あのクソガエルどもめ!!次から次へと仲間を呼びやがって!」

 

 

当時のことを思い出し、感情を燃え立たせる桜田と先程と同じように頷くFスピに、疑問を感じたエリックは三たび質問をする。

 

「あの…それって桜田さんだけじゃなく、他のプレイヤーにも言えることじゃないですか?」

 

「え?」

 

エリックの至極冷静な意見に、思わず桜田が聞き返す。

 

 

「だって、当時からグレンベラ沼地には何かしらあるんじゃないかと噂になってましたよね?おそらく桜田だけじゃなく、他のプレイヤーもその前から調査はしていたと思う…」

 

「違いますよ!!絶対あの時は僕が一番あの場所に近付いてたんですよ!間違いなく!!ええ、間違いなく!!」

 

エリックの言葉を遮るように桜田は号砲のごとく言い放った。

 

「それなのに…僕が今度こそと、ナザリック攻略の準備を進めてる僅かな間に、奴らに奪われたんですよ!この悔しさがわかりますか!?」

 

「いや、なんていうか…すいません。」

 

すごい剣幕で言っているであろう──『ユグドラシル』には表情が変わる機能が無いのでおそらくだが──桜田の勢いに押され、エリックは思わず謝ってしまう。

 

桜田ファミリアという人物は、普段は温厚で人当たりの良い人柄なのだが、時としてこだわりの強いものに対してはこのように感情を昂らせることがあった。

 

こういう時に正論は禁物だ。

エリックはとりあえず桜田の話を聞くことに徹することに決めた。

 

桜田は少し声を落とし話を進める。

 

「いや、僕もエリックさんの言ってることはもっともだと思いますよ。僕だってわかってたんですよ、自分が見つけられたなら他に見つけられる奴だって必ずいる、ていうことを…。」

 

先程とは打って変わって、

やたらトーンダウンする桜田

しかし、それもつかの間であった。

 

「でもね!だからと言って全てに納得して諦められるわけないじゃないですか!目の前で獲物をかっ拐われて、悔しくないわけないじゃないですか!」

 

再びヒートアップした桜田を前に、エリックは余計なことは言うまいと黙って頷く。

 

「だからこそ、今日という日は僕にとっては特別な日なんですよ!奴らに、『アインズ・ウール・ゴウン』に復讐する為のね!!」

 

思いの丈をぶつける桜田に対し

なんて身勝手な意見だ、と心の中で思いながらもエリックは桜田に同調するようにウンウンと頷く。

 

すると横からFスピが桜田の方へ進んで行くと

桜田の肩に手を回しながら言った

 

「いや~桜田さん、いいっすね~!その勢いで頼みますよ~!俺らの力、『アインズ・ウール・ゴウン』の奴らに見せつけてやりましょう!」

 

「当たり前ですよ!僕はね『ナザリック地下大墳墓』に着いたら、こう言ってやるって決めてるんですよ! "ナザリックよ、私は帰ってきた!!“ 、てね!」

 

「もしかしてそれ、また大昔の何かのロボットアニメの台詞ですかぁ~?」

 

「ええ、そうですよ!これは僕の尊敬するとあるキャラの台詞で…」

 

そんな感じでFスピと桜田が会話に盛り上がってるのを横目に、エリックはやれやれと言わんばかりに肩をすくめる。

 

Fスピも桜田もエリックよりひとまわり程歳上なのだが、こういった言動や行動から、あまり目上という感覚を感じたことがない。

時折、自分が一番まともなんじゃないかと思うこともあるくらいだ。

 

ただ、そんな彼らと一緒に行動することには全く抵抗がなく、むしろ楽しんでいる自分がいる。

 

(自分も将来、あんな大人になるんだろうか…。)

 

そんなことを思うと、エリックの背筋にゾワッとした感覚が走る。

 

その感覚を振り払うようにエリックは、桜田と一緒にはしゃぐFスピに質問を投げ掛ける。

 

「そういえば、桜田さんの張り切る理由はわかりましたけど、Fスピさんの理由ってなんなんですか?」

 

不意に質問を受けたFスピは一瞬止まりながら、エリックの方へ顔を向ける

 

「え?俺ですか?俺はというと…」

「はーーい、皆さーん!聞いてくださーい!」

 

Fスピがちょうど理由を言いかけた時に突如、その場にいる全員に聞こえるように誰かの声が響いた。

 

エリックはその声の方向へ目をやると、

1つの大きな岩の上に、拡声器のような──おそらくマジックアイテムの一種だろう──物を持った青い全身鎧を着たプレイヤーが立っていた。

わざわざ、ここにいる全員に呼びかけるということは、おそらく討伐部隊の主要メンバーの1人だろう。

 

 

「この度はギルド『アインズ・ウール・ゴウン』討伐の為の集まりに参加して頂き、まことにありがとうございまーす!」

 

そう青い鎧のプレイヤーが挨拶すると、ところどころ周りからパチパチと拍手をする音や、「いいぞー」「待ってました!」といった歓声が聞こえる。

 

青い鎧のプレイヤーは会釈をしながら、それに答えると再び拡声器を口にあてる。

 

「これから皆さんには事前に説明したように、『アインズ・ウール・ゴウン』のメンバーがいる『ナザリック地下大墳墓』に攻め込んでもらいまーす。作戦の程は、既に聞いていると思いますが…」

 

(えっ?作戦?)

 

思いがけない言葉に、エリックは耳を疑う。

 

(作戦ってなんだ?何も聞いてないぞ!?)

 

「え、あの、ちょ、ちょと…」

 

なんとか話を止めようとして、しどろもどろになるエリックの横からFスピが勢いよく手を挙げ叫ぶ

 

「ハイハイハーイ!!俺ら作戦とか全く聞いてないんですけどー!!」

 

その言葉に後から同調するように周りからも

「俺らも聞いてないぞー」

「こっちも聞いてなーい」

 

といった声があがった。

 

こういうときのFスピには、よく助けられる。

エリックは心からそう思った。

 

 

急に出た異論に対し青い鎧のプレイヤーは手で制しながらこう言う。

 

「作戦については伝えられてないプレイヤーの皆さんに関しては、ほぼ自由行動となります。つまり、やりたいようにやっていただいて結構ということでーす。」

 

 

なんだ、その雑な指令は。

 

そんなことを思いながらエリックは腕を組みながら再び聞く姿勢に戻る。

 

「えーと…少し中断してしまいましたが、説明の続きをしたいと思います。」

 

そう言って青い鎧のプレイヤーは再び話を進める。

 

 

そして……。

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

「あーあ、なーんか雑な扱いですねー、俺ら」

 

「仕方ないですよ。所詮傭兵プレイヤーの中でも余り者みたいな存在ですし、僕ら」

 

待遇の悪さに不満を見せるFスピに対し、エリックは諭すように答える。

 

青い鎧のプレイヤーの10分程度の簡単なブリーフィングが終わり、プレイヤー達は出撃に向け各々最終調整を行っていた。

 

 

エリック達も装備品やアイテムの確認、ならびに攻略ルートの選択をしていた。

 

すると向こうから再び青い鎧のプレイヤーの声が聞こえてきた。

 

「皆さーん、そろそろ先遣隊が出発しまーす!皆さんも、そのあとに続いてもらうので準備が終わってない方々はお急ぎ願いまーす。」

 

「おっ!ついに始まるみたいですね~!」

 

 

 

始まりの合図を待ち、張り切るFスピ。

いきり立つ桜田。

そして、少し不安げなエリック。

 

彼らを含めた総勢1500人以上の、

『ナザリック地下大墳墓』攻略作戦が始まる。




こちらは不定期更新になりそうです。



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