オーバーロード  ハイドアンドシーク   作:Gonざれす

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記念すべき『異世界』編第1話

始まります~。






第1章 新たな世界
『ユグドラシル』の先


 

 

 

エリック・トレイ・フォアードは困惑していた。

 

彼がプレイしていたはずの

体感型無料RPG『ユグドラシル』は

本日午前0時をもって終了したはずだった。

 

最後の夜、街に繰り出した彼は

かつての仲間である『Fスピ』と再会し、

当時の思い出などを語らった後に別れ、

ほんの出来心で寄ったバザー会場で

『ワールドアイテム』を手に入れ、

その後本拠地に戻り、

最後の瞬間を迎えたのである。

 

 

だが、今彼の眼前にある光景は

石造りでできた体育館ほどある大部屋の中

 

そこは今までプレイしていた

『ユグドラシル』の中の世界に存在する、

自らがギルドマスターを務める

ギルド『ハイドアンドシーク』の

本拠地『コボルトの洞窟』地下3階にある

ブリーフィングルーム兼アイテム格納庫である。

 

 

本来であれば既にゲームは終了し、

ここには2度と来れないと思っていた。

 

しかし、ゲームは終了せず

自分はまだここにいる。

 

一体何故なのか?

その答えを彼は考え、ある結論を出す。

 

 

──運営がやらかした?

 

何らかの不具合がありイベント開始や

メンテナンス時間が前後するというのは、

よくある話だ。

 

おそらく、これもそういった

運営側の作業ミスか何かだろう。

 

辺りを見渡しながら

エリックはそう考えていた。

 

 

(まったく、どうして最後の最後に

やらかすかなあ…。

こっちはもう覚悟を決めて、

終わったつもりでいたのに………。)

 

エリックはそう思いながらも、

運営側に不具合を報せるべく

GMコールを試みる。

 

しかし、誰にも繋がらない。

 

(不具合の問い合わせの対応に

 追われてるのか?)

 

今度は何かしらの伝言メッセージが

来てないかを確認するため、

普段やっている動作でシステムコマンドを

起動させようとする。

 

 

「あれ?システムコマンドが出ない?」

 

普段なら出るはずのコマンドメニューが

どうやっても出せない。

 

幾度となく動作を繰り返してみるも

指が空を切るだけである。

強制終了コマンドなども試してみるが

結果は同じである。

 

「おいおい、完全にシステムが

ダウンしてるじゃないか…。」

 

エリックは落胆した。

 

 

困った話である。

ゲーム自体は続いているのに、

システム自体が利用できないんじゃ

どうやって自分がゲーム内に

取り残されてるのかを伝えればいいのか?

 

ふと気付けば、いつもなら画面端にあるはずの

アイコンやHP、MPバーも消えている。

完全にゲームシステムから

断絶されてしまったようだ。

 

 

仕方がないので、エリックは運営から

連絡が来るまでしばらく待つことにした。

 

 

しかし、なかなか連絡が来ない。

 

 

10分………。

 

 

20分………。

 

 

待てど暮らせど運営からの連絡は来ない。

 

「何やってんだよ~。こっちは明日も

仕事なんだぞー!何かしらのアクションくらい

してくれないと困るだろうに…。」

 

椅子に座り、貧乏ゆすりをしながら

エリックは苛立ちを露にする。

 

しかし、待っても待っても連絡は来ない。

 

このままでは埒が明かないと判断した

エリックは、自ら動く決心をし

椅子から立ち上がり、行動を開始する。

 

(おそらく街まで行けば他のプレイヤーも

いるはずだ。そこで情報を集めよう。

もしかしたら、Fスピさんも

まだいるかもしれない。)

 

そんなことを思いながら、

部屋の出口へと向かおうとする。

 

『コボルトの洞窟』の入口まで行けば

自身のNPCである『ゲイル』がいるはずだ。

街まではゲイルの《ワームホール》で

すぐに移動できるはず。

 

そう算段をするエリックの脳裏に

とある疑問が浮かぶ。

 

(待てよ、よく考えてみれば

魔法やスキルが、ちゃんと発動する

保証はどこにもないじゃないか)

 

一抹の不安を感じたエリックは

試しにその場で魔法を発動してみる。

 

《グレーター・クリエイト・マテリアル/

上位素材生成》

 

すると、エリックの手のひらの上に

光の粒が集まりだすと、何かの物体の形を

形成し始める。

 

光の粒子が物体を作り終えると、

エリックの手の上には

何かの金属らしき物が乗っていた。

 

──どうやら魔法は問題なく発動するみたいだ。

 

エリックは発動を確認すると、

今度は魔法を解除してみる。

すると金属は再び光の粒子に変わり、

粉々に砕け辺りに霧散するように消えた。

 

(よし、魔法が普通に使えるってことは

スキルもちゃんと発動するはずだ。)

 

そう確信したエリックは、

もうひとつ魔法を発動する。

 

《メッセージ/伝言》

 

対象者は街にいるであろうFスピだ。

もし、まだ街にいてくれてれば

先に互いの状況確認をして再び合流など

できれば、これ幸いと考えたからだ。

 

 

しかし、応答はない。

 

どうやら既に『ユグドラシル』内にはいないか、

通信自体が機能してない可能性もある。

 

街であればプレイヤーが多く集まるため

運営が最初に不具合の対処を行う

場所である確率が高い。

Fスピも既にログアウト対応をされた可能性が

高いと見て良いだろう。

 

こうしてはいられないと、

エリックも急いで街へと向かうべく、

出口へ歩み始める。

 

すると…

 

──いつもと感覚が違う?

 

体の動作に違和感を感じながらも

出口へ続く赤い絨毯の上を歩き続ける。

 

──なんだか、いつもより移動が

速くなってる気がする…。

 

おそらく画面アイコンなどが無くなったせいで

視界がスッキリして、普段と

変わって見えるのだろう。

 

ドラマやアニメのオープニングで

スタッフロールが消えたら、普段と違って

見えるのと同じような感じだ。

 

それに、既に『ユグドラシル』は

ゲームとしての機能を失っている。

移動速度が多少変化しててもおかしくはない。

 

エリックはそう思うことで自己解決する。

 

そして、あっという間に出口へたどり着く。

 

エリックが出口まで進むと、

鉄製の大きな扉がいつものように

自動的にゆっくりと開き出す。

 

(よかった。こういうギミックは

まだちゃんと作動してくれるんだな。)

 

エリックは安堵し、扉が開くのを待つ。

 

扉がゆっくりと開き、外の光が差し込み

エリックの目の前を白く染める。

ここまでもいつも通りだ。

 

しかし、エリックは気付く。

いつもと決定的に違うことが起こっているのを

 

 

──なんだ?これは……土の香り?

 

扉が開き、唐突に光と共に入ってきた

"匂い“にエリックは困惑する。

 

(え?なんで土の匂いがするんだ?

どうなってんだ、これ?)

 

体感型RPG『ユグドラシル』に

元々匂いを感じる機能はない。

 

多少の触感と痛覚はあれど、嗅覚に関しては

全く感じないのが普通なのだ。

 

確かに種族によっては『嗅覚センサー』などの

特殊能力をもつユニットも存在するが、

実際に匂いを感じる訳ではなく、

画面に直接索敵結果などを表示する仕組みに

なっていたはずなのだ。

 

しかし、今エリックは完全に匂いというものを

認識している。

現実世界では、ほとんど感じることのできない

畑の黒土の香りが鼻腔を通じて入ってくるのを

はっきりと感じるのだ。

 

「一体、何が………。」

 

開ききった扉の前で呆然と立ち尽くす。

 

目の前で巻き起こっている

明らかな異常事態にエリックは混乱する。

 

(何が起こった?何らかのバグか?

それとも新たな機能が追加された?

しかし、匂いなんてものをゲーム内で再現できる

なんて聞いたことないぞ?いや、そもそも

電脳法によって嗅覚や味覚を感じさせるのは

禁止されてるはず…。

まさか、犯罪めいた何かの計画とかに

巻き込まれたのか!?)

 

様々な疑念や仮説が頭の中を駆けめぐり、

目の前がグルグルと回転しだす。

情報を処理しきれないエリックは気分が悪くなり

思わずその場に片膝をついて座り込む。

 

(落ち着け!とにかく落ち着んだ!

状況を整理しろ!落ち着いて考えろ!)

 

心のなかで自分に言い聞かし、

必死に心を落ち着かせる。

 

そして頭をフル回転させ、

自信の現状の把握を試みる。

 

 

──考えられる要因はいくつかある。

 

まずは先程考えた通り、何かしらの犯罪に

巻き込まれた恐れがあることだ。

だが、これは可能性としては低いだろう。

 

なぜなら、『ユグドラシル』を造り出した

制作会社は世界的にもかなり巨大な会社であり、

犯罪などというリスキーな手口を使わずとも

余りある利益を出し、その気になれば

世界経済を牛耳ることもできるからである。

 

だとすると、考えられるもうひとつの理由は、

何かしらの軍事関係の実験プログラムに

誤って転送された可能性だ。

 

理由は単純であり、基本的に今回のような

今までできなかった新しい技術などは

一番最初に軍事または医療に使用されるからだ。

それに法改正さえすれば、それに追従して

いくらでも感覚機能の実装は可能だ。

それに先駆けたテストプレイだとすれば、

理由としてはもっとも納得ができる。

 

今のところ、この理由が考えられる

可能性としては一番濃厚だろう。

 

 

それと、もう1つの考えられる理由…

 

はっきり言って、これはあまりに

突拍子もない馬鹿げた話だ。

 

それは……。

 

 

自分の今までいた場所とは全く違う

『異世界』に飛ばされてしまった。

というものである。

 

可能性としては低いとかというよりも、

完全にファンタジーであり、

面倒事に巻き込まれたくないという思いからくる

現実逃避と言ってしまったほうが早い。

 

選択肢として頭の片隅に置くのも

恥ずかしいほどのことだ。

これは間違いなく、あり得ないと

言っていいだろう。

 

というか、普通に考えれば

あったら一番困る現象だ。

 

 

とにもかくにも、自分がここにいるべき

存在ではないことは確かだ。

 

なんとか、運営に気付いてもらい

この世界から脱出させてもらわないことには

自分の立場がどんどん悪くなるばかりだろう。

 

ともかく、当初の予定通り街に行こう。

街に行けば、何かしらの連絡手段はあるはずだ。

自分以外にも他に取り残された

プレイヤーもいるかもしれない。

 

エリックはそうやって頭の中を整理すると、

立ち上がり再び行動を開始した。

 

そして田園の一本道を突っ切るように

勢いよく走りだす。

 

 

──なんだこれは……?

凄まじいスピードだ。

 

両足があり得ない速度で動く。

 

燦々と太陽が照らす田園地帯を

まるで風になったかのように駆け抜ける

自身の有り様に驚きながらも、

速度を緩めず出口階段まで進む。

 

階段間近まで行くとエリックは勢いそのままに

階段をかけ上がり、2階へと続く蓋を

おもいっきり小突くように開ける。

 

バンッ!

 

という衝撃音とともに勢いよく蓋は開き

エリックは飛び出すような形で

地下2階の総合作業場に到着する。

 

例のごとく区画分けされた作業場の

NPCドワーフ達の視線が集中する

──いつもと違ってどよめきが

聞こえたような気がする──が、

それを無視して今度は部屋の

出口扉を目指し走り出す。

 

部屋のちょうど中心に置いてある

『エクスチェンジ・ボックス』の隣を

勢いよく横切り、出口である木製の扉まで

真っ直ぐに走り抜ける。

 

そして扉を開き、中にある上へと続く梯子を

掴み、今度は上に向かってできるだけ速く

登り始めようと腕に力を込め、

おもいっきり体を引っ張り上げる

 

すると…

 

「うおあっ!」

 

ピンポン玉が弾かれるが如く

エリックの体は上に向かって飛び上がり、

あまりの勢いに思わず声を漏らす。

 

一気に地下1階付近まで上昇し、その直後

再び体に戻った重力により、

一瞬下に転落しそうになりながらも

間一髪で梯子を掴み、冷や汗をかきながら

エリックはその場にぶら下がっていた。

 

(なんだ?体の制御が効かないぞ?)

 

まるで超人にでもなったかのような自身の

身体能力に困惑しながらも、エリックは

梯子を掴み再び上を目指し登りだす。

 

──明らかにおかしいことが山ほどあるが

今はそれどころじゃない。とっとと街に行って、

この不具合の正体を突き止めなきゃいけない。

 

街にさえ行けば全てが解決するはずだ、という

暗示にも似た決意を胸にどんどんと梯子を登り、

一気に最上部まで登りきる。

 

そして、天井に着いている取っ手を持つと、

地上への境目にある蓋を開け放つ。

 

「うわ!くせっ!なんだこの臭い!?」

 

蓋を開けた途端、鼻をつくキツい刺激臭に

エリックは思わず顔をしかめる。

 

──この臭いには覚えがある。

 

昔飼っていた犬の風呂に入れてない時期の

体臭を何倍にもしたような獣臭だ。

 

そう、ここはエリックのギルド

『ハイドアンドシーク』の拠点

『コボルトの洞窟』地上1階

つまり、元々は獣人コボルトのアジトである。

臭いの正体は彼らの生活臭ともいうべきものだ。

 

(こんなもん再現する意味あるのか?

はっきり言って迷惑以外の

なにものでもないじゃないか!)

 

心のなかで運営に対する恨み節を言いつつ、

地上に出たエリックは、鼻を押さえながら

出口へ向かう。

 

 

しかし、その行く手を阻むかのように

複数の影が通路に並んでいた。

 

「え?なんでお前らがここに……?」

 

思わず立ち尽くすエリックの前にいたもの

 

それは数十匹のコボルトの群れだった。

 

全員がこちらの方を向き、暗闇で目を光らせて

じっとエリックのことを見つめている。

 

──どうなっている?

 

本来スポーンモンスターであるはずの彼らは

敵が来ない限り通路上には発生しないはず、

しかも、もし敵が来ていたとしたら

全員出口に向かって迎撃しに行ってるはずなのに

何故ここにいるんだ?

 

まさか、もしかして………

 

「俺を敵と認識してる?」

 

そう感じたエリックはコボルト達を

少し警戒しながら考える。

 

もし、『ユグドラシル』がゲームとしての

機能を失っているとすれば、もはや自分には

ギルドマスターとしての権限ならびに

メンバーとしての権利が無くなってる

可能性がある。

つまり、今の自身は“侵入者”としてコボルト達に

認識されてる危険性がある。

 

正直、レベル10前後のコボルトに脅威を

感じるほどエリックも弱くははない。

ただ、今のメチャクチャな身体能力で

満足に戦えるかと言われると不安は大きい。

 

──こっちはとっとと出口に行きたいのに

 

一刻も早く先に進みたいエリックは

コボルトを無視して強行突破を

することを決める。

 

コボルトからの攻撃は受けるだろうが、

エリックには『上位物理回避Ⅲ』という

一定レベル以下のユニットからの攻撃を

自動で回避してくれるパッシブスキルを

所持してるため、おそらくコボルトから

ダメージを受ける危険性は低い。

それに、仮に攻撃が命中したところで

ダメージの数値はたかが知れているほどであろう

今はそんなことよりも急いで街に行かなくては

 

エリックはそう思い、真っ直ぐコボルトの

群れの中を突っ切ろうと歩みを進める。

しかし、コボルト達は攻撃してくるどころか

その場を微動だにせず、ただこちらを

見つめてくるばかりである。

 

意外な反応に動揺するエリックだが

そのまま止まるわけにもいかず、

仕方がないのでソロリとコボルト達の間を

分け入るように進入しようと試みる。

 

「ちょ、ちょっとどいてくれるかな?」

 

エリックがそう言いながら体を縦にして

コボルト達の群れの中に踏み入ろうとすると

突然コボルト達が一斉に動きだす。

 

「うわ!やっぱりくるのか!?」

 

エリックは急いで後退りし身構える。

 

ところが、エリックの目に飛び込んできたのは

思いもよらない光景だった。

 

「あれ?」

 

エリックは思わず呆気にとられる。

 

先程まで通路を塞いでいたコボルト達が

まるで軍隊のように洞窟の両サイドに

整列していたのだ。

 

(なんだ?どうなってるんだ?

なんで急に道を空けたんだ?)

 

綺麗に並ぶコボルトのラインの真ん中を

おそるおそる歩きだす。

 

(もしかして……俺がどいてくれ

、て言ったから?)

 

エリックの知っている『ユグドラシル』との

あまりに解離した出来事に再びエリックの

頭は混乱してくる。

 

(落ち着け落ち着け!とにかく街だ!

今は先に進むことだけ考えろ!)

 

エリックは自分に言い聞かせながら

コボルト達の間を早足で進んでく

 

少し歩くと出口の光が見えてきた。

 

(あともう少しだ!あと少しで街に行ける!

ゲイルを呼ばなくては…)

 

「ゲイル!ゲイルいるか!?

早くこっちに来てくれ!」

 

次々と自身に巻き起こる答えの見えない

厄介事の数々に対する苛立ちからか、

だいぶ強めに声が出てしまった。

 

システムコマンドが使えないので、

ゲイルの現在地はわからないが、

出口付近にいることを信じて

エリックは呼び掛け続ける。

 

「来てくれゲイル!おーい!いないのか!?」

 

なかなか姿を現さないゲイルに

焦れったくなったエリックは思わず

出口の光に向かって走り出す。

 

「おーい!ゲイルー!頼むから来てくれー!」

 

そう呼び掛けながら走り続けるエリックは、

遂に洞窟の出口から外に飛び出した。

 

「え………?」

 

目の前に広がる光景に思わず唖然とする。

 

暗闇から抜け出たエリックの前には

見たこともない原生林が鬱蒼と生い茂っていた。

 

「ど、どこだここ?一体どうして、

こんなとこに…。」

 

元々の『コボルトの洞窟』の周りには

確かに森林はあったのだが、

今目の前にある木々は、明らかに

エリックの知っている本拠地地帯の

森の木ではなかった。

 

(どこか別のワールドに飛ばされた?

だとすればどこに…?いや、今はそんなことより…)

 

エリックは思い出したかのように叫ぶ。

 

「ゲイルー!いないのかー!ゲイルー!」

 

しかし、ゲイルの姿は見当たらない。

 

(困った。ゲイルがいないと

移動のしようがない。

正直、ここがどこかというよりも

今はゲイルの居所が大事なのに……。

まさか、飛ばされた際に離ればなれに

なったとか!?)

 

エリックの心の中に不安と焦燥が入り交じる。

 

その時だった。

 

「エリック様、如何なされました?」

「え!?」

 

突如自分のことを背後から呼ぶ声に、

エリックは驚きを隠せず振り向く

 

しかし、エリックの向いた方向には誰もいない。

 

「え?だ、誰だ!?今俺を呼んだのは!?」

 

キョロキョロと辺りを見渡すが

どこにも誰の姿も見えない。

 

──もしかして、運営との通信が回復したのか?

今の声は運営側からの呼び掛けかな?

 

そう思い、再びGMコールを試してみる。

しかし、結果は同じで相変わらず繋がらない。

 

(なんだよ、全然繋がらないないじゃないか。

一体どうなって…)

 

「エリック様、どうかなされましたか?」

「うぉあい!!!」

 

再び背後から掛けられる声に

思わず飛び上がって叫ぶ。

 

「だ、誰だ!!」

 

身を翻して声の方向を睨み付ける。

 

しかし、そこにいたのは

地面に佇む緑の極彩色の羽毛をもつ

赤い瞳をした鳥・ゲイルだった。

 

「ゲ、ゲイル、お前、いつの間に

そんなところに……いや、今はそれより

俺を呼んだ声の主はどこに…?」

 

「エリック様も異変にお気付きになられて

ここまでお越しになっていただけたのですか?」

 

「え!?」

 

三度呼び掛けられたその声は

ゲイルの方向から聞こえてくるのに

エリックは気付く。

 

「エリック様、大変失礼ながらお顔の色が

芳しく見えませんが、どうかなさいましたか?」

 

「うえ!?喋ってる!?」

 

エリックに語りかけるその声の主

それはゲイルだった。

 

「エリック様、大丈夫でございますか?」

 

「ゲ、ゲイル!お前、喋れるのか!?」

 

「?、エリック様、大変申し訳ありませんが

それは一体どういう意味なのか、不出来な私に

教えて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

驚愕するエリックをよそに、

ゲイルは淡々とエリックに語りかける。

 

 

──どうなっているんだ……?

 

最早考える力さえ無くなってきた

エリックの頭の中が真っ白になっていく。

 

元来『ユグドラシル』にNPCが喋るという

機能はない。しかし、エリックの前にいる

ゲイルはちゃんと声を出して喋っている。

 

それが意味すること……。

 

エリックの頭の中の隅の隅にあった

1つの可能性が脳内にどんどんと広がっていく。

 

──まさか、そんなことは……。

 

 

エリック・トレイ・フォアードは

『異世界』に飛ばされた。

 

 







やっと転移まで書けました。

ここまで長かった。

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