「それにしてもすごい人数ですね"あのとき"を思い出しますよ。」
「あのとき?」
久しぶりに会い、再会の挨拶を終え二人で広場に向かう途中で周りを見ながらFスピが口にした言葉にエリックは疑問で返した。
確かにこれだけの人が集まるのは最近ではほとんど無かったことだが
過去の『ユグドラシル』においては期間限定イベントなどが行われてる時などにはそれなりの数のプレイヤーが集まるのは珍しいことではなかったので、エリックにはFスピの言う"あのとき"というのがいつのことを指すのかイマイチわからなかった。
「ほら、あのときですよ、あのとき!皆で『ナザリック地下大墳墓』に攻めいった時のことですよ~」
「ああ、あのときですか!」
ようやく合点がいったとばかりにエリックは手をポンと叩いた。
Fスピの言った"あのとき"
それはギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の
本拠地『ナザリック地下大墳墓』へ大勢のプレイヤーが攻め込んだという時のことだ。
当時『ユグドラシル』の世界の中で最も悪名を
轟かせていたギルド
それが『アインズ・ウール・ゴウン』である。
『アインズ・ウール・ゴウン』は異形種プレイヤーのみを集めて作られたギルドであり、メンバーの人数は41人と決して多い方ではなかったのだが、最盛期には数千以上あった全ギルドランキングでもベスト10に入るほどの強力なギルドだった。
しかし異形種以外のプレイヤー狩りや鉱山の独占など様々な悪質な行為を繰り返すことで有名な迷惑ギルドでもあった。
そんな傍若無人な行為の数々にしびれを切らしたプレイヤー達が結集し、『アインズ・ウール・ゴウン』の本拠地『ナザリック地下大墳墓』へ
大規模な討伐隊を組み、8ギルド合同その他傭兵プレイヤーNPC合わせて総勢1500体以上という『ユグドラシル』史上最大数の攻城人数で攻めいったのである。
実のところエリックとFスピも傭兵プレイヤーとして、その1500人の討伐隊の中におり、桜田ファミリアを含めた3人パーティーで『ナザリック地下大墳墓』侵攻部隊の一員として参加していた。
とは言っても当時のエリック達は侵攻部隊の主力部隊の一角というわけでは決してなく、はっきり言ってしまえばその他大勢の数合わせ的な存在といっても過言ではなかった。
当時エリック自身も特に『アインズ・ウール・ゴウン』に対して直接的な恨みがあったとかいうわけでもなかったので
どちらかというと大勢のプレイヤーで巨大なダンジョンを攻略するというようなお祭り気分のイベント感覚で気楽な気持ちで参加していた。
「懐かしいですね~。あのときは本当にユグドラシルが一番楽しかった時期だったなぁ~」
遠い昔のことを回顧するようにFスピは言った。
「そうですね、思い返してみれば僕もあの頃が一番楽しかったかもしれません…」
Fスピの言葉に同意するようにエリックは答える。
そして続けてこう言った。
「でも、まさかあのときは"あんなこと"になるなんて思ってもいなかったんですけどね」
「ハハハハハ!それはあのとき参加していた誰もがそう思ったと思いますよ」
エリックの発した"あんなこと"という言葉にFスピは思わず笑いを堪えられないといった様子で答えた。
エリックの言った"あんなこと"
それはすなわち"敗北"である。
エリック達がいた総勢1500という大軍勢は『アインズ・ウール・ゴウン』の前に物の見事に敗北したのである。
それもただの敗北ではなく"全滅"である。
1500人がまさかの"全滅"である。
エリック達を含め討伐隊の大半が『ナザリック地下大墳墓』の最下層と伝えられてる地下第8階層にて待ち構えていた『アインズ・ウール・ゴウン』のメンバー達に殲滅されたのである。
「いやはや、あのときは本当に驚きましたよ。1500人が全滅ですよ、全滅!普通あり得ませんよ!それに、まさか最下層にあんな仕掛けまで用意されてたなんて思ってもいなかったですからね~」
そう言ったFスピの口調には熱がこもっていた。
ありえないという意見にはエリックも概ね同意だった。
あの当時、一体誰が討伐隊側が負けると予想してただろうか?
おそらく誰もが、いや、少なくともあの場にいた討伐隊の誰しもが自分達が敗北するなどという
未来を全く予想してなかったはずだ。
確かに討伐隊の中にはランキング上位に入るようなギルドのメンバーは参加してはいなかったが、それでもカンストレベル100のプレイヤーはもちろんのこと、戦闘用ガチビルドをしていたプレイヤーだって沢山いたはずだ
それに『ユグドラシル』の中でも最高峰のレアアイテムとされる『ワールドアイテム』を持っていたギルドだってあった。
自らのことを全く戦力として見てないエリックですら、あの時はこれだけの大軍勢に本拠地を攻められる『アインズ・ウール・ゴウン』に対し、むしろ申し訳ない気持ちさえ感じていたくらいだった。
しかし討伐隊は全滅した。
これぞ世紀の大どんでん返しというやつである。
そしてFスピの言った"仕掛け"
『ナザリック地下大墳墓』に攻め込んだ1500体を全滅に追い込んだ地下第8階層の"それら"は
当時、ナザリック侵攻の様子をネットにアップされた動画を見たユグドラシルプレイヤー達に大きな衝撃を与え
後に"チートまがい"と呼ばれるまでの存在になり、これ以降『ナザリック地下大墳墓』に攻めいるアホなプレイヤーはいなくなったのである。
まさにこれこそ『アインズ・ウール・ゴウン』が『ユグドラシル』に残した正真正銘の伝説である。
「とは言っても僕ら3人に関しては仕掛けうんぬん関係なしに複数に重なった敵の『
「それは言いっこなしですよー!エリックさ~ん」
エリックの冷静な言動に対しFスピは咄嗟にツッコんだ。
だが実際のところはエリックの言った通り
エリック達3人は第8階層に入るなり、突然何かの効果によって動きを封じられ、複数の敵プレイヤーが発動した幾重にも連なった超位魔法やスキルによって、ほぼ瞬殺されたのである。
ちなみにエリックがナザリックにて最後に見た光景は、山羊のような頭をした魔法使いが自分らに対して何か仰々しい詠唱をして放ったとんでもない魔法の光が目の前を真っ白に変えた景色だった。
「あのときはFスピさんがハリキリまくって突っ込んじゃったから、僕ら巻き添えくらったのとか覚えてます?」
「もちろん覚えてますよ!いや~あのときに関しては本当に申し訳なかった!本来なら桜田さんに先行してもらうべきでしたよね。反省、反省」
「まぁ、いずれにしろ僕らじゃあ多分どう転んでも全滅してたと思いますし、全然気にしなくてもいいですよ。」
「うーん、でも最後にせめて一太刀くらい浴びせてやりたかったんですがね~」
「そうですねー。でもまあ相手が悪かったですよね」
そんな昔話をしているうちに二人は広場に着いた。
広場にもプレイヤーが大勢いて凄い賑わいを見せており、ところ狭しと黒山の人だかりができていて、一言で言えばすし詰めに近い状態になっていた。
「うひゃー、ここも凄い人だかり!全盛期さながらですね~」
「本当ですね。ユグドラシルでも、まだこんなにプレイヤーが集まるのか…」
まるでスーパーアイドルのライブ会場のような人の数に呆気にとられているエリックにFスピが質問を投げかけた
「そういえば桜田さんは来てないんですか?」
「え?」
突然の質問にエリックは思わず聞き直してしまった。
「えーと…ああ、桜田さんですか?そういえばギルドの方には来てなかったですしログインも……していないみたいですね。」
咄嗟に答ようとして、多少しどろもどろになりながらもギルドメンバーリストを開きながらエリックは答えた。
メンバーリストの中の桜田ファミリアの名前は非ログインしている印に黒く表示されていた。
「そっかー来てなかったかー。最後に会いたかったけどなー…残念だけど仕方ないか…」
そう言ってFスピは残念そうにうつむいた。
そんなFスピを見ながらエリックは少し複雑な気持ちになった。
エリック自身も桜田ファミリアが最後にログインしてくるんじゃないかと多少期待はしていた。
Fスピと同様に桜田ファミリアは自分にとっては『ユグドラシル』内での良き仲間であり色々とお世話になった恩人でもあったからだ。
もしも彼らがいなければエリックは今日という最後の日まで『ユグドラシル』をおそらく続けてなかっただろう。
だからこそ最後にお礼くらいは言いたかった。
そんな風にエリックは思っていた。
「まあ、桜田さんに会えなかったのは残念だけどエリックさんには会えたんで良かったですよ」
「僕も最後にFスピさんに会えて良かったです。なんというか、今までの感謝の気持ちとかも伝えたくて」
「やだなぁ、なんか俺死ぬみたいな言い草じゃないですかー。やめてくださいよ~!ハハハ!」
そう言ってFスピはいつもの明るさで笑いながら答えた。
こんな底抜けに明るいのがFスピだ。
出会ってから一度もその印象は変わらなかった。
「ところでエリックさんはこの後どうするんですか?」
「はい?」
不意に飛んできた質問に再び疑問で返してしまうが、
そんなことも気に留めずFスピは続けて言う
「実のところですね、この後に俺、昔の仲間と落ち合う約束してて…もし良かったらエリックさんも一緒にどうかなと」
「昔の仲間って、もしかして『わいるどふぁんぐ』のですか?」
「そうなんですよ!実はこの前久しぶりにアイツらから連絡が来まして最後に皆で会わないか?って誘われちゃいまして」
『わいるどふぁんぐ』というのはFスピと桜田ファミリアが昔在籍していたギルドの名前だ。
亜人限定ギルドでありメンバーの全てがオークやゴブリンなどの亜人種で構成されたギルドであった。
後にとある事情から解散してしまったらしいが
Fスピが『ユグドラシル』を始めてから唯一所属していたギルドであり、オフ会などにも足しげく通っていたそうで、Fスピの知り合いといえば大抵はこのギルドの出身者であった。
そのためエリックには昔の仲間というのが何となく予想できていた。
「うーん、申し訳ないですが僕は遠慮しときます」
少し考えてからエリックはそう答えた。
「ありゃ、そうですか……そりゃ残念。」
「すいません。終わる前にちょっと行きたい場所があって…」
「え?あーいやいや全然気にしないでいいですよ!エリックさんの都合も考えずにこっちが誘っただけなんで」
実際にFスピの誘いを断ってまで行きたい場所などというのは厳密に言うと無い
ただ、Fスピが旧友と再会するのに水を差したくなかったというのが主な理由だ。
エリック自身『わいるどふぁんぐ』の中に知り合いと呼べるのがFスピと桜田ファミリアしかいなかったため、残り一時間ほどのあいだで面識の無い自分が行って変な空気にしないかと不安に思ったのだ。
もちろん最終日の今更そんなことを考えるのは杞憂というものだが、エリックはコミュニケーションに自信があるほうではなく、どちらかというと人見知りをしてしまうタイプだ。
そんな自分が共に行ってイマイチな反応などをしてその場を微妙な空気にし、最後の最後にFスピに迷惑をかけるくらいなら多少寂しい思いをしても行かないほうがマシだ。
少しひねくれた考えかもしれないが、それがエリックにできる最善の手だと判断した。
「とりあえずそんなわけで、ここでお別れですね」
「そうなっちゃいますね~エリックさんとも会えなくなっちゃうのか~」
最後の別れを惜しむようにFスピは言った
「あっ!もし、このあと気が変わって合流したくなったら、いつでも来てくれていいですからね!歓迎しますからね!」
「はい、ありがとうございます。」
Fスピの気遣いに感謝しつつエリックは最後の挨拶を切り出す
「その、なんというか…Fスピさん、今まで本当にありがとうございました!Fスピさんのおかげで楽しめたことが沢山あったんで本当に感謝してます」
「こちらこそ、エリックさんと一緒にこの『ユグドラシル』で冒険できて すげー楽しかったですよ!もしも他のゲームとかでも会うことがあったら、その時はまたよろしくお願いしますね!」
「そうですね、出来ればまたパーティー組みたいですね」
「ハハハ!期待してますよ!それじゃ"また会いましょう"!」
「ええ、ではまた!」
最後の挨拶を終えエリックとFスピは別々の方向へ歩きだした。
━━━━━━"また会いましょう"か……。
最後にFスピの言った言葉に対しエリックは正直あまり期待を持てなかった。
1つの繋がる要素が消えれば二度と会わなくなるネットなんてそんなものだ。
それを証拠にエリックとFスピだって今日が最終日ということで無ければ会うことはなかったではないか。
何となく物寂しさを感じながらエリックは新たな目的地へ歩いて行った。
転移まであと1話ほど使う予定です
読んでいただけると嬉しいです